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番外編
毒づきがちな公爵は妻を甘やかしたい
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屋敷が静まり返る深夜、およそ人が起きているとは思えない時間にも関わらず、我が家の老齢の家令はいつもと変わらない調子で俺を出迎えた。
「おかえりなさいませ、旦那様。」
「あぁ、こんな時間に済まないな。」
いい歳を迎えたこの家令をこんな時間まで働かせる事を申し訳なくは思う気持ちはあれど、恐縮すれば彼のプライド傷付けるだけだと言う事は経験済みなので、こちらも普段通り振る舞った。
「奥様も日付が変わる頃までは起きてお待ちだったのですが…。」
俺からコートを受け取りながら、家令がいつもの様に告げた。
「サラサには…先に休むよう伝えてくれ。」
「もちろん、再三伝えておりますとも。」
ここ数日間はテンプレートとなっているやり取りだ。
そもそもつい先日結婚式を迎えたばかりの俺が、愛する妻にも会えずに、こんな深夜まで仕事に追われているのは、あの腹黒皇太子のせいである事は間違いない。
「結婚したての者をここまでこき使うとは、上の者の資質を問われますよ?」
今日も絶妙に帰宅が難しいであろう量の仕事を押し付けられた際にそう伝えれば、皇太子はとてもいい笑顔で笑っていた。
「ウォルター、お前はあえてと言う言葉を知っているか?まぁ、私やお前が思っていたより、エリオットが執念深かったという事だ。」
エリオット殿下…お前の仕業か。
先日まで私の妻であるサラサに思いを寄せていたこの国の第二王子の顔が浮かぶ。
彼も大人しそうに見えるが、この皇太子と同じ血が流れているんだ。腹黒い事は請け合いだった。
この絶妙な仕事量といい、臣下の者に任せる事は難しいような決定権の必要な仕事内容といい…ワザとである事は流石に前々から気付いていた。
「エリオット殿下も諦めの悪い人ですね。同盟国の姫君との婚約も正式に整ったと聞きましたが…?」
結婚さえしてしまえば、サラサを囲い込んでおけると思っていた自分の計算違いにイライラする。
「あぁ、それだけサラサ嬢のウェディングドレス姿が破壊力があったと言う事だろう。まぁ、あの姿は流石の私も惚れ惚れした。彼女であれば器量も良いし、側妃としても他の妃達と上手くやっていけるだろうなぁ。エリオットの側妃ではなく、私の第四の妃とする手もあるか。」
名案だとばかりに言ってのける皇太子殿下を無遠慮に睨む。
思っても無い事をペラペラとよく回る口だ。
「内部紛争がお望みなら、どうぞ。愛しい妻が家で待っておりますので、これ以上殿下の無駄口に付き合う暇はございません。これで失礼させて頂きます。」
背中に皇太子の笑う気配を感じながら、部屋を後にしたのは今日の夕刻の事だった。
それから一心不乱に仕事を片付けて…帰宅出来たのがこの時間だ。
はぁ…サラサに会いたい。
何日まともに顔を見れてないだろう。
愛くるしい彼女の笑顔を思い出すだけで、堪らない気持ちになる。
「サラサは今日はどうしていた?」
この質問ももはやテンプレートだ。
毎日聞かれる事に、家令も準備万端とばかりに今日のサラサの行動を伝えてきた。
「…それと、奥様の名でこの公爵邸でお茶会を開催されたいと。庭園を使用して良いか、旦那様の許可が頂きたいと仰っていました。」
本来であれば、結婚式が済めば日をおかずに夫妻両方の名で夜会を開催し、付き合いのある人々をもてなすものだ。
その場で俺が、新しくフィールズ公爵家に加わった妻を紹介し、縁付けていく…と言うのが本来の形だが、結婚式後から何故か…何故か多忙を極める為、それが行えていなかった。
サラサの事だから、あまり後回しになっては良くないと気を回して、せめて茶会を…と考えてくれたのだろう。
招待客のリストは家令や侍女長に確認すれば分かるだろうが、それでも面識のない人間ばかりを招いて茶会を催すと言うのは気の重い事だろう。
「彼女が公爵夫人としての役目を果たそうとしてくれているのに、駄目と言う訳がないだろう。全て…サラサの思うように行えるよう取り図ってくれ。」
かしこまりました。と深々と頭を下げて、家令は部屋を後にした。
ふーっと再度深い溜息が出る。
とにかく、この状況を何とかしなくては…。
サラサから何かを言われた訳ではないが、結婚式以後ほぼ会えていないなんて…愛想尽かされても文句が言えない状況だ。
書斎のデスクに置かれたメッセージカードを確認する。
毎日サラサからのメッセージが置かれているのも定番だ。
『遅くまでお勤めお疲れ様です。体調は大丈夫ですか?今日も素敵な薔薇の花をありがとうございます。私も同じ気持ちです。サラサ』
几帳面な彼女の字で綴られたメッセージカードに、思わず胸が詰まる思いがした。
結婚後、中々会えないサラサに、毎日薔薇の花を届けさせていた。
同じ館で過ごしていると言うのに変な話ではあるが…。
今日贈ったのは24本の赤い薔薇。
その花言葉は「一日中あなたを思っています」。
『私も同じ気持ちです。』
サラサのメッセージを思い出し、居ても立っても居られずに、書斎から夫婦の主寝室に続く扉に手を掛けた。
中では2人でもゆったり寝れるサイズのベッドにサラサが一人で眠っていた。
こんな大きなベッドで…。
サラサは口にはしないが、毎晩寂しい思いをさせている事だろう。
彼女を起こさないように、ゆっくりベッドの端に腰掛けた。
毎晩同じ様に見ている寝顔だが…これだけの事で自分を抑えるのが大変な自分の脆い理性が情けなくなる。
見れば、彼女は大きなベッドの真ん中より左側に寄って寝ている。
隣に俺のスペースが空いているのは、いつもの事だ。
彼女は夜中に帰ってきた俺がこのスペースで眠る事を望んでいるのだろうか…。
でも、俺の脆弱な理性では自分を抑え切れる自信がなく、ここ数日は書斎の奥に備え付けられた一人用のベッドで寝起きしていた。
彼女の長い髪を一筋掬い上げてキスを落とせば、鼻腔にサラサの甘く華やかな香りが舞い込み、それだけでどうかなりそうだ。
彼女との幸せで甘やかな初夜を思い出し、思わず眠る彼女の頬に唇を寄せれば、眠りながらもくすぐったそうに身じろぎをした。
これ以上は本当に駄目だ。
夜中に起こされて、久しぶりに会う旦那に突然襲われたとなれば…しかも切羽詰まり過ぎていてサラサを気遣ってさえしてやれないだろうし…、あぁ…絶対駄目だ。
それは確実に嫌われる。
グッと拳を握りしめて、断腸の思いで主寝室を後にした。
「その時、アルミナが何と言ったと思う?殿下が一時でもお側にいて下さるだけで、胸がいっぱいです…だっ!可愛すぎると思わないか?もちろん、朝まで散々甘やかした。」
今朝の皇太子は饒舌だった。
普段から饒舌ではあるが、その数段上を行く饒舌っぷりだった。
しかも普段は仕事の話ばかりなのに、今日は何故か自慢の3人の皇太子妃達との惚気話なのだ。
「私は臣下として、殿下のお世継ぎ問題については全く問題視しておりませんので、その様なご報告は結構です。」
子供を作り過ぎて、逆に後継者問題になる事はあるだろう。
まぁこの皇太子は3人も妃を召し上げているだけあって、上手く3人をコントロールして諍いもなく、その様子を見れば後継者問題も思いのままに操るのだろうとは思うが…。
そんなどうでもいい事を考えて気を逸らさなければならない程に俺は苛立っていた。
愛しい妻に触れられない日があれからも続いて居ると言うのに…何故朝から皇太子の惚気話に付き合わなくてはならないのか。
「そう冷たい事を言うな、ウォルター。先輩として夫婦円満の秘訣と言うのを教えてやっているんだろう。そんな事では夫人に愛想を尽かされるぞ。」
誰のせいで…。
声には出さずとも、視線だけで俺の意を汲み取ったのだろう。
皇太子殿下は面白そうな笑顔を顔に浮かべた。
「何だ。もしかして、もう愛想を尽かされたのか?では、私の方も彼女を迎える為に新しい宮の整備を始めなくてはな。」
この皇太子の悪いところは、悪ふざけにも全力投球な所だろう。
俺が怒る様子を心底楽しんでいるからタチが悪い。
前に聞いた時は「完璧な人間が取り乱す様子を見る為なのだから、こちらも本気で挑まねば失礼であろう?」と訳の分からない事を言っていた気がする。
「新しい宮を整えられるのは勝手ですが、無人の宮を整えるなど無駄遣いに他ならぬので、臣下として念の為に進言させて頂きます。あと、本日は午後より所用の為、午前で下がらせて頂きますので。」
サラサを渡す訳がないだろう。
皇太子も俺の様子に気付いたようで、少し面白く無さそうな表情をした。
「頼んでおいた仕事がまだ終わってないだろう?夜までかかるはずだが?」
「既に終わらせて政務官へ回しております。あと殿下が追加で頼まれる予定だった決済の書類についても後ほど全てお持ちしますので。あっ、言い忘れておりましたが、当分の仕事は終わらせておりますので、本日の午後から3日間はお休みを頂きます。」
皇太子の悪ふざけに付き合うのもそろそろ終わりだ。
皇太子が諦めたように、はーっと息を吐いた。
「あれだけの量の仕事をよくこの短期間で終わらせたな。」
「えぇ、折角殿下直々に夫婦円満の秘訣を教えて頂いたのですから、臣下としては試さない訳には参りません。本日から3日掛けて愛しい妻を散々甘やかす予定ですので…くれぐれも下手な手出しは無用です。」
これ以上邪魔するなら、本気で政務など掘り出して、サラサを連れて領地に引き篭もろう。
正直、国政などどうでもいい。
使える俺が居なくなって、困るのは殿下の方だろう。
「参った。私の負けだよ、ウォルター。悪かったって、そう怒るな。」
いやぁ…楽しかったよ。と笑う皇太子に、俺も脱力感を覚える。
本当に楽しんでただけなんだよな…。
こんな奴、俺以外が相手にしたら本気で手に負えないぞ…。
どうでもいいと思っている国政から離れられないのは、単に皇太子殿下の存在のせいだ。
「詫びは改めて受け取りましょう。」
悪ふざけにしてはやり過ぎな、この罪滅ぼしは必ずして頂きます。
皇太子殿下は楽しそうに笑って手をヒラヒラと振ったので、それを合図に皇太子殿下の執務室を後にした。
馬車などと悠長な事は言っておらず、黒い愛馬の手綱を捌く。
客観的に見れば、本当に切羽詰まっていたんだなぁと思う。
1秒でも早くサラサに会いたい。
これじゃあ、皇太子殿下が面白がって目をつけるのも仕方ないかもしれない。
次からはもっと上手くやろう。
あの兄弟皇子が付け入る隙の無いほどに、サラサを甘やかしたい。
黒馬でそのまま屋敷内に入れば、庭園の様子がすぐに視界に入った。
今日はサラサが公爵夫人として初めて催すお茶会だった。
サラサは遠目で見ても、ワタワタと慌てた様子で忙しそうに動き回っていた。
元々伯爵家の産まれであるサラサにとって、今日ご招待しているご婦人、ご令嬢方は全てサラサより位の高い相手だろう。
中にはフィールズ公爵家として付き合いが大切だが、出来れば個人的には親しくなりたくない様な人物まで居るのだ。
「サラサ!」
黒馬から飛び降りて声を掛ければ、華やかな集団の視線が一気にこちらに集まった。
「ウォルター様!?」
中でも一番驚いて居たのがサラサだろう。
その様子が可愛すぎて、人目がある事も気にせず抱き寄せた。
「あ…あの、お早いお帰りだったのですね。お迎えにも上がれず…失礼しました。」
何とか俺の腕から抜け出そうともがいているサラサが可愛い。
客などほっておいて、このまま寝室に連れ込みたいくらいだ。
「いや、大切なお客様が来られていたのだから当然だ。」
まぁ、そんな事をすれば、それこそサラサに愛想を尽かされるだろうから、我慢するが…。
ゆっくりサラサを腕から解放して、彼女の肩を抱き寄せ、客人達を見渡す。
若いご令嬢方は興奮気味に頬を染め、殆どのご婦人はまぁまぁ…と穏やかな笑顔でこちらを見守っている。
残り少数のご婦人は心底残念そうな表情だ。
俺の可愛い妻を虐める機会を失ったのが残念なのだろう。
その面々の顔を忘れないように脳裏に刻みながら、顔に完璧な社交用の笑顔を貼り付けた。
「皆様、本日は私の妻サラサの招待に応じて頂き、ありがとうございます。夫婦共に至らぬ点はございますが、私の可愛い妻に、皆様のお力添えをいただければこれ以上心強い事はありません。どうぞ、よろしくお願いしますね。」
貴方達がどれだけサラサを甘く見ようと、彼女がこのウォルター フィールズ公爵、最愛の妻であると言う事をお忘れないように。
そして、今は甘く見られようとも、サラサの器量であれば、必ずフィールズ公爵夫人として、確かな地位を築くだろうという確信があった。
口々に賛同の言葉を口にするご婦人、ご令嬢方に、笑顔で応えるサラサを誇らしげな気分で見守った。
「あんなに早くにお戻りになるとは思ってなかったので….驚きました。」
夕餉も終えて、夫婦の寝室にあるソファーで並ぶと、サラサは昼間の事を思い出した様に興奮気味の口調で言った。
「余計な事をしたかな?」
「いいえ、嬉しかったです!」
食い気味に返ってくるサラサの返答に気を良くした俺は、彼女の額に口付けを落とす。
「ウォルター様…。」
恥じらう様子が、今すぐにでも召し上がって下さいと誘ってる様にしか見えない。
「会いたかったよ、サラサ。」
彼女の指通りのいい髪に手を通せば、撫でられた子猫の様に身じろぎをする。
「私も…お会いしたかったです。あっ、でも明日も早いんですよね?」
朝はサラサが起床する前に屋敷を出て居たが、彼女の事だから、俺が何時に出て、何時に戻ったかを毎日家令に確認していたのだろう。
俺がサラサの1日の様子を毎日聞き出していたように。
「大丈夫、明日から3日は休みを取ったから。」
「えっ!3日も…?どちらかに行かれるのですか?」
また3日も留守にするつもりなのかと、サラサの表情が悲しそうに歪むのさえも愛しくて仕方がないと感じてしまうのは、ここまで散々焦らされた結果だろうか…それとも元々こんなに彼女が愛しくて仕方がなったのだろうか…。
別にどちらでも構わないけど。
「いや、どこも行かないよ。むしろこの部屋から出なくてもいいくらいに思ってる。そうだな、食事も全てこちらに運ばせよう。」
「え…?」
訳がわからないと首を傾げるサラサを優しくソファーに押し倒してずっと触れたかった彼女の柔らかな唇に自身のものを押し当てた。
押し当てるだけでは我慢が効かず、驚く彼女の口内に割り入れば、すぐに彼女が応じてくれる。
「サラサ、好きだ。愛してる。」
キスの間にそう伝えれば、何故かサラサが泣きそうに顔を歪めた。
「サラサ…?」
キュッと俺をシャツをサラサの小さな手が掴む。
「ウォルター様…寂しかったです…。」
あぁ…もう何だこの可愛さは…。
サラサのその表情、仕草、言葉は俺から完全に理性を取り払うには十分過ぎた。
「もう絶対に寂しい思いなどさせない。…やっぱり3日間は部屋から出してやれそうにないな…。」
そう言って、何度も角度を変えて彼女の唇を奪った。
その後3日間、2人が部屋から出て来たかどうかは、フィールズ公爵家の優秀な使用人達しか知らない。
Fin.
「おかえりなさいませ、旦那様。」
「あぁ、こんな時間に済まないな。」
いい歳を迎えたこの家令をこんな時間まで働かせる事を申し訳なくは思う気持ちはあれど、恐縮すれば彼のプライド傷付けるだけだと言う事は経験済みなので、こちらも普段通り振る舞った。
「奥様も日付が変わる頃までは起きてお待ちだったのですが…。」
俺からコートを受け取りながら、家令がいつもの様に告げた。
「サラサには…先に休むよう伝えてくれ。」
「もちろん、再三伝えておりますとも。」
ここ数日間はテンプレートとなっているやり取りだ。
そもそもつい先日結婚式を迎えたばかりの俺が、愛する妻にも会えずに、こんな深夜まで仕事に追われているのは、あの腹黒皇太子のせいである事は間違いない。
「結婚したての者をここまでこき使うとは、上の者の資質を問われますよ?」
今日も絶妙に帰宅が難しいであろう量の仕事を押し付けられた際にそう伝えれば、皇太子はとてもいい笑顔で笑っていた。
「ウォルター、お前はあえてと言う言葉を知っているか?まぁ、私やお前が思っていたより、エリオットが執念深かったという事だ。」
エリオット殿下…お前の仕業か。
先日まで私の妻であるサラサに思いを寄せていたこの国の第二王子の顔が浮かぶ。
彼も大人しそうに見えるが、この皇太子と同じ血が流れているんだ。腹黒い事は請け合いだった。
この絶妙な仕事量といい、臣下の者に任せる事は難しいような決定権の必要な仕事内容といい…ワザとである事は流石に前々から気付いていた。
「エリオット殿下も諦めの悪い人ですね。同盟国の姫君との婚約も正式に整ったと聞きましたが…?」
結婚さえしてしまえば、サラサを囲い込んでおけると思っていた自分の計算違いにイライラする。
「あぁ、それだけサラサ嬢のウェディングドレス姿が破壊力があったと言う事だろう。まぁ、あの姿は流石の私も惚れ惚れした。彼女であれば器量も良いし、側妃としても他の妃達と上手くやっていけるだろうなぁ。エリオットの側妃ではなく、私の第四の妃とする手もあるか。」
名案だとばかりに言ってのける皇太子殿下を無遠慮に睨む。
思っても無い事をペラペラとよく回る口だ。
「内部紛争がお望みなら、どうぞ。愛しい妻が家で待っておりますので、これ以上殿下の無駄口に付き合う暇はございません。これで失礼させて頂きます。」
背中に皇太子の笑う気配を感じながら、部屋を後にしたのは今日の夕刻の事だった。
それから一心不乱に仕事を片付けて…帰宅出来たのがこの時間だ。
はぁ…サラサに会いたい。
何日まともに顔を見れてないだろう。
愛くるしい彼女の笑顔を思い出すだけで、堪らない気持ちになる。
「サラサは今日はどうしていた?」
この質問ももはやテンプレートだ。
毎日聞かれる事に、家令も準備万端とばかりに今日のサラサの行動を伝えてきた。
「…それと、奥様の名でこの公爵邸でお茶会を開催されたいと。庭園を使用して良いか、旦那様の許可が頂きたいと仰っていました。」
本来であれば、結婚式が済めば日をおかずに夫妻両方の名で夜会を開催し、付き合いのある人々をもてなすものだ。
その場で俺が、新しくフィールズ公爵家に加わった妻を紹介し、縁付けていく…と言うのが本来の形だが、結婚式後から何故か…何故か多忙を極める為、それが行えていなかった。
サラサの事だから、あまり後回しになっては良くないと気を回して、せめて茶会を…と考えてくれたのだろう。
招待客のリストは家令や侍女長に確認すれば分かるだろうが、それでも面識のない人間ばかりを招いて茶会を催すと言うのは気の重い事だろう。
「彼女が公爵夫人としての役目を果たそうとしてくれているのに、駄目と言う訳がないだろう。全て…サラサの思うように行えるよう取り図ってくれ。」
かしこまりました。と深々と頭を下げて、家令は部屋を後にした。
ふーっと再度深い溜息が出る。
とにかく、この状況を何とかしなくては…。
サラサから何かを言われた訳ではないが、結婚式以後ほぼ会えていないなんて…愛想尽かされても文句が言えない状況だ。
書斎のデスクに置かれたメッセージカードを確認する。
毎日サラサからのメッセージが置かれているのも定番だ。
『遅くまでお勤めお疲れ様です。体調は大丈夫ですか?今日も素敵な薔薇の花をありがとうございます。私も同じ気持ちです。サラサ』
几帳面な彼女の字で綴られたメッセージカードに、思わず胸が詰まる思いがした。
結婚後、中々会えないサラサに、毎日薔薇の花を届けさせていた。
同じ館で過ごしていると言うのに変な話ではあるが…。
今日贈ったのは24本の赤い薔薇。
その花言葉は「一日中あなたを思っています」。
『私も同じ気持ちです。』
サラサのメッセージを思い出し、居ても立っても居られずに、書斎から夫婦の主寝室に続く扉に手を掛けた。
中では2人でもゆったり寝れるサイズのベッドにサラサが一人で眠っていた。
こんな大きなベッドで…。
サラサは口にはしないが、毎晩寂しい思いをさせている事だろう。
彼女を起こさないように、ゆっくりベッドの端に腰掛けた。
毎晩同じ様に見ている寝顔だが…これだけの事で自分を抑えるのが大変な自分の脆い理性が情けなくなる。
見れば、彼女は大きなベッドの真ん中より左側に寄って寝ている。
隣に俺のスペースが空いているのは、いつもの事だ。
彼女は夜中に帰ってきた俺がこのスペースで眠る事を望んでいるのだろうか…。
でも、俺の脆弱な理性では自分を抑え切れる自信がなく、ここ数日は書斎の奥に備え付けられた一人用のベッドで寝起きしていた。
彼女の長い髪を一筋掬い上げてキスを落とせば、鼻腔にサラサの甘く華やかな香りが舞い込み、それだけでどうかなりそうだ。
彼女との幸せで甘やかな初夜を思い出し、思わず眠る彼女の頬に唇を寄せれば、眠りながらもくすぐったそうに身じろぎをした。
これ以上は本当に駄目だ。
夜中に起こされて、久しぶりに会う旦那に突然襲われたとなれば…しかも切羽詰まり過ぎていてサラサを気遣ってさえしてやれないだろうし…、あぁ…絶対駄目だ。
それは確実に嫌われる。
グッと拳を握りしめて、断腸の思いで主寝室を後にした。
「その時、アルミナが何と言ったと思う?殿下が一時でもお側にいて下さるだけで、胸がいっぱいです…だっ!可愛すぎると思わないか?もちろん、朝まで散々甘やかした。」
今朝の皇太子は饒舌だった。
普段から饒舌ではあるが、その数段上を行く饒舌っぷりだった。
しかも普段は仕事の話ばかりなのに、今日は何故か自慢の3人の皇太子妃達との惚気話なのだ。
「私は臣下として、殿下のお世継ぎ問題については全く問題視しておりませんので、その様なご報告は結構です。」
子供を作り過ぎて、逆に後継者問題になる事はあるだろう。
まぁこの皇太子は3人も妃を召し上げているだけあって、上手く3人をコントロールして諍いもなく、その様子を見れば後継者問題も思いのままに操るのだろうとは思うが…。
そんなどうでもいい事を考えて気を逸らさなければならない程に俺は苛立っていた。
愛しい妻に触れられない日があれからも続いて居ると言うのに…何故朝から皇太子の惚気話に付き合わなくてはならないのか。
「そう冷たい事を言うな、ウォルター。先輩として夫婦円満の秘訣と言うのを教えてやっているんだろう。そんな事では夫人に愛想を尽かされるぞ。」
誰のせいで…。
声には出さずとも、視線だけで俺の意を汲み取ったのだろう。
皇太子殿下は面白そうな笑顔を顔に浮かべた。
「何だ。もしかして、もう愛想を尽かされたのか?では、私の方も彼女を迎える為に新しい宮の整備を始めなくてはな。」
この皇太子の悪いところは、悪ふざけにも全力投球な所だろう。
俺が怒る様子を心底楽しんでいるからタチが悪い。
前に聞いた時は「完璧な人間が取り乱す様子を見る為なのだから、こちらも本気で挑まねば失礼であろう?」と訳の分からない事を言っていた気がする。
「新しい宮を整えられるのは勝手ですが、無人の宮を整えるなど無駄遣いに他ならぬので、臣下として念の為に進言させて頂きます。あと、本日は午後より所用の為、午前で下がらせて頂きますので。」
サラサを渡す訳がないだろう。
皇太子も俺の様子に気付いたようで、少し面白く無さそうな表情をした。
「頼んでおいた仕事がまだ終わってないだろう?夜までかかるはずだが?」
「既に終わらせて政務官へ回しております。あと殿下が追加で頼まれる予定だった決済の書類についても後ほど全てお持ちしますので。あっ、言い忘れておりましたが、当分の仕事は終わらせておりますので、本日の午後から3日間はお休みを頂きます。」
皇太子の悪ふざけに付き合うのもそろそろ終わりだ。
皇太子が諦めたように、はーっと息を吐いた。
「あれだけの量の仕事をよくこの短期間で終わらせたな。」
「えぇ、折角殿下直々に夫婦円満の秘訣を教えて頂いたのですから、臣下としては試さない訳には参りません。本日から3日掛けて愛しい妻を散々甘やかす予定ですので…くれぐれも下手な手出しは無用です。」
これ以上邪魔するなら、本気で政務など掘り出して、サラサを連れて領地に引き篭もろう。
正直、国政などどうでもいい。
使える俺が居なくなって、困るのは殿下の方だろう。
「参った。私の負けだよ、ウォルター。悪かったって、そう怒るな。」
いやぁ…楽しかったよ。と笑う皇太子に、俺も脱力感を覚える。
本当に楽しんでただけなんだよな…。
こんな奴、俺以外が相手にしたら本気で手に負えないぞ…。
どうでもいいと思っている国政から離れられないのは、単に皇太子殿下の存在のせいだ。
「詫びは改めて受け取りましょう。」
悪ふざけにしてはやり過ぎな、この罪滅ぼしは必ずして頂きます。
皇太子殿下は楽しそうに笑って手をヒラヒラと振ったので、それを合図に皇太子殿下の執務室を後にした。
馬車などと悠長な事は言っておらず、黒い愛馬の手綱を捌く。
客観的に見れば、本当に切羽詰まっていたんだなぁと思う。
1秒でも早くサラサに会いたい。
これじゃあ、皇太子殿下が面白がって目をつけるのも仕方ないかもしれない。
次からはもっと上手くやろう。
あの兄弟皇子が付け入る隙の無いほどに、サラサを甘やかしたい。
黒馬でそのまま屋敷内に入れば、庭園の様子がすぐに視界に入った。
今日はサラサが公爵夫人として初めて催すお茶会だった。
サラサは遠目で見ても、ワタワタと慌てた様子で忙しそうに動き回っていた。
元々伯爵家の産まれであるサラサにとって、今日ご招待しているご婦人、ご令嬢方は全てサラサより位の高い相手だろう。
中にはフィールズ公爵家として付き合いが大切だが、出来れば個人的には親しくなりたくない様な人物まで居るのだ。
「サラサ!」
黒馬から飛び降りて声を掛ければ、華やかな集団の視線が一気にこちらに集まった。
「ウォルター様!?」
中でも一番驚いて居たのがサラサだろう。
その様子が可愛すぎて、人目がある事も気にせず抱き寄せた。
「あ…あの、お早いお帰りだったのですね。お迎えにも上がれず…失礼しました。」
何とか俺の腕から抜け出そうともがいているサラサが可愛い。
客などほっておいて、このまま寝室に連れ込みたいくらいだ。
「いや、大切なお客様が来られていたのだから当然だ。」
まぁ、そんな事をすれば、それこそサラサに愛想を尽かされるだろうから、我慢するが…。
ゆっくりサラサを腕から解放して、彼女の肩を抱き寄せ、客人達を見渡す。
若いご令嬢方は興奮気味に頬を染め、殆どのご婦人はまぁまぁ…と穏やかな笑顔でこちらを見守っている。
残り少数のご婦人は心底残念そうな表情だ。
俺の可愛い妻を虐める機会を失ったのが残念なのだろう。
その面々の顔を忘れないように脳裏に刻みながら、顔に完璧な社交用の笑顔を貼り付けた。
「皆様、本日は私の妻サラサの招待に応じて頂き、ありがとうございます。夫婦共に至らぬ点はございますが、私の可愛い妻に、皆様のお力添えをいただければこれ以上心強い事はありません。どうぞ、よろしくお願いしますね。」
貴方達がどれだけサラサを甘く見ようと、彼女がこのウォルター フィールズ公爵、最愛の妻であると言う事をお忘れないように。
そして、今は甘く見られようとも、サラサの器量であれば、必ずフィールズ公爵夫人として、確かな地位を築くだろうという確信があった。
口々に賛同の言葉を口にするご婦人、ご令嬢方に、笑顔で応えるサラサを誇らしげな気分で見守った。
「あんなに早くにお戻りになるとは思ってなかったので….驚きました。」
夕餉も終えて、夫婦の寝室にあるソファーで並ぶと、サラサは昼間の事を思い出した様に興奮気味の口調で言った。
「余計な事をしたかな?」
「いいえ、嬉しかったです!」
食い気味に返ってくるサラサの返答に気を良くした俺は、彼女の額に口付けを落とす。
「ウォルター様…。」
恥じらう様子が、今すぐにでも召し上がって下さいと誘ってる様にしか見えない。
「会いたかったよ、サラサ。」
彼女の指通りのいい髪に手を通せば、撫でられた子猫の様に身じろぎをする。
「私も…お会いしたかったです。あっ、でも明日も早いんですよね?」
朝はサラサが起床する前に屋敷を出て居たが、彼女の事だから、俺が何時に出て、何時に戻ったかを毎日家令に確認していたのだろう。
俺がサラサの1日の様子を毎日聞き出していたように。
「大丈夫、明日から3日は休みを取ったから。」
「えっ!3日も…?どちらかに行かれるのですか?」
また3日も留守にするつもりなのかと、サラサの表情が悲しそうに歪むのさえも愛しくて仕方がないと感じてしまうのは、ここまで散々焦らされた結果だろうか…それとも元々こんなに彼女が愛しくて仕方がなったのだろうか…。
別にどちらでも構わないけど。
「いや、どこも行かないよ。むしろこの部屋から出なくてもいいくらいに思ってる。そうだな、食事も全てこちらに運ばせよう。」
「え…?」
訳がわからないと首を傾げるサラサを優しくソファーに押し倒してずっと触れたかった彼女の柔らかな唇に自身のものを押し当てた。
押し当てるだけでは我慢が効かず、驚く彼女の口内に割り入れば、すぐに彼女が応じてくれる。
「サラサ、好きだ。愛してる。」
キスの間にそう伝えれば、何故かサラサが泣きそうに顔を歪めた。
「サラサ…?」
キュッと俺をシャツをサラサの小さな手が掴む。
「ウォルター様…寂しかったです…。」
あぁ…もう何だこの可愛さは…。
サラサのその表情、仕草、言葉は俺から完全に理性を取り払うには十分過ぎた。
「もう絶対に寂しい思いなどさせない。…やっぱり3日間は部屋から出してやれそうにないな…。」
そう言って、何度も角度を変えて彼女の唇を奪った。
その後3日間、2人が部屋から出て来たかどうかは、フィールズ公爵家の優秀な使用人達しか知らない。
Fin.
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『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
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