54 / 73
作戦会議
しおりを挟む
すっきりとした気分で目を覚ますと、薄暗い室内に光が差し込んでいる。遅い昼食を摂ったあと朝まで眠ってしまったようだが、そのおかげで怠さも消え身体が軽い。
身体を起こすとベッドの傍に設置されたソファーに人が眠っていて思わずぎょっとするが、すぐにディルクだと気づき瑛莉は肩の力を抜いた。
いつも瑛莉より先に目を覚ますため、こうやって寝顔を見るのは初めてかもしれない。野営には慣れていると言っていたが、一人で護衛まで務めるのは大変だっただろう。
(昨日は魔物退治があったし、それから……………っ、えええええええ!?)
浄化後の記憶が蘇ってきて、瑛莉は思わず頭を抱えてしまった。
眠くて怠くてたまらなかったが、それでも普通にしているつもりだったのだ。
だが実際には身支度を整えるのも億劫でごろごろしていた瑛莉を見兼ねたのか、ディルクに髪を梳かしてもらい、昼食を摂る部屋まで抱えて運ばれてしまった。
さらには一口大に切り分けられた料理を皿に載せてもらっただけでなく、後半は食べさせてもらった記憶すらある。食後に歩いて戻った記憶がないのだから、恐らくそのまま寝落ちしてベッドまで運んでもらったのだろう。
(子供か!!!)
他に失態はなかっただろうかと頭を抱えたまま思い返していると、不意に声を掛けられた。
「エリー!大丈夫か?どこが悪い?すぐに横になるんだ」
手首をつかみ焦りを浮かべたディルクの瞳が思いがけないほど近い。昨日の醜態からまだ立ち直っていなかった瑛莉は、目を合わせるのが気まずくて反射的に視線を逸らす。
だがそれを見たディルクは我慢していると勘違いしたものか、瑛莉の額に手を伸ばしながら毛布を掛けて寝かしつけようとしてくる。未だに子供扱いされていることに恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「っ、ディルク!もう大丈夫だから」
「こら、大人しくしていろ。熱はないようだが、顔が赤い。もしかしたらこれから発熱する可能性もある。安静にしていないと駄目だぞ」
「違うって!これは、そういうんじゃないから!」
それから疑い深いディルクを納得させるため、瑛莉は説明にかなりの時間と言葉を費やす羽目になったのだった。
「エリー、ディルク、おはよう。よく眠れたみたいだね」
瑛莉の顔を見て告げたエーヴァルトの言葉に、やらかした記憶が浮かびあがりそうになるのを必死に抑え込む。嬉しそうに微笑むエーヴァルトに他意はないのだと言い聞かせる。
「おはよう。おかげでゆっくり休めたよ。ありがとう」
テーブルの上には既に料理が並んでいて、ほわりと立ちのぼる湯気と香りが食欲をそそる。
(昨日もそうだけど、今日のご飯もとっても美味しい!)
エーヴァルトの世話全般を行っていると聞いていたが、これほどまでに料理上手だとは思わなかった。主人に不味い食事を出すわけにはいかないと腕を磨き、今では珍しい他国の料理なども作れるようになったらしい。
ちらりとベンノを見るが、こちらに一切顔を向けないところを見ると普通に褒めても嫌な顔をされるだけだろう。
瑛莉はオムレツのふわとろ加減に幸せを噛みしめながら、和やかな雰囲気で朝食を終えた。
「まずはエルヴィーラの救出が先決だが、これに関しては俺に任せてもらいたい」
食事を終えて今後についての話し合いを行うことになり、最初に口火を切ったのはディルクだ。
「エーヴァルトもエリーも狙われている側の人間だから近づくのは危険だ。単独のほうが動きやすいし、人質の救出は任務で何度か手掛けたことがあるからな」
事も無げに告げる言葉は自信を感じさせるものだったが、そう簡単なことではないぐらい素人の瑛莉にだって分かる。
「ディルク、君が優秀なのは知っているけれど自ら罠に飛び込むのは少々無謀ではないかな?エリーが留守番なのは当然だけど、僕は一緒に行くよ。万が一の時には君を連れて逃げ出すことぐらい出来る」
「お言葉ですが我が君、これは彼らの問題です。しかも見知らぬ侍女のために御身を危険に晒すことなど許容いたしかねます。どうかご再考を」
エーヴァルトの申し出にすぐさま反対するベンノだが、これには瑛莉も同意見だった。
「エルヴィーラが私に対して人質になり得ると判断されたのは、私の関わり方に問題があったからだよ。だったらその責任は私が取るべきだよね?」
難色を示すようにディルクは眉をひそめ、エーヴァルトも困ったような笑みを浮かべている。聖女の力は貴重なものだが、人質救出に対して役に立たないと思っているのだろう。
「……エリー、エルヴィーラのことは俺にも責任がある。今回の件は俺に状況を伝えるために無理を通したからだろう。エルヴィーラにはお前を保護して欲しいと頼まれたが、連れ戻してくれとは言わなかったんだ。この意味は分かるな?」
言い聞かせるような口調のディルクの言いたいことは理解できた。
エルヴィーラの立場からすれば、聖女である瑛莉を自由にさせておくメリットなどない。それでもディルクに告げなかったというのなら、それは瑛莉個人の幸せを考えた結果なのだろう。
(ディルクの言うことも分かるし、確かに一人じゃ何もできないけど……)
エーヴァルトとディルクの協力があれば話は別である。実現可能かどうかは分からないけどやってみる価値はあると思うのだ。
「二人に相談というか、頼みがあるんだけど」
そう前置きして瑛莉は自分の考えを話し始めたのだった。
身体を起こすとベッドの傍に設置されたソファーに人が眠っていて思わずぎょっとするが、すぐにディルクだと気づき瑛莉は肩の力を抜いた。
いつも瑛莉より先に目を覚ますため、こうやって寝顔を見るのは初めてかもしれない。野営には慣れていると言っていたが、一人で護衛まで務めるのは大変だっただろう。
(昨日は魔物退治があったし、それから……………っ、えええええええ!?)
浄化後の記憶が蘇ってきて、瑛莉は思わず頭を抱えてしまった。
眠くて怠くてたまらなかったが、それでも普通にしているつもりだったのだ。
だが実際には身支度を整えるのも億劫でごろごろしていた瑛莉を見兼ねたのか、ディルクに髪を梳かしてもらい、昼食を摂る部屋まで抱えて運ばれてしまった。
さらには一口大に切り分けられた料理を皿に載せてもらっただけでなく、後半は食べさせてもらった記憶すらある。食後に歩いて戻った記憶がないのだから、恐らくそのまま寝落ちしてベッドまで運んでもらったのだろう。
(子供か!!!)
他に失態はなかっただろうかと頭を抱えたまま思い返していると、不意に声を掛けられた。
「エリー!大丈夫か?どこが悪い?すぐに横になるんだ」
手首をつかみ焦りを浮かべたディルクの瞳が思いがけないほど近い。昨日の醜態からまだ立ち直っていなかった瑛莉は、目を合わせるのが気まずくて反射的に視線を逸らす。
だがそれを見たディルクは我慢していると勘違いしたものか、瑛莉の額に手を伸ばしながら毛布を掛けて寝かしつけようとしてくる。未だに子供扱いされていることに恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「っ、ディルク!もう大丈夫だから」
「こら、大人しくしていろ。熱はないようだが、顔が赤い。もしかしたらこれから発熱する可能性もある。安静にしていないと駄目だぞ」
「違うって!これは、そういうんじゃないから!」
それから疑い深いディルクを納得させるため、瑛莉は説明にかなりの時間と言葉を費やす羽目になったのだった。
「エリー、ディルク、おはよう。よく眠れたみたいだね」
瑛莉の顔を見て告げたエーヴァルトの言葉に、やらかした記憶が浮かびあがりそうになるのを必死に抑え込む。嬉しそうに微笑むエーヴァルトに他意はないのだと言い聞かせる。
「おはよう。おかげでゆっくり休めたよ。ありがとう」
テーブルの上には既に料理が並んでいて、ほわりと立ちのぼる湯気と香りが食欲をそそる。
(昨日もそうだけど、今日のご飯もとっても美味しい!)
エーヴァルトの世話全般を行っていると聞いていたが、これほどまでに料理上手だとは思わなかった。主人に不味い食事を出すわけにはいかないと腕を磨き、今では珍しい他国の料理なども作れるようになったらしい。
ちらりとベンノを見るが、こちらに一切顔を向けないところを見ると普通に褒めても嫌な顔をされるだけだろう。
瑛莉はオムレツのふわとろ加減に幸せを噛みしめながら、和やかな雰囲気で朝食を終えた。
「まずはエルヴィーラの救出が先決だが、これに関しては俺に任せてもらいたい」
食事を終えて今後についての話し合いを行うことになり、最初に口火を切ったのはディルクだ。
「エーヴァルトもエリーも狙われている側の人間だから近づくのは危険だ。単独のほうが動きやすいし、人質の救出は任務で何度か手掛けたことがあるからな」
事も無げに告げる言葉は自信を感じさせるものだったが、そう簡単なことではないぐらい素人の瑛莉にだって分かる。
「ディルク、君が優秀なのは知っているけれど自ら罠に飛び込むのは少々無謀ではないかな?エリーが留守番なのは当然だけど、僕は一緒に行くよ。万が一の時には君を連れて逃げ出すことぐらい出来る」
「お言葉ですが我が君、これは彼らの問題です。しかも見知らぬ侍女のために御身を危険に晒すことなど許容いたしかねます。どうかご再考を」
エーヴァルトの申し出にすぐさま反対するベンノだが、これには瑛莉も同意見だった。
「エルヴィーラが私に対して人質になり得ると判断されたのは、私の関わり方に問題があったからだよ。だったらその責任は私が取るべきだよね?」
難色を示すようにディルクは眉をひそめ、エーヴァルトも困ったような笑みを浮かべている。聖女の力は貴重なものだが、人質救出に対して役に立たないと思っているのだろう。
「……エリー、エルヴィーラのことは俺にも責任がある。今回の件は俺に状況を伝えるために無理を通したからだろう。エルヴィーラにはお前を保護して欲しいと頼まれたが、連れ戻してくれとは言わなかったんだ。この意味は分かるな?」
言い聞かせるような口調のディルクの言いたいことは理解できた。
エルヴィーラの立場からすれば、聖女である瑛莉を自由にさせておくメリットなどない。それでもディルクに告げなかったというのなら、それは瑛莉個人の幸せを考えた結果なのだろう。
(ディルクの言うことも分かるし、確かに一人じゃ何もできないけど……)
エーヴァルトとディルクの協力があれば話は別である。実現可能かどうかは分からないけどやってみる価値はあると思うのだ。
「二人に相談というか、頼みがあるんだけど」
そう前置きして瑛莉は自分の考えを話し始めたのだった。
1
お気に入りに追加
955
あなたにおすすめの小説
婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!
別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが
リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!?
※ご都合主義展開
※全7話
Can't Stop Fall in Love
桧垣森輪
恋愛
社会人1年生の美月には憧れの先輩がいる。兄の親友であり、会社の上司で御曹司の輝翔先輩。自分とは住む世界の違う人だから。これは恋愛感情なんかじゃない。そう思いながらも、心はずっと彼を追いかけていた───
優しくて紳士的でずっと憧れていた人が、実は意地悪で嫉妬深くて独占欲も強い腹黒王子だったというお話をコメディタッチでお送りしています。【2016年2/18本編完結】
※アルファポリス エタニティブックスにて書籍化されました。
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
婚約破棄された傷物の癖に偉そうにするなと婚約者から言われたのですが、それは双子の妹への暴言かしら?
珠宮さくら
恋愛
とんでもない勘違いに巻き込まれたクリスティアーナは、婚約者から暴言を吐かれることとなったのだが……。
※全4話。
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される
日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。
そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。
HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる