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黒い剣と紫の爆弾
しおりを挟む死神が持つ様な大きな鎌を携えて現れた紫色の少女。
彼女が姿を見せた廊下側に面して座っているのは四人、順番に黒髪の美少女、大剣を所持するコートの男にライダースジャケットの男、そして兵士の人形を抱いた少女。
その中で一番早く、いや、唯一動き出したのは黒髪の乙女だった、飛び出す様な勢いで椅子から離れる。
紫髮の少女が奇声を上げた。
「誰でもいい!! みんな、小鳥の経験値にぃ!!」
「マイブラック」
柄の部分だけでも小柄な少女の身長よりも長い大鎌が一度に複数の命を摘み取らんと薙ぎ払われ、黒髪の少女の両手に現れた二本の黒い剣がそれを受け止め、弾く。
「えっ!!?」
予想していなかった抵抗に驚き僅かに硬直した乱入者の少女、一方の黒髪の少女は一瞬の戸惑いもなく踏み出し敵と見た少女の腹を容赦なく蹴り飛ばした。
ここにきてようやく、自分を斬り裂く筈だった大鎌を認識した男二人は恐怖に慌てて椅子から転げ落ち、テーブルの向かい側にいたとわは悲鳴を上げながら顔を手で覆った。
「なるほど、これが私のスキルって事ね。 この速さで剣が作れるなら悪くない・・・かな?」
本来パニックに陥るべき事態をなんなく対処した少女は手の中の剣を眺めながら、初めて使ったスキルを自分なりに評価する。 それが済んだ少女は倒れ腹を押さえながらえづく敵対者に剣を向けた。
「それで? あなたは何? それと次私に攻撃する意思を見せたら処分するから」
感情を見せない黒い瞳で倒れた少女を見つめ冷たく言い放った黒髪の少女、言われた側の少女は汚れた口元をドレスの袖で拭いながら睨む。
「コロスっ!!」
「さよなら・・っ!?」
自分の言葉を実現するべく踏み出そうとした黒髪の少女は足が地面から離れずに体勢を崩し床に両手をつく。
「アハハハハ! 死ねーーっ! きゃんきゃんボム!」
紫髮の少女は横たわったまま自身のスキルを発動する、彼女の両サイドに現れるのは丸くデフォルメされた豚のぬいぐるみ二つ、そのぬいぐるみは未だ足を床に固定された黒髪の少女に向かって突進しようとして、投げ放たれた二本の黒い剣に貫かれる。
そして爆発。
小規模だが人に直撃すれば致命傷を免れない二つの爆発に挟まれ、紫髮の小さな体が爆風に揺れる。
「動く爆弾でしょ? あなたのスキル、中々いいわね」
紫髮がダメージを受けたからなのか、足の自由を取り戻した黒髪が立ち上がり身体を丸めて爆風を耐えた少女を見下ろす。
「マイブラック」
黒髪の少女の手に再度現れる黒剣、振ろうとした腕を第三者に止められた。
「悪いんだけど、女の子が斬られる所なんて見たくないんだよね」
「・・・」
止めたのは桃色の髮の美少女。
黒髪と桃色髮の視線がぶつかる短い時間、倒れていた紫髮が低い姿勢で駆け出す。
「っ、またっ!」
「うわっ!?」
「きゃんきゃんボム!」
追いかけようとした二人の足が床に縫い付けられた様に動かなくなる、バランスを崩す二人に置き土産とばかりに先ほどのものより大きな豚のぬいぐるみが襲いかかり、桃色髮の腕を振り払った黒髪が崩れた態勢から投げた剣をぶつけ爆発させる。
「許さない! お前は絶対に小鳥が殺す!」
爆風に混じり耳に届くのは紫髮の少女の捨て台詞、黒髪の少女が爆発から顔を庇った腕を下ろした時には紫髮の姿は扉から外に出た後だった。
「・・・」
「ごめん、私のせいで逃げられた」
尻餅をついていた桃色髮の少女が黒髪の少女を見上げて謝る、その姿を見た黒髪の少女はゆっくりと息を吐くと強張っていた身体の力を抜いた。
「別に構わない、本当に私を狙ってくるなら次は仕留めるから」
「いや、怖っ。 綺麗な顔して怖っ!」
淡々と言い放つ黒髪に対して桃色髮は両手を上げてリアクションを取る。
「・・・ただ、正義の味方を気取りたいなら私には近寄らないで。 嫌いだから」
「いや、そんなつもりは無いけど」
黒髪の少女は首を動かして否定する桃色髮の少女から視線を外すと割烹着姿の鬼に向ける。
「これ以上話がないなら私は行くわ。 自由にしていいんでしょ?」
声をかけられた四鬼は少し呆けたがすぐに笑顔を取り戻すと頭を下げる。
「どうぞご自由にしてくださいまし、夕食は準備しておきます」
「分かった、楽しみにしておく」
一度全体を見回した後、興味を持てなかった様に黒髪の少女は外に出て行った。
「怖かった、なんだったの、今のは」
席を離れ壁側に避難していた花火はようやく気を抜けたとその場にへたり込む、右手には横にいるとわのローブの端を掴みながら。
「・・・僕、何も出来なかった」
悔しいのか、怖かったからなのか、今にも泣き出しそうなとわの顔を見ながら花火は頰を膨らませる。
「仕方ないわよ、私だって、みんなだって動けなかった。 いきなりであんな風に動ける方がおかしいのよ」
「・・・部活とか、してたのかな?」
「いや、部活じゃ無理でしょ」
桃色髮の少女は立ち上がると周りを見る、爆発で床が焦げているし色々と家具は転がっているしと中々ひどい。 人もだ、兵士の人形を抱えて泣きじゃくる少女に、腰が抜けて動けなそうな男達、壁際で立ち尽くす白いローブの少年とその横で座り込んだ金髪ツインテの少女、一番キツイのは謎のメイドの腰に縋り付く眼鏡男子。
前途多難な異世界生活だな、そんな風に思いながら桃色髮の少女は事情を知るだろう鬼を見る。
「今の子は何だったの?」
「前回こちらに来た子です。 ギルドでセーブしていなかった様で死亡時の復活場所がここのままだったんですね。 そして、丁度悪いタイミングで死んでしまった」
「なるほどね。 死んだ、殺された直後だったからあんな感じだった訳か。 で、あんたは新人がいきなり襲われても助けてくれたりはしないんだね」
「はい、私の仕事ではありませんので。 それに、早いうちにこの世界での死を体験できるのは悪くないと思います」
いい笑顔でそう言われてしまった桃色髮の少女は鬼という存在に怖さを感じて口元を引きつらせる。
「そ、そう。 それで私達はこれで解散でいいの?」
「解散で構わないですよ。 最初だけでも皆さんでパーティーを組んでダンジョンに潜ってみるのがいいと思いますけど」
「ふーん、パーティーを組んでみんなで冒険ね。 私はパスだけど」
桃色髮の少女は元の席に戻ると頬杖をついて目を細め、次に動き出した人物を見てとってギョッとした。
「・・・行こう」
メイドの腰にしがみついていた眼鏡男子が立ち上がるとメイドの手を引きながら歩き始めたのだ。
向かう方向的に自室に戻る様だと理解して全員が呆気に取られた表情で見送る。
「・・・」
それで逆に冷静になったのか残ったメンバーはゆっくりとだが各々の席に戻る。
「えーとだな。 どうなんだろう、自分的にはみんなでダンジョンに潜ると言う話はありがたいと思うんだが」
先陣をきって話し始めたのは大剣持ちの少年、15歳という年齢設定の割には目に疲れを感じる細身の男。 正直自分はさっきのでビビってしまったと締めくくる。
「俺も、賛成だな。 戦う為の能力があってもいきなり戦える訳じゃ無いだろ、というか俺もビビった。 こんな事がこれからもあるなら早めに戦える様になりたい」
話に乗ったのは茶髪のオールバックの少年、身長は低めだがキリリとした女性受けの良さそうな顔立ちをしている。
「私も参加したいわ。 ずっとパーティーを組むって話ではないんでしょうし、一度はみんなでダンジョンを見学に行くべきでしょうね」
金髪ツインテの花火も軽く手を上げながら発言し隣のとわに視線を送る。
「えっと、・・・僕も一緒に行きたいんだけど・・・足手まといになるかも」
おずおずと気弱な発言をしたとわに花火がキョトンとする。
「みんな初めての事なんだしそういう心配はしなくてもいいと思う。 戦う為の能力はみんなが公平にもらってるんだし」
「えっと、僕が貰ったのは戦うのには使いづらい能力だから」
「えっ?」
花火は思わず言葉を失う、花火自身が能力を貰う際、しつこいと感じる程に戦うのに必要な能力を選ぶ様にと言われていたのだ、そんな状態で戦えない能力を選んだというのは信じられなかった。
「まー、別にいいんじゃないかなと自分は思うよ。 この先は分からないにしても今回はみんなで見学気分でさ」
「俺も別に戦えないのが混じっても構わないぜ。 人数が多ければフォローも出来るだろうし、こんな状態だから助け合いってのも大事にしたいしな」
大剣持ちの男が余裕を感じさせる笑顔で言って、オールバックの男も爽やかな笑顔で同意する。
「そうね、そうよね。 なら君は私の近くにいなさい、私が守ってみせるから」
「えっと、ありがとう。 僕も出来ることは頑張るから」
小さく主張する胸を張って宣言した花火にとわが柔らかく微笑む、気分を良くした花火は更に胸を張った。
「うん、それでいいのよ。 それであなた達も行くでしょ?」
自分に話を振られた桃色髮の美少女はゆるゆると首を動かす。
「私はパスだね。 連帯行動とか嫌だし、戦うつもりもない」
「・・・私は、怖いの嫌です。 行きたくない」
最後に残った少女も胸に抱いた兵士の人形に顔を埋めて拒否をする。
「あなた達・・・」
花火は非難ではなく困惑に表情を困らせる。 大剣持ちの男が「まーまー」と宥める様に腕を振る。
「最初は自分達四人で行けばいいよ。 ダンジョンの様子を見て大丈夫そうなら改めてみんなで行ってもいいんだし。 それより自己紹介だけでもしとこうよ。 自分は花房小太郎、小太郎でいいから」
「小太郎さん、俺もあんたの意見に賛成だ。 岩本大地、俺も大地で頼む」
男性陣二人の名前にうんうんと頷いて花火が手を上げる。
「小太郎と大地ね。 私は北条・B・花火、よろしくね」
「B? えーと、日本人じゃないのか?」
生前に聞いたことのない響きの名前に大地が首を傾げる、花火はまた胸を張った。
「純度100パーセントの日本人よ。 アルファベット入りの名前に憧れてたから変えたのよ」
「そ、そうなのか、それは楽しそうだな。 まーよろしく頼むよ」
「えっと、文弘永遠です。 よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げるとわの横で桃色の美少女が軽い感じに右手を上げる。
「よろしく、とわ君。 私は結城かんな、呼び方は任せるよ、一応よろしくね」
「一応って、あなたは本当にやる気ないのね」
「ごめんね。 悪いんだけど、人には色々事情があるんだよ」
軽そうに笑うかんなの認識を絶世の美少女から残念美少女に改めつつ花火は溜息を一つ。
「はー、別にいいけど。 最後はあなたね」
自分の番に人形から少しだけ顔を上げて小さく口を動かす。
「・・・深階冬流です。 よろしくお願いします」
ダンジョン組は外に出かけ冬流は自室に戻り今ではかんなと鬼の四鬼だけがその場に残った。
「何か飲みますか? かんなさん」
「ただ? アイスコーヒーとかある?」
「ありますよ、これから一カ月間は飲み食い無料です」
「それはありがたいね。 どっかにタバコって売ってるかな?」
「売ってますけどダメですよ、皆さんは一応15才からの再スタートなんですから」
「中身は32才のおっさんなんだけどね」
禁煙なんて出来るかなと大きな溜息を吐くかんなの耳に嫌な音が届く。
それはベッドが軋む音と、聞きたくもない男の喘ぎ声。
「最悪だ! あの野郎始めやがった!」
部屋に戻っていた眼鏡男子が自身の能力だろうメイドと事に至ったのは簡単に想像がつく。
そんな能力の選び方ってなんだよと、自分の選んだ能力を棚に上げてかんなはがくりとテーブルの上に突っ伏したのだった。
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