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本編

8-5 ユーリス side

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夜会の後から何かを思い詰めていたサラサ嬢が、エリオット殿下と話をしたいと言い出せば、良い話では無いだろうと思うのは自然な事で、私は配下の者たちから上がって来た報告も含めて、エリオット殿下に不都合な話をお伝えしていた。

「つまり、ウォルターからサラサに毎日のように花が贈られていて、サラサは私と話がしたいと毎日のように言っている…と。」

「左様でございます。」

エリオット殿下は私の報告に思案顔を続けている。

「サラサ嬢とは今はお会いにならない方が良いかと思います。」

彼女の性格を見れば、エリオット殿下と会えなければ無理矢理に事を進めるような真似はしないだろう。

正式な婚約の日まで会わなければ、ズルズル婚約に持ち込む事も可能だろうし、一度正式な婚約になれば、王家相手にそれを覆すなど到底出来ない。

「そうだな。私も少し考えたい。」

静かに同意を示したエリオット殿下も、私と同意見に見えた。


それからサラサ嬢と何日かの攻防戦を経て、私の耳には信じられない知らせが届いた。

クリーヴス伯爵家が婚約を断りたいと申し入れて来た…と。

元々はサラサ嬢の噂を警戒していたとは言え、夜会で彼女の器量の良さを見た国王陛下は、クリーヴス伯爵に再三考え直すように言ったようだ。
最後には王命にして2人の婚約を推し進めようとした…とか。

そんな国王陛下を説得したのは、皇太子殿下だった。

「確かに彼女は王家に迎えるに十分な器量を持っていますが、気持ちが伴わないという事であれば、王命で縛り付けるのはエリオットにとって辛い事となるでしょう。」

皇太子殿下は何もわかっていない。
エリオット殿下にはサラサ嬢が必要なのだ。
そこに気持ちがあろうが、無かろうが…エリオット殿下が初めて望まれたものだと言うのに…。

「そうですか。わかりました。」

国王陛下と皇太子殿下から、話を聞いたエリオット殿下は静かにそう言った。

殿下の瞳が悲しみの色で染められていくのを、もどかしい気持ちで見守る事しか出来なかった。


翌日、いつものように王宮を訪れたサラサ嬢はいつもと雰囲気が違うように感じた。

婚約の断りを王家に伝えた事は、既に父親から伝え聞いているのだろう。

だからと言って…いや、こうなっては尚更
、エリオット殿下に会わせる訳にはいかない。
殿下はきっと悲しみ、苦しんでいる。
サラサ嬢に会う事で、殿下の傷を深くするような事は出来ない。

「お取次ぎ頂けないのであれば、私から伺います。押し通らせて頂きます!」

だけど、サラサ嬢がここまで強気に出てくるとを私は予想していなかった。

元より美しい彼女に、今までになかった凛とした芯の強さを感じて、ハッとする自分を叱咤した。

「サラサ嬢!おやめ下さい!」

「通して下さい!」

「サラサ嬢!」

女性の力であれば、簡単に抑え込む事は出来る。
だが、彼女はエリオット殿下の大切な女性だ。例え、裏切ろうとも…エリオット殿下が大切に思っているのなら、私に手荒な真似は出来ない。

「やめろ、ユーリス。もういい。」

聞き慣れた声は、振り返らずとも誰のものかわかる。

「エリオット殿下!ここに来られてはいけません!」

私はこれ以上殿下が傷付くのを見たくない。

「ユーリス、もういいと言っている。…サラサと話をする。」

その言葉に殿下を見遣れば、殿下がこちらに力強く頷いた。
そこに殿下の意思の強さを感じ、サラサ嬢を押さえる手を即座に離した。

「かしこまりました。お部屋をご用意致します。」


サラサ嬢が侍女に従い別室へ入って行くのを見守ると、エリオット殿下はこちらに向き直った。

「ユーリスは同席しなくていい。2人で話をさせてくれ。」

もちろん室内まで付き従う気でいた私は面を喰らった。

あの夜会の日に、サラサ嬢を殿下の私室に招いた時でさえも、私室入り口にある控えの間で待機する事が許されたのに…。

「ですが、護衛の意味合いもありますし…。」

「王宮内だ。必要ない。それに、ユーリスには頼みたい事があるんだ。」

「頼みたい事…ですか?」

「あぁ、ウォルターを…フィールズ公爵を連れて来てくれ。」

エリオット殿下の言葉に、自分が驚いている事は自然に見開いてしまった瞳から、簡単に殿下に伝わっているだろう。

「何を…仰ってるのですか?ここにフィールズ公爵を…など…。」

「話し合いの後に彼女を屋敷まで送り届けるのは…流石にキツい。ウォルターが適任であろう。」

「それであれば、いつもの様に私がサラサ嬢をお送りします。」

強く言い切った物の段々と自信が無くなって行くのは、エリオット殿下が冗談を言っているようには見えないからだ。

「私との婚約の話が完全に白紙に戻るまで会わないとサラサがウォルターに申し出て、ウォルターも律儀にそれを守っていると聞いている…。きっと、サラサもウォルターに会いたいだろう。」

エリオット殿下の言葉に、決心の深さを感じる。

そして思い知らされる。
殿下はサラサ嬢を必要としている。でも、そんな思いより、もっと深く、殿下はサラサ嬢を大切に思って…愛しているんだと。

困ったような笑みを浮かべるエリオット殿下に深く頭を下げ、任務を遂行すべく、フィールズ公爵邸へと馬を走らせた。
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