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番外編<SIDE勇>
40:プロポーズ
しおりを挟む僕はふと意識を戻した。
胸のあたりが苦しくて、
抱きしめられるって、思った。
目を開けたら思った通り、
僕の胸に真翔さんがいた。
でも。
驚いたことに、
真翔さんは泣いてたんだ。
寝ぼけてるのかと思ったけど、
でも、やっぱり泣いてるみたい。
俺は悠子ちゃんが
よく僕にしていたみたいに、
真翔さんの頭を撫でてあげた。
「真翔さん…?
泣いて…る?」
って聞いたら、
「うん、泣いてる」
って、照れたような顔で言われた。
「嫌?」
って聞かれたけど。
僕は別に嫌ではない。
というか、
泣いてる人に向かって
嫌とかダメって言うのは
良くないことだと思う。
僕はいつも泣いてたし、
弱虫で、蹲ってばかりだったけど
いつも悠子ちゃんは
僕を抱きしめてくれたんだ。
悠子ちゃんは僕を絶対に
否定しなかった。
だから僕は真翔さんを
絶対に否定するような
言葉は言いたくない。
好きな人に
そんなこと言ったらダメだって
僕は知ってるから。
「い…や、じゃない」
大好きって言いたかったけど、
ちょっと恥ずかしくなって、
嫌じゃないって言ってしまった。
でも真翔さんは
「良かった」
って笑ってくれた。
真翔さんは年上で、
大人の人だって思ってたけど、
違うかもしれない。
だって、物凄く可愛い。
男の人も可愛いんだって
思って笑ったら、
真翔さんが
「愛してる」
って、言ってくれた。
嬉しくて。
「僕も」って言ったら、
真翔さんは、また僕を
ぎゅーっと抱きしめて泣いてしまった。
僕は戸惑ってしまったけど
きっと喜んでくれてるんだと思う。
だから僕は、
よしよしと、真翔さんの
髪を撫でだ。
真翔さんは耳まで
真赤になっていて、
やっぱり可愛い。
真翔さんが気づかないように
僕は真翔さんの髪にキスをした。
そしたら真翔さんは
僕を優しく抱き寄せてくれる。
「俺、絶対に
司法試験に合格するから。
そしたら…結婚しよう」
結婚!
そんなこと、思ってもみなかった。
僕が結婚するなんて。
誰かに愛されるなんて
思ったこともなかった。
でも、嬉しくて僕は
小さい声だったけど即答した。
「はい」
頑張って返事をして。
僕はもう少し頑張って
真翔さんの唇に…
自分の唇を重ねた。
悠子ちゃん以外の人に。
誰かに自分から
触れたいと思うのは初めてだった。
自分から
誰かを求めたのは、初めてだ。
恥ずかしかったけど。
真翔さんは絶対に嫌がらないって
わかったから。
僕は、真翔さんに
大好きですって心を込めて
キスしたんだ。
僕が頑張ったからか、
ご褒美だと思ったのか。
真翔さんは驚いた顔をして、
僕の手を握った。
「悠子ちゃん、
この後、俺の家に行こう」
「真翔さんの家?」
「俺の母に、
悠子ちゃんと結婚するって言う」
「え、ええ?」
いきなり、そんなこと言ったら
絶対に真翔さんのお母さんも
驚くと思う。
「明日から
一緒に住んでもいいし、
俺の母と一緒に出勤して
一緒に帰ってきて、
俺と一緒にご飯を食べよう!」
無理だし。
どう考えても、無理な話なのに
真翔さんは急いで僕を着替えさせた。
真翔さんは僕の手を引いて、
早く、早くって、
子どもみたいに、はしゃいでいる。
僕と結婚するって
はしゃいでくれてるのかな?
そうだと、嬉しい。
こんな一面もあるんだと
僕は笑ってしまった。
真翔さんの家に着いたら、
ちょうどお昼ごはんの時間だったみたいで
真翔さんのお母さんが
お昼ごはんを作っていた。
僕と真翔さんを見て
驚いた様子だったけど、
「一緒にご飯を食べましょう」
って誘ってくれたんだ。
だから僕は、遠慮しようと
思ったんだけど。
真翔さんが僕の手を
ぐいぐい引っ張るから、はい、っ
返事をした。
真翔さんのお母さんは
スープか何かを作ってたみたい。
手にはお玉を持っていて、
「あと少しでできるからね」
なんて言ってくれたのに。
真翔さんは、そんな
お母さんの言葉も聞かずに
僕をお母さんの前に押し出したんだ。
「俺たち、結婚することにした。
離れたくないし、
ここで一緒に住んだらどうだろ。
悠子ちゃんがここに来たら
お母さんと一緒に出勤して、
一緒に帰ってきて、俺と一緒に
ご飯を食べるんだ!」
って、物凄く暴走したことを口走って。
あれって本気だったんだ、って
思って目を見開いたら、
真翔さんのお母さんと目が合った。
どうしよう。
笑ったらいいのか…な?
迷って視線をさまよわしたら、
いきなり真翔さんのお母さんが
お玉で真翔さんの肩を叩いた。
「落ち着きなさい。
勝手に話を進めるんじゃないの!」
って言ってくれて。
真翔さんは痛そうな顔をしたけど
すぐに僕の顔を見てくれた。
僕は…お母さんと、子どもの真翔さんの
やり取りを見て、笑ってしまった。
いいな、親子って。
僕も…家族が欲しいな、って思った。
今まで家族なんて面倒だし、
いない方が良いって。
うらやましくなんかない、って思ってたけど。
僕にも、家族って、
できるのかな?
愛するとか、愛されるとか
よくわかんない僕にも。
泣いたり笑ったり、
自然にできる家族が…。
気が付いたら僕は泣いていて。
でも嬉しかったから笑ったら、
真翔さんのお母さんも
優しく笑ってくれた。
真翔さんも笑って
僕の手をぎゅって握ってくれた。
僕はほんとに、ほんとに
嬉しくなって。
女神さんと悠子ちゃんに
心の中でお礼を言った。
ありがとう、って。
女神さんと悠子ちゃんが
いなかったら、僕はもう死んでたし、
こんな日が来ることはなかった。
だから…
心から、ありがとう。
その後、
僕と真翔さんは
お母さん特製の
お昼ごはん兼今日の夕ご飯(予定)の
シチューをいただいた。
一緒に住む話は
もちろん、流れたけれど、
「いつでも一緒に住んでいいのよ」
なんて、お母さんは言ってくれたんだ。
でも、そこまで甘えられないし、
居酒屋のバイトだってあるし。
結婚することを、
もしできるのなら、
悠子ちゃんにも伝えたい。
悠子ちゃんはこの世界に
戻ってくる気はないみたいだったけど。
でも僕がちゃんと幸せだって
知って欲しいんだ。
僕が悠子ちゃんと繋がれるのは
あの部屋と…
きっとたぶん、あの公園の樹木だ。
だから僕は、
お母さんと真翔さんと
一緒にたくさんおしゃべりをして。
夕方ごろに家まで
送ってくれる真翔さんと一緒に
あの公園に行ってみた。
あの樹木は…
いつのまにか、白い花が
満開になっていた。
「もうすぐ春とはいえ、
すごいな」
真翔さんが驚いた声を出した。
「こんなに蕾、あったっけ?」
全然気が付かなかった、って
真翔さんが首をかしげる。
でも僕は知ってるんだ。
この花は、僕が【愛】を感じたら
満開になるんだ。
そして、悠子ちゃんがいる世界の
樹木の花も、同じように咲く。
そしてその【愛】は、
悠子ちゃんを助けることができるんだ。
僕は…
やっぱり泣いていた。
嬉しくて。
愛されてるって、思って。
僕が愛されることで、
悠子ちゃんの役にも立つんだって
そう思ったら、また嬉しくて。
僕は何をしてもうまくできなくて、
悠子ちゃんに甘えてばかりで、
生きても死んでも
どっちでもいい。
誰もが…僕すらも
僕が生きる意味なんてないんだ、って
ずっと思っていた。
生きていても誰の役にも
立たないし、悠子ちゃん以外の
人は誰も僕のことなんか気にしない。
愛されるわけないって
そう思い込んでた。
母親が捨てるぐらい
利用価値が無い僕なんだから
生きてる意味なんて無いって
思っていたんだ。
だから死んでも良かったし、
女神さんと出会って、
【愛される世界】なんて
どんな拷問かと思った。
でも、違うんだ。
愛されるって、優しくて嬉しくて。
こんなに満たされるものなんだ。
そして…
僕が満たされることで、
悠子ちゃんも幸せになる。
悠子ちゃんの手助けができるんだ。
なんてすごいことなんだろう、
愛する、愛されるって。
真翔さんが肩を抱き寄せてくれた。
風がザーっと吹いて…
白い花びらが僕たちに降り注ぐ。
『愛されて、良かったじゃろ?』
って女神さんの声が聞こえた気がした。
だから僕は、はい、って答えた。
僕に…
全てを捨ててしまった僕に、
チャンスをくれてありがとう、って。
そして。
悠子ちゃんに。
僕の満たされた【愛】を
渡してあげてくださいって、そう願った。
どうか。
悠子ちゃんも、どうか。
僕のように、
【愛】で満たされた気持ちに
なっていますように、と。
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