令和百物語 ～妖怪小話～

肆拾壱 かたきらうわ

　豚農園。
　柵の中に大量の豚が放し飼いにされており、人々が自由に豚と触れ合うことができる場所。
　全ての豚はきちんとしつけがされており、人間を襲うことはない。
　
「はーい、それでは、今から三十分間、自由に豚さんと触れ合っていただけまーす」
　
　ツアーガイドさんの合図とともに、ツアー参加者たちは楽しそうに柵の中に入っていく。
　大きな豚から小さな豚まで。
　人懐っこい豚から人間を恐れる豚まで、
　様々な豚を前に、ツアー参加者たちは餌を挙げたり、抱きかかえたり、追いかけてみたりと、各々自由に遊び回る。
　
「はーい皆さん、遊びながらでいいので聞いてくださーい。農園の園長さんから、豚さんと遊ぶ時の注意事項を教えてもらいまーす」
　
　延長と呼ばれた初老の女が、ツアーガイドからマイクを受け取る。
　
「えー、基本的には自由に遊んでいただいて構いませんが、数匹、かたきうらわと呼ばれる片耳がない豚も混じっております。かたきうらわに又の下をくぐられると、魂を抜かれて死んでしまうので、お気を付けください」
　
「え？」
　
　豚農園は、阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。