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番外編<SIDE勇>

22:恋人になりたい兄は欲情する【SIDE:真翔】

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結局、俺は店長とかなり飲んでしまった。


「お互い辛い恋をしてるよな」

みたいな話になってきて、
店長があのOL嬢に何年も年々も。

それこそ学生の頃から
アプローチをしつづけて、
ようやく。

ようやく、恋心に気づいてもらったと
しみじみ語るのを聞いたときは、
他人ごとながら、涙が出た。

わかる!

その気持ち、切実にわかる。

何せ今俺は、その状態なのだから。

だから俺はつい、2回もキスして
告白までしているのに、
何故か『家族枠』で『兄』なのだ、
と、店長に愚痴をぶちまけてしまった。


店長は、そうか、わかるぞ。
と悲しそうな顔をして、
悠子ちゃんもそういうの、
疎いからな、と言う。


どうやら、店の常連客にも
悠子ちゃん目当ての客が何人もいるらしい。

だが、どんなに誘っても、
どんなに、それらしい言葉を
伝えても、悠子ちゃんは何も気づかず、
笑ってそれを流すらしい。

鋼のメンタルを誇っていた店長の友人も、
悠子ちゃん目当てで通い続けていたが
いつのまにか、来なくなったそうだ。


そうだよな。
俺でさえすでに、へこみまくってるのに
これが何年単位になったら…

俺も挫けてしまうかもしれない。


いや、俺は何年たっても
悠子ちゃんを愛している自信はあるが。


そう思えるのは、やっぱり
『片思い』ではないからだろう。


少なくとも、家族と思って
もらえるぐらいには、悠子ちゃんに
とって俺は大切な存在のようだから。


俺と店長が男の友情を
育てていた隣で、
悠子ちゃんはOL嬢に
根掘り葉掘りいろんなことを
聞かれていた。

墓穴を掘ってなければいいが。

店の時計が突然、鳴った。

どうやら深夜1時。
閉店時間もとっくに過ぎ、
そろそろ帰らなければならない。

俺と店長は、また飲む約束をして
俺は悠子ちゃんを。
店長はOL嬢を捕まえに席を立つ。


「悠子ちゃん、帰ろう」

と、立ち上がらせると、
すでに悠子ちゃんは真っ赤な顔で
ふらふらだった。

俺は悠子ちゃんのカバンを持つ。

「これ、持っていけ」

と、店長が先ほどまで飲んでいた
焼酎の瓶を渡してくれた。

「いいんですか?」

「どうせ残りもんだしな。
遠慮はなしだ」

笑って言われて、
改めて生まれた友情の証だと思い、
ありがたく受け取ることにする。


俺は悠子ちゃんを連れて店を出た。


悠子ちゃんの手を握り、
ゆっくりと歩き出す。

いつもの公園まで来ると、
ふと、ベンチの傍の樹の花が
いくつも咲いていることに気が付いた。

初めて悠子ちゃんとこの公園に
来た時は…花なんて咲いてなかったのに。

こんなに寒い冬に、枯れるのではなく
何故花が咲くのか、不思議だった。

しかも…見るたびに
増えているような気がする。

「綺麗…ですね」

悠子ちゃんが呟くように言う。

悠子ちゃんも同じ花を見ているようだ。

「僕が…幸せだからかな」

ふふっと悠子ちゃんが笑った。

儚げな…笑顔だった。

初めて会った時に見た、
消えそうな…笑顔。


俺はたまらず、悠子ちゃんを抱きしめる。

「真翔…さん?」

不思議そうな声に、俺は
なんでもない、と悠子ちゃんの手を引いた。

まるで、あの花が、
悠子ちゃんをどこかに連れて行って
しまうような気がして、足を早める。


早くアパートに帰ろう。

狭いこたつに二人で入って、
笑いあって。


こたつで、身を寄せ合って
朝まで眠るのだ。


まだ悠子ちゃんと……
抱き合って寝ることはできないけど、
それだけで、俺は安心できる。

悠子ちゃんのアパートに着くと、
俺は荷物を下し、すぐに暖房をつける。

悠子ちゃんは、まだボーっとして
ゆらゆらしているから
一緒に手を洗って、こたつに座らせた。


悠子ちゃんのこの部屋は
最初来た時は簡素で…

必要のないものは何一つ
無かったけれど、今は違う。


俺がここに来るようになり、
グラスも、マグカップも、お皿も、
お箸も…全部2つになった。

洗面所には俺の歯ブラシがあって、
少しだけど、着替えも置かせてもらっている。


俺の母は、
「悠子ちゃんが迷惑でないのなら」
と静観しているようだった。


この部屋に俺の気配が増えるだけ、
悠子ちゃんも俺のことを
意識してくれるかもしれない。

悠子ちゃんの人生に
俺が侵食していくようで、
それが嬉しくて。

俺は悠子ちゃんが気づかない程度に
私物をこの部屋に置いていく。

けれど…自分の家に
自然にある自分以外の私物。

それは俺が『家族』枠に
なってしまう理由の
一つであることも否めない。

なかなか…本当に、なかなか
人生はうまくいかない。

俺は水を持って…
ついでに、店長からもらった
焼酎とグラスも持って
こたつに戻る。

悠子ちゃんに水を飲ませたけど、
俺はもう少し飲みたい気分だった。


店長の話が…
あまりにも自分の境遇と似てて
切なくなったのかもしれない。


悠子ちゃんの隣に座ると
悠子ちゃんは素直に俺にもたれて来た。

「寝る?」
って聞いたけど、
一緒にいる、って言う。


そういうところも、可愛い。

俺はちょっとだけ…
そう、いつも泊まる日の夜は
悠子ちゃんに触れている。

いや、悠子ちゃんに気付かれては
いないけれど、隙があれば、
いつだって…触れていた。

たとえば、手を繋ぐとき。
カバンを持ってあげるとき。

腰に手を回したり、
さりげなく…胸に腕が触れたり。

本当なら自分の欲望を
もっと押し出したいが、悠子ちゃんに
拒絶されるのが怖くて、
なかなか意思表示ができない。

そうして…
悠子ちゃんが俺の傍で眠ると、
つい…もっと触れたい、と
思ってしまうのだ。

柔らかい肌に。
白い足に。

そして…スカートの奥…に。

俺は幾度となくこの部屋で
自慰をしている。

悠子ちゃんに触れながら。

背徳感はある。
だが、それすらも俺は
快感に変えてしまう。


悠子ちゃんに触れる罪悪感も、だ。

なんでこんなに俺は
悠子ちゃんに惹かれているのだろう。

自分でも驚くぐらいだ。

悠子ちゃんが欲しくてたまらない。

でも、それを悠子ちゃんに
知られるのが、怖い。

『兄』である俺が
こんなに獣みたいに
悠子ちゃんを欲してるなんて。

知ったらきっと幻滅されるだろう。

だから俺は…秘密にする。

この部屋だけの…秘密、だ。

俺は悠子ちゃんを肩にもたらせたまま
焼酎をグラスに入れた。

「ふーっ」

一口飲んで、息を吐く。

確かに、美味しい。

悠子ちゃんはウトウトしていたが
そのうち俺の膝に顔を付けて
眠ってしまった。

ネコみたいだ。

俺は悠子ちゃんの髪を撫でながら
店長さんの話を思い出していた。

あのOL嬢も、どんなに店長が
告白しても信じなかったらしい。

何故か店長がOL嬢に告白するたび、
友情と受け取られ、
強引にキスしたときでさえ、

「こういうシチュエーションもいいわよねー」

なんてあっけらかんと笑って…

次に会った時は『なかったこと』に
なっていたそうだ。

……不憫すぎる。

だか俺も人のことは言えない。

何せ、告白して2度もキスしてるのに
俺も『兄』なのだから。


悠子ちゃんは可愛い。
けれども、無自覚な悪魔だとも思う。

どうやったら、俺の気持ちを
わかってくれるのだろうか。

俺は悠子ちゃんの頬をつつく。

もし…も。
俺が彼女に触れている時に
悠子ちゃんが目を覚ましたら…
どうなるだろう。

まさか『兄』とは思うまい。


俺が…強引に…

と、マズイ方向に思考が行きそうになり
俺は慌ててグラスを傾けた。

俺も酔ってきたのかもしれない。

強引に…なんて、
絶対やってはいけないことだ。

けれど。

俺は何度も、
この部屋で悠子ちゃんの
肌を味わっていた。

俺はそっと、
悠子ちゃんの背中を撫でる。

背中に…ブラジャーの
ホックの感触があった。

俺はそれを服の上から外した。

悠子ちゃんの顔は
相変わらず俺の膝の上で…
俺の欲棒の上でうずくまっている。

俺は悠子ちゃんの身体は
そのままに、下から柔らかな
胸に触れた。

ぷわん、とした感触が心地いい。

感触を味わっていると、
悠子ちゃんの吐息が…甘く、
俺の欲望に響く。

俺は下半身に血が集まるのを
感じながら…悠子ちゃんの体を
少し浮かせた。

上半身だけ抱き上げて、
俺は…片手でズボンを下す。

物凄く…禁忌で、
けれども逆らえない魅惑的な欲望に
俺は突き動かされていた。

ズボンの上から感じた悠子ちゃんの
甘い吐息を、直接感じたい。

胸がうるさいほど鳴っている。

俺はそれでも下着は脱がずに、
もう一度、座り直した。

胡坐をかくように。

その上に…悠子ちゃんの顔を乗せた。

悠子ちゃんが着ていた
薄いセーターの中に手を入れ、
可愛い胸の突起に触れる。

指で押し、感触を確かめ、
そっと摘まんでみる。

そのたびに悠子ちゃんは
息を吐き、俺の…布越しとはいえ
欲棒に熱い息を吐きかけた。

もし…
悠子ちゃんの口に入れたら…

どんなに気持ちいいだろうか。

ゴクっと息を飲む。

俺の欲棒はどんどん固くなっていき、
悠子ちゃんの唇を押している。

可愛い…小さな唇から漏れる唾液に
俺の下着は濡れ始めていた。

いや、濡れているのは悠子ちゃんの
唾液だけではない。

俺の…欲が…

俺が出した…欲液を…

悠子ちゃんが…

布越しに俺の
キスをしている。

もうここまで来て、
止まることなど…できないだろう?

だって。
あの甘い香りが…

部屋に満ちているのだから。







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