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新しい出会い

37:兄、最高!

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私は最初の教会を出て、
ディランと野宿をしたときの話をした。

ディランが初めて『祝福』を
受けた時に感じた…
ディランの激情。


ヴァレリアンたちに
抱かれたときには
どんな状態でも、どんな行為でも
愛情を感じることができた。

『祝福』に流され、
乱暴な行動になってしまっても
指先から、吐息から、
私のことが大切だと、
大好きだと伝わってきた。

でも、ディランは違った。

獲物を追い詰めるように
私を捕獲し、組み敷いた…
激しい行為だった。

私はあの時、感じたのだ。

『祝福』は私が好意を
持っている相手にしか発動しない。

けれども。

『祝福』を受ける相手が
私に好意を持っているかどうかは
全くわからないことを。


もっと言えば、
私が相手に
好意を感じていたとしたら。

相手が私を嫌っていたとしても
『祝福』は発動する。

そしてその相手は
嫌っている私を、
自分の意志とは関係なく
私を抱くのだ。

こんな…苦しいことは無い、
って思ってしまう。


今更。

今更、女神ちゃんの
いきあたりばったりな性格を
責めても仕方がない。

もう私はこの世界で
生きていくと決めているのだし、
この世界で生きる以上、
私は『女神の愛し子』でしかない。

そして私は、女神ちゃんが
ああいう女神だとわかってて
付き合っているのだ。

そう、わかってはいる。

けれども、
感情を処理できない。

私はあちこち話が飛び、
うまく説明できたかどうか
わからないけれど…

バーナードにしがみついたまま
一生懸命話をした。

バーナードは何度もうなずいて
頑張ったな、って
頭を撫でてくれる。

それだけで、
心は少しづつ軽くなる。


「……新しい恋敵か。
団長たちには、やはり
言うわけにはいかないな」

話が終わると、バーナードは
ぼそり、と呟く。


「ユウは…それで、
これからどうしたいんだ?」

「どうしたい?」

「あの二人と一緒に
旅を続けるのか?

それとも、俺と一緒に
王都に戻るか?

『聖樹』をめぐるのであれば
俺たちが同行する。

隣国に行くのであれば、
行き方さえわかれば
金聖騎士団と一緒に行くこともできる。

あの男に頼る必要はないだろう?」

……確かに、そうかもしれない。

そうなんだけど。

私はぎゅっとバーナードの
背にしがみついている指に
力を込めた。

私とバーナードの間で
くまちゃんが苦しそうに
挟まっている。

バーナードはいつも
私の話を聞いてくれる。

でも、自分の意見は言わない。


私がどうしたいのかを
尊重してくれるし、
迷った時は背中を押してくれる。

でも。

大事なことは、
絶対に言ってくれない。

たとえばここで

「俺と一緒に帰ろう。
金聖騎士団の皆で
新たな問題を乗り越えよう」

なんて言ってくれたら、
私はたぶん、頷いてしまうと思う。

でも、バーナードは
絶対にそんなことは言わない。


私が自分で考え、
自分の意志で動くことが
大事だと理解してくれているからだ。

だから、バーナードには
甘えてしまう。

どんなに甘えても、
甘え尽くしたとしても。

バーナードは最後の最後で、
私を立たせてくれるから。

だから安心して甘えられる。

心の中を…曝け出せる。

バーナードが言ってくれたのは
多分、本心だろう。

でも、この国のことは
この国でなんとかしなければならないし。

隣の国の…『聖女』の問題は
隣の国の人たちで解決するべきだ。

だから私は金聖騎士団の
皆のところには戻らないし、
ディランと一緒に行く。

それはもう決まっている。

でも。

「私ね、ディランが怖かった」

聞いて欲しい。
バーナードになら、言えること。

「あぁ」

「金聖騎士団の皆は、
いつだって優しかった。

抱っこしてくれて、
いつだって私のことが「好き」って
そう言ってくれてた。

ご飯を食べるときも、
街を見に行くときも。

ヴァレリアンたちに
『祝福』が発動したときだって
私は皆に愛されてるって
疑わなかった」

どんなに激しい行為も、
だからこそ、受け入れられた。

「でも、ディランは違ったの。
ディランは私を子どもで
保護する存在だと思ってたはずだし。

でも『祝福』が発動して、
あのとき…怖かった。

私は少なくともディランは
優しいお兄さん、って思うぐらいは
好きだったし、『聖樹』を
癒しに行くつもりだったから。

減った『器』に<愛>を溜めるために
……抱かれてもいい、って
思うようにした。

でも、ディランは違う。

私や女神ちゃんの『祝福』に
振り回されて、無理やり私を抱いて、
この国の人じゃないのに…

この国の『聖樹』のために
利用されてる」

違うって思うのに、
そんなことない、って
信じたいのに。

言葉が止まらない。

「それでも私は『聖樹』を
蘇らせないとダメだから、

ディランはあの時のこと
覚えてないみたいだったから、
忘れようと思って…

でも。

昨日、ディランの怒った声を聞いて
また怖くなったの。

あの時のことを思い出して、
でも『怖い』なんて
ディランを利用している私が
そんなこと思うなんて…っ!」

ディランとの行為を、愛など無く、
ただ『身体を繋ぐため』だけの
行為だと、思ったときの…

あの感情を思い出してしまい、
私は身震いした。


「ユウ!」

激しく自分を蔑む言葉を言う前に、
バーナードが
私の言葉を止めてくれた。

二人の体の間に
挟まっているくまちゃんを
バーナードはとりだして、
私の頬にくまちゃんを押し付けた。

「落ち着いて。大丈夫、ほら」

クマちゃんに頬をすりすりされる。

もふっとした
癒される感触に、
少しだけ心が落ち着いた。

バーナードの大きな手が
私の背中をさすってくれる。

あったかい手だ。

私は何度も息を吐いて、
気持ちを落ち着ける。

大丈夫。
ここは…この場所は
私の『安全地帯』だ。

泣いても、喚いても、
許される場所。

私は言いようのない
恐怖や寂しさや辛さや不安を
ギューッと詰め込んだような感情を。


バーナードの
シャツをぎゅっと握って
やり過ごそうとした。

バーナードの膝の上なら
なんでもできると言う
信頼を持って。




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