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愛とエロはゆっくりはぐくみましょう
53:くまさんが一番落ち着くのです
しおりを挟むヴァレリアンに抱きつぶされた翌日、
私はバーナードにべったりだった。
あれから気を失ってしまった私は、
ヴァレリアンに体を洗われ、
ベットに運ばれたらしい。
夜中に一度目を覚まして、
起きていたヴァレリアンに謝られたけど。
あの激しい情事の中で、
色んなことに気が付いたし、
何より…
勇くんの体を、初めて自分のモノだと
認識することができたので
あれはあれで、良かった…と思う。
ヴァレリアンに
傷つけるつもりはなかったと言われ、
傷付いてないよ、と笑って見せたけど。
ヴァレリアンの顔は傷ついたままで、
私はどうしていいかわからなかった。
人間関係スキルが乏しい私では、
ヴァレリアンが何に傷ついているのか
私に何ができるのか、まったくわからない。
ヴァレリアンのことは気になったけど、
私まで気まずい感じになったらダメだと思って
昨夜はヴァレリアンの腕を引っ張り、
大きなベットで一緒に眠った。
ふかふかのベットは気持ちよくて。
ヴァレリアンの腕にしがみついていたら
優しく髪を撫でられて。
体の疲れもあって、
私はすぐに眠ってしまったのだ。
その後は「早朝から出発」という
昨日の言葉通り、私たちは朝早く
馬車に乗って出発することになった。
私はたぶん、ヴァレリアンが
回復魔法を掛けてくれたのだろう。
体の痛みもだるさも消えていたけれど、
気遣ってくれたヴァレリアンに甘えて
抱っこされて馬車に乗った。
すぐにヴァレリアンも
私の横に座るのかと思ったけれど
何故かヴァレリアンは御者の席へと行き、
代わりにバーナードがやってきた。
馬車はゆっくりと出発した。
ヴァレリアンとも…バーナードとも
何故か、ちょっと気まずい空気だ。
「何かあった?」
とバーナードに聞かれたけれど。
なにかはあったけど
そんなの言えるはずもない。
そして、私の気持ちは
もちろん、誰にも言えない。
バーナードは私と二人で
馬車に乗るときは
いつも床に厚めの布を敷いて、
イスではなく、床に足を伸ばして
座ってくれる。
そして私の身体を大きな手で
固定するように膝に乗せてくれるのだ。
だけど。
これって、結構恥ずかしいことだよね?
勇くんの身体だから、って甘えてたけど、
これ、私がおねだりして、
やってもらってるんだよね?
年上の、かっこいい成人男性に。
自覚すると、物凄く恥ずかしくなってきた。
私…結構、やらかしてない?
幼い勇くんの体に引きずられ、
肝心な時は『勇くんがしていること』と
責任転嫁をして。
ふわふわした気分で、
この世界で皆に優しくしてもらって
ものすごーく、いい気になってた。
これじゃ、ダメだ。
そう、ダメなんだ。
きちんと、独り立ちしなくっちゃ。
今、私は勇くんじゃなくて、
私なんだから。
何をしても、行動も感情も、
すべて自分のことなのだから、
私が責任をもたないとダメなんだ。
私はバーナードの膝から下りた。
「どうしたの?」
揺れるよ、と心配そうに言われたけど、
私はバーナードのそばに前かがみに立った。
馬車は狭いから、さすがに私も
身をかがめずに立つことはできない。
「私…その、今日から…っ!」
甘えるの、やめます!
って宣言しようとしたら、
物凄く車体が揺れて、
私はバーナードの膝に転がり落ちた。
顔がバーナードの筋肉で固いお腹にあたり、
これ以上、体が揺れないように
バーナードの腰にしがみつく。
馬車はガタガタ揺れていて、
なかなか揺れは収まらない。
「悪い、道が結構荒れてて…
しばらくは、この調子だ」
と、御者台からヴァレリアンの声がする。
甘えるのをやめるって思ったけど、
今はダメだ。
後回しだ。
でないと…絶対に酔う。
吐く自信がある。
だって、私は交通費がかかるから
タクシーどころか、車も、
バスも、全然乗ったことが無いんだもん。
もちろん、遊園地なんか
行ったことないから、
アトラクションにも乗ったことないし、
電車ですら、人が多いと
人混みに酔い、3駅以上揺られてたら
気分が悪くなってしまう。
ヤバイ、っと思って
私はぐいぐいバーナードのお腹に
顔を押しつけて、揺れを堪えた。
ぎゅっと目を閉じて、
必死でしがみついて、口を開いたら
吐くかもしれないという恐怖に
ひたすら堪える。
すると、揺れが収まってきたころ、
バーナードが優しい手つきで
私の頭を撫でた。
「もう…大丈夫そうだよ」
そう言われて、私は顔を上げた。
心配そうな…でも、
頬を赤く染めたバーナードの顔が見えた。
バーナードも、酔いそうなぐらい
今の道は酷かったのかな。
それなら、しがみついて
申し訳なかったかも。
「力いっぱいしがみついちゃって…
ごめんなさい」
と素直に謝ったら、
全然痛くなかったし、大丈夫だよ、と
バーナードは笑ってくれた。
うん、いいお兄ちゃんだ。
甘えるのはやめようって思ったけど、
バーナードには、いいかな?
なんて、また思ってしまう。
やっぱり膝に乗って良い?
って聞いたら、バーナードは
困った顔をして、ちょっとだけ待って、
と言われた。
そしてバーナードは何故か、
床に敷いていた厚めの布を
何度か畳んでから、
自分の下半身を隠すように置いた。
寒いの?
ひざ掛けに使いたかったの?
それなら、なぜ畳む?
バーナードのやることがよくわからない。
「じゃあ、おいで」
って言われて、私はすなおに
バーナードの膝に座った。
向かい合わせに座ったわけでは無いので
バーナードの顔は見えないけれど。
何故かバーナードは緊張しているみたいに感じる。
身体を固くしていて、
いつもなら、私の身体が揺れないように
両手で腕やお腹を固定してくれるのに
今のバーナードは何故か、膝に置いた布を握り、
遠くを…馬車についている小さい窓から
外の景色を見ている。
バーナードの体は固くなっていて、
座りなおしてみると、
膝も、お腹も、どこもかしこも固かった。
固いものがお尻にあたって、
なんでこんなに緊張してるのかな、と
不思議に思う。
さっきの揺れ…結構酷かったから、
バーナードも吐きそうになってるとか…?
そういえば、小学校の頃、
遠足でバス酔いしたとき、外の景色を
見たらいいんだよ、みたいなことを
先生に言われたような気がする。
そっか。
だからバーナードは外を見てるんだ。
私は納得して、バーナードに背中を預けた。
安心の安定感だ。
こうやって、バーナードに体を預けるのも、
信頼しているのも、私だ。
勇くんじゃない。
当たり前のことなのに。
当たり前のことで、私が、この世界で
生きているんだって思っていたのに。
でも、そうじゃなかったって気が付いた。
金聖騎士団の皆を守りたいって思ったのは
私の意志だ。
勇くんも、女神ちゃんも関係ない。
この体は…私のもの。
そして、私は、私の意志で、
私の責任で、この世界を…皆を守るんだ。
決意を新たにして、私は拳を強く握った。
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