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漫画家を目指す、1人と1匹

タヌキとクリスマス 4

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 ・・・むくり。
 夜中に俺は身体を起こす。夜中と言っても電気は消さないから部屋は明るいんだけどな。
 よしよし、朱花は隣で寝てるな。・・・なんで、美少女のまま俺に抱きついてるんだよ!
 危ない危ない、反射的に頭を叩くところだった。
 起こさないようにと、そーっと身体を抜いていく。はー、無防備な寝顔かわいい、ばか、ダメだ! 今大きくなったら当たって起こしちゃうだろ!!

 ・・・なんとか脱出に成功した。
 俺は鞄を開けて中から大量の黒い靴下を出していく。それを朱花の頭のある上の所から床へと順番に配置していく。

「なうー? 油おじさん?」

 しまった! このタイミングで朱花が起きた!
 黒靴下を並べる俺を瞳に映した朱花がビクッと震える。

「ど、泥棒なうな!?」

「なんでだよ!」

 思わずツッコんでしまった。
 なんで靴下いっぱい持った俺を泥棒だと思ったんだよ。

「油おじさん、何してるなうな?」

 眠そうに眼を擦る朱花に聞かれて俺は困った笑顔を浮かべる。

「何をしてると思う?」

「・・・油臭いおじさんが、油臭い靴下を・・・泥棒なうな?」

「だからなんでだよ! あと、この靴下は新品だから! ちょっと待ってろ。」

 俺は朱花を放置してそのまま靴下を配置していく、廊下に出て玄関の前まで靴下の道ソックスロードは続いた。

「よし、完成したぞ」

 俺が部屋に戻ると朱花が眉を歪めて首を傾げている。

「これは・・・足跡を偽装して疑似密室を作る奴なうな! 金田一少年で見たなう!」

 ねーよ! こんなトリックなかったよ!

「・・・サンタさんがプレゼントを持って来てくれたんだよ。朱花が良い子にしてたから」

「・・・」

 やめろ、かわいそうなモノを見る目で俺を見るな! お前が途中で起きちゃうからおかしな事になったんだぞ。

 朱花が一番近くの靴下を持ち上げて匂いを嗅ぐ、中が丸く膨らんでる靴下だ。

「確かに新品なうな。スンスン、チョコなう」

 正解! 朱花が靴下をひっくり返すと出て来るのはバラ売りしている丸いチョコ菓子、個人的に俺が好きなやつだ。

「・・・」

 やめろ、なんとも言えない目で俺を見るな!

「ほら、まだまだあるぞ」

「な、なうな」

 困った顔で朱花が床の靴下を拾う。
 すまない、夜中にそんな顔をさせてしまって本当にすまない。

「・・・」

 五回連続で靴下から出てくる駄菓子に朱花がまた俺の顔を見る。
 俺は思わず目をそらした。
 ・・・おかしいな? いい考えだと思ったんだよ?
 だってときめかない? クリスマスの日に起きたら靴下で道が出来てて色んなプレゼントが入ってるの、楽しくない?
 あれか、再利用するために靴下を全部黒にしたのが悪かったのか?

「なう! メモ帳なう?」

 そう! そこからは文房具ゾーンになるんだ!
 メモ帳、シャーペン、消しゴムと俺が一番かわいいと思った黒猫がデザインされたシリーズで統一してある。
 朱花はそんな黒猫を見て目を尖らせる。

「黒猫・・・あたしの最大のライバルなうな」

 なんでだよ! なんでこのタイミングでそんな設定が出てくるんだよ!

 そして靴下は再び駄菓子ゾーンへ。
 いいから一回一回俺を切ない目で見なくていいから。

「箱なう!」

 遂に朱花はメインステージに到着した。
 出てきたのは綺麗にラッピングされた箱、中身はゲームソフトだ。

 朱花は一度キラキラした目で俺を見た後、ぴょんと次の靴下の前まで跳ぶ。
 次の靴下からも同じ箱が出てくる。
 そして最後は本体だ! これもラッピングして貰った箱を無理やり靴下にねじ込んだ。

 めっちゃキラキラした目で俺の事を見てくる。
 なんなら、無い筈の尻尾がぶんぶん振るわれてるのが見える気がする。

「開けてみてくれ」

「なうな!」

 丁寧に包装を開けていく朱花。

「・・・」

 あれ、気のせいかな? なんか今一瞬朱花が白黒カラーになったみたいに見えた。
 ゲーム機本体にはコメントがなく朱花がソフトの箱を開けていく。
 ・・・無言のまま三箱を開け終えた朱花が顔を上げる。
 あの、そのポカンとした表情はなに?

「油おじさん・・・アクセサリーとかではないなう?」

「え?」

「え?」

 えっ? そんな発想なかった! 
 だってクリスマスと言えばゲームだろ!?
 ・・・アクセサリー? そういうのが嬉しい年ごろなの?

「油おじさん・・・」

 えーーー、朱花がガッカリ感を凄い出してる!!

「あれ・・・朱花はゲームとかしない?」

 俺が恐る恐る訊ねると朱花がふーっと溜息を吐く、その表情は不思議と笑顔だ。

「そんな事ないなう、好きなうな。ありがとうなう」

「お、おう」

 改めて満面の笑みで言われるとそれはそれで照れる。
 聖夜に舞い降りた天使って感じ、笑顔からは凄い優しさが滲み出てる気がしてこちらこそありがとうって言いたくなる。

「なうな、あたし何も用意してないなう」

 俯き唇を尖らせる朱花、俺は笑ってその頭に手を置く。

「別に何もいらないって。一緒にいてくれるだけで人生で一番幸せなクリスマスだしさ」

 素直にそう思う。
 本当は小学生の頃、ゲームボーイを買ってもらったクリスマスも幸せだったと思うんだけどな。あの頃は今よりも考える事が少なくて新しいゲームがあるだけで幸せだった。
 朱花にもそういう気持ちになってもらえたらと思ったんだけど、アクセサリーか。次の機会の為に覚えておこう。
 ・・・俺のあげたアクセサリーを嬉しそうに朱花が付ける、・・・あれ、それって凄い幸せじゃない? なんか今からでも買いに行きたくなってくる、夜中だけど。

 俺が一人考えを暴走させているとじとーっと見られていた。

「・・・油おじさんのくせになう」

「なんだよ?」

 俺、今そんな事言われるような事したか?   そんな変な顔してた?
 なんでもないなう、って朱花が俺にくっついてくる。
 やめろよ、線の細い身体の柔らかさが伝わって来ちゃうだろ。そういう感じのクリスマスプレゼントはズルいと思う、すぐに俺のクリスマスツリーが・・・。

「早速するなうな」

 朱花がそう言ってゲームの箱を開けていく。・・・この距離間で一緒に遊ぶの? 危ない、俺の下半身スレスレの所を朱花の肘が!

「明日休みだから別にいいけど、眠くないのか?」

 俺が聞きながら一歩分離れると、朱花はその距離をすぐに埋めてくる、いやなんか更に近くなってない? 肩とかもう俺の胸にめり込んでない? 俺と同じシャンプーの筈なのになんでこんなにいい匂いなんだろ、実は俺の髪の毛もこんなにいい匂いしてるのか?

「眠くなるまでするなう。・・・今日はカップルの日なんだからくっつくなうな」

「・・・お、おう?」

 いや、別に俺達カップルとかじゃないだろ? 目の前にある朱花の横顔が赤くなってるせいで俺はちゃんと答える事が出来なかった。
 っていうか、絶対に俺も赤くなってる!

 ゲームをやり始めたら面白くてすぐに熱中した。
 これは昔友達と遊びまくった対戦ゲームなんだよな、凄い懐かしい! 楽しい!
 俺はかなり経験値がある筈なのに朱花と互角という、でもだからこそお互いに一喜一憂しながら楽しめた。

 途中、靴下の中から出てきたお菓子を二人で食べながら外が明るくなるまで遊び続けた。

「ほらな、プレゼントはゲームで良かったろ?」

 そろそろ寝直すかというタイミングで自信満々に俺は言う。
 まー、俺も一緒に遊んでるからプレゼントというか、普通に買ってもよかった感は否めないけど。

「楽しい事は認めるなう! でもカップルへのプレゼントは違うなうな!」

 ジト目の朱花が俺の胸に頭をぐりぐりしてくる。ばか、やめろ! 俺はそれで興奮する変態なんだぞ! っていうか、今日はカップル押してくるな。

「いや、別にカップルじゃないだろ・・・?」

「!!・・・夫婦でもなう!」

 いや、もっと違う!!
・・・なんでそんなに真っ赤になってるんだよ!

 俺が逃げる様にベッドに潜り込むと、朱花が後を追ってくる。いや、狸の姿になりなさい!
 ・・・しかし、夫婦? 夫婦か。
 ありえもしない幸せな言葉に思わず笑ってしまう。
 夫婦かー。

 横になった俺の胸の上でバタバタしてる狸を優しく撫でる。

「大好きだよ」
 
 声をかけると途端に朱花は大人しくなった。

「・・・みゅう、あたしも・・・みゅう」

 ははは、ありがとな。


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みんなの感想(1件)

ピーチ・ロゼッタ

なるほど、こういう感じか。
主人公の歳なりの話し方、書き方、妙にリアルで良い。
自分は中々こんな軽い感じで書かないからすごく新鮮な感じ。
ありがとう。読ませて頂きました。

解除

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