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新しい出会い

49:エロにならなかった(安堵)【ディランSIDE】

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目の前でマイクが
ユウの頬に触れ、
耳に唇を寄せている。

「私はユウさまに
全てを捧げているのです。

あの聖騎士のように
命も捧げておりますが、
命だけではない。

愛も、忠誠も。
信頼も、もちろん、この身も」

マイクはユウの耳を
パクりと咥えて、
ちゅっと耳たぶを吸った。

「見返りは求めません。
けれど…

触れたいと思う気持ちを
否定しなくても良いとも
思うのですよ、私は」

マイクの長い指が、
ユウのシャツの中に潜り込む。

俺の心臓は
バクバク鳴っていた。

俺の伸ばした手の先に
ユウの小さな手の平があった。

その手を握ると小さくて…

ユウは守るべき子どもだと
不意に思った。

「やめろっ」

俺はユウを
ベットのシーツごと
抱き寄せた。

「変態神父の言い分は
わかったが、ユウの意志がないのに
やるべきじゃない」

「私と同じ気持ちのはずなのに、
あなたは随分と
まともなことを言うのですね」

マイクは呆れたような顔をした。

「では、ユウさまの
許可が下りれば、
私がユウさまを抱いても
構わないということでしょうか」

俺は頷きかけて、やめた。

ユウが大人だったら
そうなのだが、

こいつのことなので
ユウを言葉巧みにうまく騙して
コトに及ぶかもしれない。

「ユウは、子どもだ。
少なくとも、身体は幼い。
無理をさせるべきではない」

俺の言葉にマイクは
少し考えて、確かに、と言った。

「では、ユウさまが
すでに誰かに抱かれて
いたのであれば、
その心配も杞憂に
終わりますよね?」

マイクはすでにユウが
誰かに抱かれた経験が
あるような話をする。

俺は、一瞬、
ドキっとした。

俺はユウを強引に
組み敷いた夢を思い出したのだ。

いや、あれは夢だ。

生々しい感触は
夢だったのかと疑ったけれど。

夢でなければ、
ユウは今、俺の腕の中に
いないはずだ。

俺が返事に困っていると、
そこにノックが聞こえた。

マイクが対応しにドアに
向かうのを見て、俺はユウを
ベットに戻す。

すやすやと眠る
あどけない顔は、可愛い。

さっきまでの
頭が痺れるような情欲は
この部屋のどこにもなかった。

俺はベットのそばにあった
窓を開けた。

甘い匂いが部屋に
入ってきた風によって薄まる。

ほっとした。

さっきまでの俺は、
ユウに何をするつもり
だったのだろうか。

しかも…マイクと一緒に、だ。

あそこで理性の糸が
切れていたら…。

「ユウは寝てるのか?」

不意に声がして
俺は振り返った。

バーナードが立っている。

さっきのノックは、
彼だったのか。

「水を飲みたくないと言って
間違って俺たちの酒を
飲んでしまったんだ」

短く説明すると
バーナードは苦笑した。

「こいつは危機感ゼロで
無防備だからな」

親しみやすい口調で、
誰よりもユウのことを
知っているような顔で言う。

俺はなんだか、面白くない。

「嫉妬したか?」

ってバーナードに
からかうように言われて、
俺は、

なんで嫉妬するんだ?

と聞き返す。

「なんだ、自覚なしか」
とバーナードは呆れたように言った。

「ユウはあちこちで
人を惹きつけるからな。

まぁ、いい。

自覚がなかろうと、
保護者だろうと
兄だろうと。

コイツを守ってくれるなら
なんでも、な」

バーナードはベットに
近づくと、ユウの髪を撫でた。

そのしぐさに、
ふと、ユウの目が開く。

「バーナード?」

「あぁ、酔ったのか?」

「酔ってない~。
飲んでないもん。

お酒…」

舌ったらずな声が
可愛いが…どことなくエロい。

「だっこー」

眠そうにウトウトしてるのに
ユウは両手を伸ばす。

バーナードは当たり前のように
ユウを抱き上げた。

「寝るんだろ?」

「抱っこで寝る~」

甘えた声、だ。

俺には見せない姿。

バーナードは苦笑して
ユウを膝に乗せたまま
ベットに座った。

「ユウ、ちょっと寝たら
相談がある」

「な~に?」

「井戸をもう一度
見て欲しい」

眠そうだったユウの目が
バチっと開いた。

「ユウ?」

バーナードがユウの顔を覗き込む。

ユウはバーナードの膝から下りた。

ついでに俺の顔を見て、
その奥で様子を見ていた
マイクにも視線を向ける。

ユウはベットの傍に立った。

バーナードと
向かい合わせになり、
座っているバーナードより
少しだけ背が高くなる。

ユウはバーナードを
見下ろした。

「殺虫剤が無いと行けません」

きっぱりとした物言いに
俺たち全員、言葉を失った。

こんなにはっきりと
意見を言うユウは初めて見る。

バーナードも驚いた様子だった。

「ユウ、その
サッチュウザイってなんだ?」

そういえば、
井戸にいた時から
やたらとその言葉をユウは言っていた。

「え?
殺虫剤、無いの?」

ってユウも驚いたらしい。

バーナードとユウは
無言で見つめ合った。

気まずい空気に
俺もどうしようかと思っていると
マイクの声がする。


「ユウさま。
もしよければ、こちらへ。

甘いお茶をご用意しましたよ。

もちろん、水は
井戸の水ではなく、
私が前もってご用意していた
物を使いましたから
安全です」

マイクの誘いに
ユウは嬉しそうに頷いて
ソファーに座る。

あんなに眠そうだったのに、
嬉々として甘いお茶を喜ぶユウに、
俺もバーナードも苦笑した。


「ユウ、ユウはあの…
魔物が嫌だったんだろう?」

自然にユウの隣に座った
バーナードがユウに聞く。

ユウはマイクが入れた
お茶を飲んでから頷いた。

ちなみに、お茶は
ユウのものしかない。

「あれ、嫌い」

こんなにはっきり
ユウが何かを嫌だと
言うのも初めて聞く。

「井戸にはもう
あれはいないぞ?」

「でも、気持ち悪い」

井戸の水も飲まない、
と、ユウはきっぱり言う。

よっぽど嫌らしい。

眠気も吹き飛ぶ嫌悪感なのか。

「だが、あの井戸にな、
たぶんだが…
聖獣がいるような気がするんだ」

バーナードの言葉に
俺たち3人は顔を見合わせた。

聖獣。

食堂の店主も言ってたな、
聖獣が井戸にいるって。

「だが、俺たちには
聖獣に手を出すことができない。

それが聖騎士であっても、だ。

だから、一度ユウに
見てもらいたいんだ」

その言葉に違和感を覚える。

聖獣は女神の使徒だ。

人間たちが姿を見ることは
ほとんどない。

もちろん、触れることなど
叶うはずもない。

もし本当に
井戸に聖獣が係わっているとして。

聖騎士も人間だし、
聖獣に手を出すことはできないだろう。

だが、ユウならいいのか?

セイジョだからか?

だが、この国には
セイジョはいないはずだ。

よくわからなくなってきた。

そこで俺は
ユウのことを本当に、
何も知らないのだということに気が付いた。

ユウは自分からセイジョだとは
一度も言っていない。

ただ、その力は規格外で
俺が勝手にユウをセイジョだと
思っているだけだ。

一度、ユウと話し合わねば
ならないかもしれない。

俺はユウを見た。

きちんと、話をしよう。

俺のことも。
そしてユウのことも聞こう。

その時俺は、
まだユウの『規格外』ぶりを
知らなかった。

だから…

これから起こるユウの
規格外ぶりに
言葉を失う程驚かされるなんて
思いも寄らなかったのだ。

そしてユウを
本気で愛し、求めてしまう
自分がいることも。

全く気が付かなかったのだ。





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