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新しい出会い

33:やばっ!起きて起きて!

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がばっと私は起き上がった。

良かった。
体は動く。

場所は…と確認して、
宿屋の大きなベットに
一人で寝ていることがわかった。

部屋は暗いけど、
室内用の薄暗い明かりが付けてある。

私は体を確認して…

「舐められた…様子はない?」

アレ、夢だった?

あんな変態な夢、
見ることってある?

ゆっくりベットを下りて、
音を立てないように
侍従用の部屋を覗くと
マイクが寝ているのが見える。

侍従用のベットは2つあったが、
一つは空だった。

ディランはまだ帰ってきてないらしい。

私は何か飲みたくなって、
でもお酒以外!と部屋を見回すと
ベット横の小さいテーブルに
水差しが置いてあった。

一応、匂いを嗅いで、
ただの水なのを確認してから飲んだ。

ちょっとお酒を
がぶがぶ飲み過ぎた、たぶん。

私はお風呂に入りたくなって、
そっと浴室を覗いてみた。

まだ湯舟には温かいお湯が入っていて。
というか、かけ流しみたいに
壁に取り付けられている魔石から
お湯が出てきているみたいで、
私は喜び勇んで服を脱いだ。

舐められた…のは夢かもしれないけど、
身体を洗いたい。

ついでに、湯に浸かりたい。

「はーっ」
と湯に浸かると息を吐くのは
日本人のお約束?

とにかく、お風呂に入れて
ほっとした。

しかし…あの夢、
なんだったのだろう。

女神ちゃんの…
『エロの金字塔』の幕開け、
とかじゃないわよね?

何気なく私は
湯に浸かっている胸のあたりを見た。

「ん?」

不自然に、赤くなっている箇所がある。

これ…吸い付かれた…跡?

どくん、と心臓が鳴る。

夢じゃなかった?

やっぱり…?

あれ、マイクだったよね?

カーっと体が熱くなる。

マイクだったよね?!

どうする?
どうする?
どうする?

いや、落ち着け。

私はぶくぶくと湯に頭を沈めた。

ぷはーっと顔を出し、
落ち着い…てないな、うん。

どうしよう?

いや、マイクが隠そうと
しているかどうか、という
問題もあるよね。

マイクが無かったことにするなら
私も『なかったこと』で構わないし。

というか、そんなこと
ばっかりだな、最近。

って思って。
違う!って思った。

だって。
今回は女神ちゃんの『祝福』が
発動してないんだもの。

マイクと私は、
目を合わせていない。

ということは
女神ちゃんのことは関係なく
マイクはあんなことをしたってことになる。

私は思考を停止させた。

嫌な考えになってしまった。

マイクが私のことを
好きってこと?

全身舐めたくなるぐらい?

いやいや。
そもそも、
優等生委員長タイプの
マイクがあんな変態だったなんて…。

へ、変態だったよね?

舐めたいとか…おかしいよね?

で、でも。
今まで体を舐められたことが
無いかと言われれば…

そんなことは、ない。

情事の時、私は今まで
沢山、舐められたし、触られた。

その一環だと言われれば、
変態ではない…?

いや、ストップ。

マイクが変態かどうかは
とにかく置いておこう。

問題はこれからどうするか、だ。

マイクといい、ディランといい、
今まで出会ってきた人たちとは
ちょっと違うと思う。

今までの女神ちゃんは
正統派美形が好きだったはず。

でも、ここに来て、
違うタイプに目覚めたような気がする。

もし、今までとは
違ったタイプの人と
まだまだ出会う予定だったら、
どうしよう。

た、たとえば、
拉致監禁とか、そういうことを
しそうなタイプとか。

監禁とか、ダメだよね?

いや、攫われたりしたら
ディランがきっと助けてくれる。

でも、もし、そのディランが
拉致監禁をするような人だったら?

え?

そこを疑ったら
ダメなんじゃない?

だって、それを疑ったら、
二人っきりになれないじゃん。

今はマイクと一緒で
3人だからいいのか。

でも、あの二人が手を組んだら?

一緒に旅をするのは
3人じゃダメ?

誰か引き込む?

金聖騎士団の皆は6人いたから
絶対誰か2人はそばにいてくれたし
そういった意味では安心だったよね。

でも、
女神ちゃんの『祝福』が
発動したときは、2人とか
3人で
いたしてしまうことになったけど。

どうする?

何が一番、安全なの?

いや、私にとって『安全』って
どういうことが安全なのだろう。

いやいや、安全とかではなくて、
マイクが私を好きか、
ってことが問題なハズ。

もしマイクが私のことを
好きって思ってくれていたとして、
その想いに応える…ことは
できない、よね?

朝起きたら「ごめんなさい」ってする?

でも、告白もされてないのに、
お断りするって、ただの自意識過剰なんじゃない?

本当にマイクが私のことを
好きかどうかもわからないのに。

そもそも私の身体を舐めてたけど
それに理由があった…ら?

変態行為じゃなくて、
たとえば…神官が使えるような
呪いとかおまじないとか、そんなやつ。

ゲームとかだと
舐められて防御力が上がるとか。

って、どんなエロゲー!?

って思ったけど、
ここはエロゲーの世界だったことを思い出す。

考えがまとまらず、
思考がぐるぐるしていまう。


ガチャ!

と急に部屋の扉が開き、
私は飛び上がった。

「あ、悪い。驚いたか?」

「ディラン、お帰り」

少し酔ったようなディランが
立っていた。

「もう寝てると思ってた」

言いながら、ディランが
湯殿に入ってくる。

「寝てたんだけど、目が冷めちゃって」

「そうか」

ディランは私が居るのに
気にしていない様子で
目の前で体を洗い始めた。

あのことは…
『なかったこと』になってるもんね。
意識しても仕方がないか。

野外で激しく抱かれたんだけど。

女神ちゃんの『祝福』。
どうせなら、記憶を消すとか
そういうフォローも入れててほしかった。

使えないエロ祝福ばっかりだもん。

まぁ、今のディランは
酔ってて、私のことなんて
気にならないのかもしれないけれど。

「お酒くさーい」

石鹸の匂いにまじって、
お酒の匂いがする。

「だから、洗ってんだ」

とディランは笑う。

屈託がない笑いは、
ディランを幼く見せる。

私は、そういうディランの
笑顔が好きだった。

安心できる。

「いっしょに入る?」

私は湯舟の端に寄った。

ここのお風呂は結構大きくて
大人二人でも入れそうだ。

「おう」

ディランは返事をして、
私の隣に座る。

ディランの肌は浅黒く、
物凄く…筋肉質だ。

金聖騎士団の皆も
筋肉はすごかったけど、
肌の色や顔立ちは元の世界で言えば
ヨーロッパ系の人たちに似ていた。

でもディランは、彫が深いアジア系の
顔立ちをしている。

映画俳優だったら、
ワイルドなアクション映画とかに
出演してそうだ。

「ん? これ、どうした?」

ふいに、ディランの指が
私の胸に触れた。

淫靡な空気はなく、
純粋な好奇心だったと思う。

でも、私の頬が
赤く染まるには十分な仕草だった。

なにせ、ディランに抱かれた
時のことを思い出していて。

赤い跡は、マイク犬に
全身舐められたのではないかと
内心思っていた時だったから。

私が口ごもり、
頬が熱くなるのを見て
ディランは……ものすごく
厳しい顔をして、私を見た。

「言ってみろ。何があった?」

まるで尋問するかのような鋭い声。

私は急にディランのことが怖くなった。

もともと、私は男の人が怖い。
大声を出す人も怖い。

他人が…怖い。

急にディランが知らない人に見えた。

怖い…大人の男の人みたいだ。

私の脅えた様子に気が付いたのだろう。

ディランが、悪い、と
小さくつぶやいたが。

私は首を振って、
もうあがる、と先に風呂場を出た。

ディランが…まるで別人のように見えた。

私は急いで寝巻を着て。

ベットで待っていてくれた
ぬいぐるみのクマちゃんを抱いて
シーツにくるまった。

……みんなに、会いたい。







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