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溺愛と結婚と

135:特別室

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 ぐだぐだで会議は始まった。
参加しているのは、
騎士団率いる騎士団長さん。
これはヴィンセントの父親の
ハーディマン侯爵家だ。

宰相さんはミゲルの父親だし、
あと知っているのは……

ぐるり、と見回したが、
後知っているのは俺の父と
ヴィンセントぐらいか。

俺は陛下と父の間に座っていて
ヴィンセントはまた俺の後ろに
立っている。

ヴィンセントは騎士だけれど、
きっと立場的にこの場に
座る椅子が無いのだと思う。

俺の護衛とか、そんな立ち位置だから
この部屋にはいることができたのだろう。

それでもここまで来てくれて、
俺の背中を守ってくれるのは嬉しい。

この部屋には知っている人間は
かなり少ないが、さきほどまでの
アウェイ感を考えると随分とマシになった。

陛下の代わりに
宰相さんがこの場に
集まってもらったのは
王子殿下が関わることではない、と
一言告げると、また目の前の
おじさんたちがざわざわする。

なんか嫌だな、この人たち。

俺がそう思ったことに
気が付いたのだろう。

陛下がパン、と手を叩いた。

「皆が我が息子たちの
将来を憂う気持ちはわかった。

今日そなたたちを集めたのは
時期尚早であった。

また改めて声をかける故、
今日はもう戻って構わぬ」

え?って思った。
たぶん、おじさんたちも
思ったとだろう。

せっかく集まったのに、と。

だが陛下がそれ以上は
何も言わないために、
そこにいた面々は、一人、
また一人と部屋を出ていく。

残ったのは陛下と俺と父。
ヴィンセントとその父親の
ハーディマン侯爵。

あとはミゲルの父と……

「すまない、遅れた!」

と、勢いよく入って来た
イケメンのおじさんが一人。

誰だ?

「遅い」とハーディマン侯爵が
怒ったように言うが、
イケメンのおじさんは陛下に
礼をして、「例の件で部下から
報告を聞いておりました」という。

なんだ?
例の件?

陛下は構わないと首を振り
イケメンおじさんに椅子に座るように言う。

「でも俺、全然遅れてないよな?
まだ全員、集まってないだろう?」

「馬鹿者、すでに解散した後だ」

ハーディマン侯爵の声に
俺はビクン、とした。

怒声は慣れない上に、
さすがは騎士団長。

声がでかくて、迫力がある。

「おい。うちの子が
怖がっている、怒鳴るな」

父が俺を庇うように言うが、
気持ちは嬉しいが、
イケメンおじさんは興味深々な
顔で俺を見て、なにやら
ニヤニヤしている。

これは、からかわれるパターンか?

「なるほど。
君が公爵家の至高の君か。
俺は魔法師団長のオーリー・フェンバッハだ」

なんか知ってる名前の気がする。

どこで知ったのかはわからないけど。

こげ茶色の髪は短くて、
魔法師と言うよりは騎士みたいだけれど
確かに空気は魔法師っぽい。

というか、身体から溢れる魔力を感じる。

こんなに多くの魔力を持ってる人、
初めて見た。

俺は立ち上がり名を名乗ったが、
何に驚いてよいのかわからず
呆然とオーリーを見つめるしかない。

身体から溢れる魔力量の多さに驚くべきか、
魔法師団長なのに、父よりも
随分と若いことに驚くべきか。

だってどう見ても20代ぐらいに見える。
前世の俺と同じくらいでは?

あと、イケメンだ。

俺の父や陛下は、というか
この国の人種は前世で言うと
西洋人っぽい顔立ちで、
いわゆる綺麗な顔立ちのハンサムが多い。

だが、オーリーはどこか
東洋ちっくな整った顔立ちだった。

前世日本人の俺としては
どこか懐かしい。

俺はあんまりじっと見つめていたせいか
オーリーは、なんだ?と
俺を見てにやりと笑った。

「そんなに俺がカッコイイか?」

「はい、物凄く」

素直に俺が頷くと、
おそらく俺を揶揄うつもりだったのだろう。

オーリーは驚いたような顔をして、
言葉を詰まらせた。

「はっはっは。
うちの息子は素直で可愛いだろう」

何故かそこに俺の父が割り込んで来る。

「だが、彼は我がハーディマン侯爵家の
嫁だからな、貴様にはやらんぞ」

ついでに、ハーディマン侯爵まで
そんなことを言うので
俺は困ってしまった。

ヴィンセントも自分の父親たちに
口を挟めないのだろう。

困った顔で傍観していりる。

「そなたたち、
無駄話は終わりだ。
早く座れ……いや、場所を変えるか」

陛下は立ち上がり、
部屋の外に出るのではなく、
陛下の椅子の後ろに隠されたように
あった扉を指さした。

「あちらでゆっくり話をしよう。
最初からこうしておけばよかったな」

陛下は俺に視線を向けた。

俺は首を振る。

だって、国の中枢の人たちに
一度に話が出来たら
すぐに動けたと思うし。

まさか、あんな人たちだと
俺も思ってなかったから。

はぁ。
俺、ヴィンセントと結婚しててよかった。

そうじゃないと誤解が解けないままだったかもしれない。

俺は部屋を移動するという陛下の後に
ついて歩くことにしたが、
ぎゅっとヴィンセントの腕にしがみつく。

「イクス?」

「ヴィー兄様と結婚してて
良かった、って思った」

嬉しい気持ちはすぐに伝えたい。

俺がそう思ってヴィンセントに言うと、
ヴィンセントは何故このタイミングで?
と小さくつぶやいたが、
「俺もだ」と耳元で囁いてくれた。

ちょっと恥ずかしいが、
やはり嬉しい。

「何をしている。
早く行くぞ」

とハーディマン侯爵が
声をかけて来たので
俺とヴィンセントは絡んだ視線を
外して、慌てて隣の部屋へと移動した。



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