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第15話 由紀の帰国
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あのテーマパークの出会い以来、薫の頭の中では、今ひとつ釈然としないものが有った。やはり同一人物ではないのか、騙されているのか、その疑問を解決してくれる事態が遣ってきていた。 由紀がイギリスから一時帰国するのだ、その連絡は、何時もの様に突然であった。
「今どこだ?」例によってそっけない連絡がきた。
「綾姉の、従兄弟のマンションに居るけど。」
「じゃぁ迎えに行くから、」
「おい、今日は何処へ行くんだよ。」
「由紀が帰ってくるから、成田に迎えに行く。」
由香の会話は、何時も必要最小限で、いろはにほへとやじゅげむでも覚えさせたら、少しは長い会話をしてくれるんじゃないかと、薫は常々思っていた。綾姉に礼を言って、朝食もそこそこに、薫は飛び出してから
外延の公孫樹並木の通りで待っていると、西園寺家の車が遣ってきた。
「おはようございます、薫さま。」執事の西岡が丁寧な挨拶をしてから、薫を車に乗せた。後部座席にはすでに由香がいて、何やら資料を見ていた。
「由紀ちゃんを迎えに行くだけじゃないのか?」
「ああ、その後一寸したイベントがある。」
「また、何処かに連れまわされるのか、それなら、母に連絡して置かないと。」薫の言葉を待っていたかのように
「それなら、既に連絡済だ。緊急連絡先と行動予定も伝えてあるから大丈夫だ。」薫は、それでもと思って、携帯を取り出して見ると、母からメールが入っていた。夏休みに入って、クラブの合宿やら夏の演劇講演の準備やらで、まともに家に帰っていなかった。つい、綾姉の所へ甘えてしまっていた。
母のメールには、由香のメールが添付されていて、その内容を見ながら、母に伝えるなら僕のところへも送っておいてくれよ。何だか、イギリスのスパイがロシア経由でアメリカの機密情報を見てるような気分だ。」と言うと 由香は、ニヤリと笑ってから
「うまい表現だな。薫とのことでは基本的に隠しごとはしたくない、特に薫の母上には。だから、そちらを優先させてもらったが、今後、薫の進言も配慮する。」由香らしい、口調で喋った。
「由紀とは初めてじゃないよな。」
「ああ、この間さんざ騙された、由香に成りすまして、僕の嫌いなテーマパークを連れまわされて以来かな。そう言えば、綾姉は未だに由紀ちゃんと由香の区別がついてないみたいだな。」
「薫は、ああ言うものはダメなのか?」
「ああ、車や電車、飛行機なんかは大丈夫なんだけど、アトラクション系の乗り物はダメだ。回転木馬でさえダメだから。うちの家族って、ああいう人工的な遊技が嫌いみたいだ。まだ父がいた頃、住んでるマンションの目の前にある有名な遊園地すら行ったことが無かったからね。」
「ふーん、そうなのか。」由香は事務的に答えてから
「今日は、身内だけだが由紀の歓迎会も兼ねてる。」
「身内?じゃぁ、僕は関係ないじゃない。」
「身内とは、薫のことだ。」
「なんで!僕は、由紀や由香の親族に成った覚えはないけど。」
「由紀のたっての願いなんだ。」
「他に誰が来るの?」
「うちら三人だけだ、他に西岡と芳山がいるが。」
「要するに、由香と由紀ちゃんで僕をまたどこかに連れまわしたいだけなんだろう。まったく、人をペットか縫いぐるみ位にしか思ってないんじゃ無いか。」
「そんな事は無いぞ、ペットや縫いぐるみは文句は言わないからな。」とまた由香の変てこな回答が返って来ていた。
成田で由紀を出迎えていると、由香と同じように、大好きなぬいぐるみでも見つけた様に、薫に抱きつき、かなり情熱的なキスをしてきた。空港と言う事もあってか、その光景はそれほど注目を集める行為ではなかったが、薫には十分刺激的であった。
「薫ちゃんは、星には詳しい?」と由紀が聞いて来たので
「それなりに、天文関係は趣味の一つだけど。」
「それなら、助かるわ。」
「プラネタリュムにでも行くのか?」
「本物の星を見に行くのよ。」と由紀が楽しそうに言ったので
「何処まで?」
「アルプスよ。」
「ええー。由紀は大丈夫でも、由香がダメだろう!」
「取り合えず、上高地のTホテルまで行くわ。そこなら由香も平気だから。」
「山に行くなら、それなりの支度をしなきゃぁ・・・」
「だから、まずは、山道具やね。イギリスでも山歩きは結構やってたのよ、低い山だけどね、遺跡の調査が主な目的でね。」そんなやり取りの後、三人は都内のスポーツショップによって必要な道具を調達してから、都内のホテルのレストランに向かった。由紀の帰国祝いとの事だったが、薫は、またロンドンへ帰るんだろうと思っていると、今回は、秋から日本で暮らすための、編入手続きでの一時帰国だと由紀が説明した。
「えー・・・、同じ大学なの!あの大学に神学科なんて有ったかな?」
「別に、今やっていることは、神学に限った事だけでは無いのよ。社会文化科学の一端だから、数学的な手法や、遺跡や古文書探索とかフィールドワーク的な活動もしていたから。」と由紀が説明してくれた。
「所で、何回生に編入するのかな。」と薫が聞くと
「私は、学部はもう卒業しているから、飛び級でね。だから大学院で取り合えず修士コースに入って、その後は博士課程へ行くかどうかは、その時次第かな。博士課程に入ると嫁に行けなくなるってジンクスがあるから、薫ちゃんが貰ってくれるなら安心だけど。」と言われて薫は唖然としていた。
「じゃーぁ、由紀は僕らの先輩になるって事。」
「さすがに、工学部に顔を出すことは無いだろうけど、あっそうだ、大型コンピューターを借りに行くことが有るかもしれないけど。」そんな説明に薫は、何だかまた面倒な事に成りそうだなと思った。
食事が終わって、由香達は、西園寺家に帰るかと思っていたら、
「三人で此処に泊まるから。」と由香が宣言した。
「なんで・・・?」
「一寸した儀式があるから・・・」と由紀が言い出し、寝室が二つとリビングがある、所謂スゥイートルームが容易されていた。
「皆で此処に泊まるの?由香とは慣れてるけど、由紀は平気なの?」と薫が言うと
「何、言ってるの、私は由香と一心同体よ。別に、体の全スペックは由香と同じだから気にすることは無いわよ。それより、早く儀式をとりおこなおうよ。私、時差ボケで一寸眠いから。」
「儀式ってなんだ?」と聞くと、由紀はバックからキルトで作られた曼荼羅の様な模様が描かれた、敷物を出し、薫と由香をその敷物の上に座らせて、
「はい、お互いに抱き合って。」そういって何かの葉っぱの様な物を頭の上から撒いた。
「これは、矢車草の花を乾燥させた物なの。」
「へーぇ、て、何のおまじない?」
「ああ、これは、男女が初めて結ばれた、結婚じゃなくて、日本流で言えば、Hした?、要するに童貞と処女を卒業した時に祝うケルト族の風習なの。私も、もう別れたけど、ロンドンの彼とそうなった時に皆に祝ってもらったのよ。」と説明を受けて、薫は赤面していた。
「由香、全部ばらした。」
「ああ、母様にも報告済みだ。」
「さあさあ、ここで、二人はキスをして、私が見届け人だから、なんならそれ以上の事をしても良いけどね。」
「ああ、由紀、由紀って僕らをからかっていない?」
「えー、そんな事はないよ。なんならロンドンの友達に聞いて貰えばわかるけど。」そこまで言われて、薫は観念して、由香とキスをした。由香は嬉しそうに再び薫にキスをしてきた。
「ハイ、とりあえずお幸せに、この儀式は互いの信頼を得るための儀式で、結婚の様な誓いを立てるものでは無いのよ。ああー私なんか彼とは別れちゃったし。」そう言うと、由紀は眠いからと言って、シャワーを浴びて寝ますと宣言して奥の寝室に消えていった。残された二人は、お互いを見ながら
「僕らって騙されてる?」と薫が言うと
「良く分からないが、楽しかった。」と言って由香は薫にすり寄ってきていた。
翌朝、爆睡中の由紀を丁重に起こすと、
「ああ、ゴメン、時差ボケで眠りこけてしまったわ。支度するから。」と言ってからシャワールームに向かった。皆で朝食を取ってから、このホテル独自のオプションサービスである、タクシー直行便で上高地へ向かった。
「今どこだ?」例によってそっけない連絡がきた。
「綾姉の、従兄弟のマンションに居るけど。」
「じゃぁ迎えに行くから、」
「おい、今日は何処へ行くんだよ。」
「由紀が帰ってくるから、成田に迎えに行く。」
由香の会話は、何時も必要最小限で、いろはにほへとやじゅげむでも覚えさせたら、少しは長い会話をしてくれるんじゃないかと、薫は常々思っていた。綾姉に礼を言って、朝食もそこそこに、薫は飛び出してから
外延の公孫樹並木の通りで待っていると、西園寺家の車が遣ってきた。
「おはようございます、薫さま。」執事の西岡が丁寧な挨拶をしてから、薫を車に乗せた。後部座席にはすでに由香がいて、何やら資料を見ていた。
「由紀ちゃんを迎えに行くだけじゃないのか?」
「ああ、その後一寸したイベントがある。」
「また、何処かに連れまわされるのか、それなら、母に連絡して置かないと。」薫の言葉を待っていたかのように
「それなら、既に連絡済だ。緊急連絡先と行動予定も伝えてあるから大丈夫だ。」薫は、それでもと思って、携帯を取り出して見ると、母からメールが入っていた。夏休みに入って、クラブの合宿やら夏の演劇講演の準備やらで、まともに家に帰っていなかった。つい、綾姉の所へ甘えてしまっていた。
母のメールには、由香のメールが添付されていて、その内容を見ながら、母に伝えるなら僕のところへも送っておいてくれよ。何だか、イギリスのスパイがロシア経由でアメリカの機密情報を見てるような気分だ。」と言うと 由香は、ニヤリと笑ってから
「うまい表現だな。薫とのことでは基本的に隠しごとはしたくない、特に薫の母上には。だから、そちらを優先させてもらったが、今後、薫の進言も配慮する。」由香らしい、口調で喋った。
「由紀とは初めてじゃないよな。」
「ああ、この間さんざ騙された、由香に成りすまして、僕の嫌いなテーマパークを連れまわされて以来かな。そう言えば、綾姉は未だに由紀ちゃんと由香の区別がついてないみたいだな。」
「薫は、ああ言うものはダメなのか?」
「ああ、車や電車、飛行機なんかは大丈夫なんだけど、アトラクション系の乗り物はダメだ。回転木馬でさえダメだから。うちの家族って、ああいう人工的な遊技が嫌いみたいだ。まだ父がいた頃、住んでるマンションの目の前にある有名な遊園地すら行ったことが無かったからね。」
「ふーん、そうなのか。」由香は事務的に答えてから
「今日は、身内だけだが由紀の歓迎会も兼ねてる。」
「身内?じゃぁ、僕は関係ないじゃない。」
「身内とは、薫のことだ。」
「なんで!僕は、由紀や由香の親族に成った覚えはないけど。」
「由紀のたっての願いなんだ。」
「他に誰が来るの?」
「うちら三人だけだ、他に西岡と芳山がいるが。」
「要するに、由香と由紀ちゃんで僕をまたどこかに連れまわしたいだけなんだろう。まったく、人をペットか縫いぐるみ位にしか思ってないんじゃ無いか。」
「そんな事は無いぞ、ペットや縫いぐるみは文句は言わないからな。」とまた由香の変てこな回答が返って来ていた。
成田で由紀を出迎えていると、由香と同じように、大好きなぬいぐるみでも見つけた様に、薫に抱きつき、かなり情熱的なキスをしてきた。空港と言う事もあってか、その光景はそれほど注目を集める行為ではなかったが、薫には十分刺激的であった。
「薫ちゃんは、星には詳しい?」と由紀が聞いて来たので
「それなりに、天文関係は趣味の一つだけど。」
「それなら、助かるわ。」
「プラネタリュムにでも行くのか?」
「本物の星を見に行くのよ。」と由紀が楽しそうに言ったので
「何処まで?」
「アルプスよ。」
「ええー。由紀は大丈夫でも、由香がダメだろう!」
「取り合えず、上高地のTホテルまで行くわ。そこなら由香も平気だから。」
「山に行くなら、それなりの支度をしなきゃぁ・・・」
「だから、まずは、山道具やね。イギリスでも山歩きは結構やってたのよ、低い山だけどね、遺跡の調査が主な目的でね。」そんなやり取りの後、三人は都内のスポーツショップによって必要な道具を調達してから、都内のホテルのレストランに向かった。由紀の帰国祝いとの事だったが、薫は、またロンドンへ帰るんだろうと思っていると、今回は、秋から日本で暮らすための、編入手続きでの一時帰国だと由紀が説明した。
「えー・・・、同じ大学なの!あの大学に神学科なんて有ったかな?」
「別に、今やっていることは、神学に限った事だけでは無いのよ。社会文化科学の一端だから、数学的な手法や、遺跡や古文書探索とかフィールドワーク的な活動もしていたから。」と由紀が説明してくれた。
「所で、何回生に編入するのかな。」と薫が聞くと
「私は、学部はもう卒業しているから、飛び級でね。だから大学院で取り合えず修士コースに入って、その後は博士課程へ行くかどうかは、その時次第かな。博士課程に入ると嫁に行けなくなるってジンクスがあるから、薫ちゃんが貰ってくれるなら安心だけど。」と言われて薫は唖然としていた。
「じゃーぁ、由紀は僕らの先輩になるって事。」
「さすがに、工学部に顔を出すことは無いだろうけど、あっそうだ、大型コンピューターを借りに行くことが有るかもしれないけど。」そんな説明に薫は、何だかまた面倒な事に成りそうだなと思った。
食事が終わって、由香達は、西園寺家に帰るかと思っていたら、
「三人で此処に泊まるから。」と由香が宣言した。
「なんで・・・?」
「一寸した儀式があるから・・・」と由紀が言い出し、寝室が二つとリビングがある、所謂スゥイートルームが容易されていた。
「皆で此処に泊まるの?由香とは慣れてるけど、由紀は平気なの?」と薫が言うと
「何、言ってるの、私は由香と一心同体よ。別に、体の全スペックは由香と同じだから気にすることは無いわよ。それより、早く儀式をとりおこなおうよ。私、時差ボケで一寸眠いから。」
「儀式ってなんだ?」と聞くと、由紀はバックからキルトで作られた曼荼羅の様な模様が描かれた、敷物を出し、薫と由香をその敷物の上に座らせて、
「はい、お互いに抱き合って。」そういって何かの葉っぱの様な物を頭の上から撒いた。
「これは、矢車草の花を乾燥させた物なの。」
「へーぇ、て、何のおまじない?」
「ああ、これは、男女が初めて結ばれた、結婚じゃなくて、日本流で言えば、Hした?、要するに童貞と処女を卒業した時に祝うケルト族の風習なの。私も、もう別れたけど、ロンドンの彼とそうなった時に皆に祝ってもらったのよ。」と説明を受けて、薫は赤面していた。
「由香、全部ばらした。」
「ああ、母様にも報告済みだ。」
「さあさあ、ここで、二人はキスをして、私が見届け人だから、なんならそれ以上の事をしても良いけどね。」
「ああ、由紀、由紀って僕らをからかっていない?」
「えー、そんな事はないよ。なんならロンドンの友達に聞いて貰えばわかるけど。」そこまで言われて、薫は観念して、由香とキスをした。由香は嬉しそうに再び薫にキスをしてきた。
「ハイ、とりあえずお幸せに、この儀式は互いの信頼を得るための儀式で、結婚の様な誓いを立てるものでは無いのよ。ああー私なんか彼とは別れちゃったし。」そう言うと、由紀は眠いからと言って、シャワーを浴びて寝ますと宣言して奥の寝室に消えていった。残された二人は、お互いを見ながら
「僕らって騙されてる?」と薫が言うと
「良く分からないが、楽しかった。」と言って由香は薫にすり寄ってきていた。
翌朝、爆睡中の由紀を丁重に起こすと、
「ああ、ゴメン、時差ボケで眠りこけてしまったわ。支度するから。」と言ってからシャワールームに向かった。皆で朝食を取ってから、このホテル独自のオプションサービスである、タクシー直行便で上高地へ向かった。
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