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「武器がない……」
分かり切っていた弱音を吐きながら、トウタは無為な武器探索を続けていた。
鉄の胸当てに、腹を守る金属の板。脚は重くならないように、脛当てだけを装備した。スキルはついていないが、それなりの防具を揃えられたと考えて良さそうだ。
実際、木の棒で各防具を叩いてみたが、傷やへこみが出来る様子は無かった。
問題は武器だ。さっき見たRの剣以上のものが見当たらない。
「木の棒とかしかない……これでまだマシな方だし……」
レア度Rの木の棒を軽く振りながら、トウタは深い溜息を吐く。木の棒で魔王を倒すなど、通常攻略に飽きた人の縛りプレイの域だろう。
かと言って、そこにあるブーメランよりは、木の棒の方が現実的だ。さっき投げたら普通に飛んでいったので、ブーメランに勝手に手許に戻ってくる機能は無いらしい。
あそこにある、トウタの背丈ほどのハンマーについても同様だ。重くて持ち上がらず、戦闘に使えたものではない。
「ゲームなら……装備するだけで使えるのに……」
『勝手に戻るブーメラン』『重量を考慮しなくていいハンマー』。ワクワクさせてくれるゲームみたいなご都合主義は、この世界に適用されないらしい。
いや、この世界と元の世界の大きな差異はスキルの有無だ。
きっと心躍るスキルも存在するのだろう。実際タクシのスキルは、武器の扱いに応用できるらしかった。
「こっちは……レア度Nのナイフ……」
持ち運べない武器は邪魔になるだけと、何の気なしにナイフを手に取ってみる。
攻撃力はさっきの剣よりも低く、有効範囲も狭い。スキルは付いていたが、『火で燃える』とよく分からない事が書いてあった。
ファイヤーボールなどの火系スキルなら、何かしら活用方法があるらしい。
「僕のスキルじゃ……使い道なんてないよ……」
ちょっとした吐き気を堪えながら、トウタはナイフを棚に戻そうとした。
しかし、ジュンなら使えるのではないか?という思いがよぎり、ナイフを戻す手が止まってしまう。
「未練がましいね……」
トウタは唇を噛んで、ナイフの横に在った手甲を掴む。手甲のレア度もN。この際レア度Rに拘るよりも、使い方の分かる武器を探すべきかもしれない。
手甲は肘から指先まで覆うタイプで、それなりに軽い。使い道なんて、殴り掛かればいいのだろう。攻撃力は低いが、防御力はある様子。スキルも1つ付いているらしかった。
スキル効果は『自分を大きくする』。巨大化かと一瞬期待したが、どうも違うようだ。
「触っている相手も……『対象:自分』の範囲内にする……」
トウタのスキルなら、自分も相手も遅くなるのだろうか。
それは間抜けと言うかなんというか……微笑ましい光景に思えた。
「意味ないか……そもそも相手に近付いて触れる……?」
この世界の敵がどんなものかは分からないが、ジュンのファイヤーボールを思い出して身震いしてしまう。
一歩間違えれば死んでしまう攻撃を掻い潜って、相手に近付いて、触って、一緒に遅くなったところで……何ができる?
「考えたくない……」
考えたくないが、出来るとすれば囮だろう。敵と一緒に遅くなって、後ろから打ち抜いて貰えばいい。
思い出されるのは撒き散らされる熱風。
敵の巻き添えを食らって、自身もダメージを受けてしまう恐れもある。
――そもそも自分に被害が及ばないように、配慮して攻撃してくれるかどうか。
「……でも」
どうせ何もできない自分であれば、その程度人の役に立てもいいのではないか?
生まれ変わったらヒーローになりたいという狂気に、ふさわしい末路ではないか?
「止めておこう……」
トウタは震える手で手甲を棚に戻す。
しかし腕の自由を奪われたようで、掌を開くことが出来なかった。
「おら、レア度Nども!早くしろや!」
「は、はい!?」
武器庫の外から誰かの叫び声が侵入ってきた。
脊髄にしみ込んだ反射が、脳を介さずにトウタを動かした。
怒鳴られたらダッシュ。
犬みたいな習性が、手甲を掴み、トウタを武器庫の外に連れていくのであった。
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