ジェシカの卵達

M-kajii2020b

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第2話 赴任前

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その部屋は、4人が悠々と眠れそうな、大きなベットがある主寝室と、ツインのサブ寝室、広いリビングから、駿河湾の海へとせり出した様な、小さなプール並みの浴室があり、眼下に海を見ながらその先に霞んだ大きな街が見えていた。夜景が綺麗だろうなと双子の弟の誠司は思っていた。
「海岸、砂浜は・・・・?」
「この下は、岩場の海岸で、左手にいけば海水浴が出来る海岸が有るけど、砂じゃ無くて細かい砂利なのよ。海水浴にはまだ早いけど、透き通った綺麗な海水で熱帯魚見たいな魚が沢山いたわ。」と早めに着いていた健司の妻となった梢が、周囲の探索結果を説明してくれていた。
健司は海外赴任前の6月に、婚約者の梢とささやかな結婚式をおこなった。都内の小さな教会で形だけの式を挙げ、新婚旅行がてらに、伊豆のコテージ風ホテルに向かった。そのホテルに何故か、義妹のしおりと双子の弟の誠司も招かれていた。しおりと誠司も、すったもんだの挙句、入籍だけは済まし、法律上は夫婦であったが、健司と違い、大学院へ進んだ誠司はまだ学生の身分でしかなかった。
「なんで、俺達まで呼ぶのかな?両親でも呼べば良いのに?」と誠司の言葉に
「さすがに、新婚旅行に両親は呼ばないでしょう。」としおりが
「でも、俺達だってとってもお邪魔な様な気がするけどな。」と誠司は、長めに休みは取ってきたものの、研究室と後輩の弥生の事が気がかりではあったが、健司夫婦とは、別行動で、昔お世話になった、海の家を管理してくれていた夫婦の所に立ち寄ってから、南伊豆の宿に向かった。健司の要請で少し大きめのレンタカーを借りて、久々の伊豆の山並みを走る誠司であったが、この所、K大学とSPring8の往復が多くなった誠司にとって、伊豆の道はかなりスリリングな状況だが、楽しい思いで運転する事が出来ていた。その一つには、助手席にしおりがいる事もあった。
「何だか、楽しそうね。」としおりが声を掛けると
「山道の運転は、其れなりに面白いし、それに、横にしおりが居てくれる事が何より嬉しい。おれの夢の一つがやっと叶ったと言った感じだ。」
しおりに健司が梢と結婚する事を伝えた時、しおりは
「ほー・・・」と言った後、
「あんた達が何時までもハッキリしないから・・・どんだけ私が苦しんだか・・・・でも、嬉しい・・・梢とも仲直りしなきゃ・・・で、誠司は・・・私をどうするつもり?」と説教に近い愚痴をさんざん聞かされてから、
「勿論、俺の嫁にする。」ときっぱりと言い切った。しおりは、誠司の胸に顔を埋めて
「やっと、一人のものになれる。」と言った。
義妹と双子の兄達の間にあった深い軋轢は、健司の梢との結婚と言う事で、一応の決着がつく形となり、健司の送別会も含めた、二組の夫婦の新婚旅行の様な状況となっていた。
しおりと誠司がコテージに着くと、既に健司と梢が到着していて、二人を出迎えてくれた。
「いいのか、一応新婚旅行なんだろう?」との誠司の言葉に、
「うん、一寸余興が有るのよね。でも、まじかで見ると、ホントによく似てるのね、健司と!」と梢が意味ありげに返答した。
「随分と、豪勢な宿だね。」との誠司の感想に
「うん、ある伝手から格安で紹介して貰ったのよ。」としおりが答えると
「しおりのプロデュースなのか?」
「そうね、二人の・・・ああ、二組の結婚祝いみたいなものね。」としおりが言った。
梢が、皆に珈琲を入れてくれて、夫々に雑談をしているうちに夕食となり、メインレストランで、魚と肉が出る準フルコース風の料理を4人で食べた。健司は、海外赴任の内容を話、ヨーロッパでほぼ半年、主に滞在するのは、スイスのジュネーブらしく、その期間中に各国を回るらしい、語学研修も兼ねているので、単独行動もあるとかの内容だった。その後、アメリカでは、USAを拠点に各国を回るらしかった。
「なー、それっって、スパイ養成所みたいだな?」と誠司が茶々を入れると、
「外交的な、情報取集も研修の一部みたいで、どうも、その中に偽情報が含まれていて、それを見破るかも課題らしいんだが。」
「うーん、ますます、ゼロ、ゼロ健司だな。」と誠司が言うと皆が笑い出し
「全然、似合わない。」と梢が、
「敵の、女スパイに騙されない様にね。」としおりが茶化した。食後、夫々がホテルの施設や周辺を散策後、部屋に戻ると、しおりと梢に促され、誠司と健司が大きな浴槽に入り、遠くの夜景と、水面に映し出された月を見ながら、ゆったりとした時間が過ぎ去っていた。
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