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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう

77:大魔王降臨する

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私は…もうバーナードにべったり、だった。

話を聞いてもらった後、
ケインたちがいる休憩する場所に
連れて行ってもらった時も、
ずっとバーナードにしがみついていた。

休憩場所に選んだのは
森の中に小さな清水が湧いている所だった。


ごつごつした苔が生した岩が
いくつか重なった場所から
清水が湧き出ていたのだ。


私の水筒には、
まだ水が残っていたので
わざわざそこから水を飲まなくても
良かったけれど。


エルヴィンやケインは
水筒の水を清水からもらっていた。

私も手で清水を掬い、
少しだけ飲んでみる。

冷たくて、美味しい。

そんなことをしている間も、
私の腰にはバーナードの腕が
回されていたし、

バーナードが離れようとしたら
濡れた手で、パンパンと叩いて抗議する。

するとバーナードが
仕方ないな、とまた腰に腕を回してくれた。

「ユウちゃん、なんでそんなに
バーナードと仲が良いの?」

とエルヴィンが不満そうに言ってきた。

エルヴィンもケインも、
バーナードのことは先輩のハズなのに
何故か呼び捨てにする。

ヴァレリアンは団長。
カーティスは副団長。

スタンリーは参謀で先輩。

でも、バーナードは先輩だけど
同僚なんだって。

なんで?って思うけど、
バーナードが優しいお兄ちゃんだから
そんな感覚なのかな、と思った。

ホゴシャーズは怖いというか、
格式があると言うか。

甘えられない感じがするけど、
バーナードは違うもん。

きっとエルヴィンやケインも
バーナードに無意識に
甘えているところがあるのかも。


そんなことを思うと、
ふふっと笑ってしまった。

「バーナードはお兄ちゃんだもんね」
みんなの。

でも、私の。

私の言葉に、エルヴィンは
俺もお兄ちゃんになりたい、って
拗ねたように言って。

隣にいたケインが、無理だ、って
即答していた。


私もエルヴィンは弟で
お兄ちゃんは無理かも、と
思っていたので、笑ってしまう。


そんな私の反応を、エルヴィンは
不満そうに唇を尖らせる。

そんな様子を見ていて…
私は【器】に<愛>が溜まるのを感じた。


そうか。
交わるだけが<愛>じゃないんだ。

こうやって、一緒にいて、
笑って、話をして。

愛情や友情や信頼を育てていく。

これが<愛>なのか。


嬉しくなって。
私はバーナードを見た。


「抱っこ」
って手を上げると、
バーナードは苦笑して抱き上げてくれる。


嬉しい。


バーナードの首に
おでこをぐりぐり押し付けると、
またエルヴィンの「いいなー」って
声が聞こえてきた。


可哀そうなので、


「バーナードは私のお兄ちゃんだけど
あとで、ちょっとだけ貸してあげる」

って言うと。

エルヴィンもバーナードも
何故か、嫌な顔をした。


「エルヴィンも抱っこしてもらったら
気持ちいいよ?」

って言ってあげたけど、
返事はなかった。


ケインが苦笑して。

「俺たちは一応後輩だから、
抱っこしてもらうことはできないんだ」

って言ってくれて
なるほど、って思った。

確かに、そうか。

「じゃあ、私が今度、
エルヴィンを抱っこしてあげる」

弟だし、と思って言ったら、
またエルヴィンが困ったような…
悲しそうな顔をした。

なぜ?

ケインを見ると、
ケインも困ったような顔をしている。

「じゃあ、ケインを抱っこしてあげる?」

って言ったら、

「「なんでそうなるんだ?」」

と、エルヴィンとケインに
責められた。

何故だ。

そんな私たちを見て、
バーナードは大声で笑った。

「いいじゃないか、ユウ。
俺の抱っこを、お前が独り占めできるんだから」

と言われて、そっかーと嬉しくなる。

素晴らしい!

独り占めしていいんだ。

そう思ったら…もう私は
バーナードへの甘えたい欲は止まらなかった。


もう【甘えた大魔王】だ。

私は大魔王になった。

その後、街に戻ったけれど、
宿の部屋にベットは3つ。

当たり前のように、
私はバーナードと一緒に寝た。

バーナードの腕に中で
胸にすりすりして、
頭を撫でて貰って、
しがみついて、寝た。


移動はバーナードに抱っこしてもらって、
食事は宿の部屋でするときは、
バーナードの膝に座る。


トイレはさすがに遠慮したけど、
お風呂も、着替えも、買い出しも。

私はずーっと
バーナードのそばを
ひっついて歩いていた。

手を繋いで、抱っこしてもらって。


隙があればしがみついて、
頭をぐりぐり押し付けて。

いつも優しいバーナードでさえ
さすがに、苦笑するほどだった。

でも。
おかげで私は……随分と
【器】の存在を認め、
精神を安定させることができたと思う。


バーナードが与えてくれる<愛>は
いつも優しく、穏やかだった。

激しく求められることもなく、
私が与えることもない。

いつも穏やかに一定量の<愛>が
私に注がれ、それは、多くもなく
少なくもなく。

私の【器】を治しながら、
疑心暗鬼になっていた私の心を
癒してくれた。


<愛>にはいろんな種類があることを知ったし、
エルヴィンやケインが与えてくれている<愛>も
感じることができるようになった。


エルヴィンの拗ねた顔の時も、
私にはエルヴィンの愛情が届いている。

私が夕飯を残した時、
ケインが少し厳しい声で、
「嫌いなものも食べるべきだ」と
言った時。

そんなときでさえ、ケインの
愛情を感じた。


私のために言ってくれているとわかったから、
私は我慢して苦いピーマンみたいな野菜を
思い切って食べた。

そしたら、ケインが「よくやった」と
言ってくれたから…

嬉しくて【器】がまた満たされるのを感じた。


この世界に来たばかりの時に、
全く<愛>を知らなかった私が
最初に知ったのは、激しい愛、だった。


そしてその<愛>を与えてくれた人たちが
急にいなくなって、不安になって。

次に知ったのが、穏やかな愛、だった。


優しく、満たされる…愛。


王都に早くいかなければならないと
わかってはいたけれど。

こののんびりした時間は、
私に必要なリハビリ期間だと思う。


幼児返りをしたような私を
甘やかし、優しく接してくれる
バーナードたちに。

私はまた【器】に愛を溜める勇気と、
誰かに心を開く勇気をもらったのだ。


リハビリ期間を満喫している間も、
王都からは手紙が届く。


神殿と王宮との関係は
日々悪化しているようで、
その悪化の原因を作るかのように
あちこちで魔物が生まれているらしい。


前回は近くの村で魔物が大量発生したけど
似たようなことが、あちこちで
起こっているらしいのだ。

おかげで聖騎士団は大忙し。
なのに、命令系統の王家も神殿も
いがみ合うばかりで、うまくいかない。

王宮も神殿もそんなわけで
王都は物凄く空気が悪いらしい。


そういう話を、届いた手紙を
読んでくれるバーナードの
膝の上で、私は目を閉じて聞いていた。

ベットの上に寝そべって。
ベットの端に座るバーナードの
膝に私は頭を乗せているのだ。


エルヴィンやケインが
ネコのようだと言うけれど、
私はここが心地よくて離れられない。


でも。
そろそろ…立たねば。

ここは居心地が良くて、
ずうっと甘えていたくて。

バーナードも何も言わないし、
ケインもエルヴィンも
私の好きにさせてくれている。


だからこそ、私が言わないと、
誰も動かない。


私に、戦いに行こうと、
誰も誘わない。


私が。

自分で戦うと決め、
私が、立ち上がらなければ。


私が膝から起き上がると、
バーナードはどうした?
と声を掛けてくれる。


傍の椅子に座っていた
エルヴィンもケインも
近くに来てくれる。


ケインなんかは
果実水のグラスを持って、
「飲むのか?」なんて聞いてくる。

ほんと、至れり尽くせり。
手放したくない環境だ。


でも。


私がこの世界に来た意味を、
そろそろ思い出さなければ。


「王都に…行こうかな」


その言葉に、3人は固まった。


「ちょ、無理だよ、ユウちゃん」


エルヴィンが焦ったように言う。

「魔獣の報告もあちこちから挙がってるし
王宮も神殿もなんだか、荒れてるみたいだし」

「そうだ。危険すぎる」


ケインも後押しするように言う。

確かに、そうだ。
そうだけど。

「ユウはなんで王都に行こうと
思ったんだ?」

バーナードが優しく聞いてくれた。

嬉しくなって。

私の気持ちを、意見を
尊重してくれるのだと嬉しくて。

だから…言おうと思っていたことと
違うことを言ってしまった。


「バーナードがお兄ちゃん過ぎるからです!」


またもや…
3人が固まってしまった。


申し訳ない。










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