令和百物語 ~妖怪小話~

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弐拾玖 夜楽屋

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 女性には、大切な人形が二つある。
 
 一つは、祖母からもらった市松人形。
 肩にかかる程度の長さの黒髪と真っ白な顔、さらには無機質な表情。
 赤い着物が、和風ホラー映画に出てくる人形を思い出させる。
 引っ越しの時、市松人形を見た引っ越し業者がびくりと驚いた程度には不気味な雰囲気を醸し出している。
 
 もう一つは、親友からもらったフランス人形。
 胸まで伸びる金髪カールと青い瞳、さらには無機質な表情。
 ピンクのドレスが、洋風ホラー映画に出てくる人形を思い出させる。
 引っ越しの時、フランス人形を見た引っ越し業者がびくりと驚いた程度には不気味な雰囲気を醸し出している。
 
 部屋に遊びに来る友達は、初めて人形を見ると不気味がった。
 自称霊感のある友達も、この人形はすぐにお祓いしたほうがいいと焦ったように女性へ伝えた。
 しかし、女性は頑なに首を縦に振らなかった。
 
 女性にとって、二つの人形はどちらも大切な物。
 疑うことさえ、人形に失礼だと思っている。
 また、女性自身は二つの人形が動いたところを見たことがないのも、人形を手放さない理由である。
 
「じゃあね、今日もお疲れ様! おやすみ!」
 
 女性は市松人形の頬にキスをして、次にフランス人形の頬へとキスをした。
 毎日のルーティン。
 そして女性はベッドに入って眠りについた。
 
 
 
 繰り返す。
 女性自身は二つの人形が動いたところを見たことがない。
 理由は単純。
 二つの人形の行動時間が、女性の寝ている時だからだ。
 深夜二時。
 二人の人形は目を覚ます。
 その体に、魂が吹き込まれる。
 
「はい今日もキスの順番は私の方が先でしたー。私の方が愛されてるー。フランス人形さん、かわいちょ」
 
 市松人形がかつ誇ったような顔で煽る。
 手足を動かして、絵本に出てくるような出鱈目な踊りでフランス人形の周囲をぐるぐるとまわる。
 
「ねえねえ今どんな気持ち? どんな気持ちー?」
 
「はー……。何回言っても理解しないのね、このチンチクリン。いいですこと? 私に最後にキスをするということは、一日の最後を最高の感触で終わらせたいからなのよ。つまり? あんたみたいな、カッチカチの肌じゃなくて、私のようなスッベスベの肌に触れたいってこと。あー、やだやだ。肌の手入れもできないチンチクリンの嫉妬って、見苦しいわー」
 
「なんだとごらぁ!!」
 
「やる気かおらぁ!!」
 
 二人は今日も、主人の一番を求めて争いを続けるのだ。
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