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11. アーシャ服を買う

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(シロム視点)

 アーシャ様と服を買いに出かける日がやって来た。もちろんカンナも一緒だ。僕とアーシャ様は朝ごはんを食べてからとなりのカンナの家に向かう。

「おばさん、おはようございます。カンナはいますか?」

「あらシロムちゃん、久しぶりね。やっぱり神官様になる勉強で忙しいのかな? 下町から神官様が出るなんて私達も鼻が高いわ。そっちがアーシャちゃんね、カンナから聞いているわ。ちょっとまってね、今呼んで来る。」

カンナのお母さんのラーズおばさんはそう言うと2階への階段を上がって行った。しばらく待つとカンナが手に薄いピンクの外套を手に降りて来た。

「はい、これ貸してあげる。遊牧民の服のままだと目立つかもしれないからね。」

そう言ってカンナは外套をアーシャ様に差し出した。途端にアーシャ様の目が輝く。

「うわぁ、素敵な色ですね。ありがとうございます。」

そう言って嬉しそうに外套を受け取り袖に手を通す。確かにこれなら下に遊牧民の服を着ているとは分からない。

「それじゃ、ちょっと出かけて来るわね。お昼ごはんは外で食べて来るからね。」

 カンナはラーズおばさんにそう言って僕達と一緒に外に出る。お昼は僕のおごりで高級料理店カナンで食べることになっているのだ。僕の懐には銀貨50枚が入っている。僕の全財産だ。トホホ....である。

「アーシャちゃん、私が良く行く古着の店に案内するわね。古着といっても程度の良いものが多いから安心してね。アーシャちゃんにピッタリの可愛い服を選んであげる、もちろん予算内でね。さあ、張り切ってゆくわよ。」

と先頭を行くカンナ。張り切り過ぎてアーシャ様のご迷惑にならなければ良いけど.....。

「楽しそうだな。」

と僕が声を掛けると、

「もちろんよ。女性にとって服を選ぶのは大きな楽しみなのよ。たとえ自分の服でなくてもね。たっぷり時間を掛けるから覚悟しなさい。」

 カンナの勢いに押され。僕はアーシャ様と話ながら先を進むカンナの後を付いて行くことになった。しばらく歩くとカンナの言っていた店の看板らしきものが見えて来た。




(アーシャ視点)

 カンナさんに案内されて、彼女のお気に入りだという古着屋に到着した。いざ中に入ろうとすると、シロムさんが心の中で悲鳴を上げた。見ると私達が向かう先には女性の下着売り場があって、そこにはセクシーな下着を身に着けたマネキンが鎮座している。

<< こ、ここに入るの? ギャッ、あんな下着の近くに男が行ったら変な目でみられるかも... >>

シロムさんの心の声が叫ぶ。どうやらこの店は女性用の服の専門店らしい。店に居る客もほとんどが女性だ。私達が探している古着は下着(流石にこちらは新品の様だ)売り場のすぐそばにある。

「あの、カンナさん。シロムさんが困っています。」

私が囁くとカンナさんはシロムさんの方を向き、

「シロムは店の外で待っていても良いわ。」

と不機嫌に言い捨ててさっさと店の奥に進む。仕方なく私も後を追いかけた。

「まったく堂々としていれば大丈夫なのに。これじゃ一緒に服を選んでもらうのは遠い先の話ね。」

と口にするカンナさん。残念そうだ。

 この店で扱っている古着は状態の良い物を厳選しているというカンナさんの説明のとおり、ハンガーに吊るされて展示されている服は染みや汚れはほとんどなく、痛んでいるところがあったとしても綺麗に修復されている。それでいて価格は新品の四分の一位だそうだ。自分のサイズに合うものが見つかればかなりお得に買い物が出来るという。

 カンナはさっそく沢山の服を両手に抱えて来て、私に試着室で試してみる様に言う。

「おー、さすが私! サイズはピッタリね。このブラウスとスカートならこっちのハーフジャケットを合わせれば...、うん中々いいじゃない。この組み合わせが候補1でどうかしら?それじゃ次は....」

と私はしばらくカンナさんの着せ替え人形と化した。結局カンナさんが選んだ候補の服は3セット。3つとも買いたいが予算の関係で一つしか買えない。結局カンナが最初に選んでくれたセットにした。値段は銀貨17枚だ。

 私の服が決まると、カンナは自分用の服の候補を試着室まで運んで来る。あれ? 私用に選んでくれたカラフルな服と違ってモノトーンを基調とした落ち着いた色合いのものが多い。

「カンナさん、シロムさんをあんまり待たせては可哀そうですよ。」

と口にすると、試着中のカンナもしぶしぶと言う感じで同意した。

「そうね、そろそろ勘弁してあげるかな。どうせこの服は私に似合わない様だしね...。私、本当は可愛い系より清楚系の服が好きなのだけど、やっぱり美人じゃないと清楚系を着こなすのは無理ね...せめてこのソバカスが無ければ良いのだけど。」

と言う。確かにカンナの顔にはソバカスがあるが、それでも十分可愛いと思う。可愛いのと美人なのは違うのだろうか?

 私は服の料金を払うと、その服に着替えてから店を出た。今まで着て来た服は店で貰った手提げの紙袋に入れてある。

「シロム、お待たせ! さあ、イタリ料理よ。」

 とカンナさんが元気な声で叫ぶ。シロムさんの心は私達が店から出て来たことに対する安堵とイタリ料理の出費に対する不安とで揺れている。ちょっと可哀そうに思うが、私の手元には銀貨3枚しか残っていない。御免ねシロムさん、私もイタリ料理を食べてみたい。
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