13 / 27
込められたメッセージ
しおりを挟む
「グレイ!ねえ、これ食べて。すっっっごく美味しいから!」
包みに入ったクッキーを押し付けると、グレイは呆れたような顔をしながらも一つ摘み口に放り込む。
「……何か食った気がしないな。いつものがいい」
「えっ、嘘でしょ!舌がおかしいんじゃない?!」
一般庶民には手に入らない高級品を使った公爵家の料理人が作ったお菓子なのだ。口どけがよく噛み応えがないかもしれないが、もっと他に感想があるのではないか。
不満そうに口を尖らせたジェシカに、グレイはじっとりとした目を向けてくる。
「ジェス、そんなことより他に話すことがあるんじゃないか?」
「あ……ちゃんと話すつもりだったよ?でも、ほらグレイが疲れてるんじゃないかなと思って先にお菓子で癒されてもらおうかなって」
決して忘れていたわけではないが、思わぬ謝礼についそちらに気を取られていただけなのだ。
「結論から言うとアマンダ様とジョシュア殿下の関係は改善されたみたいだよ」
アマンダとのお茶会で二人をその場に残してきたものの、話し合いが出来たかどうか気になっていると、あの時いた公爵家の侍女がわざわざジェシカを訪ねてきて事の顛末を教えてくれたのだ。
「お二人とも最後には穏やかに談笑されていたそうだから、婚約破棄は回避できただろうって」
アマンダは少し素直でなくて、ジョシュアも寂しがり屋な一面がありながらもそれを見せないようにしていた。
どちらもきっと言葉が足りなかったのだろう。
「ふうん。で、このクッキーもその侍女がくれたんだな?」
ジェシカが感激しながら食べていたせいか、はたまた去り際に未練がましく見てしまったせいか、「お嬢様のお気持ちを代弁してくださったお礼に」と手渡してくれたのだ。
「わざわざ知らせてくれたことといい、今後は一切かかわるなという意味だろうな」
「え……?」
グレイ曰く、公爵家の侍女ともなればそれなりの身分か、優秀な人物のはずである。そんな侍女が平民であり発端となったジェシカの下に事の経緯を知らせるためだけに来るはずがない。
他に意図があったとするならば、結果が気になったジェシカがアマンダたちを訪れて再び拗らせることになるのを防ぐためではないか。
「そこまで考えるの……?貴族って心理戦が過ぎるんじゃない?え、待って?グレイは何でそんなこと分かるの、怖っ」
そういえば最後に「幼馴染の方にもよろしくお伝えください」と言われていた。それはクッキーに込められたメッセージをグレイに伝えるためだったのではないか。
権謀術数が渦巻く貴族社会での駆け引きなどジェシカには絶対に無理だが、グレイなら太刀打ちできるんじゃないかと思う。
「まあ釘を差されたということは、あとはあっちの問題だろう」
「グレイのおかげだね、ありがとう」
本心からお礼を告げたのに、グレイに何故か額をデコピンされた。
「まだあと三人いるんだろうが。一人目が上手くいったからって気を抜くんじゃねえよ」
確かにその通りなのだが、地味に痛いので止めてほしい。
「次はやっぱりサミュエル様?でもエイデン様もあと少しで卒業しちゃうし……あ、でも接点がなくなるから逆に大丈夫なのかな?」
「その魔術師様が一番厄介なんだろうが……。ヤンデレ?とかいう性格ならさっさと縁を切らないと一生逃げられなくなるぞ」
(そういえばそうだった……)
物静かでいつも一歩引いているようなところがあるから、つい忘れてしまうけどヤンデレ属性は執着が半端ないのだ。エイデンがそうだと決まったわけではないが、用心するに越したことはないだろう。
「とはいえ秀才様に策を講じられると面倒だ。そっちの婚約者様も才女と呼ばれているんだったか?」
ヘザー・ラッセル子爵令嬢はアマンダ様とは別のタイプのクールビューティーだ。同じ教室だが、会話をしたことはなく避けられている節さえある。
「魔術師様には極力関わらないようにして、とりあえず秀才様からだな。ああ、騎士様も無視でいいぞ」
滔々とサミュエルへの対策を語るグレイは、自分よりもよほど転生者らしいなと思うジェシカであった。
包みに入ったクッキーを押し付けると、グレイは呆れたような顔をしながらも一つ摘み口に放り込む。
「……何か食った気がしないな。いつものがいい」
「えっ、嘘でしょ!舌がおかしいんじゃない?!」
一般庶民には手に入らない高級品を使った公爵家の料理人が作ったお菓子なのだ。口どけがよく噛み応えがないかもしれないが、もっと他に感想があるのではないか。
不満そうに口を尖らせたジェシカに、グレイはじっとりとした目を向けてくる。
「ジェス、そんなことより他に話すことがあるんじゃないか?」
「あ……ちゃんと話すつもりだったよ?でも、ほらグレイが疲れてるんじゃないかなと思って先にお菓子で癒されてもらおうかなって」
決して忘れていたわけではないが、思わぬ謝礼についそちらに気を取られていただけなのだ。
「結論から言うとアマンダ様とジョシュア殿下の関係は改善されたみたいだよ」
アマンダとのお茶会で二人をその場に残してきたものの、話し合いが出来たかどうか気になっていると、あの時いた公爵家の侍女がわざわざジェシカを訪ねてきて事の顛末を教えてくれたのだ。
「お二人とも最後には穏やかに談笑されていたそうだから、婚約破棄は回避できただろうって」
アマンダは少し素直でなくて、ジョシュアも寂しがり屋な一面がありながらもそれを見せないようにしていた。
どちらもきっと言葉が足りなかったのだろう。
「ふうん。で、このクッキーもその侍女がくれたんだな?」
ジェシカが感激しながら食べていたせいか、はたまた去り際に未練がましく見てしまったせいか、「お嬢様のお気持ちを代弁してくださったお礼に」と手渡してくれたのだ。
「わざわざ知らせてくれたことといい、今後は一切かかわるなという意味だろうな」
「え……?」
グレイ曰く、公爵家の侍女ともなればそれなりの身分か、優秀な人物のはずである。そんな侍女が平民であり発端となったジェシカの下に事の経緯を知らせるためだけに来るはずがない。
他に意図があったとするならば、結果が気になったジェシカがアマンダたちを訪れて再び拗らせることになるのを防ぐためではないか。
「そこまで考えるの……?貴族って心理戦が過ぎるんじゃない?え、待って?グレイは何でそんなこと分かるの、怖っ」
そういえば最後に「幼馴染の方にもよろしくお伝えください」と言われていた。それはクッキーに込められたメッセージをグレイに伝えるためだったのではないか。
権謀術数が渦巻く貴族社会での駆け引きなどジェシカには絶対に無理だが、グレイなら太刀打ちできるんじゃないかと思う。
「まあ釘を差されたということは、あとはあっちの問題だろう」
「グレイのおかげだね、ありがとう」
本心からお礼を告げたのに、グレイに何故か額をデコピンされた。
「まだあと三人いるんだろうが。一人目が上手くいったからって気を抜くんじゃねえよ」
確かにその通りなのだが、地味に痛いので止めてほしい。
「次はやっぱりサミュエル様?でもエイデン様もあと少しで卒業しちゃうし……あ、でも接点がなくなるから逆に大丈夫なのかな?」
「その魔術師様が一番厄介なんだろうが……。ヤンデレ?とかいう性格ならさっさと縁を切らないと一生逃げられなくなるぞ」
(そういえばそうだった……)
物静かでいつも一歩引いているようなところがあるから、つい忘れてしまうけどヤンデレ属性は執着が半端ないのだ。エイデンがそうだと決まったわけではないが、用心するに越したことはないだろう。
「とはいえ秀才様に策を講じられると面倒だ。そっちの婚約者様も才女と呼ばれているんだったか?」
ヘザー・ラッセル子爵令嬢はアマンダ様とは別のタイプのクールビューティーだ。同じ教室だが、会話をしたことはなく避けられている節さえある。
「魔術師様には極力関わらないようにして、とりあえず秀才様からだな。ああ、騎士様も無視でいいぞ」
滔々とサミュエルへの対策を語るグレイは、自分よりもよほど転生者らしいなと思うジェシカであった。
10
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる