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新しい出会い
39:愛情と信頼と【バーナードSIDE】
しおりを挟むこの街に来たのは偶然だった。
<闇の魔素>が絡む問題は
聖騎士団が請け負うものだが、
俺が所属する金聖騎士団は
たった6人しかいない。
しかもそのメンバーは
王族が二人。
宰相の息子が一人。
枢機卿の孫が一人。
異例ともいえる
権力が集まった聖騎士団だった。
だからこそ、
任務も特殊なものが多く、
秘密裏に処理されるべきことも
多く任されてきた。
そんな中で
俺がこの街の井戸を
調べに来たのは
本当に偶然だった。
この街は国としても
大切な財源でもあり、
国で唯一のカジノがある歓楽街だ。
俺たち金聖騎士団は
ユウの行方を捜していたので、
何か情報が掴めるかもしれないと思い、
ヴァレリアンの采配で
俺がこの街に来た。
本来ならもっと大所帯の
聖騎士団がこの街に来るか、
もしくは斥候が得意の
エルヴィンあたりが来ても
良かったのだが。
エルヴィンはユウと、
そして新しくできたと言う
隣国の情報を求めて旅立ち、
いまだ、王都へは戻ってきていない。
そうなると、
権力とは無縁で
すぐに動けるのは俺だけになり、
俺はこの街まで来た。
この街に来て
今日で3日目だ。
井戸の調査と、
情報収集をしていると、
近くの『聖樹』が再生したような
うわさが流れて来た。
『聖樹』の再生など
ありえない話だ。
だが、
もし本当なら、
ユウが絡んでいる可能性がある。
だから俺は領主にかけあい、
その町から来た子連れが
街に入ってきたら
知らせて欲しいと頼んだ。
領主は訝しんだが、
俺は仔細は話さず、
行方不明になった弟
かもしれない、と言うことにした。
俺にとっては
ユウは弟と同じようなものだから
構わないだろう。
領主から連絡が来て、
俺は急いで領主の屋敷に向かった。
俺がサロンに通され、
お茶が来る前に
サロンの扉が開く。
扉が開き、
二人の男が部屋に
入ってきた……が。
俺はそんな男たちの顔など
まったく見ていなかった。
ドアのそばに…
会いたかった姿を見つけたからだ。
俺を見たユウは
目を見開き…涙を滝のように流した。
俺は立ち上がり、ユウの前に行く。
ユウが泣いたからか、
隣にいた男がユウを抱っこしようと
したが、ユウはそれを拒み、
俺を見た。
「抱っこ!」
大きな声で、
俺の婚約者が作った
クマのぬいぐるみを振り回して。
以前と同じように、
両手を上げて俺に抱っこをねだる。
不覚にも、
泣いてしまいそうになった。
ユウは誰にでも抱っこされる。
見た目からして子どもだし、
つい甘やかしたくなる存在だからだ。
けれども。
ユウが自分から抱っこを
ねだるのは、俺だけだ。
ユウを溺愛していると
公言している金聖騎士団の
ホゴシャーズたちにも、
ユウは自分から
抱っこをねだることはない。
自分から抱っこをねだるのも、
背中から抱きつくのも、
俺だけだ。
俺が恋愛対象ではなく、
兄として接しているから
安心なのだろう。
ユウをひたすら
愛している団長たちからは
酷い嫉妬を受けているが、
ユウが俺限定で甘えてくるのは
正直、嬉しい。
ユウを抱き上げてやると、
いつもしていたように
首にしがみつき、
俺の肩に顔を寄せてくる。
額で俺の肩を
ぐりぐり擦りつけ、
俺の存在を確かめるように
バンバン背中を叩いてくる。
俺はユウを抱き上げたまま
領主と、ユウと一緒に来た
二人に挨拶をした。
ユウとの関係は
改めて聞かねばならないだろう。
ユウを抱っこしたまま
俺はソファーに座った。
お茶とお菓子がテーブルに並んだが
ユウはひたすら俺の首筋に
頬を擦りつけては
腕を背中に回して
しがみついてくる。
俺もユウと会えて嬉しいが、
あまりの歓迎ぶりに
正直、照れる。
ユウをじっと見ていた
俺たちの視線に気が付いたのか、
ユウは恥ずかしそうに
てへ、と笑った。
目の前に座っていた神官…
マイクが、小さく可愛らしい、
と言ったことを俺は見逃さなかった。
ユウが俺の手を叩いて
お菓子を見る。
お菓子を取って欲しい、
という意味だ。
ユウはこうやって
俺に甘えてくる。
俺の膝から下りれば
自分でお菓子も取れるし、
本当に欲しいのなら
俺に声を出して
「取って欲しい」と
言えばいいだけのことだ。
なのに、ユウは
何も言わず、
俺がユウが望むものを
与えるかを試しているかのように
仕草だけで俺に訴える。
俺はわかっていて…
別のものをユウに渡した。
自分が気が付いていなくても
おそらく喉が渇いている筈だ。
だからお茶を渡したのだが
ユウはショックを受けたように
「お菓子…」とつぶやく。
相変わらずの可愛さだ。
「先にお茶を飲んでからだ」
と言うと、しぶしぶとお茶を飲む。
そういえば、
この街では水ではなく
アルコールが主流だったこと
思い出して、
大丈夫だったかを聞いてみた。
一度、ユウとは…
酒を飲んで、不覚にも…
『祝福』に飲まれたことがある。
その時の失態を
ユウも思い出したのだろう。
気まずい顔をする。
お菓子、と呟くので
1つ渡してやったが、
まさかまた、アルコールで
なにかやらかしたのか。
懸念はあるが、
俺は領主とユウと一緒に来た
二人と話を始めることにした。
ユウを弟だと
主張して、俺が聖騎士だと言うこと。
この街の井戸を調査しに
王都から来たこと。
ユウの意志を尊重するが
連れて帰りたいこと。
ユウを保護してくれた
二人には最大限の
感謝とお礼をしたいことを伝える。
そしてユウとは
久しぶりなので、二人きりで
話をする場を設けたいと頭を下げた。
そんな話の中で、ユウは
ちまちま、お菓子を食べている。
俺たちの会話など
恐らく聞こえてはいない。
何故なら、俺の機嫌を
伺うように顔を盗み見て、
テーブルの上のお菓子を見て。
諦めた顔をして
また、お菓子を少しづつ
口に入れて食べるのだ。
正直、可愛い。
俺はつい、吹き出してしまった。
ユウに菓子を渡してやると
ユウはあからさまに喜んだ。
その様子に場が和み、
俺はユウと二人っきりで
話をすることができた。
ユウが…変わってなくて良かった。
あの二人に守られてきたのだろうか。
ユウは『女神の愛し子』だ。
しかも…
呪い…のような『祝福』も
持っている。
あちこちで愛されるのは
仕方がないが、
心配は尽きない。
ユウがあれから
どのように過ごしてきたのか
しっかりと聞かなくては。
そして…
できるのであれば、
俺と一緒に王都に帰って来て欲しい。
……できるだろうか。
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