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第一部 1章 ラジオ
第15話
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学校から帰るとユースケは、それまでならば夕飯を終えた後もだらだらとリビングでゴロゴロ寝転がったり、ユリの話を聞きながら面白おかしく茶化したり、外に出てそこらを散歩していたりしているのだが、最近では夕飯が終わった後はすぐに自室に籠るようになった。何事かと訝しんだ妹のユリが扉を半開きにそっと部屋を覗くと、机に向かい教科書を開いて勉強に勤しんでいるユースケの姿があり、初めてその姿を見たときにはユリもその場に尻餅をついた。その音でユースケが一度飛び出てくるが、ユリを部屋まで律義に送り届けた後は再び自室にこもった。その後もユリはユースケの部屋を覗きこみ、時折居眠りをこいているときはあるのだが、基本的に真剣な様子で机に向かっている姿を見て、ユリは複雑な気持ちになった。
「ねえあんた。最近どうしたの」
いつものようにユズハと一緒に登校していたときに、出し抜けにユズハが質問してきた。そんな質問を急にするユズハこそどうしたものかと、ユースケは怪しい気持ちで横目でちらりとユズハの顔色を窺うが、至っていつも通りのユズハの顔があるだけであった。質問しておいて興味なさそうな態度が少し気に食わなかったが、ユースケも渋々答えることにした。
「俺、バカみたいだからさ」
ユースケがその続きを話そうとしたが、そのタイミングでユズハがわざとらしく「うん、知ってる」と頷いてきて調子が狂った。ユースケはわざとらしく咳払いして続きを話した。
「でも、バカのままじゃ、きっと今の世の中には良くないんだろうなって思って。それで、バカを治そうと思ったの、悪いかっ」
最後の方はほとんど怒ったように唾を飛ばしながら言い放つと、ユースケは得意げな顔をユズハに向けた。しかし、当のユズハはやはり興味なさそうに地面に視線を落としながら「ふうん」と鼻を鳴らすようにしただけであった。何なんだこいつは、とユースケは文句を言いたくなるのをぐっと堪えてそっぽを向いた。そのまま互いに無言のまま、森を抜け、学校の前の花の咲かない桜並木が見え始めたときだった。
「ユースケがバカじゃなくなるのかあ。想像つかないなあ」
ユズハはわざとユースケに聞こえるような声で独り言ちた。言葉だけ見れば自身を馬鹿にしている言葉のようにしか思えないが、何故かユースケはそんな罵りを含んだ台詞には聞こえなかった。ユズハの言葉の意味についてぼんやりと考えていると、やがて学校の下駄箱に辿り着き、そこで足の引っかかったユースケは前のめりに躓きそうになった。その様子を眺めていたユズハが快活に笑う声に振り向くと、ユズハは心の底からおかしそうに笑っていた。そのような笑みを見るのは久し振りのような気がした。
その日もその後、もはや習慣の一つになったようにユースケが図書館に赴くと、今日はユズハと一緒にアカリの姿を見かけた。ユズハが自身のノートと図書館の分厚い本とを並べて読み比べている横で、アカリはやたら装丁の派手な本を頬杖を突きながら読んでいた。特段集中しているわけではないようで、視界の端にユースケの姿が見えたのか、顔を上げてニコニコとユースケに手を振った。男女問わずバカにされ、それ故に遠慮ない付き合いをしてきたユースケにとって、他の女子と違って気さくに優しく話しかけてくれるアカリは昔からの仲ということもあってユズハとはまた別の安心感のある相手だった。ユースケもニコニコと手を振り返しながら本棚の間へと吸い込まれていった。
その日の帰り道、ユースケの足は商店街へと向かっていた。唐突に商店街の店主の猫のことを思い出したためである。店に着くと、店主が店の前でぼーっとした様子で他の店の様子を眺めていた。ユースケは特に気にすることもなく、店主に声を掛けた。
「よっすおじさん。あの猫はどうしたんだ」
ユースケが近くに来てもあまり反応を示さなかった店主は、猫という単語にようやく眉を上げてユースケの方に視線を向けた。その店主の胡乱な目つきにユースケはドキッとした。
「おお、お前か……あいつは入院中だ」
「えっ!」
先日籠の中の猫に再会したときには、きっちり診断してもらって数日後には元気になって帰ってきてると予想していたため、それを裏切る報告にユースケは開いた口が塞がらなかった。そんなユースケの間抜けな面を店主は何故かありがたそうに目を細めて見つめていた。
「安心しろ。何とかって病気らしいが、手術して悪いもん取り出して安静にしてればよくなるってよ」
「ほっ」
ユースケは大袈裟なほど胸に手を当ててほっと一息ついていた。その様子に店主はニヤついていた。
「今日はちょっとばかし遅いじゃねえか。逆に家で何かやらかしたか?」
「ちげーよ。俺、最近勉強頑張ってんだぜ」
「ベンキョウガンバッテンダゼ? なんだ、そりゃあ?」
店主が間抜けな顔を作って、ふざけた口調で自身の言葉を繰り返されて腹が立ったユースケは、「猫がいねえならおじさんの店価値ねえよ!」と捨て台詞を吐きながらそっぽ向いて帰った。実際、ユースケも猫が気になったから来たのであって、その肝心の猫がいなければ用は本当になかった。
「じゃあ退院祝いには駆けつけてくれよ」
後ろから店主がそんな風に呼びかけてきた。ユースケは足を止めて、振り返りはしないものの、後ろに向けて手を振った。家へ向かう足取りは自然と早足になり、無意識のうちに軽やかにスキップを刻みそうになっていた。
家に帰り、ふと靴を脱ごうと視線を落とすと、ちんまりとした可愛らしい靴が神経質を思わせるほど小奇麗に並んでおり、ユリが早くも帰宅していることを把握した。慌てたユースケは、その靴とは対照的に適当に靴を脱ぎ散らかしながら、鞄を自分の部屋に戻す暇も惜しんでリビングへと駆けつけた。
「わっ! お兄ちゃん、どうしたのそんなに慌てて」
リビングでユリはソファの上で贅沢にせんべいを咥えてぼーっとしており、ドタドタと突然現れたユースケに目を見開いていた。ソファの向かいには、ユースケにとってはつまらないものしか映さないテレビが点いており、声の低いアナウンサーが淡々と今日起きた望遠国の事件について解説していた。ユースケはユリの問いかけには答えず、じろじろとユリの身体を舐めまわすように見る。今日も一日土仕事を果たしてきたろうに、土汚れ一つ見せない肌は妹の几帳面さを表しているようであり、日中外に出ているにもかかわらず相変わらず肌は不健康に白かった。ユースケの睨めまわすような視線にユリが顔を顰めて、ユースケから離れるようにソファの端に寄った。その動作に、いつも通りのユリであることを確認してユースケもほっと胸を撫で下ろした。
「どうしたのお兄ちゃん、病院行く?」
「馬鹿野郎、お前は冗談でもそんなこと言うな」
「いや、それとこれとは別問題だし、別に言っても良いと思うけど……」
初めの慌てたようなユースケの態度に関しての疑問は解消されないものの、ユリは情けなく座り込んで動けないでいるユースケを見て得意げに微笑んだ。ユリはマイペースに視線をテレビに戻して、二つ目のせんべいを口に運んでいた。我に返ったユースケも、手洗いうがいを済ませてからソファの横の地べたに寝っ転がり、ユリが食べていたせんべいをつまんでテレビを眺めた。改めてまじまじとテレビ番組を見てみると、案外ラジオで話していたことと似たような内容が報道されていることにユースケは気がついたが、何故かテレビ越しではいまいち内容が頭に入ってくる感覚がなく、相変わらずつまらないものだなあとむしろ感動しながらぼんやり眺めていた。何となくもう一度ユリの顔を見上げてみるが、ユリもぼんやりとした表情でせんべいを黙々と食べており、その横顔は疲れているようにもリラックスしているようにも見えた。
「ねえあんた。最近どうしたの」
いつものようにユズハと一緒に登校していたときに、出し抜けにユズハが質問してきた。そんな質問を急にするユズハこそどうしたものかと、ユースケは怪しい気持ちで横目でちらりとユズハの顔色を窺うが、至っていつも通りのユズハの顔があるだけであった。質問しておいて興味なさそうな態度が少し気に食わなかったが、ユースケも渋々答えることにした。
「俺、バカみたいだからさ」
ユースケがその続きを話そうとしたが、そのタイミングでユズハがわざとらしく「うん、知ってる」と頷いてきて調子が狂った。ユースケはわざとらしく咳払いして続きを話した。
「でも、バカのままじゃ、きっと今の世の中には良くないんだろうなって思って。それで、バカを治そうと思ったの、悪いかっ」
最後の方はほとんど怒ったように唾を飛ばしながら言い放つと、ユースケは得意げな顔をユズハに向けた。しかし、当のユズハはやはり興味なさそうに地面に視線を落としながら「ふうん」と鼻を鳴らすようにしただけであった。何なんだこいつは、とユースケは文句を言いたくなるのをぐっと堪えてそっぽを向いた。そのまま互いに無言のまま、森を抜け、学校の前の花の咲かない桜並木が見え始めたときだった。
「ユースケがバカじゃなくなるのかあ。想像つかないなあ」
ユズハはわざとユースケに聞こえるような声で独り言ちた。言葉だけ見れば自身を馬鹿にしている言葉のようにしか思えないが、何故かユースケはそんな罵りを含んだ台詞には聞こえなかった。ユズハの言葉の意味についてぼんやりと考えていると、やがて学校の下駄箱に辿り着き、そこで足の引っかかったユースケは前のめりに躓きそうになった。その様子を眺めていたユズハが快活に笑う声に振り向くと、ユズハは心の底からおかしそうに笑っていた。そのような笑みを見るのは久し振りのような気がした。
その日もその後、もはや習慣の一つになったようにユースケが図書館に赴くと、今日はユズハと一緒にアカリの姿を見かけた。ユズハが自身のノートと図書館の分厚い本とを並べて読み比べている横で、アカリはやたら装丁の派手な本を頬杖を突きながら読んでいた。特段集中しているわけではないようで、視界の端にユースケの姿が見えたのか、顔を上げてニコニコとユースケに手を振った。男女問わずバカにされ、それ故に遠慮ない付き合いをしてきたユースケにとって、他の女子と違って気さくに優しく話しかけてくれるアカリは昔からの仲ということもあってユズハとはまた別の安心感のある相手だった。ユースケもニコニコと手を振り返しながら本棚の間へと吸い込まれていった。
その日の帰り道、ユースケの足は商店街へと向かっていた。唐突に商店街の店主の猫のことを思い出したためである。店に着くと、店主が店の前でぼーっとした様子で他の店の様子を眺めていた。ユースケは特に気にすることもなく、店主に声を掛けた。
「よっすおじさん。あの猫はどうしたんだ」
ユースケが近くに来てもあまり反応を示さなかった店主は、猫という単語にようやく眉を上げてユースケの方に視線を向けた。その店主の胡乱な目つきにユースケはドキッとした。
「おお、お前か……あいつは入院中だ」
「えっ!」
先日籠の中の猫に再会したときには、きっちり診断してもらって数日後には元気になって帰ってきてると予想していたため、それを裏切る報告にユースケは開いた口が塞がらなかった。そんなユースケの間抜けな面を店主は何故かありがたそうに目を細めて見つめていた。
「安心しろ。何とかって病気らしいが、手術して悪いもん取り出して安静にしてればよくなるってよ」
「ほっ」
ユースケは大袈裟なほど胸に手を当ててほっと一息ついていた。その様子に店主はニヤついていた。
「今日はちょっとばかし遅いじゃねえか。逆に家で何かやらかしたか?」
「ちげーよ。俺、最近勉強頑張ってんだぜ」
「ベンキョウガンバッテンダゼ? なんだ、そりゃあ?」
店主が間抜けな顔を作って、ふざけた口調で自身の言葉を繰り返されて腹が立ったユースケは、「猫がいねえならおじさんの店価値ねえよ!」と捨て台詞を吐きながらそっぽ向いて帰った。実際、ユースケも猫が気になったから来たのであって、その肝心の猫がいなければ用は本当になかった。
「じゃあ退院祝いには駆けつけてくれよ」
後ろから店主がそんな風に呼びかけてきた。ユースケは足を止めて、振り返りはしないものの、後ろに向けて手を振った。家へ向かう足取りは自然と早足になり、無意識のうちに軽やかにスキップを刻みそうになっていた。
家に帰り、ふと靴を脱ごうと視線を落とすと、ちんまりとした可愛らしい靴が神経質を思わせるほど小奇麗に並んでおり、ユリが早くも帰宅していることを把握した。慌てたユースケは、その靴とは対照的に適当に靴を脱ぎ散らかしながら、鞄を自分の部屋に戻す暇も惜しんでリビングへと駆けつけた。
「わっ! お兄ちゃん、どうしたのそんなに慌てて」
リビングでユリはソファの上で贅沢にせんべいを咥えてぼーっとしており、ドタドタと突然現れたユースケに目を見開いていた。ソファの向かいには、ユースケにとってはつまらないものしか映さないテレビが点いており、声の低いアナウンサーが淡々と今日起きた望遠国の事件について解説していた。ユースケはユリの問いかけには答えず、じろじろとユリの身体を舐めまわすように見る。今日も一日土仕事を果たしてきたろうに、土汚れ一つ見せない肌は妹の几帳面さを表しているようであり、日中外に出ているにもかかわらず相変わらず肌は不健康に白かった。ユースケの睨めまわすような視線にユリが顔を顰めて、ユースケから離れるようにソファの端に寄った。その動作に、いつも通りのユリであることを確認してユースケもほっと胸を撫で下ろした。
「どうしたのお兄ちゃん、病院行く?」
「馬鹿野郎、お前は冗談でもそんなこと言うな」
「いや、それとこれとは別問題だし、別に言っても良いと思うけど……」
初めの慌てたようなユースケの態度に関しての疑問は解消されないものの、ユリは情けなく座り込んで動けないでいるユースケを見て得意げに微笑んだ。ユリはマイペースに視線をテレビに戻して、二つ目のせんべいを口に運んでいた。我に返ったユースケも、手洗いうがいを済ませてからソファの横の地べたに寝っ転がり、ユリが食べていたせんべいをつまんでテレビを眺めた。改めてまじまじとテレビ番組を見てみると、案外ラジオで話していたことと似たような内容が報道されていることにユースケは気がついたが、何故かテレビ越しではいまいち内容が頭に入ってくる感覚がなく、相変わらずつまらないものだなあとむしろ感動しながらぼんやり眺めていた。何となくもう一度ユリの顔を見上げてみるが、ユリもぼんやりとした表情でせんべいを黙々と食べており、その横顔は疲れているようにもリラックスしているようにも見えた。
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