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BとLの世界は厳しい激エロの金字塔だった
19:愛されるって、どういうこと?
しおりを挟む朝から疲れてしまった。
私は自室で、一休みしている。
ベットに転がり、先ほどまでの会議を思い出していた。
まさか私の年齢が10歳前後だと思われていたのはショックだったが、
彼らの過保護ぶりには納得する。
そりゃ、いきなり10歳ぐらいの子どもが現れて、
熱だして倒れたら心配症になっちゃうだろう。
いまだに私の【愛し子】のポジションが理解できてないし、
何ができるかはわからないけれど。
頑張ろう!
と、思う意欲だけはある……たぶん。
たぶん、と急に言いたくなったのには理由がある。
女神ちゃんのところでみた、
例のBLファンブックを思い出したからだ。
『貴腐人たちのための激アツ!激甘!溺愛ルート満載!
イケメンたちの激愛バトル。
複数、総受けルートも解禁!
あたらなる激エロの金字塔を今、貴方に…』
あのファンブックの世界のパクりってことは、
この世界もそういうこと…よね?
そうなると、もしかしたら私の体(器)を
【愛】で満たして…というあの条件。
そういう成人向けの展開になるんじゃないだろうか。
しかも!だ。
その相手は、ここにいる騎士様たちになる…ような気がする。
あの美形騎士様たちと……!?
いやいや、無理無理!
無理でしょう!
考えただけで、恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
一応私も22歳のオトナ女子だ。
性知識だってある。
スマホゲームでは、無課金で攻略するために
広告動画を視聴しまくってポイントを溜めたので、
アダルト系の広告動画もかなり見た。
オトナ恋愛がどういうものかの知識はあるし、
店長さんがあのOLさんを見る優し目に
「恋愛っていいなー」とほのぼのしたこともある。
ただ、私はそういう経験をしたことがない。
恋愛なんて、人生に余裕がある人のものだと思っていた。
私は施設にいたころは、弟妹達の世話と
施設の先生たちの手伝いで必死だった。
高校も行きたかったので、勉強だって頑張った。
おかげで返金義務がない奨学金制度を使うことができた。
けれど、
施設を出た後は「後見人がいない」というハンデで
質の良い住居を得ることもできず、
「施設育ち」というレッテルで見られ、
他人との適度な距離を保ちつつも
「他人は絶対に信用しない」と思って生きてきた。
お金だけは私を裏切らないから、
必死でバイトして、お金を溜めた。
幸い、工場のおばちゃんや、
居酒屋の店長さんと出会い
「絶対に他人を信用しない」という思いは薄れたけれど。
でも、恋愛なんて私にできるとは思えない。
……他人に心を預けるなんて。
いや、誰かに心を振り回されるなんて。
………怖すぎる。
彼らは信頼している。
親切にしてくれて嬉しかったし、
彼らの優しさに頑なだった心が随分と緩んだ。
でも。
友情や信頼や信用はできそうだったが、
恋愛になると、話は別だ。
恋愛なんてしたことがないのでよくわからないが
今まで読んだ小説や、
スマホゲームで得た知識と照らし合わせてみると
好きな相手とずっと一緒にいたいとか、
好きな人の姿が見えないと寂しくなるとか、
そんな状態になって、次に独り占めしたくなって。
結局、好きなのに相手を
どこかに閉じ込めて監禁しちゃったりとか。
誰かを愛するなんて、
怖くて面倒で、ややこしくて、
心理的に病んでしまうようなもの、
というイメージしかない。
しかも、この世界はBL…男同士の恋愛世界だ。
同性婚だって偏見はないし、
好きになった人が同性だっただけで
一生一緒にいたいと思える人と出会えるなんて
素敵だし、応援したいとも思う。
でも、だ。
その同性恋愛を応援することと
あの女神ちゃんの推すゲームの世界で…
いや、この世界で自分がそれらを体現するというのはまた別問題だ。
この体は勇くんのものだし、
この世界は確かに女神ちゃんの創った世界だけど、
私はこうして、勇くんの体で生きている。
感情があって、思考があって、
じぶんの人生をリアルに生きているのだ。
それは騎士様たちも同じこと。
あのゲームと同じシナリオで進むように
騎士様たちが誘導されているなんて、思いたくない。
騎士様たちは、騎士様たちの意志で、思考で行動し、
そして私を助けてくれた。
そこに女神ちゃんの意志は関係ない。
私に優しくしてくれたのは、
騎士様たちの意志だったはずだ。
……あれ?
なんで私、こんなに騎士様たちのことを力説してるんだ?
騎士様たちが優しくしてくれたのは
女神ちゃんの意志だから、なんて思いたくない…?
いやいや、そんなの、今はどうでもいいじゃん。
今は【愛】を溜める方法を考えてるんだから。
とにかく、とにかく。
【愛】を溜める方法…それは、もしかしたら…
というか。
きっと。
成人向けのゲームの世界の話だ。
私に縁がなかった、恋愛でエロエロで、
ディープな大人の世界のだ。
むりむりむりー!!!
私はシーツの中にもぐりこんで、悶えた。
『なぜ、無理なんじゃ?』
頭に、女神ちゃんの声がする。
「この世界に介入するのはダメなんじゃないですか?」
シーツの中で返事をすると、
女神ちゃんは『では、こっちに来るがいい』と
無理やり私を、あの白い世界へと引っ張った。
シーツの中で手が引かれた感覚がして、
私は、また白い世界にいた。
「寝てる時しか、会えないんじゃなかった?」
乱暴に連れてこられたので、
口調も責めるようになってしまう。
『本来はそうなんじゃが…
そなたが、うじうじしてたので、つい、な』
「そりゃ、悩みますよ。
私が思っている展開だったら、あの騎士様たちと…その…」
恥ずかしくて、言葉にはできない。
『そうじゃ!
わしはそれが見たいのじゃ!』
んんん?
『可愛い美少年が、
屈強な美形騎士たちに愛されまくり、
あちこちで溺愛され、嫉妬され、
でろでろに甘やかされて
えろえろになってしまう…
萌えるじゃろ?
見たいじゃろ?
わしは見たい!』
バンバン!と膝を叩く女神ちゃんは楽しそうだ。
「楽しそうですね? 女神ちゃん」
世界が崩壊するのに。
思ったより冷たい声がした。
『いや、そんなことは無いぞ。
わしだって…その、そうだ!
女神の資格をはく奪されるやもしれんし』
それ、今、思い出しましたよね?
「無理ですよ。
今、私は勇くんの体だし。
勝手にそんなことに使うなんてできません」
『そんなこと?
そんなことじゃないぞ!
萌えじゃぞ!』
いや、力説しないでください。
『それに、体のことは気にせんでいい。
知っておろう?
その体の持ち主は、すでに一度死んでおる。
その魂は、そなたの体に入っているが、
すべてが終わったら、魂は輪廻転生の輪に入る。
その体は、もう不要じゃ』
そういえば、そうだった。
「でも、やっぱり私に私に恋愛とか無理です。
女神ちゃんも知ってると思うけど。
私も勇くん程じゃないけど、愛されるのは苦手だし、
誰かを愛する余裕もないし。
騎士様たちと出会って、友情なら私にも築けるかも、と
思ったけれど、恋愛はハードルが高すぎます!
誰かと恋愛なんて考えられないし、
そのうえ、複数とか、溺愛とか、想像すらできません。
というか、そういうのは、結婚してから
愛する人とだけすることでしょう?」
アニメやゲームの世界で、傍観者として楽しむならいいけれど、
じぶんがそういう恋愛をできるとは思えない。
『そう…じゃな。そうじゃった』
わかってくれた?
『わしは、その少年の綺麗な顔を一目見て
「この美少年じゃ!」と思ったのじゃが』
んんんん?
勇くん、もしかして自殺する前から狙われてた?
『先輩女神の世界に、わしは介入することができん。
それを必死で頼み込んで、わしは美少年の魂が抜ける瞬間、
肉体ごと引き上げたというのに…』
もしかして、苦労話で私の同情をひこうとしてます?
『よし、仕方ない。
少し手を加えてやろう』
「設定を変えてくれますか?」
『そうじゃな、そうしよう』
良かった。
別方法で世界崩壊を阻止できるなら、
それに越したことはない。
『そなたには、数多くの祝福を与えていたが、
さらに祝福をあたえてやろう』
いや、その数多くの祝福が
どんなものかも把握してないのに、
さらに祝福を与える気なの?
「いやいや、女神ちゃん。
だから、行き当たりばったりの政策は良くないんだって」
非難する私の額に、
女神ちゃんの人差し指が触れた。
『そなたには、元の世界で培われた倫理観、
貞操感が緩まる祝福を』
え?
ぽわん、と体が熱くなる。
『快感に弱く、流されやすくなる祝福を』
ちょっと待って!
『どんなに激しい行為でも傷つかない体を得る祝福を』
いや、行為限定って!
それ戦いになったら、傷つくやつ!
『そして、そなたが好意を持った相手と目が合うと
みだらな行為をしたくなる祝福を』
それ、いらないやつ!!
『最後は、そなたの近くにいる人間たちは
そなたの体臭を甘く感じ、
体液すべてが甘く媚薬へと変わる祝福を』
絶対絶対、いらないやつー!!
『どうじゃ、素晴らしいじゃろう」
大気がゆらぐ。
「いやいや、全部いらないから!
必要ないから!
そんなのもらったら、夜、一人で出歩けない!
というか、昼間も一人で歩けない。
絶対、絶対、絶対、おかされるーーー!!!」
設定変えてー!!
叫んだのに、女神ちゃんの返事はない。
意識が遠くなっていく…。
『頼む、時間がないのじゃ!
早く…早く…
わしに美少年の激エロを見せてくれー!』
女神様…
そこは、世界の崩壊が迫ってる、というべきです…
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