上 下
46 / 355
新しい出会い

47:エロになっても水は飲めない

しおりを挟む







食事が終わった後、
お店は相変わらず暇そうだったので
私たちはお店の人に話を聞かせて貰った。

若いと思ったけど、
この店の店主さんだった。

「あの…なんで
あの井戸と聖獣がかかわってるって
思ったんですか?」

私のことを
子どもだと思っているのだろう。

店主さんは、
ニカっと笑って、

「聖獣様って知ってるか?
女神様の御使いなんだぞ?」

なんて話を始めた。

この店主さんも
女神ちゃんを崇拝していた。

正直私は疲れていたので
へーほーふーん。
だったのだけど。

マイクはさすがに
神官で女神ちゃんの
信者だけあって、
きちんと店主さんの
話を聞き、相槌を打っている。

「それでな。
店が終わってからだから
夜中…と言っても
明け方ぐらいだったか。

次の仕込みのために
井戸から水を汲んでおこうと
思ったわけだ。

んで。
井戸に言ったら
光が空から下りて来たんだよ」

「空から?」
急に興味が湧いてきて
私は聞いた。

「そうだ。
小さい子供ぐらいの
大きさの光だった。

あれは聖獣様だった。

うん。
そうとしか思えねぇ
神々しさだった。

その光は、井戸の周りを
ぐるぐるまわって、
すーっと井戸の中に
入ってったんだ。

そしたら…
井戸から水が出なくなった」

俺は夢でも見てるのかと思って
その時はそのまま家に帰って
寝ちまったんだが、

それからずーっと
水が出なくなったから
あれは聖獣様が何かを
してらっしゃると俺は思う。

なんて話になって。

聖獣?

でもそんな気配はなかったし。

うーむ。

眠い。

いやいや、
眠い場合じゃないか。

水でも飲んで目を覚まそう。

マイクとディランも
さらに井戸の話をする
店主さんの声に耳を傾けている。

でも、私はダメだ。

睡魔が襲ってくる。

水を飲んでも飲んでも、
目は冷めない。

そうか。
冷たくないからか。

冷たい水だったら
目が覚めるかも。

この世界って、
コップの中に
氷が入ってないんだよね。

冷蔵庫が無いから
あたりまえだけど。

魔法もあるのに、
下水道が整備されてない
村があったり

ここみたいに
大きな街なのに、
井戸から水を運ばないと
生活できなかったり。

かと思ったら、
魔法で水を出せる人も
一定数はいたりして。

ほんと、変な世界。

一度、女神ちゃんと
世界観とか、
世界の設定とかを
見直したい。

全部壊して、
一から創るのは無理だけど
辻褄を合わせて世界をなんとか
動かすんじゃなくて。

明確にルールとかを作って、
それこそ、女神ちゃんが
忘れないように
きちんと紙に書いて。

そうじゃないと、
女神ちゃんは、自分が
作った世界の設定さえ
すぐに忘れてしまう。

なんたって、
「幼女が愛される世界」
を創っていたのに

いきなり

「可愛い男の子が
溺愛される世界がいい」

と方向転換して
この世界が出来上がったのだ。

その皺寄せで、
私は最初の設定の幼女が
成長するための『試練』の
どでかい魔獣に襲われた。

すでに幼女もいなければ、
『試練』も必要ないのに、
聖女でもない私が、だ。

そのおかげで、バーナードだって
死にかけた。


そのうえ、
女神ちゃんは、どこに、
いくつ『試練』を設置したかも
覚えていなくて。

必死で『試練』を
回収してるから、ごめんね!

なんて言ったけど、
「いくつ試練を回収したのか」も
まったくわかってなくて。

こんなにポンコツ女神で
良いのかと、私は本気で悩んだ。

『試練』の数もわからないし
回収した数もわからない。

どこに設置したかもわからないし、
あとどれだけ『試練』が
残っているのかもわからない。

そんな状態で
よく私は『大聖樹』を
蘇らせたものだ。

……まぁ、
『試練』に私が係わったのは
最初の一つだけだったけど。

あーだめだ。

なんか、大事なことを
思い出したような気がするのに
頭がぐらぐらして
考えがまとまらない。

なんだっけ。

「……さま?」


ん?

呼ばれてる?

「おい、ユウ」

肩を掴まれ、
私は我に返った。

「おまえ、何も飲まないって
言ってたクセに、俺の酒、
飲んだな?」

ってディランに言われて、
ディランのは飲んでないよ、
と、コップを見た。


「それは私のです」

とマイクがすまなそうに言う。

私の前には
空になったコップが2つ
置いてあった。

あーごめん、
飲んじゃった。

って笑ったら、
二人にため息をつかれた。

でもねー。
なんか…もう、眠たくて。

あくびをかみ殺すこともできない。

急に体が浮いて、
抱っこされたんだなーと思って。

でも眠たくて目を閉じた。

ゆらゆら揺れて、
気持ちがいい。

なんだっけ?

大事なこと。

あったんだけどなー。

でも、眠い。

あったかいのは、好き。

安心できるのも、好き。

私はずっと、
こういうのに飢えてたんだと思う。

抱きしめられたかったし、
甘えたかった。

でもそれは許されなくて。

勇くんだけは
ぎゅーっとして抱き合って、
大好きだよって言ってたけど。

本当に大好きだったけど、
でも私は甘えられなかった。

勇くんを甘えさせて、
甘えてもらって、
そのために生きてたから。

ほんとは、
ぎゅーっとして、甘えて
ぬくもりにすりすりして、
抱きしめられたかったのに。

でも、今は違う。

私が求めたら、
……求めなくても、
こうして、あったかい気持ちに
なることができる。

恵まれてるし、
幸せだって思う。

誰かに愛されるなんて
思ってもみなかった。

肌を重ねて抱かれることも、
この世界で初めて知った。

この体は…
勇くんのもので、
男の子の身体だけれど。

でも、もうそんなの
関係なかった。

ただ、与えてくれる
愛と熱が嬉しくて。

そのことに悩むことも
あるけれど、でも。

私は、私を愛してくれる
皆が大好きで、

女神ちゃんも
困った子だけど大好きで。

この世界をなんとかしたいって
思うんだ。

だから、皆に言いたい。

大好きーって。

今まで言ったことが無い言葉だけど。

だからこそ、沢山言いたい。
伝えたい。

私に大好きって気持ちを
思い出させてくれたこの世界の皆に。

大好き、って。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

契約妻は御曹司に溺愛フラグを立てられました

綾瀬麻結
恋愛
役員秘書を務める萌衣は、社内外で才色兼備と言われるものの、実は恋愛がよく分からないというコンプレックスを持っている。このまま結婚もできないのでは……ともやもやしていたところ、なんと取引先の御曹司である玖生に、契約結婚を持ち掛けられた。どうにかして、親のすすめる政略結婚を避けたいらしい。こんなチャンスはもうないかもしれない――そう思った萌衣は、その申し出を受けることに。そうして始まった二人の新婚生活は、お互いに干渉し過ぎず、想像以上に快適! このまま穏やかに暮らしていければと思っていたら、突然玖生に夫婦の夜の営みを求められて……!?

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...