令和百物語 ~妖怪小話~

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捌拾陸 付喪神

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 環境省の取りまとめたデータによると、令和元年度の日本のごみ総排出量は四千二百七十四万トン。
 これは、東京ドーム約百十五杯分にも及ぶ。
 
 そのうち最終処分量、つまり最終処分場に埋め立てられるごみの量は、三百八十万トン。
 
 毎年三百万トンを超えるごみが、地中深くに眠ることになる。
 
 
 
「もういいかい?」
 
「まーだだよ」
 
 
 
 人間たちは、有料化したレジ袋を見ながら、不平不満を零す。
 
「無料だったのに、なんでお金取るんだ……」
 
 人間たちは、区市町村の指定するゴミ袋を見ながら、不平不満を零す。
 
「もっと安いゴミ袋があるのに、なんで指定するんだ……」
 
 人間たちは、家具や寝具を捨てる時、粗大ごみ回収の手数料を見ながら、不平不満を零す。
 
「買う時だけじゃなくて、なんで捨てる時まで金をとられるんだよ……」
 
 人間たちは、家電を捨てる時、家電リサイクル法によるリサイクル料を見ながら、不平不満を零す。
 
「リサイクルってことは使いまわせるんじゃないのか。なんでリサイクルで金をとられるんだよ……」
 
 
 
「もういいかい?」
 
「まーだだよ」
 
 
 
 人間たちの不平不満に付け込み、悪意を持った人間が法に則らないビジネスを開始する。
 
「うちが無料で回収しますよ」
 
「うちが市町村より安く回収しますよ」
 
 タダより安いものはない。
 人間たちは、違法にとびつく。
 
 タダより高いものはない。
 人間たちの個人情報が売られる。
 そして、回収された粗大ごみや家電ごみは、山奥や海底に不法投棄される。
 
 
 
「もういいかい?」
 
「まーだだよ」
 
 
 
 政府は焦る。
 このまま、ごみの埋め立てが進むと、大変なことが起こると知っているから。
 このまま、ごみの不法投棄が進むと、大変なことが起こると知っているから。
 
「もう、かなりのごみが、付喪神と化しています……」
 
「動きは?」
 
「まだです……」
 
 付喪神となった、人間の数をはるかに超えるごみたちが、足元で蠢いているのを知ってるから。
 
 
 
「もういいかい?」
 
「まーだだよ」
 
「いつまで待つの?」
 
 
 
「鈴が鳴るまで」
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