5 / 13
第6話 海の家2
しおりを挟む夕方になって、志野が三輪バイクで尋ねてきた。
「良い魚が上がったから、夕食にでも食べて頂戴。」そう言うとテキパキと魚をさばき、刺身とフライ様の切り身にしてくれた。志野は暫く三人と話した後、店の準備の為に戻っていった。夕日が三角岩の間に沈むと再び、三人だけの夜が始まっていた。志野が持ってきてくれた刺身も、シオリが作った煮物も平らげてしまうと、
「もう少ししたら、一寸良い物出すからね。」シオリは茶目っ気な表情で二人に言うと、夕食の後片付けを初め出した。誠司とシオリで食器を洗い、健司は風呂を湧かした後に、お茶を入れた。
「健司や誠司の母さんてどんな人だったの?」それぞれに一仕事終えてテーブルに着くとシオリが話始めた。
「どうと言われると・・・あんまり記憶が無い気がするけど、一番の印象はこの海での事かな。」健司が言うと
「二人で、良く悪戯ばかりしてたから、怒られた記憶と服装で覚えているのは、シオリが着ていたあの服と着物かな。」健司が言った。
「おお、そうだ。そう言えば着物姿は覚えがあるな。」
「多分、何か改まった事が有るときは着物を着てた様だった。恐らく、本家にも残ってると思うけど。」
「うん、今度見せてもらおう。」
「どっちにしても、大した記憶は無いんだ。ただ怒られている時以外は優しかったて事位かな、当たり前だけどな。」
「シオリは、父親の記憶は有るのか?」
「正直言って、覚えが無いわ。物心付いた時は、置屋のおばさんの所で育てられていたから、小さい時に覚えがある男の人と言えば、東堂の旧家の叔父さん位かな。」それぞれに曖昧な記憶を辿り、物思いに耽ったまま時間が過ぎて行った。ふとシオリが
「アイス!志野おばさんから頂いたんだ。」
「ああじゃぁ、俺風呂に入ってから貰うよ。」誠司が座を立つと、シオリと健司が冷蔵庫の中のアイスの品定めを始めていた。
「随分と沢山貰ったんだな。」
「うん、盆祭りの出店用の序でだって、纏めて沢山仕入れたらしいよ。」
「そういやー、盆祭りて何時からだ?」
「多分、明日からみたい。」
「じゃぁ、明日は出かけてみるか?」
「はい、賛成。」
誠司が風呂から出るのを待って、三人はそれぞれのアイスを食べ始め、明日の予定を話会った後、それぞれに読書やら宿題の残りやらで時間を潰してから、誠司と健司は床に着いた。シオリは最後に風呂に入ってから板の間部屋で、誠司から借りた携帯形のカセットプレーヤーを聞いていた。誠司は、シオリの為に、幾つか好きな曲を入れてくれていた。
「ああ、ヴォーカリーズだわ。」ラフマニノフのその曲は、月明かりに照らされる入り江の波間を滑るように流れて行く曲の様に聞こえ、シオリは暫くその曲に乗って海の上を漂っている様な気持ちがしていた。浅い眠りの後に、気がつくと誠司がタオルケットをシオリの背中に掛けてくれていた。
「ああ、ご免、私も寝るから。ああ、私の好きな曲入れてくれて有ったんだ、有り難う。」立ち上がったシオリを誠司がそのまま抱き抱えて、床まで連れて行っくと、
「今日で二回目だぞ。」いつもの様に、誠司と健司の間の布団にシオリを寝かせてから誠司が言った。
「あ、そうか昨夜も世話になってたか。ここに来ると何だか気が緩んでしまうのかな。」そう言ってから、シオリは誠司に軽くキスをした。
「昨日と今日のお礼だ。」その言葉と共に、眠りに付こうとしていた。無意識にシオリは誠司の頭を抱きかけながら寝入っていた。誠司もシオリの温もりと彼女の香りの中で何時しか寝ていた。
翌日(三日目)の朝食の時、健司が海を見ながら突然話を切り出した。
「海底に二万マイルて知ってるか?」
「はあ、SF小説の、確かジュール・ベルヌだったかな。」
「ああ、そうだ。ここてノーチラス号の秘密基地に似てないか?」
「はあ?でもあの話では、基地は絶海の孤島じゃなかったかな。」
「ああそうだけど、あの角岩に向こうにノーチラス号が接岸出来そうじゃないか。この家も、純和風だけど、別な建物を建てれば、研究所に成りそうだし。」
「突然何を言い出すかと思ったら、ここを秘密基地にでもするの?」
「ああ、今でも十分秘密基ぽいけどね。」誠司が言うと
「俺達三人の秘密基地か。」
「健司にしては、以外な話題だね。」シオリが面白そうに話を振った。
「誠司が、星の話をするなら、良く聞く事があるけどね、健司はそう言う現実離れした話題には興味がないのかと思ってたよ。」
「誠司の星の話は、現実的な物だろう、たとえ、宇宙の彼方のことでも身近には感じられないだけで、実際に起こってる事実さ、でも、SF小説はあくまで空想の世界でのことだから、本質的に違う話題だと思うけどね。」そういい終わると、健司は、朝食後のひと時を、この小説を読んだことがない二人にそれなりに丁寧な口調で話して聞かせた。
「確かに、この浜辺は周りが岩盤で他の場所からは目立たない所だけどね。秘密基地と言えなくはないな。それより、健司にそんな趣味があったのは意外だった。」
「ええ、私も、そう言う話は誠司の範疇かと思っていたわ。」
暫く、朝食後の談議に花を咲かせていたが、志乃からの電話でお開きとなった。志乃の電話は、盆祭りで今夜港で花火大会があるので、夕食がてらに見物に来るようにとの内容だった。
朝食を片付けた後、健司と誠司は宿題と二学期の予習に取り掛かっていた。その間、シオリは近くの海岸へ散歩に出かけていた。この家が夏しか利用されないのは、その立地条件からもきていた。背後の崖のために、午前中はまったく日がささない、夏は涼しくていいのだけれど、当然冬は寒い。でも、そんな朝方のひんやりした空気が好きで、シオリは良くこの時間を狙って散歩に出かけていた。
「確かに絶海の孤島の秘密基地に思えなくはない、でも食料は如何しよう?水は崖からの湧き水が有るけど、日の当たる畑、それともガラス張りの温室の様な植物園でも作ろうか、多分熱源となる様なエネルギー源は豊富に有るんでしょうから。」シオリは朝の話の続きを考えながら、砂浜から頭を飛び出した岩を避けながら浜辺を歩いていた。潮溜まりに青や赤や黄色の小さな熱帯魚が泳いでいるのを暫く見てから、立ち上がった瞬間に腹部に重い痛みを感じた。
「あ、そうか二日目か。」自分の鈍感さに少し呆れながら、家に戻った。
板の間の机で勉強していた健司と誠司はシオリの顔を見ると、
「シオリは宿題終わってるのか?」と交合に同じ質問をした。
「当然でしょう、折角海に来るのに、そんな事さっさと終わらしてから来るわよ。」
「まあ、俺達も終わったから、今晩は羽が伸ばせるけど・・・お昼は焼きそばにするけど良いか。」
「うん、いいけど、その前に少し横になるよ。今日が二日目だったの忘れてたから。」
「二日目?」誠司がとんちんかんな質問をしそうになるのを健司が止めて
「ああ、分かった、シオリの分は取って置くから。」健司の言葉に軽く「ありがとう」と受け答えしてシオリは和室に消えた。
「うんん、今日て三日目だよな?」誠司の鈍感さに呆れながら健司は
「意味が違うだろう。」そう言いながら台所へ行った。
シオリは代わる代わる様子を見て来ていた健司と誠司を浅い眠りの中で意識しながら、朝の続きの様な夢の中に居た。サッカーボールの様な、ガラス貼りのドームの中で、食材となる野菜や果物をバスケットの中に取り入れていた。ドームの回りは、小高い岩の壁があり、眼下には、船着き場の様な桟橋が有って、そこには、一角鯨のような潜水艦らしき物が停泊していた。でも、それは海では無く星が瞬く空間だった。
「そうか、健司が入ろうとしていたのは、星の瞬く海だったのか。」夢の中の自分に言い聞かせるように、シオリは呟いていた。シオリがそんな浅い眠りから覚めたのは午後二時を少し回った頃の時刻だった。板の間の机には、ヘッドホンで音楽を聴きながら、本を読んでいる誠司が居た。
「よお、起きたか、腹減っただろう、今用意するから。」
「いいよ、別に病人じゃ無いいだから、自分でやるから。」シオリの言葉に少し残念そうな顔をした誠司に、
「健司は?」とシオリ訊いた。
「日課をこなしてるよ。毎日4キロ泳ぐんだってさ。」
「ふーん、」そう言いながら、シオリは海岸の方へ目をやった。結局、座り込んでしまったシオリの為に、誠司が残りの焼きそばを温めて用意してくれた。
食事の準備に託けて、誠司はちゃっかりシオリの横に座ると暫くシオリの横顔を眺めていた。
「何だ・・・何だかうっとうしいな。」
「昼間からシオリの側に居られるなんて、久しぶりだからな。肩でも揉むか?」
「誠司はなんだかんだ言って、私に触りたいのか?」
「え・・・まあそれも有るけど・・・」
「生理中は、そう言う事されると鬱陶しいだけなんだ。それに今晩は出かけなきゃいけないからな。でも、やってくれるなら、足のツボを揉んでよ。」
シオリは、食器を片づけた後に、幾つかの座布団を持ってきて座ると、自分の足のツボに当たる場所を誠司に示した。
「くれぐれも、変な所触らないでよ。蹴飛ばすからな!」
それでも誠司のマッサージは意外に効果的だったのか、シオリの体は大分楽に成っていった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる