令和百物語 ～妖怪小話～

玖拾玖 閻魔大王

「判決を告げる」
　
　閻魔大王は、裁判官席から当事者席へと座る被告人に告げる。
　
「地獄」
　
　理由は告げない。
　証拠も提示しない。
　何もいらない。
　
　地獄の裁判は、閻魔大王の独断場。
　閻魔大王の発した言葉が、即ち結論。
　
　それゆえ、黄泉の裁判所は、たった一つ。
　簡易裁判所も、家庭裁判所も、地方裁判所も、高等裁判所も、最高裁判所も、何もない。
　あるのは唯一、閻魔大王が裁判官を務める閻魔裁判所。
　
　当然、控訴も上告もない。
　閻魔大王の判決は覆らない。
　
　判決の内容が不服だろうが何だろうが、被告人は判決に従い、天国か地獄に行くしかない。
　
　被告人は、言葉一つ発することもできず、法廷から引きずり出された。
　これから、身ぐるみをはがされ、熱湯消毒され、地獄への入獄を果たす。
　
　一人になった法廷で、閻魔大王は自身の肩をトントンと叩く。
　疲労は蓄積されているが、休む暇はない。
　まだまだ、被告人は列をなしている。
　
　全部終えるまで、はたして何十年かかるだろうか。
　何百年、何千年はかかるだろうか。
　趣味のＤＪはしばらくお預けだ、などと考えながら、次の被告人の生涯が書かれた紙を手に取る。
　
　
　
　――殺人経験。
　
「同族殺しは重罪。こいつは地獄」
　
　――窃盗経験あり。
　
「努力もせずに金品を奪うことは重罪。こいつも地獄」
　
　――飲酒強制。
　
「地獄」
　
　――虚言癖。
　
「地獄」
　
　――偽神信仰。
　
「地獄」
　
　――強制労働。
　
「地獄」
　
　――食糧破棄。
　
「地獄」
　
　――児童虐待。
　
「地獄」
　
　――動物虐待。
　
「地獄」
　
　――誹謗中傷。
　
「地獄」
　
　――怠惰。
　
「地獄」
　
　――暴食。
　
「地獄」
　
　――色欲。
　
「地獄」
　
　――憤怒。
　
「地獄」
　
　――嫉妬。
　
「地獄」
　
　――強欲。
　
「地獄」
　
　――傲慢。
　
「地獄」
　
　――遺伝子改造。
　
「地獄」
　
　――人体実験。
　
「地獄」
　
　――環境汚染。
　
「地獄」
　
　――不公平。
　
「地獄」
　
　――貧困への誘導。
　
「地獄」
　
　――過剰な富裕。
　
「地獄」
　
　――麻薬中毒。
　
「地獄」
　
　――過剰な承認欲求。
　
「地獄」
　
　――過少な承認欲求。
　
「地獄」
　
　――利己主義。
　
「地獄」
　
　――利他主義。
　
「地獄」
　
　――常識的。
　
「地獄」
　
　――非常識。
　
「地獄」
　
　――特筆事項なし。
　
「地獄」
　
　
　
　
　
　
「地獄」
　
「地獄」
　
「地獄」
　
「地獄」
　
「地獄」
　
「天国」
　
「地獄」
　
「地獄」
　
「地獄」
　
「地獄」
　
「地獄」
　
　
　
　
　
　
　判決は流れるように進んでいく。