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章間<…if>
9:新婚さんじゃありません
しおりを挟む宿の部屋は物凄く広かった。
お風呂も広かったし、ベットも広い。
私はおおはしゃぎで、部屋の備品まで
調べてしまった。
といっても、この世界には
冷蔵庫解かないから、水差しとか
そういうのしかなかったけど。
私は元の世界で旅行なんかしたことなかったけど
旅館では、冷蔵庫に置いてあるジュースを飲んだら
お金がかかるとか、備品として置いてある
ポットの水と、ティーパックは無料だとか。
そういうことは知っている。
……この世界では、なんの役にも立たない知識だけど。
私は楽しくなって、カーティスの手を取り
部屋の外に出た。
一応、黒髪がバレないように
フードをかぶる。
部屋の廊下は真っ赤な絨毯が敷いてあって、
めやくちゃ高級そうだ。
照明はシャンデリアみたいな綺麗なものだったし、
はしゃいで廊下に飾られている豪華な花瓶を
割らないように気を付けなくっちゃ。
宿を出ようとしたら、
支配人と言う人に挨拶をされた。
私は一応、頭を下げる。
支配人は私とカーティスに
お揃いのコサージュを渡してくれた。
「これをどうぞお付けください。
このコサージュは我がホテルを
ご利用いただいている方にお配りしているものです。
お揃いでお付けいただければ、
お二人に祝福の言葉を掛けることでしょう」
可愛い白い花のコサージュだったけど、
祝福? なんで? 何が?
よくわからなったけど、カーティスが
笑顔で受け取り、私の胸元にそれを付けた。
暗い色のフードの胸元に、
白い花が光って見える。
カーティスも自分の胸元にコサージュを付けた。
お揃いのコサージュなんて、
結婚式みたいでちょっと恥ずかしい。
なんて思っていたら。
なんと!
街を歩くたびに、私とカーティスは
声を掛けられた。
「お幸せに!」
「結婚おめでとう!」
「お似合いの二人だね、羨ましいよ!」
って、本当に新婚夫婦に言うような言葉だ。
「はは、これは恥ずかしいものだな」
なんてカーティスは言うけれど、
物凄く嬉しそうな顔をしている。
とはいえ、街の散策は楽しかった。
だって、元の世界で私は
ウインドウショッピングさえしたことが無かったのだ。
お金がもったいないと思っていたし、
そもそも一人で買い物なんて
食料品以外、できる気がしない。
愛なんて信じてなかったし、
信用できるのはお金だけだと思っていた。
たから必至で働いて、
お金を貯めて、貯めて…。
バカだったなーって思う。
あのお金は勇くんのためになってるから
無駄では無いけど。
「あ、カーティス」
「なんだい?」
「私、お金持ってない」
私は一応、『大聖樹』を蘇らせたけど
報酬は貰ってないんだよね。
衣食住を保証されてるので
給料下さい、って言い辛いし。
よく考えたら旅に出ようとしているのに
お金も持ってないなんて!
気が付いて良かった。
バイトとか、探した方が良いかもしれない。
それか『大聖樹』に<愛>を1回流したら
1000円とか、回数制にしてお金を貸せぐとか
どうだろう。
いや、そもそも私、この世界の通貨の呼び方さえ知らない。
それに今更「1回いくらでお金をいただきます」なんて
言えないよね。
どうしよう。
ぐるぐると考えていたら、
カーティスがフードの上から
私の頭をぽん、と撫でた。
「ユウはそんな心配しなくていいんだよ。
ユウが欲しいのなら、
この街ごと買ってもいいんだ」
って、いやいや、街なんかいらないし。
というか、街なんか買えるの?
さすが王子様、言うことが違う。
バイトのことはあとで考えよう。
カーティスは王子様なんだし、
少しぐらいは甘えてもいいよね。
「ユウは何か欲しいものはある?」
指輪? イヤーカーフ?
それともブレスレット?
って聞かれたけど、どれもいらない。
元の世界でも、イヤリングとかは
失くしたら怖いと思って付けたことが無いし。
というか、貴金属は付けたことが無い。
アクセサリーも…
髪の毛を括るゴムと、ゴムにリボンとかが
着いているのはもってたけど、それぐらい。
お洒落には無縁の人生だったもの。
アクセサリーを買うぐらいなら
食べ物が欲しい。
甘いおやつとか、ジュースとか。
元の世界じゃ嗜好品はほとんど口にしなかったから
こちらの世界で沢山甘いものを食べさせてもらって
本当に感謝してるのだ。
なので私がおねだりするのは…
アレだ!
「え、えっとね」
大きな仕草で指をさしたいけど、
小心者の私に、そんなことができるはずがない。
しかも誰かに何かを買ってもらうなんて
初めてのことで緊張する。
こんなとき女子力が高い女性なら
甘えて買ってもらったりするんだろうな。
「あのね」
声が小さくなってしまったからか
カーティスが私の口元に耳を寄せる。
ちょっとドキドキした。
「あれが…欲しい」
小さく…脳裏では物凄く大きなゼスチャーで
片手を腰に。
もう片方の手を伸ばして大きく指さしていたが
実際には、小さく指を曲げただけだ。
「ん? どれ?」
仕草が小さすぎてわかってもらえない。
「だから、あの…あれ、が欲しいの」
なんだ、この甘えた声はっ。
自分でもビックリな声が出た。
「ユウ…可愛い」
ちゅっておでこにキスされた。
「いいなー。ユウにこうやって甘えて貰えるなら
なんだって買っちゃうよ」
カーティスは私の手を引き、
私が指さした方へと歩き出した。
「どのお店に入りたいの?」
「この…お店」
目指したのは、ポップでカラフルな看板のお店だった。
元の世界の感覚で見ると
ポップコーンの専門店のような感じだけど、
きっとここは、キャンディーのお店だと思う。
甘い匂いがするし、色とりどりのお菓子が
瓶に詰まって飾られているのがウインドウから見える。
「ユウは甘いものが好きだね」
ってカーティスは笑ってお店に入った。
お店の中はキャンディーだらけだったけど、
クッキーや木の実をはちみつみたいなもので固めた
お菓子も置いてあった。
色んな色があって…それこそ、赤やオレンジのような
元の世界の定番の色だけでなく、紫や緑や黒色のものもあった。
店員さんに話を聞くと、色は沢山あるけど
味は同じらしい。
なーんだ。
そこで私は金聖騎士団の皆の色を選んで買うことにした。
ヴァレリアンの瞳の金色
カーティスの瞳の琥珀。
スタンリーの瞳の青。
バーナードの髪の赤。
エルヴィンの髪の緑。
ケインの髪の銀。
あと私の色の黒。
全部で7つのキャンディーを選んだ。
それで袋に入れて貰おうと思った時、
キラリ、とカウンターの上に置いてある
瓶の中のキャンディーが光ったような気がした。
「すみません。
あとこの瓶の中のキャンディーもください。
こ、この白っぽい、これです」
光った時は黄色だと思ったけど、
改めてみるとキャンディーは白色だった。
私は瓶の中を指さして、
さっき光ったキャンディーを取ってもらう。
「こんな色のキャンディー、あったかな?」
なんて店員さんは小さくつぶやいたけど、
私は興奮して聞いてなかった。
だってキャンディーが光ったんだよ?
何かのアイテムとかかもしれない。
あの女神ちゃんのことだから、
何かを仕掛けて忘れてるってことも
あるかもしれないし。
回収しておいた方が良いよね、絶対。
「はい、まいどあり!
あと新婚さんにはこれもプレゼントだ。
お幸せに」
カーティスがお金を払い、
私がキャンディーを受け取ると、
店員さんは、にぱっと笑って、
小さなクッキーの入った袋をくれた。
「ありがとうございます」
新婚じゃないよ?
って思ったけど、嬉しいからありがたく貰っておこう。
おまけって嬉しいよね。
お金を払わずにクッキーを貰ってしまった。
私はニマニマ顔を緩めてしまう。
「嬉しそうだね、ユウ。
私と新婚だと思われるのは
そんなの嬉しい?」
手を繋ぎながらカーティスが
笑って聞く。
違うよ、クッキーが嬉しいんだよ。
って言ってはいけないことぐらい、
人間関係が苦手な私でも、わかる。
でも、頷くのも難しく、
私は、へら、って笑ってごまかした。
でも、このプレゼント攻撃は
これ以降も続いた。
喉が渇いて何か飲もうと屋台を覗くと
「あつあつのお二人にプレゼントだよ」
と小さなお菓子をプレゼントされたり
夕食を食べようと、飲食店に入ると
「お二人の愛が永遠になりますように」
とお酒のグラスをサービスされた。
なんだ?
なんなんだ?この羞恥プレイは。
物凄く恥ずかしい。
そして私が恥ずかしがる姿を見て
どんどん笑顔になるカーティスが怖い。
こんなに楽しそうなカーティスを見るのは初めてだ。
「ユウと結婚したら、新婚旅行はまたここに来よう」
なんて言うカーティスの言葉は、
聞かなかったことにしておく。
「聞こえなかった?
じゃあ、もう一度言うね」
なんて耳元で言うのはやめてください。
お願いします。
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