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新しい出会い
41:大切なものは何か【ディランSIDE】
しおりを挟む俺はバーナードと
マイクの冷たいやりとりを
言葉なく見守った。
会話に出て来た
ユウのことも気にかかる。
ユウは…特別な存在なのだろう。
それぐらいは、
俺にもわかる。
ユウはセイジョだと
俺は確信しているが、
この国でも何かしらの役目を
負っているのかもしれない。
それに寵愛だの溺愛だの
不穏な言葉も出て来た。
ユウは…地位の高い人間に
求められているのかもしれない。
もしそうだとしたら、
俺の国に連れていくのは
面倒なことになるのだろうか。
俺が思案していると、
バーナードが、俺を見た。
「ディランとか言ったな。
お前はどうだ?
さっきの話を聞いてもまだ
ユウの傍にいるつもりか?」
俺は一瞬、言葉に詰まる。
俺は…ユウの傍にいるつもりだった。
だが、目の前の男が
本当にユウの家族であれば
俺が口を出すべきことではない。
俺が返答に迷っていると、
バーナードは、今はいい、と
短く言った。
「ユウのことは
何も知らないのだろう?
情報が無いのに
決めることなど
できないのはわかっていた。
だが一応、ユウのことを
考えるぐらいはできるかを
見たかっただけだ。
ユウの周りには、
ユウを手に入れるためには
何でもするヤツばかりだったからな」
ユウの意志を尊重できるか
見させてもらった、と
ニヤリ、と笑う顔を
俺は殴りたくなった。
本気の言葉だと思うが、
口調に揶揄うような
響きが入っていたからだ。
だがバーナードは
顔を引きしめて、
イスに座り直した。
姿勢を正し、俺を見る。
「ユウのことは
俺からは言えない。
俺が言うべきことではないからな。
ただユウを守れないなら
すぐにでもユウから離れてくれ」
「な……っ!」
はっきり言われて、
俺は頭に血が上る。
俺はずっとユウを
守りたいと思っていた。
いや、ずっと守ってきた。
だから『守れない』などという
その言葉だけは聞き流せない。
「ユウは俺が守る!」
思わず立ち上がると、
バーナードは冷ややかな目で
俺を見た。
「実力は、あるか?」
「なに?」
「確実にユウを守れる
自信はあるのか?」
「ある」
俺もそれなりに
冒険者として魔獣を
相手にしてきたし、
国では、剣の腕前は
かなりのものだった。
バーナードは
俺を値踏みするように見た。
「ユウは…
誰かが傷を負えば、
かならず、助ける。
その命を削って、
必ず、だ。
ユウを守ると言うことは
もちろん、ユウの身を守ることだが
それだけでは無い。
その身を盾にユウを守っては、
ユウは命を削ることになる。
おまえは、ユウの身を守り
おまえ自身の身も守れるか?」
真剣な声、だった。
聖騎士団で
『盾』をしている男の言葉だ。
おそらくは…
本当のことなのだろう。
もしかしたら
目の前の男も、ユウを守り、
そのために、ユウの命を
削らせたことがあるのかもしれない。
「できる、とは言えない。
やってみなければ、わからない。
だが、努力する。
必ず、ユウを守る」
俺に言えるのはこれだけだ。
バーナードは、
まぁ、いいだろう、と呟いた。
そしてマイクを見る。
「聞いての通りだ。
ユウの為に命を捨てるような
真似はしないでくれ。
ユウが…壊れる」
マイクは恭しく頭を下げた。
「ユウさまの気性は
存じております」
「なら、いい」
バーナードは深く息を吐いた。
「俺は…ユウを
連れていくつもりだったが、
ユウがそれを拒んだ」
バーナードはちらりと
ベットで眠るユウを見た。
「ユウが拒む理由は
色々考えられるが、
とにかく俺は一緒には行けない。
ユウを守ってやってくれ」
今度はバーナードが
俺たちに頭を下げた。
「ユウは愛される子だ。
だが、愛されることに
自信がない。
他人に脅え、
好意を疑ってしまう。
だからこそ、難しい。
他人との距離感も、
幼さゆえの、無防備さも」
バーナードは苦しそうに言った。
「ユウに手を出すな、とは
俺は言えない。
ユウを愛するな、とも
言えない。
ただ、俺はユウに
命を捧げている。
ユウを傷つけるヤツは
誰であろうと…
容赦はしない」
本気の目だった。
だから俺も
その目を見つめ返した。
ユウを守りたいと
思ったのは、本当だ。
あんな幼い子に
恋愛感情を持っているとは
自分でも思えなかったが、
それでも。
恋愛感情に似た、
いや、それよりも強い
愛着のようなものを
俺はユウに感じていた。
一人で傷を隠し、
必死で笑っていたユウを
守ってやりたいと
俺は思う。
「あと…
今の金聖騎士団は、
ユウのためだけにある。
もし、この国に
何か恐ろしいことが起こったとき、
俺たちは王命だろうが、
この国が滅びようが、
関係ない。
俺たちはただ、
ユウを守るためだけに動くだろう」
そんなことを
言ってもいいのだろうか。
国の中枢を守る
聖騎士が。
「しかも俺の団長や
副団長たち上官は、ユウに心底
惚れてるからな。
ユウに手を出したら…
下手したら、殺されるぞ」
冗談ではない。
本気の…真顔で言われた。
俺は言葉を失った。
だが、マイクだけは
「存じ上げております」
と、にこやかに笑う。
こいつ、
ただの神父かと思ったら、
物凄い度胸がある。
こんなに空気が
読めない相手だとは思わなかった。
「ですが、
金聖騎士団のみなさまが
王ではなくユウさまを戴くように、
私もまた、王はなく
ユウさまだけを主としておりますので」
寒い、寒い、寒い。
なんだ!?
なんで二人とも、
物凄い笑顔で、
こんな空気を醸し出せるんだ?
ユウへの俺の気持ちとか
考えたいことはあるけれど、
それどころではない。
笑顔なのに、
一触即発の空気を何とかしたい。
と、いきなり
ベットの上でユウが動いた。
「……バーナード??」
不思議そうな声で
目をこすりながらユウが起きた。
「ユウ、目が覚めたか?」
バーナードが
途端にやわらかい笑顔を浮かべ、
ベットからユウを抱き上げた。
ユウのそばに行こうと
していたマイクの足が止まる。
ユウはまたバーナードに
甘えるように首に抱きついた。
「良かった。
まだそばにいてくれたんだ」
「ユウが望むなら
ずっと一緒にいるんだかな」
「えへへ。
今だけ。
でもいいでしょ?
バーナードは私の
お兄ちゃんなんだもん」
甘えた声で『お兄ちゃん』と
言われて、バーナードは
さらに微笑を深くする。
片手でユウの身体を支え、
髪をぐしゃぐしゃ撫でると
先ほどまで座っていた椅子に
ユウを膝に乗せて座った。
「さて、じゃあ
話の続きをしようか」
「……話の続き?」
ユウが首をかしげる。
「あぁ、ユウが気になっている
井戸の話だ」
バーナードの言葉に
ユウは嬉しそうに、やった、と
手を上げる。
俺はマイクが悔しそうな
顔をしていることに
気が付いたが、
何も見なかったことにして
椅子に座った。
ユウが『何者』なのか。
気にならない、とは言えない。
だが、今は考えても
きっと答えは出ないだろう。
俺はユウを守るだけだ。
俺は先ほどのバーナードの
言葉を俺は思い出しながら、
今はユウのことが最優先だと、
井戸に行きたいと言う
ユウを黙って見つめた。
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