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BとLの世界は厳しい激エロの金字塔だった

22:欲情するってどういうこと?<ヴァレリアンSIDE【2】>

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ここはカーティスが使っている部屋だ。


意味が分かるかわからなかったが、
不在の部屋を見せ、カーティスがいないことを
教えようと思ったのだ。


少年はドアを開けて、
カーティスの真っ暗な部屋を見ると
衝撃を受けたような顔をした。


今日は俺がそばにいてやる。


そうつぶやいたが、
少年はわかってくれただろうか。


俺は少年を抱っこしたまま、屋敷をうろうろ散策した。


別に意味はなかったが、
赤ん坊はこうして抱っこして移動したら眠る、
という話を聞いたことがあったからだ。


またベットに寝かせて泣かれたら困る。


意味もなく階段を上り下りしていたら、
そのうち少年はうとうとし始め、すぐに寝た。


それから俺は、カーティスには
泊まりになる任務は割り振らないようにした。


おかげで今回も、本来なら事案が事案だし
王族のカーティスに行かせようと思ったのだが、
あきらめてケインに行ってもらうことにした。


王族のカーティスが実際に見ていた方が
王家として何かしらの判断を迫られたとき、
都合が良いと思ってはいたが。


聖魔法が使えるという意味だけで言えば、
ケインの聖魔法もカーティスに負けてはいない。


ケインの祖父は、大教会の教皇であり、
父は枢機卿だ。


権力的にも…教会寄りにはなるが問題はない。

また、一緒に行く盾役のバーナード、
俊足のエルヴィンがいれば
たいていのことは何とかなるだろう。


と思うぐらいは、俺は彼らを信頼していた。


とにかく、こうやって俺たちは、王宮と、というより
親父と情報交換しながら、【聖樹】を見守り、
情報を集め、屋敷で人数が揃ったときは一緒に訓練する。


そして、余った時間に、あの少年を構う。


そんな日々の繰り返しだった。


余った時間だけ、あの少年に構う。
そう決めたのは、俺だった。


そうでなければ、何か理由をつけては
団員全員が、あの少年を構いたがったからだ。


言葉を教えるのも、スタンリーが一人で行う必要はない。
全員で、誰かの手が空いた時間に教えてやればいいのに、
スタンリーは、頑なに一人で教えると言い張った。


教師が変わると進行状況がどうとか、
理屈をいろいろ言っていたが、ようはあの少年との
時間を失いたくないと言っているのがまるわかりだった。


また、少年は甘いものが好きなようだった。
この世界の食事が口に合わないのか、
それとも、食欲がないのか。


少年は食事の量はいつも少なかったが、
この前たまたま、【聖樹】を見に行った先の町で
エルヴィンが買ってきた菓子に、少年は飛びついた。


おいしそうに、嬉しそうに笑って
菓子を口に入れる少年に、その場にいた全員がヤラレた。


この屋敷には一応、俺が結界が張っている。


結界は得意ではないが、俺以外の人間も
結界に関しては、似たり寄ったりの実力なので、
魔力量が多い俺が張るようにしているのだ。


それでも、多少の魔獣や魔物はこの屋敷には近寄れない。


残念ながら、聖獣を排除する結界など、
必要になる日が来るとは思っていなかったので、
(そんな魔法や魔術があるとは思えないが)
俺の結界は、聖獣の出入りが自由過ぎるほど、自由になってはいるが。


まぁ、聖獣が来たとしても、この屋敷はそんなに広くはない。
少年が聖獣と遊んでいたとしても、屋敷内であれば見つけるのはたやすい。


だからこそ、保護対象の少年を一人にすることもできたのだが。

あの菓子を食べる姿を見てから、エルヴィンやバーナードが。
いや、常に冷静に物事を考え、自分の意見を押し通すことなどない
ケインでさえも、次に【聖樹】を見に行く任務は
自分が行くと言い張るようになった。


意見が割れた時は、結界があるのだから大丈夫だろうと
全員、別々の場所にある教会に行けばいい、などと
エルヴィンが言い出した時は、さすがに無茶を言うなと
拳骨を落としてしまった。


ようは、あいつらは任務を遂行したいのではなく、
町に行って、あの少年のために菓子を買いたいのだ。


少し遠い場所、目新しいものがありそうな場所には、
こぞって行きたがった。


どんなに遠くても、
この場所を何日も離れるわけにはいかない。
馬を乗り継いで強行軍を強いることもある。

本来は面倒くさい、
体がきついと嫌がられるような場所でも、
あいつらは行きたがった。


カーティスはもともと、
少年の世話役としてべったりだったし、
スタンリーも、そんな面倒なことはご免被るといった様子だったが。


俺も指揮官として、あの少年から離れるなど考えられないが。


それでも、俺たち幼馴染の3人は、
こんな状況であっても自由に生きる部下兼後輩たちを
うらやましいと、じつは思っていた。


特に俺は、あの少年を喜ばせるような世話もできなければ、
言葉を教えることもできず、
菓子を買いにいくことさえできないのだから。


今、会話ができない状態で、金聖騎士団の全員が、
こんな状態なのだ……俺を除いてだが。


そう、何度も言うが、俺は骨抜きにはなっていない。
愛らしいとは思う。
それだけだ。


だが、とにかく今でもこんな状態なのだ。
これで意思疎通ができるようになったらどうなるのかと不安になる。



そしてそう思っていた矢先、
急に少年は言葉を話せるようになってしまった。


女神に話せるようにしてもらったという。


規格外すぎる。


そして彼は、今度も聖獣を連れてきた。


しかも。
「世話をするから、飼ってもいいですか」
なんて可愛く聞いてきた。


が、聖獣だぞ。


捨てられた小動物や、森で拾ってきた鳥だとか、
そういうのではなく、聖獣を持ってきて
「飼う」なんて、誰が言うんだ?


いや、そもそも、聖獣なんて飼えるものなのか?


何を食べるんだ?


ダメだろう、どう考えても。
聖獣は女神の眷属だ。


聖なるもので、人間が所有していいものではない。


そもそも、聖獣は人間にはなつかない。

姿だって、本来は滅多に現すことがない神聖なものなのだ。


元居た場所に捨ててきなさい!


と言いたくなった。


言えなかったのは、聖獣を捨てるなんて
言っていいものかと悩んだのと、
少年の…ユウの目が、捨てないでー!と訴えていたからだ。


言葉に悩んでいるうちに、ユウは今度はスタンリーに訴える。


だが常識人のスタンリーが聖獣を飼うなど
了承するはずがない。


もちろん、バーナードもエルヴィンも、ケインもだ。


そもそも、この団の団長は俺なのだから、
俺が許可しないことは、誰も許可できない。


何度も言うが、聖獣だぞ?


するとユウは、この子は生まれたばかりだとか
何やら必死で言い出した。


生まれたばかりの聖獣って
どんなに貴重な存在なんだ?


いいのか?
本当にここに連れ込んで。


悩んだが、もともとユウの存在も、
俺たちの今の任務も、秘匿中の秘匿だ。


その中に秘密が1つ増えても、
同じなような気がしてきた。


条件付きで、聖獣をそばに置くことを許可すると
ユウは嬉しそうに笑う。


やばい。
そろそろユウとの会話を終わりにしよう。


そうでなければ…ユウを。


いや、なんでもない。
そんなわけ、あるはずがない。



最初見た時、ユウの瞳に捕らえられた気がした。

そばで見ていて、可愛いとも思った。

庇護欲が湧いたし、守ってやらなければならないとも思った。


ーーー世界の崩壊を防ぐために。


だが。
今日はいつもと違った。

ユウと視線があったとき、
急に胸が熱くなった。


下半身が反応した。


驚いた。


こんなこと、今まで経験したことがない。


確かにユウは魅力的かもしれないが、
いきなり、そんな展開になるなんて
おかしいだろう?


可愛いと思うこともあるし、
庇護欲だの保護欲があるのは認める。



だが。
こんな急に欲情するなど、おかしすぎる。


俺は話を切り上げると、
すぐに訓練を開始し、カーティスに
ユウを見ているように指示を出す。


一人にしておくのは、危険な気がする。


今までは、こんな田舎の場所で、
ユウの存在を知るものはなく。


外部からの危険はないと思っていたからこそ
ユウを一人にすることもあったが、
今後は考えを改めた方が良いのかもしれない。


ユウ自身が、危険人物だ。


俺でさえ、なのだから、
若いエルヴィンやケインが何も感じていないはずがない。


さすがにバーナードは婚約者がいる身だし、
強引なことはしないと思うが、
堅物のスタンリーだって危ないところだ。


なにせ、あいつは俺と違って
避けていた節がある。


経験がないのに、は毒だ。




騎士団に所属していると、
は、奔放になる。


王族のカーティスは、少しは自重しているかもしれないが
命のやり取りが多い分、俺たちは何かの命を奪った時、
奪われそうになった時の焦燥感のようなものを
体を使ってぶつけ合い、発散し、現実世界と精神の調整を図っていく。


とはいえ。
少なくとも俺は、相手には不自由していないし
今はそういった相手を求めてもいない。


この俺が、ユウに惹かれるなど…
抱きたいと思う理由など、ない……はずだ。


今は新人だった頃に比べれば、
戦いで高揚することなどめったにないし、
苦しい時ほど、冷静になるようになった。


だから最近は、
してはいなかったが、相手に不自由しているわけでもない。


なのに、あんな子どもに、欲情だと?


ありえない。
ありえないと思うのに、
ユウの瞳が脳裏を離れない。


笑顔が、声が、常に思い出される。


あの時もらった花の腕輪は、まだ大切に保管されている。


枯れたから捨てればいい、など思えなかった。


やばい、と思う。



冗談じゃない。
この俺が恋に落ちるなんて。


聖騎士団をまとめる俺が。
世界の崩壊を止めるという大役を担っている俺が。


そんな色恋沙汰に気を取られている場合じゃないだろう!


……やばい。


そんなことを考えている時点で、
おそらくは、もう、俺は引き返せないところまで来てるのかもしれない。


こんなに言い訳ばかり考えて、
俺は…



ユウの世話役をカーティスに任せて良かったと。
俺はその時、しみじみと感じていた。


そう、この時までは。









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