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第4章 Jewelry Pupil 狩り
50. 強奪 II
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CASE 七海
椿の言葉が、僕の思考を停止させた。
「そりゃあ、殺意も湧くよね?自分達を買った理由が、人殺しをさせる為だったら。それと子供の面倒?さぞ、ご両親は2人を買って楽が出来ただろうね。」
フッと笑いながら、椿は紅茶を口に運んだ。
何故、この男の言葉に耳を傾けてしまうんだ。
本当の事を言っているように思えて…、しまう。
「2人は、そんな事…を思って…。」
「あははは!!そりゃあ、本人には言わないでしょー。また、捨てられたら困るじゃない。馬鹿じゃないんだからさ、頭使って答えるでしょ。」
天音とノアと過ごした日々が脳裏を過ぎる。
僕を大事だって言った事も、ずっと一緒だって言った事も…。
全部、全部…。
嘘だったって、事?
「七海さん、しっかりして下さい!!」
星影さんの言葉が遠く感じる。
何だ、これ…。
心が、痛い。
「君を痛め付けて殺してって、お願いされたんだよ?」
「…え?」
「やめて下さい。」
星影さんはそう言って、僕の耳を手で押さえた。
「椿、嘘付いてんだろ。」
「ほ、星影さん?」
何て、言ったのか分からないけど…。
いつもの星影さんじゃない事は、分かる。
穏やかな笑顔は消え、サングラス越しだが、冷たい目付きをしている。
四郎達と同じ、人を殺す時の目だ。
「あ、やっと戻った。僕の知ってる星影だ。お前、何で運転手なんかしてんの?」
「テメェに関係ねーだろ、椿。」
「椿様。コイツ、殺す。」
カチャッ。
佐助は持っていた刀を抜こうとするが、星影さんが持っていたナイフを投げた。
グサッ!!
素早く投げたナイフが、佐助の手の甲に突き刺さる。
「「っ!?」」
僕と佐助は、星影さんの行動を見て驚いた。
今、やったのは…、本当に星影さんなのか?
僕の知らない星影さんが、隣にいて、椿を睨み付ける。
「僕が殺しから足を洗ったのは、頭を近くで守りたかったからだ。お前が拓也さんを殺した日から、ずっとだ。僕は頭の大切なものを守る。七海さん、行きましょう。」
「う、うん。」
僕の手を引き、星影さんは椿から離れた瞬間だった。
プシュッ!!
ブシャッ!!
星影さんの右肩から血が噴き出した。
「星影さん!?」
どこから撃って…。
「ッチ、スナイパーか。」
「逃す訳ねーだろ?星影。佐助、星影を殺せ。」
「分かりました、椿様。」
カチャッ。
佐助は刀を抜き、星影さんの頭上まで高く飛び、刀を振り下ろした。
星影さんは、椅子を持ち刀の攻撃を塞いだ。
キィィィンッ!!
「七海さん、逃げて下さい!!僕が食い止めます。」
「だ、だけど、星影さ…。」
「大丈夫です、七海さんの大切な人は、貴方を恨んだりしていない。」
「え…っ?」
「椿の言葉に耳を傾けてはいけません。さ、早く!!」
ブシャッ!!
「くっ!?」
椅子を弾き飛ばした佐助は、星影さんの体を斬り付ける。
星影さんの体から血が噴き出す。
「星影さん!!」
パァァアン!!
隠し持っていた銃を取り出し、星影さんは佐助に向かって、引き金を引いた。
だが、放たれた弾は佐助の目の前で止まる。
ブシャッ!!
止まった弾が跳ね返り、星影さんの脇腹から血が噴き出す。
「ガハッ!!」
ブシャッ、ブシャ!!
星影さんは、スナイパーから僕を庇うように前に立つ。
「あははは!!星影ー、いつから人を守るようになったんだよ。面白いなぁ、こんな星影を見れる日が来るなんてなぁー。」
椿は血だらけの星影さんを見て、大笑いしている。
何がおかしい?
何がそんなに面白い?
コイツ、おかしい。
いや、頭のネジが1本飛んでる。
「な、七海さん、怪我…してませんか?」
「僕は大丈夫だよっ、星影さんの方が!!」
「僕は大丈夫です。」
そう言って、星影さんは優しく笑う。
「七海さん、逃げて下さい。」
「ほしか…。」
パシュッ!!
ブシャッ!!
「「っ!?」」
右肩に激痛が走る。
恐る恐る自分の右肩に視線を向けると、血が滲んでいた。
撃たれた…?
「あー、笑った。もうさ、死なない程度に痛め付けて、連れてくわ。」
椿はサイレンサーを付けたトーラス・レイジングルを構えていた。
「七海さん、僕が合図をしたら走って下さい。」
「えっ?」
「頭は…、七海さんの事や他の皆さんの事を大事に思っています。けして、道具扱いしていた訳ではないんです。それだけは、本当です。」
「星影さ…っ。」
「うおおおおおお!!!」
椅子を持ち上げた星影さんは、佐助に投げ飛ばす。
そしてナイフを持ち、椿に突進する。
パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!
椿は容赦なく星影さんに向かって発砲するが、星影さんは撃たれても足を止めなかった。
「行って下さい!!早く!!」
「っ…、ごめん、星影さん!!」
僕は震える足を叩き、星影さんに背を向け走り出す。
星影さんが、命懸けで僕を守ろうとしてくれている。
甘かった。
椿を甘く考えていた。
コイツは本当にやばい、普通じゃない。
「星影、つまらない死に方をするな。」
椿の冷たい声が耳に届き、思わず足を止めてしまった。
後ろを振り返ると、佐助の刀が星影さんの体を貫い
ていた。
星影さんは椿にナイフを突き刺そうとしたが、ナイフを持っている手が吹き飛んだ。
ブシャッ!!
「つば…きっ。」
「人間らしくなったな、お前。誰かの為に、自分の命を使うなんて事をしなかったろ。そんなに雪哉さんの命令が大事?自分の命よりも、他人の命を守っ
て、何が残る。」
「お前には…、分からねぇよ。お前には…な。」
「そうか。」
パシュッ!!
椿はそう言って、星影さんの頭を撃ち抜いた。
「星影さっ…!!」
グサッ!!
「…え?」
僕のお腹から、包丁が貫いてる?
後ろに目を向けると、包帯やガーゼだらけの男が視界に入った。
その男には見覚えがあった。
何故なら、ボスと辰巳さんが拷問していた男だったからだ。
「ゴホッ!!」
込み上げて来た血を吐き出すと、太ももに痛みが走る。
スナイパーが太ももに向かって、銃弾を撃って来たんだ。
体の至る所から激痛が走り、意識が飛びそうになる。
ここで、意識を失っちゃだめだ。
「ぐ、ぐぁぁぁぁ!!」
意識が飛ばないように、見苦しい声を出した。
新宿御苑から七海の叫び声を聞いた齋藤は、急いで椿の元に向かおうとした。
ジャリッ…。
「あ?おいおい…、どうなってんだよ。」
齋藤はギョッとしながら、目の前に起きた光景を眺めた。
何故なら、数分前に殺し、死んだ筈の椿会の組員達が動き出したからだ。
急所を確実に狙い、殺した筈の組員達は操り人形のように走り出した。
「何なんだよ、一体!!」
「あ、あがあがあ、ああ、…!!」
ブシャッ!!
齋藤は柳刃包丁で、向かって来た組員を斬り付ける。
たが、組員達は足を止める事はなく、齋藤の体を掴む。
「コイツ等っ、死んでんのにっ!!」
「頭を下げろ。」
「は?おわっ!?」
シュンッ!!
ボトッ!!
突然、聞こえて来た男の声と共に、組員の男の頭が地面に落ちる。
バタッ!!
首だけになった組員は、体から地面に崩れ落ちる。
どうやら、頭を落とせば動けなくなるようだった。
「成る程、頭を切り落とせば良かったのか。」
「お前、マスターを助けに来た男だな。」
そう言ったのは、天音だった。
組員の男の頭を日本刀で斬り落とし、齋藤に声を掛けてた。
「君達は?何者?見た所、殺し屋だとお見受けするが?」
齋藤はそう言って、天音に問い掛ける。
「お前の言う七海は、僕達の主人だ。」
「主人?あの七海がか?」
パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
「天音、こっちは片付いた。」
サイレンサーを付けたLCT PP1901 VITYAZを持ったノアが、とぼとぼと歩いて来た。
「俺に敵意がない所からして、アンタの話は本当みたいだな。俺も頼まれて来たんだよ。一緒に…って、おいおい…、まだ動くのか。」
頭を斬り落とした死体達が、次々に起き上がる。
天音とノアは、これが何の能力で動いているのか分かっていた。
「ノア、やっぱりJewelry Wordsの能力だよな。」
「だろうねー。ゾンビになった訳でも無さそうだし。どこかにJewelry Pupil がいるね。俺達の足止
めが目的…かな?」
「だったら、そのJewelry Pupil を殺した方が早い
な。」
「えー、殺せるかなぁ?」
黒いレースの日傘を持ち、死体の男達に担がれて双葉が現れた。
「お前か?コイツ等を動かしてんのは。」
「そうだよー、双葉のJewelry Wordsでねー。あははは!!操り人形みたいで、面白いでしょ?」
天音の言葉を聞いた双葉は、笑いながら答える。
「双葉のお人形達を殺してからじゃないと、この先には行けないよー?」
ゾロゾロと双葉の周りに操り人形になった死体達が、集まり出す。
「この子供、頭イカれてんだろ…。今の子は、こんなものなのか?」
「いやいや、この子だけでしょ…。天音、あの子供を殺すぞ。」
「了解。」
カチャッ。
天音は刀を構え、双葉に向かって走り出す。
「「あ、あああああ、あぁぁ…。」」
操り人形になった死体が天音に向かって手を伸ばすが、ノアが後ろから射撃をする。
パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
「ゔ、うぅぅ。」
「ほらほらほら!!アンタ達、もっと頑張りなさい
よ!!双葉が命令してるでしょ!!」
次々に倒れる死体達に向かって、双葉は罵声を浴び
せる。
グサッ!!
グラッ!!
双葉を抱き抱えていた死体の足を天音が斬り落とす。
「きゃっ!!」
地面に倒れた双葉に向かって、天音は刀を振り下ろそうとした時だった。
ビュンッ!!
「っ!!」
飛んで来た銃弾に反応した天音は、双葉から距離を取る。
「へー、反射神経がええなぁ。」
「瞬!!」
グロック17Gen.4を持った二見瞬が、双葉を抱き上げる。
「二見、お前のガキか。」
「あれ?斎藤さんやん。殺しはやめたんやないの?」
「お前も相変わらずだな。仕事だ、仕事。」
「へぇー。」
二見瞬と齋藤は適当な会話をしつつも、お互いを睨み付けている。
「君等が双葉と遊んどる間に、七海君は頂いたからさぁ。」
「「っ!!」」
その言葉を聞いた天音とノアは、二見瞬をすり抜け走り出す。
タタタタタタタッ!!!
「あ、齋藤さんは行かせんよ?邪魔だからなぁ。今
だから言うけどさー。本当は齋藤さんの事、嫌いだ
ったんや。」
二見瞬は真顔で、齋藤に向かって言葉を吐く。
「奇遇だな、俺もお前の事が嫌いだった。」
「あはは、気が合うなぁ。なら、お互い殺し合っても良いよなぁ?」
カチャッ。
二見瞬はグロック17Gen.4の銃口を齋藤に向ける。
双葉のJewelry Wordsの力で、ゾロゾロと齋藤の周りに死体達も集まって来た。
「骨が折れる仕事を引き受けちまったなぁ。」
シュルッ。
ネクタイを緩めた斎藤は、涼しげな笑みを浮かべた。
「「マスター!!!」」
「意外と早く来たんだ。」
血だらけの七海の髪を乱暴に掴む、椿の姿が天音と
ノアの視界に入る。
「I'll fucking kill you。」
天音は英語で言葉を吐き捨てた後、勢いを付けて飛び出す。
佐助が前に出て天音を止めようとするが、刀を持っていた手をノアがLCT PP1901 VITYAZを構え、射撃する。
パシュッ、パシュッ!!
放たれた銃弾は、見事に佐助の手に命中する。
「っ!!」
「佐助!!テメェ…!!」
ナイフを構えた伊助が、天音に向かって飛び出す。
「邪魔だ、退け。」
天音は隠し持っていたナイフを2本取り出し、伊助の太ももに投げ飛ばす。
ブシャッ、ブシャッ!!
「ぐっ!?」
「ノア。」
「了解。」
パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
ノアは素早く伊助の方に銃口を向け、射撃する。
ふらついた伊助を蹴り飛ばし、椿に向かって刀を振り下ろす。
ビュンッ!!
「椿様!!」
佐助が天音に向かって手を広げ、天音を吹き飛ばす。
「ッチ!!」
「天音!!」
ノアは慌てて、吹き飛ばされた天音の体を抑える。
「テメェ、マスターから手を離せ。」
「おー、怖い怖い。佐助、伊助、足止めしろ。」
椿の言葉を聞いた佐助と伊助は、天音とノアの前に立ちはだかった。
椿の言葉が、僕の思考を停止させた。
「そりゃあ、殺意も湧くよね?自分達を買った理由が、人殺しをさせる為だったら。それと子供の面倒?さぞ、ご両親は2人を買って楽が出来ただろうね。」
フッと笑いながら、椿は紅茶を口に運んだ。
何故、この男の言葉に耳を傾けてしまうんだ。
本当の事を言っているように思えて…、しまう。
「2人は、そんな事…を思って…。」
「あははは!!そりゃあ、本人には言わないでしょー。また、捨てられたら困るじゃない。馬鹿じゃないんだからさ、頭使って答えるでしょ。」
天音とノアと過ごした日々が脳裏を過ぎる。
僕を大事だって言った事も、ずっと一緒だって言った事も…。
全部、全部…。
嘘だったって、事?
「七海さん、しっかりして下さい!!」
星影さんの言葉が遠く感じる。
何だ、これ…。
心が、痛い。
「君を痛め付けて殺してって、お願いされたんだよ?」
「…え?」
「やめて下さい。」
星影さんはそう言って、僕の耳を手で押さえた。
「椿、嘘付いてんだろ。」
「ほ、星影さん?」
何て、言ったのか分からないけど…。
いつもの星影さんじゃない事は、分かる。
穏やかな笑顔は消え、サングラス越しだが、冷たい目付きをしている。
四郎達と同じ、人を殺す時の目だ。
「あ、やっと戻った。僕の知ってる星影だ。お前、何で運転手なんかしてんの?」
「テメェに関係ねーだろ、椿。」
「椿様。コイツ、殺す。」
カチャッ。
佐助は持っていた刀を抜こうとするが、星影さんが持っていたナイフを投げた。
グサッ!!
素早く投げたナイフが、佐助の手の甲に突き刺さる。
「「っ!?」」
僕と佐助は、星影さんの行動を見て驚いた。
今、やったのは…、本当に星影さんなのか?
僕の知らない星影さんが、隣にいて、椿を睨み付ける。
「僕が殺しから足を洗ったのは、頭を近くで守りたかったからだ。お前が拓也さんを殺した日から、ずっとだ。僕は頭の大切なものを守る。七海さん、行きましょう。」
「う、うん。」
僕の手を引き、星影さんは椿から離れた瞬間だった。
プシュッ!!
ブシャッ!!
星影さんの右肩から血が噴き出した。
「星影さん!?」
どこから撃って…。
「ッチ、スナイパーか。」
「逃す訳ねーだろ?星影。佐助、星影を殺せ。」
「分かりました、椿様。」
カチャッ。
佐助は刀を抜き、星影さんの頭上まで高く飛び、刀を振り下ろした。
星影さんは、椅子を持ち刀の攻撃を塞いだ。
キィィィンッ!!
「七海さん、逃げて下さい!!僕が食い止めます。」
「だ、だけど、星影さ…。」
「大丈夫です、七海さんの大切な人は、貴方を恨んだりしていない。」
「え…っ?」
「椿の言葉に耳を傾けてはいけません。さ、早く!!」
ブシャッ!!
「くっ!?」
椅子を弾き飛ばした佐助は、星影さんの体を斬り付ける。
星影さんの体から血が噴き出す。
「星影さん!!」
パァァアン!!
隠し持っていた銃を取り出し、星影さんは佐助に向かって、引き金を引いた。
だが、放たれた弾は佐助の目の前で止まる。
ブシャッ!!
止まった弾が跳ね返り、星影さんの脇腹から血が噴き出す。
「ガハッ!!」
ブシャッ、ブシャ!!
星影さんは、スナイパーから僕を庇うように前に立つ。
「あははは!!星影ー、いつから人を守るようになったんだよ。面白いなぁ、こんな星影を見れる日が来るなんてなぁー。」
椿は血だらけの星影さんを見て、大笑いしている。
何がおかしい?
何がそんなに面白い?
コイツ、おかしい。
いや、頭のネジが1本飛んでる。
「な、七海さん、怪我…してませんか?」
「僕は大丈夫だよっ、星影さんの方が!!」
「僕は大丈夫です。」
そう言って、星影さんは優しく笑う。
「七海さん、逃げて下さい。」
「ほしか…。」
パシュッ!!
ブシャッ!!
「「っ!?」」
右肩に激痛が走る。
恐る恐る自分の右肩に視線を向けると、血が滲んでいた。
撃たれた…?
「あー、笑った。もうさ、死なない程度に痛め付けて、連れてくわ。」
椿はサイレンサーを付けたトーラス・レイジングルを構えていた。
「七海さん、僕が合図をしたら走って下さい。」
「えっ?」
「頭は…、七海さんの事や他の皆さんの事を大事に思っています。けして、道具扱いしていた訳ではないんです。それだけは、本当です。」
「星影さ…っ。」
「うおおおおおお!!!」
椅子を持ち上げた星影さんは、佐助に投げ飛ばす。
そしてナイフを持ち、椿に突進する。
パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!
椿は容赦なく星影さんに向かって発砲するが、星影さんは撃たれても足を止めなかった。
「行って下さい!!早く!!」
「っ…、ごめん、星影さん!!」
僕は震える足を叩き、星影さんに背を向け走り出す。
星影さんが、命懸けで僕を守ろうとしてくれている。
甘かった。
椿を甘く考えていた。
コイツは本当にやばい、普通じゃない。
「星影、つまらない死に方をするな。」
椿の冷たい声が耳に届き、思わず足を止めてしまった。
後ろを振り返ると、佐助の刀が星影さんの体を貫い
ていた。
星影さんは椿にナイフを突き刺そうとしたが、ナイフを持っている手が吹き飛んだ。
ブシャッ!!
「つば…きっ。」
「人間らしくなったな、お前。誰かの為に、自分の命を使うなんて事をしなかったろ。そんなに雪哉さんの命令が大事?自分の命よりも、他人の命を守っ
て、何が残る。」
「お前には…、分からねぇよ。お前には…な。」
「そうか。」
パシュッ!!
椿はそう言って、星影さんの頭を撃ち抜いた。
「星影さっ…!!」
グサッ!!
「…え?」
僕のお腹から、包丁が貫いてる?
後ろに目を向けると、包帯やガーゼだらけの男が視界に入った。
その男には見覚えがあった。
何故なら、ボスと辰巳さんが拷問していた男だったからだ。
「ゴホッ!!」
込み上げて来た血を吐き出すと、太ももに痛みが走る。
スナイパーが太ももに向かって、銃弾を撃って来たんだ。
体の至る所から激痛が走り、意識が飛びそうになる。
ここで、意識を失っちゃだめだ。
「ぐ、ぐぁぁぁぁ!!」
意識が飛ばないように、見苦しい声を出した。
新宿御苑から七海の叫び声を聞いた齋藤は、急いで椿の元に向かおうとした。
ジャリッ…。
「あ?おいおい…、どうなってんだよ。」
齋藤はギョッとしながら、目の前に起きた光景を眺めた。
何故なら、数分前に殺し、死んだ筈の椿会の組員達が動き出したからだ。
急所を確実に狙い、殺した筈の組員達は操り人形のように走り出した。
「何なんだよ、一体!!」
「あ、あがあがあ、ああ、…!!」
ブシャッ!!
齋藤は柳刃包丁で、向かって来た組員を斬り付ける。
たが、組員達は足を止める事はなく、齋藤の体を掴む。
「コイツ等っ、死んでんのにっ!!」
「頭を下げろ。」
「は?おわっ!?」
シュンッ!!
ボトッ!!
突然、聞こえて来た男の声と共に、組員の男の頭が地面に落ちる。
バタッ!!
首だけになった組員は、体から地面に崩れ落ちる。
どうやら、頭を落とせば動けなくなるようだった。
「成る程、頭を切り落とせば良かったのか。」
「お前、マスターを助けに来た男だな。」
そう言ったのは、天音だった。
組員の男の頭を日本刀で斬り落とし、齋藤に声を掛けてた。
「君達は?何者?見た所、殺し屋だとお見受けするが?」
齋藤はそう言って、天音に問い掛ける。
「お前の言う七海は、僕達の主人だ。」
「主人?あの七海がか?」
パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
「天音、こっちは片付いた。」
サイレンサーを付けたLCT PP1901 VITYAZを持ったノアが、とぼとぼと歩いて来た。
「俺に敵意がない所からして、アンタの話は本当みたいだな。俺も頼まれて来たんだよ。一緒に…って、おいおい…、まだ動くのか。」
頭を斬り落とした死体達が、次々に起き上がる。
天音とノアは、これが何の能力で動いているのか分かっていた。
「ノア、やっぱりJewelry Wordsの能力だよな。」
「だろうねー。ゾンビになった訳でも無さそうだし。どこかにJewelry Pupil がいるね。俺達の足止
めが目的…かな?」
「だったら、そのJewelry Pupil を殺した方が早い
な。」
「えー、殺せるかなぁ?」
黒いレースの日傘を持ち、死体の男達に担がれて双葉が現れた。
「お前か?コイツ等を動かしてんのは。」
「そうだよー、双葉のJewelry Wordsでねー。あははは!!操り人形みたいで、面白いでしょ?」
天音の言葉を聞いた双葉は、笑いながら答える。
「双葉のお人形達を殺してからじゃないと、この先には行けないよー?」
ゾロゾロと双葉の周りに操り人形になった死体達が、集まり出す。
「この子供、頭イカれてんだろ…。今の子は、こんなものなのか?」
「いやいや、この子だけでしょ…。天音、あの子供を殺すぞ。」
「了解。」
カチャッ。
天音は刀を構え、双葉に向かって走り出す。
「「あ、あああああ、あぁぁ…。」」
操り人形になった死体が天音に向かって手を伸ばすが、ノアが後ろから射撃をする。
パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
「ゔ、うぅぅ。」
「ほらほらほら!!アンタ達、もっと頑張りなさい
よ!!双葉が命令してるでしょ!!」
次々に倒れる死体達に向かって、双葉は罵声を浴び
せる。
グサッ!!
グラッ!!
双葉を抱き抱えていた死体の足を天音が斬り落とす。
「きゃっ!!」
地面に倒れた双葉に向かって、天音は刀を振り下ろそうとした時だった。
ビュンッ!!
「っ!!」
飛んで来た銃弾に反応した天音は、双葉から距離を取る。
「へー、反射神経がええなぁ。」
「瞬!!」
グロック17Gen.4を持った二見瞬が、双葉を抱き上げる。
「二見、お前のガキか。」
「あれ?斎藤さんやん。殺しはやめたんやないの?」
「お前も相変わらずだな。仕事だ、仕事。」
「へぇー。」
二見瞬と齋藤は適当な会話をしつつも、お互いを睨み付けている。
「君等が双葉と遊んどる間に、七海君は頂いたからさぁ。」
「「っ!!」」
その言葉を聞いた天音とノアは、二見瞬をすり抜け走り出す。
タタタタタタタッ!!!
「あ、齋藤さんは行かせんよ?邪魔だからなぁ。今
だから言うけどさー。本当は齋藤さんの事、嫌いだ
ったんや。」
二見瞬は真顔で、齋藤に向かって言葉を吐く。
「奇遇だな、俺もお前の事が嫌いだった。」
「あはは、気が合うなぁ。なら、お互い殺し合っても良いよなぁ?」
カチャッ。
二見瞬はグロック17Gen.4の銃口を齋藤に向ける。
双葉のJewelry Wordsの力で、ゾロゾロと齋藤の周りに死体達も集まって来た。
「骨が折れる仕事を引き受けちまったなぁ。」
シュルッ。
ネクタイを緩めた斎藤は、涼しげな笑みを浮かべた。
「「マスター!!!」」
「意外と早く来たんだ。」
血だらけの七海の髪を乱暴に掴む、椿の姿が天音と
ノアの視界に入る。
「I'll fucking kill you。」
天音は英語で言葉を吐き捨てた後、勢いを付けて飛び出す。
佐助が前に出て天音を止めようとするが、刀を持っていた手をノアがLCT PP1901 VITYAZを構え、射撃する。
パシュッ、パシュッ!!
放たれた銃弾は、見事に佐助の手に命中する。
「っ!!」
「佐助!!テメェ…!!」
ナイフを構えた伊助が、天音に向かって飛び出す。
「邪魔だ、退け。」
天音は隠し持っていたナイフを2本取り出し、伊助の太ももに投げ飛ばす。
ブシャッ、ブシャッ!!
「ぐっ!?」
「ノア。」
「了解。」
パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
ノアは素早く伊助の方に銃口を向け、射撃する。
ふらついた伊助を蹴り飛ばし、椿に向かって刀を振り下ろす。
ビュンッ!!
「椿様!!」
佐助が天音に向かって手を広げ、天音を吹き飛ばす。
「ッチ!!」
「天音!!」
ノアは慌てて、吹き飛ばされた天音の体を抑える。
「テメェ、マスターから手を離せ。」
「おー、怖い怖い。佐助、伊助、足止めしろ。」
椿の言葉を聞いた佐助と伊助は、天音とノアの前に立ちはだかった。
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