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番外編<SIDE勇>
35:好き【真翔SIDE】
しおりを挟む俺は混乱していた。
悠子ちゃんを抱いた…ような
未遂だから抱いてないけど、
そんな状態になって。
とりあえず、
マッサージのつもりだったのに
なし崩しにしてしまったのは
本当なので素直に謝った。
それから悠子ちゃんに
シャワーを浴びて貰って、
俺も冷たいシャワーを浴びた。
酔いもさめて
すっかり冷静になった。
やってしまったものは仕方がない。
開き直って
悠子ちゃんと向き合おう。
そう思って、こたつに座る
悠子ちゃんの隣に俺も座った。
そしたら…
悠子ちゃんが突然、泣きだしたんだ。
しかも
「好きになって、ごめんなさい」
って俺に謝るんだ。
意味が分からない。
悠子ちゃんも俺のことが
好きってこと…で、いいんだよな?
でも、ごめんなさい、って
どういうことだ?
俺は喜んでいいのか
悲しんでいいのかわからずに
悠子ちゃんを抱きしめた。
悠子ちゃんこそ、
混乱したように泣き続けるので
俺は抱きしめるしかできない。
悠子ちゃんの背中をさすり、
髪を撫でて落ち着かせていると
悠子ちゃんは俺の胸に顔をうずめて
気を失うように眠ってしまった。
酔っていたのか、
マッサージで疲れたのか、
泣き過ぎたのか。
ともかく俺は
悠子ちゃんを寝室に連れていくことにした。
……一緒に寝てもいいかな。
明日は悠子ちゃんも休みだし、
こんな時こそ、悠子ちゃんを抱きしめておきたい。
悠子ちゃんの様子に
不安があったからかもしれない。
いつもなら俺は遠慮して
こたつで寝るのだが、
今日は強引に悠子ちゃんの
ベットで寝ることにした。
先ほどの情事で
シーツが濡れているのではないかと
心配したけれど、大丈夫そうだ。
俺は悠子ちゃんを抱きしめたまま
ベットに入る。
小さいベットだったけど、
ぎゅーっと抱き合って寝たら
なんとかなりそうだ。
俺は……
寝れるかどうか不安だけど。
悠子ちゃんの身体は
やっぱり柔らかくて、いい匂いがして。
さっき射精したばかりなのに
俺は頭がおかしくなったのかと
不安になるぐらい
悠子ちゃんのことばかり考えてしまう。
それでも俺も疲れていたのか
明け方ぐらいに、ウトウトして
次に目を開けたら、
悠子ちゃんの驚いた顔が
すぐそばにあった。
悠子ちゃんが先に目を覚まして
抱きしめて寝る俺に気が付き
驚いている…といったところだろうか。
「おはよう」
って声を掛けたら、
おはようございます、って返事が来た。
昨日のことは
覚えているだろうか。
俺は悠子ちゃんの身体を離して
朝ご飯にしよう、って声を掛けた。
何でもない風を装って、
俺はこたつの部屋に行き、先に着替える。
それから、キッチンに行って
コーヒーを入れる。
悠子ちゃんの部屋にはなかったから
俺の実家から持ってきた
コーヒーマシンだが、
味はそれなりにうまい。
悠子ちゃんはコーヒーが
苦手だと言っていたけれど、
少し薄めのコーヒーに
ミルクと砂糖を入れて
カフェオレっぽくしたら
美味しいと言ってくれたので、
今朝もそれを作る。
いつも朝食は悠子ちゃんが
和食を作ってくれるけれど、
昨日の帰り道、
近所のパン屋さんで
食パンを安売りしていたので
悠子ちゃんと一緒に
朝ご飯にしようと買っていたのだ。
俺がパンを焼いていると
悠子ちゃんも着替えてキッチンに来た。
俺はコーヒーとカフェオレを
悠子ちゃんに渡して
こたつに持って行ってもらう。
それから焼けたパンに
バターを塗って、
悠子ちゃんの後ろを追いかけた。
悠子ちゃんは
何かを言いたそうな顔をしていたけれど
俺はまずは朝ご飯にしよう、と
悠子ちゃんにパンを渡す。
俺が悠子ちゃんの横に座ると
悠子ちゃんは頷いて
黙ってパンを食べた。
一人用の小さなこたつだから
足ははみ出てしまうけど
その分だけ俺と悠子ちゃんの
距離は近くなる。
俺はわざと悠子ちゃんの
身体の引っ付くようにして座った。
悠子ちゃんは6枚切りの
パンを1枚食べただけだったけど
俺はもの足りなくて3枚も食べてしまった。
お腹が膨れると
余裕も出て来て、俺はコーヒーを飲む。
昨夜のこと、
聞いてもいいだろうか。
迷っていると、
隣に座っている
悠子ちゃんが口を開いた。
「真翔さん、僕…
真翔さんのことが、好き、です」
って突然言われて、
俺は固まった。
俺も好きだ!
って抱きつきたかったけど、
そんな雰囲気ではない。
悠子ちゃんは
体の向きを変えて、
俺をじっと見た。
別れ話をするような
悲壮な顔で、俺は不安になる。
「俺も、悠子ちゃんのことが
大好きだよ」
って返事をしたら、
悠子ちゃんは悲しそうな顔をした。
何故だ?
「真翔さんが好きなのは
……僕じゃない」
悠子ちゃんは辛そうに言う。
「僕は、真翔さんが
好きな悠子ちゃんじゃないんです」
意味が分からない。
「ユウ?
俺が好きなのは…」
「悠子ちゃんでしょ?」
悠子ちゃんは悠子ちゃんで
目の前のユウが悠子ちゃんだ。
ちょっと混乱してきた。
「僕は、真翔さんに
好きって言ってもらえるような
人間じゃないんです」
悠子ちゃんが
大きな目に涙を浮かべて
俺が握っていた手を
振りほどいた。
俺は慌ててその手を掴む。
悠子ちゃんが
逃げ出しそうだったから。
俺は強引に悠子ちゃんを
抱き寄せた。
「好きだよ」
もう一度、言う。
びくん、と悠子ちゃんの
身体が震えた。
「俺はユウが好きだ。
ユウも俺のことを…
好きなら、なんで逃げるんだ?」
俺は悠子ちゃんを
腕の中に閉じ込めた。
「だって…」
悠子ちゃんは
とうとう涙をこぼした。
「僕は…悠子ちゃんじゃないから」
意味がわからない。
でも、これはきっと
悠子ちゃんにとって
大事なことなんだと思う。
「俺はユウのことが
好きだから…どんな話を
聞いてもそれは変わらない。
だから…話して?」
悠子ちゃんの背中をさすって
俺は悠子ちゃんの
頬に唇を寄せた。
「俺が…守るから」
俺に何ができるかわからない。
でも、震える悠子ちゃんを
助けたかった。
「ぼ…僕は…」
悠子ちゃんが
腕の中でもがき、俺を見た。
「もう、死んでるんです」
悠子ちゃんの言葉に、
俺は固まった。
腕の中の悠子ちゃんは
柔らかくて、温かくて。
ちゃんと俺の腕の中で生きていて。
悠子ちゃんは
驚く俺に、悲しそうに。
そして…
初めてバス停で見た時と
同じ儚げな顔で微笑った。
「僕の話を…聞いてくれますか?」
俺は腕の中から抜け出す
悠子ちゃんに、黙って頷くしかない。
悠子ちゃんは俺と少しだけ
距離を置いて…
本来なら信じられないような
話をした。
一度死んで、
身体が入れ替わった。
そんな話をーーー。
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