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第5話 ある渓谷との出会い
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久々にぶらっとスケッチ旅行に出かけた時の事だった。ひょうんな事から立ち寄ったジャズバーの店主達と意気投合した挙句、その夜の当ての無い私に宿の手配やら食事やらの面倒を見てくれた店主達と店からの帰りがけに、街道沿いで遅い夕食を済ませた後、手配してくれた宿に泊まった。そして、それなりに広い風呂に入り、今日の出来事を振り返りながら、今朝駅で出会った人物を思い起こし、風呂上りに、自分のカメラを確認したが、その人物は写っていなかったので、記憶を頼りに、幾枚かの似顔絵をスケッチブックに残してから就寝した。翌朝、鳥の声で目が覚めた私が、カーテンを開けて目に入って来た光景に、少し驚きを感じながらその状況を見た。眼下には、深い谷底をゆっくり流れている川があり、朝の準備でもしているのか、30人から40人は乗れそうな、喫水の浅い木造の和船が船着き場に並んでいて、おそらくその船頭であろう人達が、長い竿でその船を移動していた。そんな光景を暫く見ていると、ジャズバーのメイド兼宿を手伝っている娘が、朝食が出来たと伝手に来たので二人で食堂に向かった。
「夕べは、ちゃんと眠れた?」と娘が声を掛けてきたので
「うん、なんか何時もよりぐっすり寝れたみたいです。」
「うん、それは良かった。変な夢でも見ると厄介だからね。」
「夕べは、暗くて此処が何処か分からなかったんですが、下の谷、川、は?」
「ああ、此処は、結構有名な観光地なのよ。あの船に乗って渓流を遡り、上流の獅子の鼻の様な形をした岩を見に行くの、今日行ってみると良いわ。どうせ、私も父の弁当を届けに行くから案内してあげるわ。家の父は、あそこで船頭をしているのよ。」との娘の説明に納得しながら私は食堂に入り、給仕をしてくれている娘と共に朝食を食べた。
「そう、後で宿帳を書いてもらうから。ところであなた、何処かの美大生?スケッチブック持ってたから。」
「ええ、今は休学してます。絵本作家してます。」と言ってからそばのポーチの中から名刺を出して、娘に渡した。
「絵本作家・・・トコミヤショウて、あなたが本人?」
「ええ、トコミヤはペンネームですけど。」
「私も、本持ってるわよ! 後でサインして頂戴ね。」と娘は、嬉しそうにご飯のお代わりをしてくれた。
「謎の作家さんなのよね、だったか。前からどんな人だろうと想像してたけど、若いわね、お幾つ?」
「二十一です。」
「私は二十四よ。」
そんな会話が切っ掛けで、私たちは暫く四方山話をしてから、船着き場に行く時間を示し合わせて、夫々の仕事に戻った。
船着き場は、けっこうな賑わいを見せていて、手際よく、観光客を船に乗せると、長い竿を巧みに操りながら、緩やかな川の流れに逆らう様に上流に向かった。途中の両岸にそびえる岸壁のいわれを面白おかしく話す船頭に客達が拍手をし、船を追ってくる鴨や錦鯉にえさをやりながら進むと、例の岩があった。船が着いてから少し砂地を進むと確かに、ライオンの鼻先と言われればその様に見える形の突起した岩が岸壁の中腹付近から飛び出ていて、客達はしきりにカメラのシャッターを切っていた。ひとしきりの散策の後再び船に乗り、下る最中に、両岸の岸壁に響くような歌声で、船頭が舟歌をうたった。その声は、川面を流れる様に何処までも伝わり渓谷全体を満たしていく様だった。私はその歌に感激しながらも、時の流れが目に見える様な景色の中で、船縁に身を任せながら、言葉には成らない感動を覚えたのであった。
「夕べは、ちゃんと眠れた?」と娘が声を掛けてきたので
「うん、なんか何時もよりぐっすり寝れたみたいです。」
「うん、それは良かった。変な夢でも見ると厄介だからね。」
「夕べは、暗くて此処が何処か分からなかったんですが、下の谷、川、は?」
「ああ、此処は、結構有名な観光地なのよ。あの船に乗って渓流を遡り、上流の獅子の鼻の様な形をした岩を見に行くの、今日行ってみると良いわ。どうせ、私も父の弁当を届けに行くから案内してあげるわ。家の父は、あそこで船頭をしているのよ。」との娘の説明に納得しながら私は食堂に入り、給仕をしてくれている娘と共に朝食を食べた。
「そう、後で宿帳を書いてもらうから。ところであなた、何処かの美大生?スケッチブック持ってたから。」
「ええ、今は休学してます。絵本作家してます。」と言ってからそばのポーチの中から名刺を出して、娘に渡した。
「絵本作家・・・トコミヤショウて、あなたが本人?」
「ええ、トコミヤはペンネームですけど。」
「私も、本持ってるわよ! 後でサインして頂戴ね。」と娘は、嬉しそうにご飯のお代わりをしてくれた。
「謎の作家さんなのよね、だったか。前からどんな人だろうと想像してたけど、若いわね、お幾つ?」
「二十一です。」
「私は二十四よ。」
そんな会話が切っ掛けで、私たちは暫く四方山話をしてから、船着き場に行く時間を示し合わせて、夫々の仕事に戻った。
船着き場は、けっこうな賑わいを見せていて、手際よく、観光客を船に乗せると、長い竿を巧みに操りながら、緩やかな川の流れに逆らう様に上流に向かった。途中の両岸にそびえる岸壁のいわれを面白おかしく話す船頭に客達が拍手をし、船を追ってくる鴨や錦鯉にえさをやりながら進むと、例の岩があった。船が着いてから少し砂地を進むと確かに、ライオンの鼻先と言われればその様に見える形の突起した岩が岸壁の中腹付近から飛び出ていて、客達はしきりにカメラのシャッターを切っていた。ひとしきりの散策の後再び船に乗り、下る最中に、両岸の岸壁に響くような歌声で、船頭が舟歌をうたった。その声は、川面を流れる様に何処までも伝わり渓谷全体を満たしていく様だった。私はその歌に感激しながらも、時の流れが目に見える様な景色の中で、船縁に身を任せながら、言葉には成らない感動を覚えたのであった。
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