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第27話 第五回戦・4
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「奈々様!」
「奈々様だ!」
「これで助かるぞ!」
走る六人の周りには、次々と人が群がってきた。
正確に言えば、奈々の周りに、だ。
「……もしかして、奈々さんって有名人?」
「一応? 神奈川だと、ローカルなテレビ番組にも出たことはあります」
神村奈々は、超能力少女としてオカルト番組に何度か出演していた。
奈々が高校生であり、学業優先の姿勢をとっていたため、知名度が全国区となることはなかったが、二択を当てる超能力と百二十九センチメートルという小柄から、一部のマニアには大きくウケた。
また、デスゲームが始まってからも、奈々は運によるデスゲームを開催し続け圧勝することで、神奈川県の高校生たちの間で神のごとくあがめられるようになった。
今回も、他の代表者と合流するために意図的に姿を隠していなければ、奈々は自身の信者と共に行動し、早々にゴールしていただろう。
それでも代表者たちとの行動を選んだのは、信者ではなく友達と行動したいという奈々の願望に起因する。
一人。
また一人。
京平たちの集団は大きくなっていく。
神奈川県の高校生が群がり、近くを行動していた他県の高校生たちが巨大な集団に吸い寄せられる。
そして、ミノタウルスもまた、吸い寄せられる。
「お前たち、どけ!」
吸い寄せられるミノタウルスの相手をするのは、馬鬼。
斧と斧をぶつけ合い、次々とミノタウルスを下していく。
「つーか、やばくない?」
着々とスタート地点に戻ってはいるものの、木野子が不安を零す。
「何が?」
「ミノタウルス。最奥まで五十分かかってたのに、ミノタウルス倒す時間が増えたら、さらに時間がかかって間に合わなくなるんじゃない?」
が、木野子の不安は、京平と考えとは真逆だった。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって!? 間に合うかどうかは重要でしょう?」
「逆だよ。開始一時間でミノタウルスが現れた時点で、間に合う可能性が高まった」
「へ?」
十回目の分岐の行き止まりに辿り着くまでかかった実時間は片道五十分。
これを基準として考えるならば、スタート地点まで戻るのに同じく五十分。
そして、スタート地点から正しいルートを通ってゴール地点に着くまで五十分と仮定できる。
制限時間三時間に対して、時間の余裕は三十分。
馬鬼がミノタウルスを倒す速度を考慮した結果、片道五十分の道は、片道一時間かかる道に変わったというのが京平の想定だ。
それでも、時間の余裕は十分。
間に合うには充分。
であれば、京平が最も不安視していたのは、京平の想定に紛れ込んでいた一つの仮定のあやふやさ。
即ち、スタート地点から正しいルートを通ってゴール地点に着くまで五十分。
スタート地点から右に曲がって十回目の分岐点に辿り着く時間と、スタート地点から左に曲がってゴール地点に辿り着く時間が、同一である保証は一つもなかった。
が、ゲーム開始一時間後にミノタウルスが現れたことで、あやふやさがなくなった。
もしも京平が葉助の立場であれば、自身が巨大迷宮を彷徨っている間にミノタウルスを放ち、自身の死ぬリスクを高めるとは考えずらい。
ミノタウルスが放たれた時点、つまり一時間以内には、ゴール地点へと辿り着けると逆算できる。
「というわけだ」
「……あんた、実は頭いい?」
「うちの高校の偏差値、六十オーバー」
「あー、敵だわ」
一回目の分岐に辿り着き、一同は左の道へと進む。
残り時間は、『1:15:57』。
「次は右」
「次は左」
「次は右」
奈々の示す方向は、当初定めていたルールの真逆。
右左の順でなく、左右の順。
葉助も、複雑なルートは覚えきれなかったのか、奈々によって示される正解のルートは単純なものだ。
残り時間は、『1:00:00』
「一時間が経過しました。巨大迷宮にエンジェルが放たれます。皆さん、気を付けてください」
巨大迷宮に無数の影が落ち、空には羽の生えた人間たちが飛んでいた。
手には弓矢を持っており、弓をキリキリとひいて矢を放つ。
「あ……」
矢は、綺麗な直線を描いて、玉緒の脳を撃ち抜いた。
「玉緒さん!?」
玉緒はその場に転げて倒れ、びくびくと全身を痙攣させている。
「おい」
「見捨てな!」
倒れた玉緒を担ぎ上げようと近づく馬鬼に、木野子が叫ぶ。
馬鬼もすぐに致命傷であることを理解し、そのまま走り続けた。
「もー! 何が間に合う可能性が高まったよ!」
木野子の叫びは、ただの京平への八つ当たりである。
しかし京平は、木野子の言葉通り、葉助が正解のルートに気づいた場合に代表者たちを殺すルールを作っている可能性を失念していたことを恥じた。
「……すまん」
「え? あ、いや。うちもごめん。完全に八つ当たり」
エンジェルは、再び弓を使って矢を放つ。
「うるおあああ!」
馬鬼は、近づいてきた矢を殴り、空中で叩き折った。
矢が一本であれば、馬鬼さえいれば大した脅威ではない。
一本であれば。
エンジェルが二人、三人と、空に集まってくる。
構えるのは三本の弓矢。
ヒュン、ヒュン、ヒュンと、放たれた。
二本は、馬鬼がつかみ取る。
「ぎゃあっ!?」
一本は、一緒に走っていた高校生の一人の脳天を撃ち抜いた。
「後三十分以上はかかる」
「無理無理無理無理! その前に死ぬ!」
この場面において、最も殺してはいけないのが奈々だ。
奈々を失えば、正しいルートを判断できる人間がいなくなる。
かといって、誰も奈々の代わりに犠牲になろうとは思わない。
関係性は、あくまで代表者同士程度の希薄なものだ。
「エンジェルたちをどうにかしないと、全滅する!」
とはいえ、人間は空を飛べない。
どうすることもできはしない。
どうにかすることができるとすれば、たった一人。
全員の視線は、自然と馬鬼へ向かう。
「無理だ!」
馬鬼は、手に持っていた刀を空に投げながら言った。
刀は矢のように空を駆け、エンジェルの額を貫く。
「ギエエエエ!?」
額を貫かれたエンジェルは羽の動きを止め、そのまま大迷宮へと真っ逆さまに落下した。
「無理じゃないじゃん!」
「いや、無理だ!」
しかし、失ったエンジェルを補う様に、すぐに新たなエンジェルがやってきて、弓を構えた。
「一体倒しても、次々とやってくる。だから」
「だから?」
「躱せ! 弓が向いている方向をしっかり見ろ! そして左右にジグザグと動け! 止まっている相手に当てるのは簡単だが、動いている相手に当てるのは難しいもんだ!」
「そんな無茶な!?」
矢が放たれる。
京平は、右へ走り、すぐに左へ切り替えし、またすぐに右へ切り替えした。
ジグザグジグザグ。
矢は京平の左側を通過し、床へと刺さった。
「その調子だ!」
「あー、くそ! 生きてやるよ!」
走る。
生きるために、全員走る。
「な? 俺に助けられたんだ。ちょっとくらいいいだろ?」
「何度言われても、駄目なものは駄目です!」
葉助は、ゴール地点で青澄の肩に手を回そうとして、その手を払いのけられていた。
ゴール地点は、十の入り口がある円の部屋。
巨大迷宮の構造は、十のスタート地点と、共通のゴール地点が一つ。
ちなみに代表者の中で、葉助一人が他の六人の代表者と異なるスタート地点に飛ばされたのは、ルールではなくただの偶然。
神の気まぐれだ。
正しいルートを知っている葉助は、周囲に他の代表者がいないことに気づいて、悠々とゴールに向かって走り始めようとした。
が、自身の策が上手くいった余裕から視界が広がり、同じスタート地点に立っていた青澄を見つけ、邪な気持ちが芽生えた。
この子を助け、恩を売り、恩を体で払わせようと。
一つ得たならば、もう一つ欲しい。
人間の欲には際限がない。
葉助に声をかけられた青澄は、葉助から漂う下心に強い拒絶を示したが、自信満々にゴールが分かると豪語する葉助に対し、ほんの少しだけ京平に近い匂いを感じた。
確信を持って、言葉を発している匂い。
青澄は自身の直感を信じ、嫌悪を持ったまま葉助と共に行動し、無事にゴール地点へと辿り着いていた。
その代償が、今だ。
「なあ、いいだろ? 服の上からでいいからさ。巨大迷宮で死んでたことを考えれば、ずっとマシだろ?」
「今、私は生きています」
「生きてるのは、俺のおかげだろ?」
「……感謝はしています」
「ならさあ。一回……いや、二回くらい」
ゴールしてから二時間、青澄はずっと葉助に絡まれ続けていた。
見通しの良い広い空間だ。
走って逃げたところで、すぐに見つかる。
すぐに追いつかれる。
青澄に逃げ場はない。
「ゲームクリア」
ゴール地点に、アナウンスが響く。
制限時間が近づいてから、ぽつりぽつりとゴール地点へたどり着く者も出てきた。
クリア理由は、運。
二分の一の書けに十連続成功した者や。八回目九回目で失敗し、逃げ出し、たまたまゴール地点に辿り着いた者。
、
葉助は、最初こそ優越感に浸りながらゲームクリアした人間の顔を拝んでいたが、数人で飽きて、今は見向きもしない。
今、誰がクリアしたのか、気づきもしない。
「あ!」
もちろん青澄にも、クリアした人間の顔を拝む趣味はない。
が、クリアした人間の顔を確認したい理由はある。
葉助より先にクリアした人物に気が付き、パッと顔を明るくした。
「ああん?」
先程まで仏頂面だった青澄が突然笑顔になったことで葉助の不快感が高まり、顔見知りでもクリアしたのかと、青澄の視線の先を見た。
「んなっ!?」
そこには、拳を握りしめ、走って近づいてくる京平がいた。
「お前! どうし」
京平の拳が葉助の頬にめり込み、葉助はそのまま吹っ飛んだ。
殴られた拍子にカランと歯が一本落ちたのは、葉助の裏切りの代償だ。
雲が、『00:00:00』を示す。
「タイムアップ。現在、迷宮の中にいる者全員、ゲームオーバー」
床に巨大な目と口が映し出され、絶望を告げる。
そして無情が降り注ぐ。
「それと、埼玉県の高校生も、ゲームオーバー」
降り注ぐ無情は、言葉にされたルールだけではなく、言葉にされていないルールも同様。
玉緒の死は、埼玉の高校生のゲームオーバー。
巨大迷路の内外で悲鳴が上がり、該当する者は皆死んだ。
「奈々様だ!」
「これで助かるぞ!」
走る六人の周りには、次々と人が群がってきた。
正確に言えば、奈々の周りに、だ。
「……もしかして、奈々さんって有名人?」
「一応? 神奈川だと、ローカルなテレビ番組にも出たことはあります」
神村奈々は、超能力少女としてオカルト番組に何度か出演していた。
奈々が高校生であり、学業優先の姿勢をとっていたため、知名度が全国区となることはなかったが、二択を当てる超能力と百二十九センチメートルという小柄から、一部のマニアには大きくウケた。
また、デスゲームが始まってからも、奈々は運によるデスゲームを開催し続け圧勝することで、神奈川県の高校生たちの間で神のごとくあがめられるようになった。
今回も、他の代表者と合流するために意図的に姿を隠していなければ、奈々は自身の信者と共に行動し、早々にゴールしていただろう。
それでも代表者たちとの行動を選んだのは、信者ではなく友達と行動したいという奈々の願望に起因する。
一人。
また一人。
京平たちの集団は大きくなっていく。
神奈川県の高校生が群がり、近くを行動していた他県の高校生たちが巨大な集団に吸い寄せられる。
そして、ミノタウルスもまた、吸い寄せられる。
「お前たち、どけ!」
吸い寄せられるミノタウルスの相手をするのは、馬鬼。
斧と斧をぶつけ合い、次々とミノタウルスを下していく。
「つーか、やばくない?」
着々とスタート地点に戻ってはいるものの、木野子が不安を零す。
「何が?」
「ミノタウルス。最奥まで五十分かかってたのに、ミノタウルス倒す時間が増えたら、さらに時間がかかって間に合わなくなるんじゃない?」
が、木野子の不安は、京平と考えとは真逆だった。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって!? 間に合うかどうかは重要でしょう?」
「逆だよ。開始一時間でミノタウルスが現れた時点で、間に合う可能性が高まった」
「へ?」
十回目の分岐の行き止まりに辿り着くまでかかった実時間は片道五十分。
これを基準として考えるならば、スタート地点まで戻るのに同じく五十分。
そして、スタート地点から正しいルートを通ってゴール地点に着くまで五十分と仮定できる。
制限時間三時間に対して、時間の余裕は三十分。
馬鬼がミノタウルスを倒す速度を考慮した結果、片道五十分の道は、片道一時間かかる道に変わったというのが京平の想定だ。
それでも、時間の余裕は十分。
間に合うには充分。
であれば、京平が最も不安視していたのは、京平の想定に紛れ込んでいた一つの仮定のあやふやさ。
即ち、スタート地点から正しいルートを通ってゴール地点に着くまで五十分。
スタート地点から右に曲がって十回目の分岐点に辿り着く時間と、スタート地点から左に曲がってゴール地点に辿り着く時間が、同一である保証は一つもなかった。
が、ゲーム開始一時間後にミノタウルスが現れたことで、あやふやさがなくなった。
もしも京平が葉助の立場であれば、自身が巨大迷宮を彷徨っている間にミノタウルスを放ち、自身の死ぬリスクを高めるとは考えずらい。
ミノタウルスが放たれた時点、つまり一時間以内には、ゴール地点へと辿り着けると逆算できる。
「というわけだ」
「……あんた、実は頭いい?」
「うちの高校の偏差値、六十オーバー」
「あー、敵だわ」
一回目の分岐に辿り着き、一同は左の道へと進む。
残り時間は、『1:15:57』。
「次は右」
「次は左」
「次は右」
奈々の示す方向は、当初定めていたルールの真逆。
右左の順でなく、左右の順。
葉助も、複雑なルートは覚えきれなかったのか、奈々によって示される正解のルートは単純なものだ。
残り時間は、『1:00:00』
「一時間が経過しました。巨大迷宮にエンジェルが放たれます。皆さん、気を付けてください」
巨大迷宮に無数の影が落ち、空には羽の生えた人間たちが飛んでいた。
手には弓矢を持っており、弓をキリキリとひいて矢を放つ。
「あ……」
矢は、綺麗な直線を描いて、玉緒の脳を撃ち抜いた。
「玉緒さん!?」
玉緒はその場に転げて倒れ、びくびくと全身を痙攣させている。
「おい」
「見捨てな!」
倒れた玉緒を担ぎ上げようと近づく馬鬼に、木野子が叫ぶ。
馬鬼もすぐに致命傷であることを理解し、そのまま走り続けた。
「もー! 何が間に合う可能性が高まったよ!」
木野子の叫びは、ただの京平への八つ当たりである。
しかし京平は、木野子の言葉通り、葉助が正解のルートに気づいた場合に代表者たちを殺すルールを作っている可能性を失念していたことを恥じた。
「……すまん」
「え? あ、いや。うちもごめん。完全に八つ当たり」
エンジェルは、再び弓を使って矢を放つ。
「うるおあああ!」
馬鬼は、近づいてきた矢を殴り、空中で叩き折った。
矢が一本であれば、馬鬼さえいれば大した脅威ではない。
一本であれば。
エンジェルが二人、三人と、空に集まってくる。
構えるのは三本の弓矢。
ヒュン、ヒュン、ヒュンと、放たれた。
二本は、馬鬼がつかみ取る。
「ぎゃあっ!?」
一本は、一緒に走っていた高校生の一人の脳天を撃ち抜いた。
「後三十分以上はかかる」
「無理無理無理無理! その前に死ぬ!」
この場面において、最も殺してはいけないのが奈々だ。
奈々を失えば、正しいルートを判断できる人間がいなくなる。
かといって、誰も奈々の代わりに犠牲になろうとは思わない。
関係性は、あくまで代表者同士程度の希薄なものだ。
「エンジェルたちをどうにかしないと、全滅する!」
とはいえ、人間は空を飛べない。
どうすることもできはしない。
どうにかすることができるとすれば、たった一人。
全員の視線は、自然と馬鬼へ向かう。
「無理だ!」
馬鬼は、手に持っていた刀を空に投げながら言った。
刀は矢のように空を駆け、エンジェルの額を貫く。
「ギエエエエ!?」
額を貫かれたエンジェルは羽の動きを止め、そのまま大迷宮へと真っ逆さまに落下した。
「無理じゃないじゃん!」
「いや、無理だ!」
しかし、失ったエンジェルを補う様に、すぐに新たなエンジェルがやってきて、弓を構えた。
「一体倒しても、次々とやってくる。だから」
「だから?」
「躱せ! 弓が向いている方向をしっかり見ろ! そして左右にジグザグと動け! 止まっている相手に当てるのは簡単だが、動いている相手に当てるのは難しいもんだ!」
「そんな無茶な!?」
矢が放たれる。
京平は、右へ走り、すぐに左へ切り替えし、またすぐに右へ切り替えした。
ジグザグジグザグ。
矢は京平の左側を通過し、床へと刺さった。
「その調子だ!」
「あー、くそ! 生きてやるよ!」
走る。
生きるために、全員走る。
「な? 俺に助けられたんだ。ちょっとくらいいいだろ?」
「何度言われても、駄目なものは駄目です!」
葉助は、ゴール地点で青澄の肩に手を回そうとして、その手を払いのけられていた。
ゴール地点は、十の入り口がある円の部屋。
巨大迷宮の構造は、十のスタート地点と、共通のゴール地点が一つ。
ちなみに代表者の中で、葉助一人が他の六人の代表者と異なるスタート地点に飛ばされたのは、ルールではなくただの偶然。
神の気まぐれだ。
正しいルートを知っている葉助は、周囲に他の代表者がいないことに気づいて、悠々とゴールに向かって走り始めようとした。
が、自身の策が上手くいった余裕から視界が広がり、同じスタート地点に立っていた青澄を見つけ、邪な気持ちが芽生えた。
この子を助け、恩を売り、恩を体で払わせようと。
一つ得たならば、もう一つ欲しい。
人間の欲には際限がない。
葉助に声をかけられた青澄は、葉助から漂う下心に強い拒絶を示したが、自信満々にゴールが分かると豪語する葉助に対し、ほんの少しだけ京平に近い匂いを感じた。
確信を持って、言葉を発している匂い。
青澄は自身の直感を信じ、嫌悪を持ったまま葉助と共に行動し、無事にゴール地点へと辿り着いていた。
その代償が、今だ。
「なあ、いいだろ? 服の上からでいいからさ。巨大迷宮で死んでたことを考えれば、ずっとマシだろ?」
「今、私は生きています」
「生きてるのは、俺のおかげだろ?」
「……感謝はしています」
「ならさあ。一回……いや、二回くらい」
ゴールしてから二時間、青澄はずっと葉助に絡まれ続けていた。
見通しの良い広い空間だ。
走って逃げたところで、すぐに見つかる。
すぐに追いつかれる。
青澄に逃げ場はない。
「ゲームクリア」
ゴール地点に、アナウンスが響く。
制限時間が近づいてから、ぽつりぽつりとゴール地点へたどり着く者も出てきた。
クリア理由は、運。
二分の一の書けに十連続成功した者や。八回目九回目で失敗し、逃げ出し、たまたまゴール地点に辿り着いた者。
、
葉助は、最初こそ優越感に浸りながらゲームクリアした人間の顔を拝んでいたが、数人で飽きて、今は見向きもしない。
今、誰がクリアしたのか、気づきもしない。
「あ!」
もちろん青澄にも、クリアした人間の顔を拝む趣味はない。
が、クリアした人間の顔を確認したい理由はある。
葉助より先にクリアした人物に気が付き、パッと顔を明るくした。
「ああん?」
先程まで仏頂面だった青澄が突然笑顔になったことで葉助の不快感が高まり、顔見知りでもクリアしたのかと、青澄の視線の先を見た。
「んなっ!?」
そこには、拳を握りしめ、走って近づいてくる京平がいた。
「お前! どうし」
京平の拳が葉助の頬にめり込み、葉助はそのまま吹っ飛んだ。
殴られた拍子にカランと歯が一本落ちたのは、葉助の裏切りの代償だ。
雲が、『00:00:00』を示す。
「タイムアップ。現在、迷宮の中にいる者全員、ゲームオーバー」
床に巨大な目と口が映し出され、絶望を告げる。
そして無情が降り注ぐ。
「それと、埼玉県の高校生も、ゲームオーバー」
降り注ぐ無情は、言葉にされたルールだけではなく、言葉にされていないルールも同様。
玉緒の死は、埼玉の高校生のゲームオーバー。
巨大迷路の内外で悲鳴が上がり、該当する者は皆死んだ。
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