大草原の少女イルの日常

広野香盃

文字の大きさ
上 下
51 / 71

50. アトル先生王座を目指す - 6

しおりを挟む
 私は力一杯叫んでいた。ララさんは驚いた顔をしながらも通信の魔道具と魔晶石を出してくれた。多分どこかへの遠距離通信に使うと思ったのだろう。

「時間が無い。コードは自分で繋ぐんだよ。」

と言って再び軍隊に向き直る。ララさんに説明している時間は無い。私は深呼吸すると目を閉じ精神を集中する。今からしようとしていることは分の悪い賭けだ。それは分かっているが、やるしかない。私は覚悟を決めて魔晶石に両手をついた。

 途端に軍隊が進軍している先の地面が、ドドドという大きな音と共に盛り上がる。盛り上がった地面は高さ10メートルくらいの堅牢な城壁となりアトル先生達の居る場所を中心として半径1キロメートルくらいの円周状を伸びて行く。ドドドドドドドドドドと連続した音が止まらない。もちろん私が土魔法を使って城壁を作っているのだが、魔晶石にチャージされた膨大な魔力を使っている為、細かなコントロールは効かない。とにかく城壁を伸ばすことだけに集中する。10秒も立たない内に半径1キロメートルの円を描き出発点に戻ってくる。とんでもない速度だ。だが止められない、最初から細かなコントロールが無理なのは分かっている。だから私は円ではなく円に近い螺旋を描いた、出発点に戻って来た城壁は出発点の城壁に衝突することなく、その少し外側を通り過ぎ、300メートルくらい進んだところでようやく止まった。流石にこれを見て軍隊も進軍を中止する。

 城壁が出来上がると、私はその場に倒れ込んだ。全身がピリピリと痺れている。魔力中毒でも、魔力枯渇でもない。だが身体が思うように動かせない。

「イル! なんて無茶なことを! しっかりおし。」

とララさんが叫んでいる。その時、城壁の上空が虹色に輝き7柱すべての神が現れた。同時にトスカさんから念話が入る。

<< ララ女王! 神々の声を頼む。イルの魔法を無駄にするな! >>

ララさんが城壁に向き直ると、神々が声を発した。

「「「「「「「 ここに居るのはトワール王国の真の王なり、我らの寵愛を受けた者に危害を成すならば、我らの敵となると心得よ! 」」」」」」」

と神々が宣言すると、馬に乗ったまま全速力で逃げ出す兵達が続出する。指揮官も逃げる兵達を止めようとしない、しばらく茫然と神々を見詰めていたが、すばやく馬を降りて神々に向かって頭を下げ何か言っている。だが、距離があるので何を言っているのかまで分からない。長耳の魔法を使おうとして、魔法が使えないことに気付いた。身体がというより、魂が痺れて動かせない!

 その後、指揮官が何か言うと、軍隊は一斉に踵を返して引き上げて行った。軍が居なくなると、ララさんが再び私に向き直る。トスカさんもすぐ傍に転移してきた。いつの間にか城壁の上の神々の姿は消えている。

「イル! 魔晶石に入っている神の魔力を使ったんだね。とんでもないことを! 生きているのが奇蹟だよ。」

 ララさんの言うことはもっともだ。魔晶石にチャージされている魔力は、人のそれとは比べものに成らない。完全に桁が違う。疑いもなく人の身体の魔力許容量を超えている。その魔力を使ったら魔力中毒で確実に死亡する。通常ならばだ。私だって自殺しようとしたわけでは無い。目算は会ったのだ。分の悪い賭けではあったが、生きていると言うことは賭けに勝ったと言うことだろう。

 私が他の魔法使いと違うのは、幼いため身体の魔力許容量が小さいと言うことだ。本当なら魔法を使える歳ではないのだ。だから他の魔法使いが、一旦魔力を魂から身体に蓄えて、その魔力で魔法を使うのに対し、私は魔法を発動するタイミングに合わせて、必要なだけの魔力を魂から身体に供給している。そうすることで、魂から身体に入ってくる魔力と魔法の行使により身体から出て行く魔力をプラスマイナスゼロにして、身体に魔力が溜まらない様にしているのだ。それができる様に魂のコントロールの訓練を何年も行ってきた。

 今回のことも原理的には同じだ。いくら魔晶石から供給される魔力が膨大でも、それと同じ量の魔力が身体から出て行けば、身体に魔力は溜まらず魔力中毒には成らない。但し、いつもは魂をコントロールして、身体に入ってくる魔力を魔法の行使にちょうど必要なだけに調整しているのだが、今回は逆だ。魔晶石から身体に入ってくる魔力量はコントロール不可能だ、だったら身体から出て行く魔力量をそれに合わせるしかない。私は使用する魔力量を城壁を作るスピードで調整した。だからあれほどのスピードで城壁を作る必要があったのだ、もっとも入ってくる魔力があそこまで膨大だとは思わず、危ない所ではあったのだが...。

「どうやら、ラトスのじじいがアトルの傍に到着した様だ。後は任せて私達は退却するとしよう。イルには休養が必要だよ。瞬間移動は出来るかい?」

私が、魔法が使えないことを伝えると、ララさんが瞬間移動で近くの町まで私を運んでくれ、宿を取って寝かせてくれた。ベッドに横になるとすぐに眠りに落ちた。先ほどから眠くて仕方が無かったのだ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...