令和百物語 ~妖怪小話~

はの

文字の大きさ
上 下
87 / 100

捌拾漆 火消婆

しおりを挟む
「すみません、週刊文秋ですが」
 
 芸能人は、夜道でかけられたその声に、酔っていた脳も一気に覚醒して振り向いた。
 仲間内での飲み会の帰り道。
 知る人間は最低限。
 店に入る時も出る時も、細心の注意を払っていた。
 
(どうやって……)
 
 だから、そう思うだけで精一杯。
 誰かが追跡されたのか。
 店が週刊誌にリークしたのか。
 あるいは所属事務所の誰かか。
 思考がぐるぐると回転し、記者の質問は耳から耳へとすり抜けた。
 
「…………い、急いでるので」
 
 死に物狂いでひねり出した言葉は、記者の望む回答ではなかったようで。
 
 
 
 ――緊急事態宣言中の大規模飲み会!
 
 ――あまりの危機感のなさに、ファンもあきれ顔!!
 
 
 
 そんな見出しと共に、週刊誌によって大々的に報じられた。
 
 
 
 ――最低!
 
 ――医療従事者の気持ち考えたことありますか?
 
 ――みんな我慢してるのに……。
 
 
 
 事務所の電話は鳴りやまず、メールボックスには次々とメールが届く。
 芸能人のSNSの通知も止まらない。
 
「この度は、誠に申し訳ありませんでした。」
 
 芸能人は、事務所の人間と考えた精いっぱいの謝罪文をSNSに公開し、芸能人はしばしのあいだ自宅謹慎となった。
 スタイル維持のために控えていた飲酒を再開し、起きては呑んでを繰り返し、自堕落な生活を送っていた。
 
 芸能人にも言い分はある。
 だが、今は何も言ってはいけないと、経験則から知っていた。
 炎上に、薪をくべる結果にしかならないことを知っていた。
 
 精神がすり減る。
 自分の存在価値を見失う。
 台所にある包丁が、このうえなく魅力的にさえ思える日々を過ごしていた。
 
 
 
「そろそろいいか」
 
 一週間。
 未だ炎上は続いている。
 事務所の人間は、どこかへと電話していた。
 
「もしもし、火消しを一件お願いしたいんですが」
 
 
 
 炎上の中心には、炎上をたきつける人々が存在する。
 どうすればより燃えるか、考えながらパソコンに向かってコメントを打ち続ける。
 
「こんばんは」
 
 依頼を受けた火消婆は、そんな人々の元に現れ、息の根を止めていく。
 
 一人。
 また一人。
 炎上の中心人物がこの世からいなくなる。
 
 一か月。
 炎上は終わり、芸能人は再び表舞台へと戻ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

強制調教脱出ゲーム

荒邦
ホラー
脱出ゲームr18です。 肛虐多め 拉致された犠牲者がBDSMなどのSMプレイに強制参加させられます。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...