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4. 家族への告白
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目が覚めると我家の天幕だった。母さんが蒼い顔で私の顔を覗き込んでいる。喉が痛いがなんとか声を絞り出した。
「かーさん...。」
途端に母さんの目から涙が溢れた。
「イル、イル... 」
母さんはそれ以上何も言わないで私を抱いてくれた。母さんに抱かれると安心したからか再び意識が遠のいた。
次に目が覚めると私は家族全員に覗き込まれていた。よかったみんな無事の様だ。
「おはよ」
としわがれ声で挨拶する。途端に全員が何か言いたげな表情になったが、母が代表して発言した。
「何か欲しいものは無い? お水はどう?」
「うん、おみずちょうだい」
と答えると上半身を抱き起して慎重に飲ませてくれる。今まで飲んだ中で一番おいしい水だった。飲み終えると再び寝かされる。
「イル、聞きたいことがあるんだが...」
と父さんが言うが母さんが撥ね付けた。
「駄目よ、ラナイ。イルは一週間も目が覚めなかったのよ。聞くのは元気になってからよ。」
「....そうだな。」
と父さんは諦めた。それから私はミルク粥を食べさせてもらい再び眠りについた。私が起き上がれるまで回復したのはそれから更に1週間程度経ってからだ。完全に魔力中毒である。死ななかっただけましかもしれないが。
元気になってから、アイラ姉さんに私が意識を失ってからのことを教えてもらった。私の破壊魔法は狙い通りオカミのボスの頭を吹き飛ばし、他のオカミ達はボスがやられて直ぐに撤退したらしい。その後脱走したヤギルの群れを追って行った大人たちが帰還し、自分達が留守の間に居住地がオカミの群れに襲われたと知って騒ぎになったが、頭が吹っ飛んだボスは偶々雷が頭に落ちたということで納得してくれたらしい。オカミにやられた3頭のラクダルも、運の悪い事故として持ち主も納得してくれたそうだ。
「それで、イルはあの時何をしたのかな?」
とアイラ姉さんが微笑みながら問いかけてくる。姉さんはボスの死が雷によるものだとは露程も信じていない様だ。仕方がない、私はすべてを白状する覚悟をして皆を呼んでもらった。私の説明を聞いた皆はポカンとした表情をしていた。父さんと母さんも私に前世の記憶があるとは知っていたが、まさか私に魔法が使えるとは思ってもいなかった様だ。しかし、アイラ姉さんを助けるためとはいえ、危険なことをしたことについてはきっちりと叱られた。
「魔法って、王国の魔導士様が使うってやつか?」
とヤラン兄さんが聞いてくる。
「たぶんおなじ」
魔導士が何かは知らないけれど、魔法に種類があるとは思えない。
「すげえ! それなら王国に行けば魔導士様に成れる。すごい出世だぞ。金持ちになれるし、美味い物もたらふく食える。」
父さんがヤラン兄さんの頭をパシンと叩く。
「お前はイルが王国に行ってしまってもいいのか?」
「えっ、いや....」
と言葉に詰まるヤラン兄さん。
「どこにもいかないよ。ずっと、とーさんとかーさんといっしょ」
と私が言うとヤラン兄さんも含め皆が笑顔になった。ヤラン兄さんも深く考えないで言っただけで、私が居なくなるのは嫌な様だ。何となく嬉しくなった。
そして私の日常が戻ってきた。ヤラン兄さんの初めての狩りはどうだったかと言うと、まったくダメだったらしい。兄さんの狩りの腕が悪いのではなく、獲物が全くいなかったのだ。この居住地にオカミの群が現れたことといい、何らかの異変が起こっていたのかもしれない。
それから私の生活でひとつ変化があった。3歳の私は天幕でひとりで留守番をすることが多いのだが、その時にひとりで瞑想をする様に成った。3歳児が瞑想である。人に知れたら何と言われるか分からないので秘密にしている。瞑想の目的は魔力中毒の危険を冒さずに魔法を使える様になることだ。この前の様なことが起った時、前世の様に魔法が使えれば皆の安全を守れる。実は私の様な子供でも魔法が使える様になる方法がある。前世で女神様に教えて頂いたのだ。なんと私は前世で王様とだけでなく女神様とまで話をしたことがある様なのだ(前世の私、何者だ?)。もっとも、女神様の名前もお顔も忘れているのは残念だが。
女神様のおっしゃるには、魔力の源は魂であるが、普通の人が魔法を使うときは、まず魂から魔力を流して身体に充満させる。そして魔法は身体に充満した魔力を使って発動するという2段階になっている。そして魔力中毒は身体に許容量を超えた魔力が溜まることで引き起こされる。子供が魔法を使ってはいけない理由は魔力許容量が大人に比べて極端に少ないからだ。そのため身体に魔力を溜める段階で簡単に許容量を超えてしまう。そこで魔法の行使の方法を2段階から1段階に変更する。具体的にはこれから発動しようとしている魔法に必要な魔力ときっちり同じ量を、魔法を使うタイミングに合わせて魂から身体に供給すれば、身体に入ってくる魔力と出て行く魔力がプラスマイナスゼロとなり、身体に魔力が溜まらない。もっとも、これは言うは易く行うは難しである。よほど精密に魔力のコントロール、すなわち魂のコントロールが出来ないと失敗する。その為には魂のコントロールを徹底的に練習する必要がある。私の瞑想はそのためのトレーニングなのだ。魂を自分の身体の様に自由に動かす練習をしている。まあ、目標は遠いのだが...。
「かーさん...。」
途端に母さんの目から涙が溢れた。
「イル、イル... 」
母さんはそれ以上何も言わないで私を抱いてくれた。母さんに抱かれると安心したからか再び意識が遠のいた。
次に目が覚めると私は家族全員に覗き込まれていた。よかったみんな無事の様だ。
「おはよ」
としわがれ声で挨拶する。途端に全員が何か言いたげな表情になったが、母が代表して発言した。
「何か欲しいものは無い? お水はどう?」
「うん、おみずちょうだい」
と答えると上半身を抱き起して慎重に飲ませてくれる。今まで飲んだ中で一番おいしい水だった。飲み終えると再び寝かされる。
「イル、聞きたいことがあるんだが...」
と父さんが言うが母さんが撥ね付けた。
「駄目よ、ラナイ。イルは一週間も目が覚めなかったのよ。聞くのは元気になってからよ。」
「....そうだな。」
と父さんは諦めた。それから私はミルク粥を食べさせてもらい再び眠りについた。私が起き上がれるまで回復したのはそれから更に1週間程度経ってからだ。完全に魔力中毒である。死ななかっただけましかもしれないが。
元気になってから、アイラ姉さんに私が意識を失ってからのことを教えてもらった。私の破壊魔法は狙い通りオカミのボスの頭を吹き飛ばし、他のオカミ達はボスがやられて直ぐに撤退したらしい。その後脱走したヤギルの群れを追って行った大人たちが帰還し、自分達が留守の間に居住地がオカミの群れに襲われたと知って騒ぎになったが、頭が吹っ飛んだボスは偶々雷が頭に落ちたということで納得してくれたらしい。オカミにやられた3頭のラクダルも、運の悪い事故として持ち主も納得してくれたそうだ。
「それで、イルはあの時何をしたのかな?」
とアイラ姉さんが微笑みながら問いかけてくる。姉さんはボスの死が雷によるものだとは露程も信じていない様だ。仕方がない、私はすべてを白状する覚悟をして皆を呼んでもらった。私の説明を聞いた皆はポカンとした表情をしていた。父さんと母さんも私に前世の記憶があるとは知っていたが、まさか私に魔法が使えるとは思ってもいなかった様だ。しかし、アイラ姉さんを助けるためとはいえ、危険なことをしたことについてはきっちりと叱られた。
「魔法って、王国の魔導士様が使うってやつか?」
とヤラン兄さんが聞いてくる。
「たぶんおなじ」
魔導士が何かは知らないけれど、魔法に種類があるとは思えない。
「すげえ! それなら王国に行けば魔導士様に成れる。すごい出世だぞ。金持ちになれるし、美味い物もたらふく食える。」
父さんがヤラン兄さんの頭をパシンと叩く。
「お前はイルが王国に行ってしまってもいいのか?」
「えっ、いや....」
と言葉に詰まるヤラン兄さん。
「どこにもいかないよ。ずっと、とーさんとかーさんといっしょ」
と私が言うとヤラン兄さんも含め皆が笑顔になった。ヤラン兄さんも深く考えないで言っただけで、私が居なくなるのは嫌な様だ。何となく嬉しくなった。
そして私の日常が戻ってきた。ヤラン兄さんの初めての狩りはどうだったかと言うと、まったくダメだったらしい。兄さんの狩りの腕が悪いのではなく、獲物が全くいなかったのだ。この居住地にオカミの群が現れたことといい、何らかの異変が起こっていたのかもしれない。
それから私の生活でひとつ変化があった。3歳の私は天幕でひとりで留守番をすることが多いのだが、その時にひとりで瞑想をする様に成った。3歳児が瞑想である。人に知れたら何と言われるか分からないので秘密にしている。瞑想の目的は魔力中毒の危険を冒さずに魔法を使える様になることだ。この前の様なことが起った時、前世の様に魔法が使えれば皆の安全を守れる。実は私の様な子供でも魔法が使える様になる方法がある。前世で女神様に教えて頂いたのだ。なんと私は前世で王様とだけでなく女神様とまで話をしたことがある様なのだ(前世の私、何者だ?)。もっとも、女神様の名前もお顔も忘れているのは残念だが。
女神様のおっしゃるには、魔力の源は魂であるが、普通の人が魔法を使うときは、まず魂から魔力を流して身体に充満させる。そして魔法は身体に充満した魔力を使って発動するという2段階になっている。そして魔力中毒は身体に許容量を超えた魔力が溜まることで引き起こされる。子供が魔法を使ってはいけない理由は魔力許容量が大人に比べて極端に少ないからだ。そのため身体に魔力を溜める段階で簡単に許容量を超えてしまう。そこで魔法の行使の方法を2段階から1段階に変更する。具体的にはこれから発動しようとしている魔法に必要な魔力ときっちり同じ量を、魔法を使うタイミングに合わせて魂から身体に供給すれば、身体に入ってくる魔力と出て行く魔力がプラスマイナスゼロとなり、身体に魔力が溜まらない。もっとも、これは言うは易く行うは難しである。よほど精密に魔力のコントロール、すなわち魂のコントロールが出来ないと失敗する。その為には魂のコントロールを徹底的に練習する必要がある。私の瞑想はそのためのトレーニングなのだ。魂を自分の身体の様に自由に動かす練習をしている。まあ、目標は遠いのだが...。
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