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必殺の大剣と赤の魔弾
しおりを挟む「内装も木造でオシャレだったけど、外から見てもペンションみたいでかわいいね」
自分達がしばらくの間お世話になる建物を外から眺めて花火が感想を口にする、「そうだな」と頷いてから大地がぐるりと周囲を見渡す。
「一階建ての建物ばっかりで全部木造、なんか、異世界っていうより避暑地とかそんな感じだな」
「それは確かに、でもそもそも異世界とは違うでしょ? ・・・あの世? ここはあの世?」
花火が自分で口にしながら、あの世ってなんだっけと額を押さえる。
「俺はここは俺達みたいな人間の為に作られた世界って聞いたけど、能力選ぶ時に」
「・・・なんか、凄い話ね。 それじゃあの歩いてる人達は?」
首を傾げる花火の先にいるのはこの世界の住人と思われる人達、異世界風ではなくかといって現代風でもない、ノスタルジーを感じる明治時代辺りの白黒映像で残っていそうな人達がフルカラーで生活している。
「それはよく分からん、魂がないとか聞いた気がするけど、外から見る分には普通だしな」
「おい、君ら二人はどこに行くつもりなんだ?」
先頭を首を傾げながら歩く花火と大地の二人を大剣を腰の後ろに装備した小太郎が制止をかける。
「? どこって、冒険者ギルドを探すんでしょ?」
「探すというか、スマホみたいな端末を持ってるだろ? マップ機能が入ってるぞ、ほら」
言いながら小太郎が花火の前に自分の端末を突き出す。
「多分、この交差した剣に角が二本生えたマークが冒険者ギルドだと自分は思う」
「それっぽいけどなんてシュールなマーク」
「僕は鬼ヶ島のマークかもと思うんですけど」
「なんで、街中に鬼ヶ島! ビビんなよ、とわ」
首をすぼめるとわの背中を大地が笑いながら叩く。
「絵面が真面目っ子に絡むヤンキーなんだけど、世界観に馴染まないわ」
「誰がヤンキーだよ、誰が」
「あなたよ。 どうして剣と魔法の世界でそんな格好なの?」
茶髪のオールバックに黒のライダースジャケット、ジーパンに革靴姿の大地は腕を広げる。
「格好いいだろ、俺は仮面ライダーが好きなんだよ」
大地はそう言って整った顔に満面の笑みを浮かべる。
「僕も、仮面ライダー好きです」
「お、とわ、話せるな。 どのシリーズが好きだ?」
ヒールを履いた花火と同じくらいの身長のとわと、そのとわよりも一回り小さな大地が楽しそうに話しながら歩いていく。
「道は合ってるの?」
「大丈夫、道を外れたらちゃんと言うよ」
端末を見ながらそう言う小太郎に花火が頼りにすると一つ頷く。
「色々便利な道具なのね。 ステータスブックって聞いてたからステータスを管理するだけだと思ってた」
「後ででもちゃんと見といた方がいいぞ、アイテムとかも入れられるし、財布の代わりにもなるらしい」
「この世界観でキャッシュレスってなんなのかしら」
「まー、いいんじゃないか? 金貨やらをジャラジャラ持ち歩くよりはずっと楽だろ」
笑う小太郎に自分が金貨の入った袋を持ち歩く姿を想像して花火も笑う。
「そうだ、パーティーもこの端末で組むんだよ、大地君、とわ君、経験値と獲得金はみんなで等分の設定にするぞ、パーティー申請送るから、・・・おっと、リーダーは誰がやる?」
「リーダーは小太郎さんでいいと思うぞ、一番頼りになりそうだ」
「まー、設定だけのリーダーだから構わないけど、なんで自分にはさん付けなんだ? とわ君は呼び捨てなのに」
小太郎の言葉に振り返る大地が肩をすくめて唇を尖らせる。
「なんとなく、かな。 年上の感じがする」
「あー、それは分かるかも。 私も小太郎さんって呼んじゃう!」
手を叩きながらケラケラ笑う花火に困った顔をする小太郎。
「やめてくれよ。 自分でもなんだか一番上の気はするけど、一応はみんな15才になってるんだからな」
「そうだね、みんな15才なんだもんね。 青春ってのをこれから出来たりするのかな。」
空を見上げていた花火は自分に視線が集まっているのを感じて慌てて首と手を振る。
「待って待って、違うの今のなし! そもそも私はまだ青春って呼べる若さだったの! 元々!」
「それはそれで切なくなるからやめてくれよ」
頰を赤らめる花火に対して大地が寂しそうに息を吐く。
ここにいるって事はみんなが一度死んでいるのは分かっている、それでも自分より若くして亡くなっているというのは苦しく思う。
「えっと、そっか皆さん・・・本当は15才じゃないんだ」
自分の隣で今気付いたみたいに言葉を零した少年にハッとする大地。
自信がなさそうに少しオドオドした白いローブの少年、見た目は同年代の筈なのに幼さを感じる彼は。
自然と大地はとわの頭をくしゃくしゃと撫ぜていた、自分よりも背の高い少年の頭を。
「えっと?」
「なんでもない! サクサク行くぞ」
バンととわの背中を叩いて大地は一人足を早める。
『・・・』
花火も大地も小太郎も改めて自分達が死んだ事を認識する、そして、こうしてもう一度生きられる事を幸福に思う。
とわだけは、自分と同じ15才で死んだ少女を思った。
(そらさんもこの世界にいるのかな? いつか会えるのかな? 僕ももう諦めないよ)
静かに拳を握り記憶の中で笑う彼女を想う。
交差した剣に角の生えたマークは想像通りに冒険者ギルドだった。 角が示す様にそこは鬼が運営する組織で、異世界モノの名物とも言える美人受付嬢は全て鬼の方々という。
角が生えていても綺麗で笑顔の素敵なお姉さん方の筈なのに、何故かトキメキより恐怖が勝るなと小太郎は苦い顔をした。
そして4人は入場料を払ってダンジョンの中に。
この世界でダンジョンは全てギルドが管理している、ダンジョンでは倒されたモンスターは消えそれぞれの端末に自動的にお金が入るし、たまにアイテムが落ちる。
ダンジョン内でHPが無くなるとギルド内の医務室に転送される、その際ダンジョンで手に入れたアイテム、お金は無くなってしまう、パーティーメンバーがギルド内で売ってる高額の回復アイテムを使う事で医務室に行く前に復活させる事も可能。
ダンジョンは50階層まで、5階で中ボス、10階毎にボスがいて倒すとギルドに転移で戻る事も出来る。 ダンジョンからの帰還アイテムはやはり売店で売っていて、これは初回サービスでそれぞれが一つずつ貰った。
ダンジョンを制覇すると称号を貰えてスキルやステータスが強化されるらしい。
洞窟型のダンジョンを歩く4人の前に最初に現れたのはモンスターの定番、ゴブリンと思わしきモンスターが三匹。
全身が小汚い緑色でサイズはかなり小さく100センチもない、人型ではあるのだが手足が異常に細く、腹だけが奇妙に膨らむ、顔はコウモリに近いか、大きく避けた口に歪に並ぶ歯、潰れた鼻に丸くて黒い瞳と大きな耳、頭部には抜き忘れた雑草の様に白い毛がチョロチョロと見受けられる。
三匹の腰にはそれぞれ色も形も違う布が巻かれていて、手にはやはりそれぞれ形の違う汚れたナイフ。
「ひゃっ!」
ゴブリンの口から垂れた涎が地面に落ちた時、とわが小さく悲鳴を上げた。
4人の隊列としては拳を構えた大地と大剣を握った小太郎が並んで前衛、少し離れて花火がいて、その後ろにとわという、とわにとってはかなり情けないものだった。
大地も小太郎も花火だってモンスターと戦う覚悟はしていたつもりだった。
出来ていなかったのは自分が攻撃するという覚悟で・・・
ゴブリンが甲高い奇声を上げ細い足を不恰好に動かして走り出した時、誰からという訳でもなく同時に悲鳴を上げて逃げ出した。
誰もが一瞬で頭の中は真っ白になって
隊列が反転したのだから、先頭を走っている筈のとわはあっという間に遅れ出して、大地と小太郎の間を抜けて最後尾に。
「あうっ!!」
『!!?』
そして足をからませて盛大に転んだ。
痛みに驚きながらも上げたとわの顔の目の前には自分に今にも覆い被さりそうなナイフを持った化け物、とわが目と口を大きく開いて息を止めた時、
ザシュッ!!
振り返る勢いそのまま倒れこむ様に小太郎が片手で振り下ろした大剣が、ゴブリンを斜めに斬り裂いた。
とわの顔に濃い緑色の血が降り注ぎ二つになったゴブリンの身体と共にすぐに消えた。
足を止め顔だけ向けてその光景を見ていた花火は見開いていた瞳を尖らせて歯をくいしばる。
「前を開けて!! 起動しろ! レッドロール!!」
二匹残るゴブリンに向けて黒い手袋に包まれた両手を指を伸ばして突き出す。
計10本の指の先に現れる小さな緑の魔法陣、魔法陣の真ん中を緑の光が円を描いて小さな火の玉が真っ直ぐにゴブリンに飛んでぶつかる、驚かせるくらいにしか効果のないビー玉サイズの火の玉はしかし10本の指から延々と打ち出され続ける。
何かをダウンロードする様に緑の円が描かれる度に放たれる火の玉にはゴブリンも足を止めて顔を庇うしかない。
目の前の状況が自分にとって優勢なものだと、ようやく認識した花火は忘れていた呼吸を荒く再開する。
魔法陣の真ん中を走る円がペースを遅らせる、それに伴い少し大きくなる魔法陣、それぞれの指から順番に飛び立つ火の玉はピンポン玉サイズまで大きくなりゴブリンを襲い続ける。
身体の前面を真っ黒くしたゴブリンが力尽きて姿が消える。
花火は呆けた顔で地面に膝から落ちて、倒れたままのとわは大声で泣き出した。
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