24 / 187
子ども時代を愉しんで
24:恋の話は大好きですか?
しおりを挟む一通り食事をして、
その後、焼き菓子とお茶を
リタに出してもらってからは
おしゃべりの時間だ。
最初はテストのことだったが
だんだんと話がズレてくる。
俺たちは社交界にはまだ出ていないが、
ミゲルは兄から話を聞いているらしく、
クラスメイトの兄や姉が
どこに嫁いだとか、
何をしているとか、
そう言う話も聞かせてくれた。
ヴァルターは辺境にいたので
そう言った話題は俺同様に
全くと言っていいほど
知らない様子だった。
だが、クラスメイトの
誰と誰が婚約している、
と言うような話には
ひたすら驚いている。
「もう婚約してんのか?
早くないか?」
「王都では珍しくないですよ。
もちろん、家同士の利益あっての
婚約だとは思いますが」
ミゲルの言葉にヴァルターは
嫌そうな顔をする。
「俺は結婚するなら
そういうのは嫌だけどな」
わかる!
俺もなんか政略結婚って
嫌ではないが、ピンとこないんだ。
「そうですね。
僕もできれば好きな人と、とは思います」
と言ったミゲルの頬が
少し赤い気がする。
思わず俺とヴァルターは
視線を合わせた。
「なんだ? 好きな相手いるのか?」
俺が遠慮した言葉を
ヴァルターは直球で言う。
「そ、そ、そんなの」
焦るミゲルが、なんか可愛い。
俺も思わず身を乗り出してしまった。
俺たち二人が聞く体勢になったからか
ミゲルは小さな声で、実は、と言った。
「父方の親戚なのですが、
素敵な方がいて……」
年上!
年上なのか。
どんな女性なんだ?
俺はさらに身を乗り出す。
「魔法がとても上手くて」
うんうん、それで?
「剣も腕も良くて、
今は魔法科の専攻にいて
将来は……。
正式な職業ではないけど
魔法剣士になるだろうって
皆から言われているんです」
へー。
凄い!
と思ったけど。
魔法剣士??
「あ、俺、知ってる、
あの人だろ。
高等部の魔法科を
首席で卒業した
歴代最強とか言われてる……」
歴代最強の魔法剣士!?
俺は目を見開いた。
それってヴィンセントより
強いってことか。
いや、違う。
驚くところは、
今はそこではない。
注目すべきことは
この世界は男女関係なく
恋愛をするってことだ。
つまりミゲルが恋に落ちたのは
年上の男性ということか。
ほんとに、そういう世界なんだ。
俺は今更だが、
ミゲルの頬を染める顔を見て
同性結婚がある世界だということを
言葉での理解ではなく、
実感として認識した。
いやだからと言って、
俺がヴィンセントに惚れるとか
そういうのはあり得ないがな。
……きっと、たぶん。
「年上ですし、
僕のことは弟としか
見てくれていないことは
わかってるんです」
ミゲルはそう言ってから
俺を見た。
「だからじつは、イクスが羨ましくて」
「え? 僕?」
「だって、ヴィンセントさんに
弟みたいだけれど、
恋人みたいにも扱って貰えて。
お二人は僕の理想なんです」
いやいや、俺が弟枠なのは
認めるが、恋人ではないし。
否定しようとしたが
ヴァルターが俺の言葉の
前にからかう様に言葉を紡ぐ。
「そうそう。
ヴィンセント様はすっげー
カッコイイし、
何をやっても完璧なのに、
イクスを前にしたら
過保護だし、嫉妬するし、
なんか人間味があるって言うか、
そういうのもいいんだよな」
嫉妬?
ヴィンセントが嫉妬?
何言ってんだ。
そんなの、見たこと無いぞ?
俺は開いた口が塞がらない。
「イクスはどうやって
ヴィンセントさんに告白したの?
それともヴィンセントさんから?」
「こ、こ、告白?」
そんなのしてないし。
「なに言ってんだよ。
イクスはいつも
ヴィンセント様のこと、
カッコイイ、好き、って
毎回言ってるじゃん」
確かに言ってる!
言ってるが、それは告白ではない。
ただ口が勝手に言ってるだけだ。
「そうか。
ちゃんとそうやって
声に出して伝えてるから
イクスは愛されてるんだね。
……僕も言えたらいいのに」
違う、違う。
全てが違うとは言えないが、
やっぱり違うと思う。
「まぁ、気持ちを伝えるのは
大事かもしれないな」
なんてヴァルターが言うと、
ミゲルはそんなヴァルターを見た。
「そういうヴァルターは
好きな人はいないんですか?」
「俺!?
俺は……今は強くなることが
目標だからな。
そういうのは、後でもいいや」
俺も!
俺もそんな感じなんです。
ほんとに。
「でもイクスは大変だな、
ほら、王子のこともあるし」
ヴァルターは続けて言いながら
俺を見た。
「僕? 王子?」
何?と聞くと、
ヴァルターは、気づいてないのか?
と呆れた声を出す。
「何が?」
「クルト殿下のことですよ。
どう見てもイクスのこと
意識してるじゃないですか」
ミゲルがヴァルターの代わりに
説明してくれるが、
俺は、はぁ?だ。
「ないない、無いよー。
クルトとは幼馴染で仲良かったけど、
ただそれだけだし」
俺が言うと二人は訝し気な顔をする。
「もしさ、クルトが僕を
気にしているように
見えるのなら、
僕が階段から落ちたことを
まだ気にしてるんだと思う」
「あぁ、あの癇癪もちの
伯爵家の三男に突き落とされたってやつか」
そうなんだ。
俺を突き落としたのは
伯爵家の三男だったんだ。
自分が嫌だったからって、
他人を階段から突き落とすなんて
まぁ、甘やかされて育ったんだとは思ったが。
「その話を聞いたときは
僕も驚きました。
じつは僕、
その茶会に呼ばれていたのですが
体調を崩して欠席したんです」
そうだったのか。
まぁ、ミゲルは伯爵家の筆頭である
クライス家の子息なんだから
招待されてて当たり前だよな。
「僕はこうして元気だし、
クルトにはもう気にしなくて
いいって伝えてるんだけど。
クルトは優しいから
どうしても気にしてしまうみたいで。
でも、おかげで僕は
クルトと仲良くなりたい人たちから
嫉妬されることがないように
王家からも配慮してもらえてるし
随分助かってるんだ」
俺が王子妃候補と呼ばれていることも
ミゲルの話で知ったが、
そのおかげで俺に婚約の申し込みが
来ていないだろうことも
教えて貰った。
どう考えても俺が
カミルやクルトと結婚する未来なんて
来るわけがないが、
俺の婚約話を王家の名で
二人が阻止してくれているのなら
有難いと思う。
純粋に友情をありがたく思っているし、
なんなら、拝んでも良いぐらいだ。
「では、クルト殿下は……」
ミゲルの言葉に俺は
「ただの幼馴染、
クルトは優しいから
友情に甘えさせてもらってるんだ」
と元気いっぱいに応えた。
俺の言葉を聞いた二人は
なんとなく顔を見合わせたけれど、
否定の言葉は言わず。
ただ、困ったような顔をした。
486
お気に入りに追加
929
あなたにおすすめの小説
妹の妊娠と未来への絆
アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」
オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
君と紡ぐ未来〜愛しい貴方にさよならを。この『運命』を受け入れますか?〜
Kanade
BL
『運命』と知らず逃げたΩの青年と、突然姿を消した『運命』を待ち続けたαの青年の、六年越しの再会愛。
❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅
愛していた。
愛しているからこそ、彼の前から消えようと思った。
『あの日』、すぐに彼に連絡していたら、何かが変わったのだろうか………。
けれど、後悔してももう遅い。時間は戻らない。
ごめんな…。
こんな俺を愛してくれてありがとう。
俺も『愛してる』よ。
俺が愛した、唯一人の人…。
どうか『幸せ』にー。
❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅
・ご都合主義、独自解釈ありのオメガバース。全人類が妊娠出産出来る世界観です。男性も子宮を持ち、女性も孕ませる器官を有します。割と普通に同性カップルがいます。
・初投稿ですので、矛盾などはお目溢しいただけると幸いです。
・投稿前に何度も確認してはいますが、誤字脱字がございましたら申し訳ございません。
・じれじれ、もだもだ、すったもんだの挙げ句の元サヤです。苦手な方はこのまま閉じてくださいませ。
❃メインタイトルそのままに、サブタイトルを追加致しました🤗 引き続き、よろしくお願いします。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?
百谷シカ
恋愛
フロリアン伯爵、つまり私の兄が赤ん坊を押し付けてきたのよ。
恋人がいたんですって。その恋人、亡くなったんですって。
で、孤児にできないけど妻が恐いから、私の私生児って事にしろですって。
「は?」
「既にバーヴァ伯爵にはお前が妊娠したと告げ、賠償金を払った」
「はっ?」
「お前の婚約は破棄されたし、お前が母親になればすべて丸く収まるんだ」
「はあっ!?」
年の離れた兄には、私より1才下の妻リヴィエラがいるの。
親の決めた結婚を受け入れてオジサンに嫁いだ、真面目なイイコなのよ。
「お兄様? 私の未来を潰した上で、共犯になれって仰るの?」
「違う。私の妹のお前にフロリアン伯爵家を守れと命じている」
なんのメリットもないご命令だけど、そこで泣いてる赤ん坊を放っておけないじゃない。
「心配する必要はない。乳母のスージーだ」
「よろしくお願い致します、ソニア様」
ピンと来たわ。
この女が兄の浮気相手、赤ん坊の生みの親だって。
舐めた事してくれちゃって……小娘だろうと、女は怒ると恐いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる