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12. 襲撃 - 2
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族長のカマタチさんの指示で、一族の男達が武装して敵の偵察に出発した。残った者は亡くなった人達の埋葬の準備をする。このまま放って置く分けにはいかない、血の匂いを嗅ぎつけて獣が遺体を食べに集まって来るかもしれないのだ。死んだ人の遺族達が泣きながら墓穴を掘って行く。父さんも一緒に埋葬してもらう。定住地を持たない遊牧の民には特定の埋葬地はない。亡くなった場所が墓場となる。母さんは魂が抜けたみたいに動かず、何もしゃべらない。ただただ座って、地面を見詰めているだけだ。私や兄さん、姉さんが呼びかけても反応がない。私達は兄妹でどうするか話し合い、明日、夜明けとともに母さんを連れて私達の居住地に引き返すことにした。姉さんはもちろんここに残る。既に結婚式を挙げた以上、姉さんはソラさんの家族だ、勝手に家族の元を離れることはできない。姉は母さんのことを心配しながらもソラさんの元に引き返して行った。ふたりだけになると兄さんが小声でささやいた。
「あの風はイルが吹かせたのか?」
私は黙って首を縦に振る。驚いたことに、ここの一族の人達は誰も私が魔法で風を吹かせたことに気付いていないのだ。兄は私の頭に手を置くと優しく撫でてくれた。
「大丈夫だ、敵をやっつけるのは当たり前だ。イルは父さんの仇を取ったんだ。誇りこそすれ、悔やむことじゃない。」
それを聞いた途端、私の目から涙が溢れた。兄さんに抱き着いて大声で泣く。兄さんには私の心はお見通しだった様だ。そう、私は今日初めて人を殺した。たぶんとても多くの人を殺した。あの時は何の躊躇もなかったが、時間が経つに連れて、自分のしたことが恐ろしくなってきたのだ。
やがて敵の偵察に行っていた人達が戻ってきた。何人かの捕虜を連れている。捕虜達は全員とても痩せていた。それにどこかに怪我をしている。おそらく私が天から降らせた矢で怪我をして逃げ遅れたのだろう。報告を受けたカマタチさんが、一族全員を呼び寄せた。私達も一緒に呼ばれる。
「敵の正体が分かった。北に住む同胞達だ。奴らは北の砂漠が広がって、家畜に草を食わせる場所がなくなったため食うに困り、俺達の土地を奪おうと襲って来たらしい。今日の襲撃では太陽の神ギル様が我らを守って下さった。ソラの結婚式にヤギルを3頭捧げたことを愛でて下さったのだろう。皆で感謝の祈りをささげるのだ。」
カマタチさんはそう言うと、太陽の神に祈りをささげ初めた。他の皆もそれに習う。もちろん私達もだ。私の魔法を太陽の神の加護と思ってくれるのならありがたい。しばらく祈りをささげた後、カマタチさんが話を続ける。
「北の同胞達は我らの土地を諦めたわけではない。一旦退却したもののいずれは体制を立て直して再び我らを襲ってくるだろう。我らも他の部族と協力して迎え撃たねばならない。北の部族と南の部族の戦いになる。皆もそのつもりで覚悟をしてくれ。直ちに南の各部族の長に使者を送る、皆で団結して北に対抗するのだ。」
それからカマタチさんは他の部族への使者を指名して次々に送り出した。私達の部族への使者としては兄さんが指名された。もちろん私達に異存はない。長老にありのままを報告するだけだ。
翌朝早く、私達は姉さんとソラさんに見送られて帰途に付いた。母さんは相変わらず放心状態だ。仕方なく私が母さんと一緒の馬に乗って手綱を握る。私達は草原を休憩なしで一気に掛け抜け、自分達の居住地に帰って来た。居住地に着くと兄さんはただちに長老に昨日の出来事を報告に行く。私は母さんと自分達の天幕に戻った。母さんは自分達の天幕に着くと少しだけ生気が戻ったがそれだけだ。相変わらず口を開かない。昨日から寝ていないし、食事もしていない。水すら飲んでいない。このままだと倒れてしまう。
しばらくして、長老への報告を終えた兄さんが返ってきた。私が母さんの様子が相変わらずであることを言うと、一計を案じた兄さんは私の耳元であることを囁いた。それに頷いた私は、母さんに抱き着き甘え声で訴える。
「お母さん、お腹が空いたよ~~~。」
効果はてきめんだった。母さんの表情が引き締まり母親の顔になる。
「イル? ごめんねイル、直ぐご飯を作るからね。」
と言って立ち上がった。私は母さんに回復魔法を掛けながら後を付いて行く。兄さんが言ったこと、それは「母さんに甘えろ」だ。私はまだ5歳、母親に甘えてもなんら不思議はない。前世の記憶があるため、今までは恥ずかしくてなかなか甘えられなかったが、羞恥心はしばらくお預けだ。それからの私は母さんに甘え倒した。朝は起こされるまで起きないし、寝るときは母さんの寝床に潜り込む。1日中母さんにべったりくっついて離れない。その分兄さんが私の分まで働いてくれる。その効果もあってか、何日かすると母さんが元に戻ってきた。時たま父さんのことを思い出すのか涙を流すが、それ以外は普通に話をし、笑顔も見せてくれる様になった。兄さんのグッドジョブである。
「あの風はイルが吹かせたのか?」
私は黙って首を縦に振る。驚いたことに、ここの一族の人達は誰も私が魔法で風を吹かせたことに気付いていないのだ。兄は私の頭に手を置くと優しく撫でてくれた。
「大丈夫だ、敵をやっつけるのは当たり前だ。イルは父さんの仇を取ったんだ。誇りこそすれ、悔やむことじゃない。」
それを聞いた途端、私の目から涙が溢れた。兄さんに抱き着いて大声で泣く。兄さんには私の心はお見通しだった様だ。そう、私は今日初めて人を殺した。たぶんとても多くの人を殺した。あの時は何の躊躇もなかったが、時間が経つに連れて、自分のしたことが恐ろしくなってきたのだ。
やがて敵の偵察に行っていた人達が戻ってきた。何人かの捕虜を連れている。捕虜達は全員とても痩せていた。それにどこかに怪我をしている。おそらく私が天から降らせた矢で怪我をして逃げ遅れたのだろう。報告を受けたカマタチさんが、一族全員を呼び寄せた。私達も一緒に呼ばれる。
「敵の正体が分かった。北に住む同胞達だ。奴らは北の砂漠が広がって、家畜に草を食わせる場所がなくなったため食うに困り、俺達の土地を奪おうと襲って来たらしい。今日の襲撃では太陽の神ギル様が我らを守って下さった。ソラの結婚式にヤギルを3頭捧げたことを愛でて下さったのだろう。皆で感謝の祈りをささげるのだ。」
カマタチさんはそう言うと、太陽の神に祈りをささげ初めた。他の皆もそれに習う。もちろん私達もだ。私の魔法を太陽の神の加護と思ってくれるのならありがたい。しばらく祈りをささげた後、カマタチさんが話を続ける。
「北の同胞達は我らの土地を諦めたわけではない。一旦退却したもののいずれは体制を立て直して再び我らを襲ってくるだろう。我らも他の部族と協力して迎え撃たねばならない。北の部族と南の部族の戦いになる。皆もそのつもりで覚悟をしてくれ。直ちに南の各部族の長に使者を送る、皆で団結して北に対抗するのだ。」
それからカマタチさんは他の部族への使者を指名して次々に送り出した。私達の部族への使者としては兄さんが指名された。もちろん私達に異存はない。長老にありのままを報告するだけだ。
翌朝早く、私達は姉さんとソラさんに見送られて帰途に付いた。母さんは相変わらず放心状態だ。仕方なく私が母さんと一緒の馬に乗って手綱を握る。私達は草原を休憩なしで一気に掛け抜け、自分達の居住地に帰って来た。居住地に着くと兄さんはただちに長老に昨日の出来事を報告に行く。私は母さんと自分達の天幕に戻った。母さんは自分達の天幕に着くと少しだけ生気が戻ったがそれだけだ。相変わらず口を開かない。昨日から寝ていないし、食事もしていない。水すら飲んでいない。このままだと倒れてしまう。
しばらくして、長老への報告を終えた兄さんが返ってきた。私が母さんの様子が相変わらずであることを言うと、一計を案じた兄さんは私の耳元であることを囁いた。それに頷いた私は、母さんに抱き着き甘え声で訴える。
「お母さん、お腹が空いたよ~~~。」
効果はてきめんだった。母さんの表情が引き締まり母親の顔になる。
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