死んでしまった彼女が遺したモノも知らず。ただ私は、遺族の無念を晴らしたかった。

第二章 白い彼の話。

噛み締めて、味わって。

　
「卜部さんにはミートコンフィとパンの付け合わせに赤ワイン、君には言われた通りシーザーサラダと貝類の和風パスタで飲み物はオレンジジュースでいいですか？」
「わぁ、おれのすきなのみものですー」
　
　なんとも言えない棒読みの後輩を横目に彼を見れば、彼の分の食事もあるようで平然と隣に座られて心音が煩くなった。
　
「それってフリカッセって料理っすよねぇ～」
「そうだよ、よく知ってるね。
　そういうことにあんまり興味がないんだと思ってたよ」
　
　にこにこと笑いながら後輩に対してそう冷たく吐き捨てた彼に、後輩は苛立ちを見せつつも引きつった笑顔を貼り付けながら「まぁ、嫁さんが好きなんでねぇ」と言ってくれた。
　あまり炯月さんを怒らせるな、とさっき言った言葉をちゃんと聞いてくれる辺り真面目なやつなんだよね、と実感した。だが、今度ラーメンを奢らされる約束を取り付けられたのは許さない。
　
「軽食で、でもしっかりとお腹に入るものを選んだので、卜部さんも聞きながら食べてくださいね」
「はい、すみません。お食事を頂いてしまって」
「いえいえ。どうぞ、お食べください」
　
　とても綺麗な微笑みを浮かべる彼に見惚れつつ「いただきます」と手を合わせてからフォークで少し切り崩してから口に放り込む。
　オリーブオイルで煮た料理だとは聞いたが、だが肉が口の中で溶けるような感覚と舌に広がる肉汁に思わず感動を覚えてしまった。
　旨すぎる、こんなに美味いなんて、さすが三ツ星高級フレンチレストランの料理長の料理なだけあると思う。
　
「美味しいですね……
　これって、なんの肉なんですか？」
「コンフィの肉といえば、水鳥とか、豚肉ですよね」
「まぁ、そういうのが多いよね」
　
　嬉しそうに微笑む彼も自身の食事を口にしてから白ワインを一口飲み込んだ。
　ワインの似合う男がここにいる。いや、彼の場合は何をしても、何を飲んでも様になるのだろう。
　
「それで、何を聞きたいんでしたっけ
　俺とあの子の関係なら、居候と家主って感じですよ」
「いや……えっと、彼女との出会いとか、彼女が”誰か”に”殺されたい”と思うようになった頃の話とか……」
「ま、炯月さんが思う被害者がどこか”他人と違う”と思い始めたときの話でもお願いします。
　出会いとかそんな難しい話は抜きにして、簡単な話でいいんで」

　適当にそう言葉を漏らす後輩は淡々とスパゲティを食べていて思わず呆れの表情を浮かべた。
　彼の方を見れば、何故か懐かしそうに微笑んでいるので思わず首を傾げたが、直ぐにこちらの視線に気がつくなりまた、笑みを浮かべた。
　
「他人と違うかぁ…
　彼奴は出会った時から他の人とは違ったからなぁ……
　そう言う感じの話ではないけど、思い出だけ語ってあげるよ」
　
　笑って言う彼を見ながら、その口に目を向けた。