上 下
27 / 355
新しい出会い

27:わんこは考える【マイクSIDE】

しおりを挟む







私はユウさまたちと共に
旅立つと仕えの者に告げ、
急いで身支度を整えた。

一応、神官服と、必要そうな
ものを手短にカバンに詰める。

その間に、侍従に
服を用意させると、
平民と同じような目立たない
茶色いズボンとシャツ。

そして分厚い生地の黒い上着を渡された。

着替えは最低限のものしか
準備できなかったが、路銀はあるし、
必要ならどこかの街で買い替えればいいだろう。

私は着替えながら、
侍従に状況を手短に説明した。

この侍従は私が屋敷から
連れて来た者で信頼できる。

一応、家の者と王都の大神殿にいる
祖父にも状況を伝えるように
命じておく。

私は馬車を用意させ、
神官たちがユウさまを探す前に
教会を出ることにした。

私は『聖樹』が蘇るのを見るのは
2度目だったのと、ユウさまが
お傍にいるので、すぐに我に返ったが。

おそらくあの場にいるものたちは
もうしばらく興奮状態にいるだろう。

今のうちに、出ていくのが得策だ。

ユウさまは、どうやらお優しく、
慎ましい性格のようで、
あまりその行幸を知られたくないご様子だったから。

私はユウさまと、
侍従のように働くディランを促し、
教会を出た。

教会の前にはすでに馬車が
準備万端の状態で待っていた。

私はそばで見ている侍従に
目配りをして、ユウさまを
馬車に乗せた。

馬車は揺れるであろうことを
想定して、クッションを
準備させてはいたが。

ユウさまは、何故か
ディランの膝に乗っている。

何故だ!

「ユウさま。
何故、その男の膝に乗るのでしょうか」

「支えてくれると、
揺れなくていいでしょ?」

と無邪気に笑うユウさまは
とても可愛らしい。

が。

ディランがにやりと笑って、
ユウさまのお腹に回した
手の力がこれみよがしに
強まるのを私は見逃さなかった。

「わ、私の膝でよろしければ
いつでもお使いください」

と申告したものの、
ユウさまは、笑顔でありがとう、
と言って…そのまま眠そうに
目を擦った。

ディランが得意そうに
ユウさまの体の向きを変え、

こともあろうか
ユウさまは、ディランの
胸に顔を押し付けて眠ってしまわれた。

「こいつは、揺れると
すぐに寝ちまうんだよなー」

などと得意げに言うディランに
殺意を覚えたのは仕方がないことだろう。

「……貴様、
何のために、ユウさまのお傍にいる?
何が目的だ?」

ユウさまが寝ている間に、
まずはコイツがユウさまを
どう思っているのかを
確認せねばならない。


「目的……ねぇ?」

にやり、と笑う顔が気に入らない。

「あの村までユウさまを
保護して連れてきたことには礼を言う。

だが、ユウさまと一緒に
旅をする必要はないはずだ」

「そうだったんだがな」

ディランはユウさまを見た。

それは…とても、優しい瞳で。

優しい仕草で眠るユウさまの髪を梳く。
ユウさまは嬉しそうな顔をして
ディランにすり寄った。

感情を抜きにしてみると、
仲の良い兄弟にも見える。


「ほっとけないだろう?
こんな子どもが、必死で頑張ってんだ。

大の大人に傅かれて、
戸惑うな、と言う方が無理だ。

さっきの神殿でもそうだろう?

あんな爺さんでも、
おそらくは高位の神官たちだ。

そんな爺さんたちが
ユウの服や足に敬意の口づけをしようとする。

少なくともユウは、
そういうことを嫌がってる。

だから俺は、そういった輩から
こいつを守ってやろうと思ってるわけだ」

もちろん、お前からもな。

と釘をさされた。

確かにユウさまは、
そういうことを嫌っている節があった。

だからこそ、あの村で
『聖樹』を芽吹かせた後、
誰にも何も言わず
立ち去ることを選んでいたのだろう。

そして私もまた、
ユウさまの前では、跪き、
頭を垂れてしまう人間だ。

ユウさまにとっては、
そういったこととは無関係の
この男の傍の方が、

我々よりも心地良いのだろうか。

私は知らずと唇を噛んだ。


「それに、俺も
ユウには用事ができたしな」

「用事…?
それはなんだ?」


不穏な言葉にディランを見るが、
ディランは答えなかった。

ただ、ユウさまを守るし、
『聖樹』を見に行くと言う
ユウさまの行動は邪魔はしない。

用事は簡単には言えないが
ユウさまの気持ちを尊重すると
そういったことを言った。

私としてはユウさまの護り手が
増えるのであれば、
まぁ、いいか、とも思えた。


ディランがユウさまに
危害を加えないことさえわかれば
とりあえず、今はそれでいいだろう。

「でもまぁ、
あんたがユウを見る目つきが
変態だった理由もわかったし。

神殿の神官たちの様子をみれば
あんたの行動は、ただの幼児趣味では
なかったってことだろ?」

変態とはなんだ!

そして私は幼児趣味などではない!
ユウさましか見てないのだから。


私の憤った。

だがディランはそんな私を
気にすることなく、私に視線を向けた。

先ほどまでの揶揄うような顔ではなく
真剣な瞳だった。


「一緒に来てくれて
助かる……な、とりあえず」

ディランはひっかるような
言い方をした。

「何が助かるんだ?
貴様の言う用事とやらに
私に手を貸せとでもいう気か?」

「いや、そういうわけじゃない。
だた、その…二人っきりになると
ヤバイ夢…じゃねぇ。

そう、あれだ!

俺が小銭稼ぎで、
魔獣や魔物を治したりとかする時に
ユウを連れて行くわけにはいかないだろう?

このひとつ前の村でも
そういう依頼があったんだが、
こいつを一人で置いておくのも
心配だし、連れて行くのも心配だった。

だから、あと一人、
ユウの傍に信頼できるやつがいれば
いいと思ってたわけだ」


信頼できる、か。

言い訳のようにいきなりしゃべりだすから
身構えたのだが、私のことを
ユウさまを預けるに足る人間だと
認めたということか。

ディランという男、
気に食わないが、
なかなか良いヤツではないか。


私のユウさまに対する敬愛の深さを
ちゃんと理解しているのだな。

よしよし。

次の街では、侍従に
宿の手配をさせている。
仕方が無いから、
コイツも宿に泊めてやろう。

身体も大きいし、
ユウさまを守るというのであれば
ユウさまの盾として利用させてもらえばいい。

そういう意味では価値はありそうだし、
ユウさまのお傍に侍ることを
許可してやろう。


まぁ、
私とユウさまの間に
何人たりとも入ることはできないがな。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

契約妻は御曹司に溺愛フラグを立てられました

綾瀬麻結
恋愛
役員秘書を務める萌衣は、社内外で才色兼備と言われるものの、実は恋愛がよく分からないというコンプレックスを持っている。このまま結婚もできないのでは……ともやもやしていたところ、なんと取引先の御曹司である玖生に、契約結婚を持ち掛けられた。どうにかして、親のすすめる政略結婚を避けたいらしい。こんなチャンスはもうないかもしれない――そう思った萌衣は、その申し出を受けることに。そうして始まった二人の新婚生活は、お互いに干渉し過ぎず、想像以上に快適! このまま穏やかに暮らしていければと思っていたら、突然玖生に夫婦の夜の営みを求められて……!?

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...