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溺愛と結婚と

147:秘密基地と閨教育・2

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 ヴィンセントは元々本を読むのが
苦手だったから、俺が大量の本を
読むことが信じられなかったのだろう。

「全部か?」

とわざわざもう一度聞いて来た。

俺が頷くと、
ヴィンセントは本気か?
どうやって?
という顔をする。

大丈夫だ。
順番に触っていくだけだから。

とはいえ、触っていくだけでも
かなりの時間がかかってしまう。

本の量は膨大だし、
触れて内容がわかったとしても
それを俺の脳が処理する時間も
わずかだといえ必要だ。

次から次に、数秒おきに
別の知識を無理やり脳に
送り込まれるなど、
考えただけでも脳ストレスで倒れそうだ。

だからこそ、本棚の本を
端から順番に触っていくよりも
使えそうな本を見つけて
見ていく方が良いと思う。

「うん、全部。
だけどね。
優先順位を付けたいんだ。
ヴィー兄様も手伝って」

「それは構わないが
どうやって選ぶんだ?

俺は古書……と言うか、
古語は全く読めないぞ」

だよな。
でも大丈夫だ。

俺は近くにあった紙と
ペンを引寄せて
古語で【埋める】
【空間魔法】
【転移魔法】
と言った役立ちそうな
ワードを並べて書いた。

「この文字を見つけたら
僕のところに持ってきて欲しいんだ。

中を見るのが面倒だったら
背表紙だけでもいいから」

俺が紙を差し出すと
ヴィンセントは「わかった」と
頷いてくれる。

そこから俺のヴィンセントは
二手に分かれて本棚に取り組んだ。

俺は背表紙を見るだけで
何が書かれている本か
ある程度はわかるから、
そこで役立ちそうな本を見つけたら
その本を手にとって内容を確認する。

ヴィンセントは気になった本を
いくつか溜まったら
俺のところに持って来てくれるので
その都度、俺は確認した。

これだ!と言う本はなかなか見つからない。

ただ、地下空洞を埋めることが
できそうな魔術が書いてある本や
前世で言う3Dプリンターのような
コピーを作れそうな魔術の本を見つけた。

コピーの魔術は、コピーしたものは
オリジナルの劣化版になってしまうが、
あの黒い砂の強度がコピーでも
王都を支えるに耐えるものなら
あの砂をコピーし続けるのも
ありかもしれない。

「イクス、これは?」

ヴィンセントが俺のそばに来て
1冊の本を差し出した。

かなり分厚い本で、
綺麗に装飾された本だった。

今まで見てきた本とは
背表紙から違う。

高価そうだし重厚さもある。
百科事典みたいな本だ。

「この本は重いからな。
こっちだ」

ヴィンセントは本をテーブルに置き、
俺のための椅子を準備してくれた。

俺は触れるだけで良かったのだが
正直、本棚の前で立ち続けていたから
疲れているのもあって
素直に座ることにする。

「これを確認したら
一休みするか」

ヴィンセントの言葉に俺は頷く。

俺が椅子に座ったタイミングで
ヴィンセントは俺の背中に立ち、
手を伸ばして大きな本の
表紙を一枚めくった。

ヴィンセントは古語が読めないので
気が付かなかったようだが
俺は目次らしきページを見て
触れようと伸ばした指を止めてしまった。

だって。
本には古語で

【愛しい人と満たされるために。
あなたの寂しい心を
パートナーと方法】

と書かれている。

確かに俺がヴィンセントに
指定した【埋める】と言う文字が
大きく書いてある。

でも、意味が違う。
これは絶対に見なくていいヤツ

と思ったのに、ヴィンセントが
「これに書かれてるかもな」
なんて言いつつ、
大雑把にページをめくった。

だが。
今度はどう考えても
恋人同士の二人が抱き合ったり
服を脱がせ合うような図がでてきた。

これ、俺が読んでいい内容!?

恋愛小説とか、恋愛指南書とか
そういうやつじゃないのか!?

俺の頬のすぐ横に伸びていた
ヴィンセントの腕が
驚いたかのように揺れる。

そして驚きからページを
掴んでいたの指の
力が抜けてしまったのか
ヴィンセントの指の隙間から、
ぺらぺらとページがめくれていき
ページは驚愕の絵が描かれている
ところで動きを止めた。

大きく見開かれた本には
裸の男女1組と、裸の男が2人、
裸の女性が2人がどうみても
絡み合っているような
挿絵? 図? がある。

しかも、様々な角度な絵で
絡み合う図が説明文と共に
書かれているのだ。

ちょ、これ、え?
あれじゃないのか?

夜の……夜の指南書とか。

この世界では異性婚も
同性婚も普通にある。

同性同士で結婚しても
子どもを授かることができるらしい。

俺はやり方がわからないが、
おそらくそういうことが
書かれた本なのだと俺は思った。

前世ではインターネットもあったし
恋人同士の指南書のようなものや
それこそ、こういった夜の営みに
特化した漫画や本もあった。

だがこの世界はちがう。

情報は本しかないだろうし、
学校で、子どもの作り方を
学ぶ機会が無いのだから
学校教育とは別に
こうした本で学ぶ必要があるのだろう。

と、冷静に判断したが、
驚きに固まっているヴィンセントを
どうするべきか。

一応俺は前世で成人してたし、
経験はないけれど、
どんなものは理解している。

まぁ、男同士でどうやって
子どもができるのかは
全くわからんが

それでもまぁなんとなく、
この手の情報は
子どもが見てはならないもの?

みたいな感じだということも
わかっているつもりだ。

そしてこの場合の俺は
どういうリアクションを取ればいいんだ?

俺は子どもの枠に入っていると思う。
だって公爵家ではそんな教育が無かったし。

ということは、
俺はまだ知らなくても良いことだと
判断されている……ハズ。

じゃあ、無邪気に「これなに?」と
ヴィンセントをに聞く……。

いやいや、無理だろう。
それはあまりにもヴィンセントが
可哀そうだ。

これは何もわからないふりをして
本を閉じた方が良い。

と思ったのに
ヴィンセントはいまだに
固まったままピクリとも動かない。

あれ?
もしかしてヴィンセントも
こういうの、学んでなかったってやつか?

ヴィンセントは大人枠だと思ったが、
この世界では年齢にかかわらず、
結婚したらこういう知識を学ぶのかもしれない。

なるほど。

と言うことは、
俺はヴィンセントと一緒に
学べばいいのか。

そう思うと気が楽になるな。
じゃあ、ヴィンセントには
「一緒に学びましょ」と言う感じの
声掛けをしればいいか。

俺は動こうとしない
ヴィンセントの腕を掴んだ。

「ヴィー兄様?」

知らなくても大丈夫。
僕と一緒に学びましょう。

そう言うつもりだった。

だが。

俺がヴィンセントの腕に
指先が触れた途端、
ヴィンセントは弾かれたように
大きな音を立てて本をバシ!と閉じた。

そしてあからさまに
狼狽えたような顔で、しかも
耳まで真っ赤になりながら
「こ、こ、この本はちがう、よ、ようだ」
と必死な様子で言う。

「うん、そうみたいだね」

と俺が冷静になれ、と
ヴィンセントに念を送りつつ言うと、
ヴィンセントは分厚い本を
奪い取るように胸に抱き込んだ。

「ほ、本棚に直してくる。
ちょっと休憩しよう」

「うん」

そうだな。
休憩は必要そうだな。

思ったよりも初心ウブだった
ヴィンセントの様子に驚きつつ
俺は頷く。

ヴィンセント、なんか、可愛いかも。

ヴィンセントって体も大きいし
頼りになるし、何でもできるって
イメージだったから、
こんな反応するなんて。

俺は真っ赤な耳のまま
本棚に本を戻しているをヴィンセントを
横目で見つつ、口元が自然に緩むのを感じてしまった。


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