令和百物語 ~妖怪小話~

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拾伍 山おらび

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 世は空前の登山ブーム。
 雑誌の特集で、山ガールという新たな概念を作り出し、登山を過酷なものというイメージから気軽に楽しめるものというイメージに刷新し、新たな登山客を獲得し始めた。
 登山客の増加と共に、登山用品メーカーだけでなく、総合スポーツ用品メーカー、現場作業や工場作業向けの作業用品メーカーまで、数多のメーカーが登山用具販売に乗り出した。
 より可愛く、よりスタイリッシュな登山装備を売り出した。
 運動もできて、お洒落も楽しめる登山は、国民的な趣味へと駆けあがった。
 
 それに加えて、三密を避ける時勢への突入。
 山という解放空間は、三密が避けられるうえ、一人でも家族でも行ける場所として、すっかりお出かけ先の主流となった。
 
「きれーい!」
 
「ほんとだー!」
 
 山頂にたどり着いた二人の登山客が、山頂からの景色をうっとりと眺める。
 高い高い高層ビルは、まるでミニチュアのように小さく見え、人も車も点が動いているのがかろうじて見えるくらいだ。
 普段見慣れている町も、高さを変えればこうまで変わるかと、息をのむ。
 
 そして後ろを見れば、ひたすらの山々。
 表表紙と裏表紙で雰囲気をがらりと変えるコミックのような面白さに、感動する。
 
「やっほー!」
 
 高揚した気分は、ついついそれを口にさせる。
 
 やっほー。
 
 やっほー。
 
 やっほー。
 
 声は、山々にぶつかって跳ね返り、コダマとなって戻ってくる。
 ソロからオーケストラに変わる様は、突然場面の変わる劇のようで、二人を楽しませた。
 
「じゃあ、私も。ヤイヤーイ!」
 
 ヤイヤーイ。
 
 ヤイヤーイ。
 
 ヤイヤーイ。
 
 
 
 山おらびは、習性に従って叫び返した後、二人の前に現れて、その命を奪い去った。
 
 山頂に倒れた二人の死体の横には、『ヤイヤイと叫ばないでください』と書かれた看板が立っていた。
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