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本編

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「さぁ、こちらへ。」

そうエリオット殿下にエスコートされて向かった王宮の入口で、私は思わず足を止め、殿下を見上げた。

そんな私の様子に、エリオット殿下は笑みを浮かべて頷いた。

もう一度、進行方向に視線を戻せば、そこにはフィールズ公爵家の家紋があしらわれた馬車の前に立つ、ウォルター様の姿があった。

「そちらから呼び出しておいて、こんなに待たせるなんて嫌がらせのつもりですか。」

私の見間違いでは無いようだ。
何度も会いたいと思い描いていた人が、目の前で不敵な笑みを浮かべて居た。

「フィールズ公爵、お言葉にはお気をつけ下さい…。そもそも、こちらで待つようにと伝えたのに、何度もサラサ嬢を探すために王宮内に入ろうとして…全然大人しく待ってなど居なかったではないですか…。」

何故かウォルター様と待機していたユーリス様が呆れた様に口を開いた。

「何だウォルター…存外余裕がないのだな。この調子では、サラサと上手くいかなくなるのも、思っていたより早いかもしれないな。」

ユーリス様の言葉を受けて、エリオット殿下がウォルター様を挑発するように言い放った。

どうやら、今の状況について行けてないのは、私1人のようだが、先程までの室内でのエリオット殿下との会話を思い出せば、これはエリオット殿下がウォルター様を揶揄っているのだろうと推測出来た。

「その様な心配は無用です。いくら待たれようがお譲りする気は一切ありませんので。変な気を起こさない様願います。」

いつかの夜会でエリオット殿下がウォルター様に言っていた事を、お返しとばかりに口にするウォルター様。

「ウォルターにその気があろうが、無かろうが、それはサラサが判断する事。サラサ、ウォルターが嫌になったら、すぐに私に言うといい。」

エリオット殿下が余裕の笑みを浮かべている。

どちらかと言えばエリオット殿下が優勢なのだろうか…そんな事をボンヤリ考えていると、エリオット殿下が私の髪を一房掴みキスを落とした。

「エリオット殿下!?」

予想外の行動に慌ててエリオット殿下を見れば、見惚れるくらい綺麗な笑顔を返される。

「いい反応だね…その様子だと、まだ完全に諦める必要は無いかもね。」

「エリオット殿下!いい加減にして下さい。サラサが嫌がっているのもわかりませんか?無駄な努力はせず、さっさと諦めて、新しい婚約者探しをされた方が良いのでは?」

先程までより幾分敬語の崩れたウォルター様が、私の手を握り、強く引き寄せた。

久しぶりに感じるウォルター様の温度に、私の胸がトクンと跳ねるが、彼はそんな私に気付いた様子はなく、エリオット殿下を睨むのに必死だ。

「婚約者か…。確かに必要だろう。だが、王族の男子には重婚が認められている。例え婚約者を作ろうが、結婚しようがサラサを妃に迎える事は可能だと忘れてくれるなよ、ウォルター。」

確かに我が国の王族の男性は側妃を持つ事も許されている。
実際に皇太子殿下にも正妃を含め、3人の妃がいる。

「サラサを側妃にしようなどと…それこそ思い上がりが過ぎます。サラサは唯一無二の女性で、誰かの代わりをするような女性ではありません。」

唯一無二と言われた事の嬉しさはあるが、世界中の側妃に失礼な発言だ。
そこまで家の爵位が高くなくても、王子に見初められれば目指せる側妃は、世の令嬢達の憧れのポジションである。

それにしても…この訳の分からないまま始まった言い争いはいつまで続くのか…。

サラサは終わりの見えない状況に大きな溜息を付いた。

「ウォルター様、エリオット殿下…いい加減にして下さいっ!」

尚も言い合いを続けていたウォルター様とエリオット殿下が、驚いたように見開いた目でこちらを見た。

溜息の深呼吸のまま発した言葉は、自分で思っていたよりも大きな声となったようだ。

少し恥ずかしくなり、咳払いをして続ける。

「譲るとか、譲らないとか…私は誰かの所有物ではありませんっ。どなたと共に居るかは、自分で決めます。」

先程まで言い合いに興じていた2人は、私の言葉に再び目を見合わせた後、声を上げて笑い出した。

「参った。サラサに言われたら諦める他無いな。」

「全くです。こちらも捨てられない様に頑張らないと…ですね。」

何故か私の一言で、仲間のように結託したエリオット殿下とウォルター様がこちらを見て声を出して笑った。

「これ以上、目の前で惚気られては堪らない。ウォルター、今日はもう帰ってくれ。」

「やっと気が合いましたね、エリオット殿下。私もこれ以上、可愛いサラサを他の人に見られるのは堪らないと思っていました。では、これで失礼します。」

その言葉を言い終わると同時にウォルター様が、私の腕をグイッと引き、馬車に乗るように促した。

エリオット殿下を見れば、別れの挨拶に軽く手を上げ、見送ってくれたので、私は何がどうなっているのかわからないまま、エリオット殿下に礼をし、フィールズ公爵家の馬車に乗り込んだのだった。
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