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閑話休題 女の話
冷えた麦茶は、映えるらしい。
しおりを挟む前髪をかき上げてあらわになっ瞳が鈍く光りこちらを捉えた。
「警察官ならば、知ってる筈。彼の行動原理を、その理由も。
愛する女性のために、その女性に近しい見た目をした子ども達を本当に、そういう意味で傷付ける事をしたとでも?」
「……いや、だが……」
「彼が残したのはたった一つ。
彼女達を守るためのモノでしょう?」
そう言ってから彼女は指で机をトントン、と叩いた。
知らないわけではない、あの事件の被害者の”残骸”には、いつもその目立つ墨が残っていた。
当時はまだ平だった自分でも胃がひっくり返るような気持ちになるようなその残骸は、今もまだ記憶に残っている。
残骸の全てに、同じモノが入っていた。
「何よりも愛した女性に似た少女を誘拐して、自分好みになるようにと手を加えた。
気に入らない少女達は、神の元へと還したあの男が未だに生きていることも不思議だけれども……
それでも、あの男が彼女の何かを気にいって大事にしていたのは間違いない話なのでは」
「大事に……?
大事にだと!? 年端も行かない子どもをこぞって誘拐した挙句に地下に閉じ込め挙げ句の果てには気に入らなければ殺して、その死骸を箱詰めにして家に送りつけるような極悪人だぞ!
何が、……何が大事にしていただ! 本来なら、死刑が妥当なところを、無期懲役終身刑だぞ!?
あんなのが生きていて、誰が喜ぶ……実際、あの男の家族は一度たりとも会いにきたりもしていないしな……」
「でも、あの子は会いに行ったわ。
許可も貰って、監視もあって記録されてたけれどもでも」
たのしそうな彼女は、愛らしかった。と言う女の言葉に思わず目を見開いた。
「あ、会いに……?」
「手紙のやり取りもしていたらしいわ。
うん、あの子はいつも写真を一枚に一言を添えて送っていたらしいけど」
あの子らしいと思うの。と目を伏せて微笑んだ女性の言葉に、息を呑み込んだ。被害者が、加害者に会いに?有り得ない。有り得る訳が無い。
「わ、わざわざ被害者が加害者に会いにいくなんて、そんなこと……」
「人間の深層心理なんて誰にも分かり得ないことでしょう」
「でも、会えないだろ……そもそも、の話……」
「そうかしら。どうかなんて私はその手の人間じゃありませんし、彼女から直接聞いたわけでもないので」
そう言って彼女は出されていた麦茶に手を伸ばした。
それを見たからというわけではないが、喉が渇く感覚を覚えた。これは、一度向こうに話を聞かなければならないな、なんて頭を抱えたくなった。
「私は、我が園にやって来て、去っていった子ども達のことははっきりと覚えています。
正直言えば、彼女よりもひどい境遇の子だっています。けど、あの子は特別なの。特別に、愛されている」
「はぁ……?」
にっこりと微笑んだ彼女はそう言いながら自身の手の甲に手を重ねた。
自分の指を絡めながら、視線はこちらに向いているのがなんだか気持ちが悪く、背中の辺りがザワザワとしている。表現し難い、感触が気持ち悪い。本当に
「愛されてるって、何に……」
「……あの子が退園した理由は伝えられていないんです。何せ前理事長の独断でしたので。
でも、これは本当ですよ。あの子が自宅に帰った後、父親は一切。えぇそれは一歩たりとも、自宅に帰ったことなんてないんです」
そう言って、女性は視線を手の甲に落とした。
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