14 / 37
14
しおりを挟む
コンコン。
「はい」
「ルビーよ」
「お、お入りください!」
扉の奥から聞こえるサファイアの声を聞き、ルビーはサファイアの部屋の扉を開ける。
サファイアは、依然部屋に籠っている。
「ルビー様、私、ここが現実だって、ちゃんと理解しました。私も、ルビー様を見習って、頑張って生きてみようと思います」
サファイアの感情も、ずいぶんと前向きになった。
しかし、恐怖はそう簡単になくなるものではない。
感情が前進を促そうとも、身体がそれを拒む。
代わりに、サファイアの部屋には人が来る。
ルビーは当然、オニキスにアメシスト、たまにではあるがネールも。
サファイアとネールは、最初こそ気まずそうにしていたが、互いに善意の掛け違い。
今では、ぎこちないながらも笑いながら会話ができるまでになった。
サファイアのもっぱらの楽しみは、部屋を訪れる人々と話すことだ。
「ルビー様、最近の学院生活はどうですか?」
「んー、ぼちぼちかなー」
「そうですか。私も、早く学院に通いたいです」
「あははー、待ってるわね」
魔法学院への期待も、信じられない程に高まっている。
だからこそ、ルビーの表情に影が落ちたことに気が付かない。
ルビーは明日も彼女――エメラルドに会うと思うと、気が重かった。
エメラルドは、以前にも増してルビーへ殺気を向けるようになっていたのだ。
エメラルドのイライラゲージは、ピークに達していた。
「なによ! なによなによなによ!」
入学から数か月。
エメラルドは、常にオニキスへのアピールを続けてきた。
しかし、暖簾に腕押し。
オニキスは、エメラルドに対してひとかけらの興味も抱くことはなかった。
「なんでよ! なんで上手くいかないのよ!」
オニキスには好かれない。
「あの女たちは何なのよ!」
それどころか、オニキスはダイヤモンドとルビーの方に、強い関心を向けている。
その感情は関心でしかなく、恋心とは異なる。
しかし、何の感情も向けられないエメラルドにとっては、嫉妬するに十分であった。
いっそ、自身の側近を差し向けて、将来の敵になりそうなダイヤモンドとルビーに嫌がらせでもしてやろうかと考えたこともあったが、ダイヤモンドへの嫌がらせはネールが実践済み、そして返り討ちにあっている。
ルビーに対して行うことは、同じ公爵家という立場上リスクが高い。
「お兄様ー!」
「どーうした妹よ!」
打つ手を失くしたエメラルドの一手はいつだって同じ。
いつだって兄頼り。
「お兄様ー! 私、オニキス様と全然仲良くなれないのー」
しくしくと泣き真似をするエメラルドに、兄であるペリドットは同情の感情が溢れた。
「おお、可哀そうに。エメラルドはこんなに頑張っているというのに。よし、兄に任せなさい! 必ず、エメラルドの恋を成就させてみせようじゃないか!」
「やったー! お兄様大好き!」
「すべて、この兄に任せておきなさい!」
エメラルドから頼られたペリドットの行動は、迅速だった。
サファイアの一件を挙げて、如何に級友との触れ合いが大切かを主張し、学院に対し定期的な交流会の開催を要求した。
問題は、その頻度。
二日に一回という多さだ。
名目上は自由参加であるものの、他の生徒の模範となるべき公爵家以上の人間は推奨というルールまで作り上げた。
もちろん、推奨は推奨。
断ることにペナルティなどないが、ペリドットは両親を説き伏せ、王家への根回しも行い、オニキスの参加を実質的に強制化した。
オニキスにとっては、最悪な提案。
しかし、オニキスの両親にとっては、魅力的な提案だった。
婚約者を失ってからと言うもの、オニキスはすっかり次の相手を探す様子を見せなかった。
オニキスの両親は、このまま誰とも結婚をせずに生涯を終え、王族の責務を果たさないつもりだろうかとハラハラしていたが、そこへのペリドットの提案だ。
少しでもオニキスが婚約者を探す機会が増えるならと、オニキスの参加を快諾した。
否、オニキスにさせた。
「オニキス様ー! 本日も素敵ですねー!」
「ああ、ありがとう」
公爵家以上の人間は推奨というルール上、エメラルドが常に参加していることに、何の問題もない。
一人の人間がオニキスを独占してはいけないというルールもないので、エメラルドが常にオニキスの横に立っていることに、何の問題もない。
「オニキス様ー、私最近ー、料理の練習しているんですよー! 専属の料理人がいるので自分で作る必要はないですけどもー、やっぱり手料理って特別感ありますもんねー! 特に、好きな人に食べてもらえる手料理にはー!」
「庶民の中では、流行っているようだな」
「オニキス様ー! オニキス様のお好きなお料理は何ですかー? 私、挑戦してみようかなーなんてー」
「全ての料理が好きだ。料理人の努力が詰め込まれた料理を、どうして優劣つけられようか」
「……そ、そうですねー」
交流会終了のチャイムが鳴る。
待機していた使用人たちは、会場のテーブルに並べていた料理を下げていき、参加していた貴族たちも続々と会場を後にする。
「私も失礼する」
「あ、はいー。お休みなさいませ、オニキス様ー」
オニキスも、悠然と会場を後にした。
エメラルドは何とも言えない表情で、その背を見送った。
「ルビー」
「オニキス様? こんばんは。どうかなさいましたか?」
「少し話があるのだが、構わないか?」
「内密のお話でしたら、応接室をとりますが」
「ああ、頼む」
そして、ルビーに話しかけ、ほんの少しだけ楽しげに表情を崩したオニキスを見た。
「…………」
エメラルドは、今日一番の笑顔で、二人を呆然と眺めた。
「お兄様ー!」
「どーうした妹よ!」
打つ手を失くしたエメラルドの一手はいつだって同じ。
いつだって兄頼り。
「お兄様ー! 私、オニキス様と全然仲良くなれないのー」
「おっと、デジャブ?」
「私、ずーっとオニキス様に話しかけてるのにー、オニキス様ずっとルビー様ばかりとお話しててー」
「なんということだ! 交流会で、一人の人間を独占するとは、ルビー様もお人が悪い」
「でしょー」
ペリドットは考える。
ペリドット自身、オニキスが婚約に積極的でないことは知っている。
そして、積極的でないオニキスに対して、両親が頭を抱えていることも知っている。
「妹よ、君はオニキス様と結婚したいんだね?」
「もちろんよー」
「結婚した結果、今のようにオニキス様から冷たく扱われたとしてもかい?」
「結婚してずっと一緒にいればー、今度こそオニキス様をメロメロにできるはずですー」
「万が一、の話だ。万が一、子孫を残す程度の最低限のご寵愛しかいただけなくても、君はオニキス様と結婚したいのかい?」
ペリドットの目は、いつになく真剣だ。
妹の前で普段見せる溶けかけのアイスのような弛緩したものではなく、エメラルドの幸せを心から祈っているからこその、厳しい瞳。
「もちろんですー。オニキス様の側にいられるならー、私、どんなことだって耐えられますー」
「そうか、わかった」
エメラルドは、ペリドットの懸念の一割も想像できてはいない。
ペリドット自身、そんなこと承知の上で、エメラルドの意思を尊重する。
今しか見ないエメラルドにとっての幸せとは、今、エメラルドがやりたいことをやらせることなのだから。
「よし、兄に任せなさい! 必ず、エメラルドとオニキス様を、結婚させてあげようじゃないか!」
「やったー! お兄様大好き!」
「すべて、この兄に任せておきなさい!」
ペリドットの策は、単純明快。
オニキスは恋愛に対する意欲が著しく低下しており、しかし王族として子孫を残さなければならない使命感は残っている。
その矛盾に苦しんではいる。
ならば、両方を解決できる提案をすればいい。
恋愛感情なしで、子孫を残せる提案を。
政略結婚。
なんともありきたりで、普通で、魅力的な提案を。
「はい」
「ルビーよ」
「お、お入りください!」
扉の奥から聞こえるサファイアの声を聞き、ルビーはサファイアの部屋の扉を開ける。
サファイアは、依然部屋に籠っている。
「ルビー様、私、ここが現実だって、ちゃんと理解しました。私も、ルビー様を見習って、頑張って生きてみようと思います」
サファイアの感情も、ずいぶんと前向きになった。
しかし、恐怖はそう簡単になくなるものではない。
感情が前進を促そうとも、身体がそれを拒む。
代わりに、サファイアの部屋には人が来る。
ルビーは当然、オニキスにアメシスト、たまにではあるがネールも。
サファイアとネールは、最初こそ気まずそうにしていたが、互いに善意の掛け違い。
今では、ぎこちないながらも笑いながら会話ができるまでになった。
サファイアのもっぱらの楽しみは、部屋を訪れる人々と話すことだ。
「ルビー様、最近の学院生活はどうですか?」
「んー、ぼちぼちかなー」
「そうですか。私も、早く学院に通いたいです」
「あははー、待ってるわね」
魔法学院への期待も、信じられない程に高まっている。
だからこそ、ルビーの表情に影が落ちたことに気が付かない。
ルビーは明日も彼女――エメラルドに会うと思うと、気が重かった。
エメラルドは、以前にも増してルビーへ殺気を向けるようになっていたのだ。
エメラルドのイライラゲージは、ピークに達していた。
「なによ! なによなによなによ!」
入学から数か月。
エメラルドは、常にオニキスへのアピールを続けてきた。
しかし、暖簾に腕押し。
オニキスは、エメラルドに対してひとかけらの興味も抱くことはなかった。
「なんでよ! なんで上手くいかないのよ!」
オニキスには好かれない。
「あの女たちは何なのよ!」
それどころか、オニキスはダイヤモンドとルビーの方に、強い関心を向けている。
その感情は関心でしかなく、恋心とは異なる。
しかし、何の感情も向けられないエメラルドにとっては、嫉妬するに十分であった。
いっそ、自身の側近を差し向けて、将来の敵になりそうなダイヤモンドとルビーに嫌がらせでもしてやろうかと考えたこともあったが、ダイヤモンドへの嫌がらせはネールが実践済み、そして返り討ちにあっている。
ルビーに対して行うことは、同じ公爵家という立場上リスクが高い。
「お兄様ー!」
「どーうした妹よ!」
打つ手を失くしたエメラルドの一手はいつだって同じ。
いつだって兄頼り。
「お兄様ー! 私、オニキス様と全然仲良くなれないのー」
しくしくと泣き真似をするエメラルドに、兄であるペリドットは同情の感情が溢れた。
「おお、可哀そうに。エメラルドはこんなに頑張っているというのに。よし、兄に任せなさい! 必ず、エメラルドの恋を成就させてみせようじゃないか!」
「やったー! お兄様大好き!」
「すべて、この兄に任せておきなさい!」
エメラルドから頼られたペリドットの行動は、迅速だった。
サファイアの一件を挙げて、如何に級友との触れ合いが大切かを主張し、学院に対し定期的な交流会の開催を要求した。
問題は、その頻度。
二日に一回という多さだ。
名目上は自由参加であるものの、他の生徒の模範となるべき公爵家以上の人間は推奨というルールまで作り上げた。
もちろん、推奨は推奨。
断ることにペナルティなどないが、ペリドットは両親を説き伏せ、王家への根回しも行い、オニキスの参加を実質的に強制化した。
オニキスにとっては、最悪な提案。
しかし、オニキスの両親にとっては、魅力的な提案だった。
婚約者を失ってからと言うもの、オニキスはすっかり次の相手を探す様子を見せなかった。
オニキスの両親は、このまま誰とも結婚をせずに生涯を終え、王族の責務を果たさないつもりだろうかとハラハラしていたが、そこへのペリドットの提案だ。
少しでもオニキスが婚約者を探す機会が増えるならと、オニキスの参加を快諾した。
否、オニキスにさせた。
「オニキス様ー! 本日も素敵ですねー!」
「ああ、ありがとう」
公爵家以上の人間は推奨というルール上、エメラルドが常に参加していることに、何の問題もない。
一人の人間がオニキスを独占してはいけないというルールもないので、エメラルドが常にオニキスの横に立っていることに、何の問題もない。
「オニキス様ー、私最近ー、料理の練習しているんですよー! 専属の料理人がいるので自分で作る必要はないですけどもー、やっぱり手料理って特別感ありますもんねー! 特に、好きな人に食べてもらえる手料理にはー!」
「庶民の中では、流行っているようだな」
「オニキス様ー! オニキス様のお好きなお料理は何ですかー? 私、挑戦してみようかなーなんてー」
「全ての料理が好きだ。料理人の努力が詰め込まれた料理を、どうして優劣つけられようか」
「……そ、そうですねー」
交流会終了のチャイムが鳴る。
待機していた使用人たちは、会場のテーブルに並べていた料理を下げていき、参加していた貴族たちも続々と会場を後にする。
「私も失礼する」
「あ、はいー。お休みなさいませ、オニキス様ー」
オニキスも、悠然と会場を後にした。
エメラルドは何とも言えない表情で、その背を見送った。
「ルビー」
「オニキス様? こんばんは。どうかなさいましたか?」
「少し話があるのだが、構わないか?」
「内密のお話でしたら、応接室をとりますが」
「ああ、頼む」
そして、ルビーに話しかけ、ほんの少しだけ楽しげに表情を崩したオニキスを見た。
「…………」
エメラルドは、今日一番の笑顔で、二人を呆然と眺めた。
「お兄様ー!」
「どーうした妹よ!」
打つ手を失くしたエメラルドの一手はいつだって同じ。
いつだって兄頼り。
「お兄様ー! 私、オニキス様と全然仲良くなれないのー」
「おっと、デジャブ?」
「私、ずーっとオニキス様に話しかけてるのにー、オニキス様ずっとルビー様ばかりとお話しててー」
「なんということだ! 交流会で、一人の人間を独占するとは、ルビー様もお人が悪い」
「でしょー」
ペリドットは考える。
ペリドット自身、オニキスが婚約に積極的でないことは知っている。
そして、積極的でないオニキスに対して、両親が頭を抱えていることも知っている。
「妹よ、君はオニキス様と結婚したいんだね?」
「もちろんよー」
「結婚した結果、今のようにオニキス様から冷たく扱われたとしてもかい?」
「結婚してずっと一緒にいればー、今度こそオニキス様をメロメロにできるはずですー」
「万が一、の話だ。万が一、子孫を残す程度の最低限のご寵愛しかいただけなくても、君はオニキス様と結婚したいのかい?」
ペリドットの目は、いつになく真剣だ。
妹の前で普段見せる溶けかけのアイスのような弛緩したものではなく、エメラルドの幸せを心から祈っているからこその、厳しい瞳。
「もちろんですー。オニキス様の側にいられるならー、私、どんなことだって耐えられますー」
「そうか、わかった」
エメラルドは、ペリドットの懸念の一割も想像できてはいない。
ペリドット自身、そんなこと承知の上で、エメラルドの意思を尊重する。
今しか見ないエメラルドにとっての幸せとは、今、エメラルドがやりたいことをやらせることなのだから。
「よし、兄に任せなさい! 必ず、エメラルドとオニキス様を、結婚させてあげようじゃないか!」
「やったー! お兄様大好き!」
「すべて、この兄に任せておきなさい!」
ペリドットの策は、単純明快。
オニキスは恋愛に対する意欲が著しく低下しており、しかし王族として子孫を残さなければならない使命感は残っている。
その矛盾に苦しんではいる。
ならば、両方を解決できる提案をすればいい。
恋愛感情なしで、子孫を残せる提案を。
政略結婚。
なんともありきたりで、普通で、魅力的な提案を。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私は大好きなお姉様をざまぁする
池中織奈
ファンタジー
「―――婚約破棄をする」
そう宣言をされたのは、私イエルノ・カプラッドの姉であるアクノール・カプラッド。
お姉様の婚約者である第二王子の隣には、この学園に転入してきたとある貴族の庶子。お姉様は、ショックを受けた表情を浮かべている。
そして私の方を向いて、「イエルノ……」とすがるように私を見てくる。
だけど、お姉様、残念ながらこの状況を導いたのは他でもない、お姉様の妹である私なの。
――これは悪役令嬢として転生した姉、アクノール・カプラッドを妹であるイエルノ・カプラッドがざまぁへと導いた物語。何故、妹は姉をざまぁするに至ったか。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる