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21. 預言者の杖

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(シロム視点)

 神官長が扉を開けると、思わず目を瞑った。眩しい! 部屋の中が光で満ちている。いや、これは神気か! とんでもない量だ。

 神官長様に続いて部屋に入ると扉が閉じられた。部屋の中には照明が無いのに明るい。この部屋は神気だけでなく光でも満ちている。そして大きな部屋の中央に天面が平な形をした岩が鎮座している。カルロ様が供物を捧げるのに使われた岩だ。この神殿はその供物を捧げる聖なる岩を囲む様に建てられた。床もむき出しの地面のままだ。もっとも話には聞いていたが見るのは初めてだ。気が付くといつの間にか全身が震えていた。

「さあシロムよ、聖なる岩の前で祈りを捧げるのじゃ。」

 そう促され、ぎこちなく岩の前に跪いて祈りのポーズを取る。神官長様も隣で祈っておられる様だ。

<< アーシャ様、居られますか? どうかご返事ください。皆心配しております。>>

 必死にアーシャ様に呼びかけるが相変わらず返事がない。何度呼びかけても同じだ。だがしばらくして、野太い男性の声が心に響いた。

<< お主がシロムか? アーシャはここには居らぬ。何があった? >>

 おしっこを漏らしそうになった。聖なる山の神様! ヒェ~~~~~~~~ッ!

<< シ、シロムでございます。アーシャ様のお姿が今朝から見当たりません。念話にも応答されないのです。>>

<< 何! >>

 と声がしてからしばらく間があったが、再び神の声が届いた。

<< どこにも居らぬ。あのじゃじゃ馬娘め、あれほど気を付ける様に言ったと言うのに....。シロムよ、お主に頼む。私に代わってアーシャを探し出してくれぬか? 助力は惜しまぬぞ。>>

<< ぼ、僕がですか!? >>

<< そうじゃ。アーシャはカルロの町どころか、この山の周りには居らぬ。私はわけあってここから動くことが出来ぬ。念話が使えアーシャの神気と親和性の高いお主なら探し出せるかもしれん。連れ帰ってくれたらどのような願いでも叶えよう。>>

<< ア、アーシャ様のためならこの命も惜しくはありません。で、ですが、僕では明らかに力不足です。>>

<< 心配するな。さっきも言った様に助力は惜しまん。まずはこれを受け取るが良い。>>

 神様がそうおっしゃった途端、供物の岩の上に何か硬いものが転がる音がした。恐る恐る立ち上がって岩の上を見ると、短く太い杖が置かれている。

<< 私の神気をたっぷりと込めた杖だ。昔カルロにも同じものを与えた。これがあれば人間であっても神力が使えよう。炎を発し、雷を操り、病を癒し、結界を張ることもできるだろう。お主しか使えぬように調整済みだ。>>

 それって......カルロ様が数々の奇跡を起こすのに使われたという伝説の預言者の杖!? とんでも無い物が目の前にあった。

<< さらに移動の手段も用意しよう。この後神殿の中庭で待つがよい。引き受けてくれるな? >>

<< ひ、ひゃい >>

<< ハッ、ハッ、ハッ、カルロに良く似ておる。頼りにしているぞ。>>

 念話が途絶えた途端、僕はその場に座り込んだ。呼吸が出来ない。心臓が最大速度で脈打っている。頭がズキズキする。ちょっとでも気を緩めたらそのまま気を失いそうだ。

「シロム、何があった? この杖は何じゃ? まさか....」

 神官長様が問いかけて来るが声が出ない。何度も深呼吸して必死に息を整えた。

「こ、こ、この杖は、か、神様が授けて下さいました。昔カルロ様が頂いたものと同じものと仰っておられました。これを持ってアーシャ様を探せとのご命令を授かりました。」

「なんと!?」

そう言うと神官長様が杖に向かって頭を下げた。

「シロム、いや、預言者シロム殿。この後どうされるのじゃ。」

「分かりません。ただ、移動の手段を用意するので中庭で待つ様にとのことです。」

「ならば急がなければなりますまい。」

 神官長様はそう言って、預言者の杖を両手で捧げ持ち僕に差し出して来た。恐る恐る受け取るとズシリと重い。持てないほどではないが、長い間持っていると腕が疲れそうだ。仕方なく僕は恐る恐る杖の先端を地面に付けた。杖としては当然の使い方なのだが神に頂いたものを地面につけて汚すなど申し訳ない気がする。

「さあ、参りましょうぞ。」

神官長様に促され、供物の岩に一礼してから出口に向かう。供物の部屋の外ではキルクール先生とクラスメイト達が真剣な表情でこちらを見つめていた。

「シロムさんからすごい神気を感じるわ!」

「そ、それはきっとこの杖だよ。神様から頂いた....。」

カリーナにそう答えると全員が固まる。

「それって.....預言者の杖か?」

「そうらしい。昔カルロ様に与えられたのと同じものだと仰っていた。これを持ってアーシャ様を探しに行くようにとのご命令だ。」

「旅に出るってことか? ひとりで大丈夫なのか?」

 マークが心配そうに尋ねて来る。正直、大丈夫じゃないと言いたいが言えないよな....。

「俺も同行する。いいよな爺様?」

と僕の表情から気持ちを汲んでくれたのだろう。そうマークは言った。
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