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本編
8-10
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「もう、何をそんなに笑ってるんですか?」
突然、面白そうに笑い出したウォルター様。
その様子から、何か楽しげな事を考えているのだとはわかるけど、折角こんな素敵な星空を共有しているのに、その考えまでは共有出来ない事に少し寂しさを覚えた。
「昔、薔薇の花言葉について教えてくれた女の子について考えていた。」
ウォルター様の笑顔に胸がドキリとする。
美しいとさえ思える笑顔で、その女の子について考えていると思うと、馬鹿らしいとは思いつつも、嫉妬心が芽生える。
「だから…ウォルター様は花言葉に詳しいのですね。」
私の心を慰め、穏やかにしてきたあの薔薇達が、他の女性から教えられた花言葉を元に贈られた物だという事実に心がチリチリとささくれ立つような感覚がする。
「あぁ、幼い頃にその女の子に薔薇の花を贈ったときに、本数にも意味があると教えて貰ったんだ。彼女が帰ってしまってから、気になって自分で花言葉を調べた。自分が贈ったピンクの薔薇がどんな意味を持つのか知りたくてね。」
ピンクの薔薇…。
ふいに幼い頃の光景が蘇る。
思い出したという感覚ではない。
どこに埋もれて居たのか、ふいに蘇ったのだ。
「調べたピンクの薔薇の花言葉は、美しい少女…。まさに彼女の事だと思った。そして彼女が言った通り、1本の薔薇の意味はあなたしかいない、そして、一目惚れだった。」
一目惚れ…。
そうだ。
あの時、私はあの少年に一目惚れした。
顔を思い出す事は出来ないが、見た事もないような大きなお屋敷に住む王子様のような少年と、私は確かに会ったことがある。
そして、彼がピンクの薔薇を選んでくれた事がとても嬉しかった…。
「一目惚れなんて、思わせぶりな事言っといて、綺麗さっぱり忘れるなんて、流石に酷いんじゃない?サラサ。」
ウォルター様が柔らかく微笑み掛ければ、私の考えている事が間違いないのだと確信に変わった。
「あの…。」
「何、幽霊でも見たような顔してるのさ。やっと思い出してくれた?」
ウォルター様があの少年なのだ…。
「…いつから…知ってたんですか?」
「いつからも何も、この屋敷の庭園でお茶をした時はもちろん知っていたし、数年前に求婚して断られた時だって知っていた。と言うか、俺は君の事を忘れた事なんて無かったんだけど。」
意地悪そうな笑顔でそう言ったウォルター様に、胸が痛くなる。
この人に、こんなに愛されていると言う疑いようのない事実で胸が締め付けられる。
「ウォルター様…愛してます。」
締め付けられた胸から溢れるように、自然とその言葉が口に出た。
愛おしい気持ちとは、こんなに息が苦しくなるような感情だっただろうか。
「やっとサラサの口から聞けた。」
そう言ったウォルター様が本当に嬉しそうに笑うので、何だか涙まで溢れそうだ。
「ねぇ、サラサ。君なら108本の薔薇の花言葉も知ってる?」
ウォルター様がそう言って、後方に配置されたワゴンに手を添える。
そこには薔薇の大きな花束が置かれている。
いつ置かれたのだろう…全く気付かなかった。
でも、今は公爵家の使用人の優秀さに対する驚きより、サプライズとして差し出された花束に対する驚きが遥かに大きい。
108本の薔薇の花言葉…。
もちろん知っているが、胸が詰まって言葉にならない。
「結婚してください。俺にはサラサしかいないから。」
このまま結婚するのだろうとは思っていた。
特に明確な言葉は無くとも、状況的にそうなのだろうと…。
そもそも政略結婚の多い貴族の社会では、本人に結婚の意思を問うプロポーズは、憧れこそあれどマイナーだ。
だから、こんなプロポーズをしてもらえるなんて思ってもみなかった。
「はい。喜んで。」
絞り出すようにそう答えれば、ウォルター様にグッと抱き寄せられ、温かなキスが唇に落とされた。
「一目惚れの1本から、プロポーズの108本まで…俺の贈る花は全てサラサの為の物だよ。…いや、999本か。」
離れた唇の代わりに、コツンとおでこをくっつけて彼が言った。
「999本?」
そんな花言葉、あっただろうか…。
「知らない?花言葉は、何度生まれ変わっても君を愛する。もう逃すつもりは無いから、覚悟しなよ?」
目の前で、こんなにも甘い言葉を囁く彼が、社交界で毒舌公爵と恐れられているウォルター フィールズ、その人であると何人の人が信じてくれるだろうか。
いや、こんな彼の一面は私以外知らなくていい。
私以外の誰にも見せたくない。
私は彼の唯一で、彼も私の唯一なのだから。
ぐっと背伸びをして、自分からウォルター様に口付ければ、彼は驚いたように目を丸くした後、私にしか見せない甘い笑顔で笑った。
Fin.
突然、面白そうに笑い出したウォルター様。
その様子から、何か楽しげな事を考えているのだとはわかるけど、折角こんな素敵な星空を共有しているのに、その考えまでは共有出来ない事に少し寂しさを覚えた。
「昔、薔薇の花言葉について教えてくれた女の子について考えていた。」
ウォルター様の笑顔に胸がドキリとする。
美しいとさえ思える笑顔で、その女の子について考えていると思うと、馬鹿らしいとは思いつつも、嫉妬心が芽生える。
「だから…ウォルター様は花言葉に詳しいのですね。」
私の心を慰め、穏やかにしてきたあの薔薇達が、他の女性から教えられた花言葉を元に贈られた物だという事実に心がチリチリとささくれ立つような感覚がする。
「あぁ、幼い頃にその女の子に薔薇の花を贈ったときに、本数にも意味があると教えて貰ったんだ。彼女が帰ってしまってから、気になって自分で花言葉を調べた。自分が贈ったピンクの薔薇がどんな意味を持つのか知りたくてね。」
ピンクの薔薇…。
ふいに幼い頃の光景が蘇る。
思い出したという感覚ではない。
どこに埋もれて居たのか、ふいに蘇ったのだ。
「調べたピンクの薔薇の花言葉は、美しい少女…。まさに彼女の事だと思った。そして彼女が言った通り、1本の薔薇の意味はあなたしかいない、そして、一目惚れだった。」
一目惚れ…。
そうだ。
あの時、私はあの少年に一目惚れした。
顔を思い出す事は出来ないが、見た事もないような大きなお屋敷に住む王子様のような少年と、私は確かに会ったことがある。
そして、彼がピンクの薔薇を選んでくれた事がとても嬉しかった…。
「一目惚れなんて、思わせぶりな事言っといて、綺麗さっぱり忘れるなんて、流石に酷いんじゃない?サラサ。」
ウォルター様が柔らかく微笑み掛ければ、私の考えている事が間違いないのだと確信に変わった。
「あの…。」
「何、幽霊でも見たような顔してるのさ。やっと思い出してくれた?」
ウォルター様があの少年なのだ…。
「…いつから…知ってたんですか?」
「いつからも何も、この屋敷の庭園でお茶をした時はもちろん知っていたし、数年前に求婚して断られた時だって知っていた。と言うか、俺は君の事を忘れた事なんて無かったんだけど。」
意地悪そうな笑顔でそう言ったウォルター様に、胸が痛くなる。
この人に、こんなに愛されていると言う疑いようのない事実で胸が締め付けられる。
「ウォルター様…愛してます。」
締め付けられた胸から溢れるように、自然とその言葉が口に出た。
愛おしい気持ちとは、こんなに息が苦しくなるような感情だっただろうか。
「やっとサラサの口から聞けた。」
そう言ったウォルター様が本当に嬉しそうに笑うので、何だか涙まで溢れそうだ。
「ねぇ、サラサ。君なら108本の薔薇の花言葉も知ってる?」
ウォルター様がそう言って、後方に配置されたワゴンに手を添える。
そこには薔薇の大きな花束が置かれている。
いつ置かれたのだろう…全く気付かなかった。
でも、今は公爵家の使用人の優秀さに対する驚きより、サプライズとして差し出された花束に対する驚きが遥かに大きい。
108本の薔薇の花言葉…。
もちろん知っているが、胸が詰まって言葉にならない。
「結婚してください。俺にはサラサしかいないから。」
このまま結婚するのだろうとは思っていた。
特に明確な言葉は無くとも、状況的にそうなのだろうと…。
そもそも政略結婚の多い貴族の社会では、本人に結婚の意思を問うプロポーズは、憧れこそあれどマイナーだ。
だから、こんなプロポーズをしてもらえるなんて思ってもみなかった。
「はい。喜んで。」
絞り出すようにそう答えれば、ウォルター様にグッと抱き寄せられ、温かなキスが唇に落とされた。
「一目惚れの1本から、プロポーズの108本まで…俺の贈る花は全てサラサの為の物だよ。…いや、999本か。」
離れた唇の代わりに、コツンとおでこをくっつけて彼が言った。
「999本?」
そんな花言葉、あっただろうか…。
「知らない?花言葉は、何度生まれ変わっても君を愛する。もう逃すつもりは無いから、覚悟しなよ?」
目の前で、こんなにも甘い言葉を囁く彼が、社交界で毒舌公爵と恐れられているウォルター フィールズ、その人であると何人の人が信じてくれるだろうか。
いや、こんな彼の一面は私以外知らなくていい。
私以外の誰にも見せたくない。
私は彼の唯一で、彼も私の唯一なのだから。
ぐっと背伸びをして、自分からウォルター様に口付ければ、彼は驚いたように目を丸くした後、私にしか見せない甘い笑顔で笑った。
Fin.
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