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第4章 Jewelry Pupil 狩り
47.集めた理由
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CASE 四郎
トントンッ。
襖が小さく叩かれた。
「寝た?」
三郎は廊下から、俺に声を掛けて来た。
「まだ、寝てない。」
「三郎は、私に寝て欲しいの?」
そう言って、モモは襖を開けた。
「べっつにー?子供は寝る時間だろ?」
「三郎には関係ないじゃん。私はまだ、四郎といるもん。」
モモは、ギュッと俺に抱き付いた。
その光景を見た三郎の眉が、ピクッと反応した。
あ、これは…。
「おい、三郎。相手はガキなんだからな…、ムキになんなよ。」
「あははは、子供相手に怒る訳ないでしょ?」
「モモも、三郎への言い方を気を付けろ。」
「三郎が、私に意地悪したんだもん!!」
「お前が生意気なんだろ!?四郎から離れろ!!」
三郎は、俺に抱き付いてるモモを引き剥がそうとした。
だが、モモは剥がされないように力を入れた。
タタタタタタタッ…。
廊下の奥から、2人分の足男が聞こえて来た。
「四郎、久しぶりだな。」
襖から顔を出したのは、全身黒い服を着た一郎だった。
一郎の右耳は無くなっていて、右側半分に大きな火
傷の跡が残っていた。
「お前、戻って来たのか?」
「ボスに呼ばれてな、六郎も居る。」
「久しぶり。」
六郎の左目には黒い眼帯が巻かれ、長い髪はショートに近いウルフカットになっていた。
「久しぶりじゃん、六郎。怪我とか大丈夫なの?」
「アンタに心配されると、気持ち悪いわね。平気よ、薫って子に手当て貰ったから。」
「また、気持ち悪いって言われた。普通に心配してあげてるのにさー。」
「それが気持ち悪いのよ、モモちゃんは?」
バッ!!
六郎の顔を見たモモは、俺から離れ、六郎に抱き付いた。
「六郎っ!!」
「モモちゃん!!」
ガバッ!!
六郎はモモを受け止め、抱き締め返した。
「六郎っ、会いたかった!!無事だったんだね?」
「私も会いたかった。大丈夫よ?この通り、怪我は治ったから。」
「そっか!!お兄ちゃんに会えて良かったね。」
モモは、一郎と六郎を交互に見ながら話した。
「モモちゃん、ありがとう。こうして、妹を迎えに行けたよ。」
「お兄ちゃんね?ずっと側に居たんだ。教えてくれなかったのよ?酷いと思わない?」
「お、おい…っ。それはないだろ?」
「はぁ?お兄ちゃんが悪いに決まってんでしょ!?」
「わ、悪かったよ…。」
一郎のこんな姿を見た事がなかった。
人間らしい部分と言ったら良いのか?
何と言うか…、そんな感じだ。
「おい、お前等。さっさと…って、2人共、来てたのか。」
部屋に顔を出したのは、伊織だった。
どうやら、俺達がいつまでも来ないから、痺れを切らしたらしい。
「モモちゃん、皆んなを借りても良いかな?少し、お話があるんだ。」
「え…。で、でも…。」
伊織の言葉を聞いたモモは、表情を曇らせた。
「あたしが残るから、お兄ちゃん聞い来て。」
「分かった。」
クイクイッ。
モモは六郎の服袖を引っ張り、言葉を放った。
「六郎?一緒に居る?」
「うん、一緒に居るよ。何しよっか。」
クルッとモモを後ろに向かせ、六郎はジェスチャーを送った。
"早く行け"
そう言っているかのように、手を振った。
俺達は部屋を出て、ボスの自室に向かう。
兵頭雪哉 自室
伊織が襖を叩き、俺達を連れて来た事を告げた。
ボスの短い返事を聞いてから、部屋の中に入った。
部屋の中には、二郎と五郎、七海が先に来ていたようだ。
「遅くなりました。」
そう言って、ボスに向かって、頭を下げる。
「それは良い、六郎がモモちゃんの面倒を見てるんだな。」
「はい。」
「なら、座れ。率直に言うが、椿が七海にコンタクトを取って来た。」
ボスの言葉を聞いて、耳を疑った。
椿が直接的に、七海に連絡をしたのか?
「今さっきなんだけどね。このタイミングで、メールを送って来たのは椿だ。僕が、キャンディについて調べていたから。」
七海は送られて来たメールを見せながら、タブレットを操作した。
明らかに妖げな文面は、七海を誘き出す為の罠だ。
「間違いないね、これを送って来たのは椿だ。能力に椿が送った姿が映ったよ。」
三郎はそう言って、ボスに視線を送る。
それと、タブレットの画面に映っているのは、アル
ビノのバラバラにされた体の写真だった。
「この覚醒剤のキャンディは、向精神薬をベースに作られているんだ。後は、アルビノの血とJewelry Pupilの力が入ってる。普通の覚醒剤とは違って、痛みを感じない。どれだけの傷を負っても動けるのは、アルビノの血が怪我を再生しているからだ。」
*向精神薬 向精神薬は、中枢神経に作用して、精神機能に影響を及ぼす物質で、その薬理作用によって鎮静剤系と興奮剤系に大別されます。 向精神剤は医療目的に開発されたもので、医師の指示もなく乱用すると、心身に様々な障害を及ぼすなど大変危険なため、不正取引は「麻薬及び向精神薬取締法」により規制されています。精神薬的なもの。*
「つまり、蘇武が動けたのは、キャンディを服用していたからなんだ。」
「向精神薬って?」
七海の説明を聞いた五郎は、理解出来ていないようだった。
名前を聞いた事がある程度の知識しかない。
「向精神薬って、精神薬的な物だよ。医師が処方しないと貰えない薬だよ。」
「へー、詳しいな七海。」
「調べれば出て来るよ…。」
「七海は、椿と会うと連絡を返した。」
「「「はっ!?」」」
ボスの言葉を聞いた俺達は、思わず声が出た。
「ちょ、ちょっと?!本気で言ってんの!?」
「本気だよ、二郎。」
「七海、何で行くって言ったんだよ。」
五郎はに七海に尋ねた。
「聞いたよ、一郎。六郎が探してた妹だったんだね。僕もさ、大事な人達が居るんだ。椿は、僕の大事な人達の情報を持ってて…。もしかしたら、殺されるかもしれない。」
そう言って、七海はボスに頭を下げた。
「勝手に返事を送って、すみません。だけど、僕は2人の事を守りたいんですっ…。僕の父の所為で、2人に殺しの仕事をやらせてしまった。これからは、
僕が2人の為に動く番です。」
「七海、本気なんだな。」
「はい。それと、椿の拠点と…、この人の居場所も突き止めてきます。」
七海は1枚の写真を取り出した。
その写真に見覚えがあり、兵頭拓也の奥さんの写真だったからだ。
ボスは眉を顰め、隣にいた伊織も驚いていた。
「この人はボスが探している人だよね。名前は白雪さん、兵頭拓也の奥さん。ごめんなさい、勝手に調べて…、でも、ボスが僕達を拾った事にも関係する事…、でしょ?」
「俺達とこの人が関係してるって?何でだよ。」
「それはさ?俺達は椿を殺す為に集められたからでしょ。」
「ちょっと、三郎!!」
三郎の言葉を遮るように、七海は叫んだ。
だが、三郎は話を続ける。
「自分の息子を殺した椿に復讐する為に、俺達のような子供を選んだんでしょ?死んでも、誰も悲しまないしね。」
カチャッ。
伊織は三郎に銃口を向けたが、三郎も銃を取り出していた。
「三郎、生意気な事ばっかり言うんじゃねーぞ。お前の憶測だけで、話を進めんな。」
「本当の事だから、俺に銃を向けたんだろ。俺は少し先の未来が見える。だから、伊織が銃を取り出した事も分かった。ボス、正直に言ってよ。」
三郎の問い掛けに答えるように、ボスはゆっくり話
し出した。
「伊織、銃を下せ。お前の考え通りだ。椿を殺す為にお前達を集め、拓也の子供…、モモちゃんを探させた。全ては、モモちゃんを守り、白雪を見つける為だ。」
「は、は?じゃあ、俺達はモモを守る為に集められた?」
「お前達を伊織に鍛えさせたのも、俺が殺しを教えたのも、全ては椿を殺す為。拓也を騙し、殺したアイツを殺す為に。拓也の残したモモちゃんを守る組織を作るのに、お前達が必要だった。」
ボスは最初から、この計画を実行していたのか。
モモに対して必要以上に過保護な態度を見れば、その考えに至った。
俺達を助けたのは、殺し屋にする子供が欲しかったからか。
「俺と二郎は、その事を知っていた。」
「はぁ!?何で、2人が…?」
「俺と二郎は、この事を知った上で、殺し屋になった。ボスに忠義を誓ったからだ。俺には、妹を探す目的があった。二郎にも二郎の目的がある、利害は一致していたからな。」
一郎の言葉を聞いた五郎は、二郎の方を見た。
「二郎…、俺と同じ目的だったじゃん。何で、俺に黙ってたの。」
「俺、言ったよね。俺の後を追って来るなって。」
「俺は…、お前を放っておけなかったんだよっ、晴(はる)。」
晴って、二郎の本名じゃねーか?
何で、五郎は今のタイミングで、本名で呼んだんだ?
ゴンッ!!
二郎は五郎を殴り付け、胸ぐらを掴んだ。
「その名前で呼ぶなって、言ったろ。」
「っ…、ご、ごめん。」
「お前、抜けろ。」
「え?」
「ちょっと、二郎。それは、やり過ぎでしょ?」
七海は慌てて、二郎の腕を掴む。
だが、二郎は七海の腕を振り解いた。
二郎が、こんなに感情を表に出す所を初めて見た。
「七海は黙ってて。五郎、俺の事に口を出すなら抜けろ。お前は邪魔なんだよ。」
「二郎は…、そうやって俺を突き放すよな。あの時だって、そうだ。俺を突き放して、自分1人で行っちまった。」
五郎は二郎の腕を振り解き、ボスの方を見た。
「ボス。俺、暫く姿を消します。」
「へぇー、本当に抜けるんだ。」
三郎はニヤニヤしながら、五郎に話し掛けた。
「抜けねーよ、馬鹿。二郎よりも先に、俺がアイツを殺す。」
「好きにしろ。」
「ありがとうございます。」
「本当に行くの、五郎。」
「悪いな、七海。お前も俺も目的を果たそうぜ。」
七海の頭を撫でてから、五郎は部屋を出て行った。
二郎と五郎は、ここに来る前からの知り合いなのか?
「頭、五郎の事は本当に良いんですか?」
「あぁ、二郎との約束だったからな。」
「約束…、ですか?」
五郎を居なくならせる事が、二郎とボスの間で約束
した事なのか。
「成る程ねー。二郎、五郎を守りたかったんだ?だ
から、わざと五郎を殴ったんでしょ。五郎が大事なんだね。」
三郎は未来が見えたのか、二郎に語り掛ける。
「当たり前だよ、アイツは僕の大事な後輩だからね。七海、丸腰で椿の所に行く訳じゃないでし
ょ?」
「うん、これを体に埋め込んで行こうと思う。」
七海が取り出したのは、小さなGPSだった。
「これは僕の位置情報と、会話内容を記録出来るようしてある。もし、椿に連れてかれても場所さえ分かれば良いよね。」
「七海、死ぬ気で行くのか。」
一郎は静かに尋ねた。
「ボスが僕達を集めた理由なんて、何だって良い。僕をあそこから、連れ出してくれた事に感謝してるんだ。ボスの役に立つよ、2人の為にも僕の為にも。」
「七海、お前を死なせたりしない。お前達もだ、俺はもう、二度と自分の身内を死なせない。」
ボスは今まで見た事ない表情を、俺達に見せた。
その表情はまるで、自分の子供を見るような…。
優しくて、切ない眼差しだった。
俺達はまだ、ボスの本当の目的を知らずにいた。
ボスは、俺達をどうする気でいたのかを…。
15:00 新宿御苑
昼過ぎの新宿御苑には、人1人いなかった。
ザッ、ザッ、ザッ。
フードを深く被り、黒い服を着た七海と星影は、新宿御苑の中を歩いていた。
大きな池の近くに、似合わない洋風な椅子とテーブル、太陽の光が当たらないように、大きなパラソルが刺されていた。
七海の為に用意されたように見える。
「いらっしゃい、七海君。」
黒いスーツを着た椿と、黒のレースのワンピースを着た佐助が椅子に座っていた。
「星影、久しぶりだね。まさか、君が同行して来るなんてねー。」
「椿さん、お久しぶりです。七海さんを1人で、行かせられませんから。」
「まぁ、そうなるよね。僕も佐助を連れて来てる訳だし、座って。」
椿に促されながら、七海と星影は椅子に腰を下ろす。
「2人の情報をどうやって、調べたの。」
「ん?色々とね。お茶でも飲もうか、お菓子も用意したよ。」
「人の話聞いてんのか。」
スッ。
グサッ!!
テーブルにセットされたナイフを手に取った佐助
は、七海に突き刺そうとしたが、星影がナイフを素手で止めた。
「佐助、座れ。星影も悪いね、うちの佐助の手グセが悪くて。」
「いえ。」
「星影、大丈夫…?」
「大丈夫ですよ、七海さん。」
星影はそう言って、血を止める為にハンカチを巻い
た。
「お茶を飲みながら、ゆっくり話そう。これからの事をね。」
椿は優しい笑みを浮かべながら、七海を見つめた。
カチッ。
七海は小さなスイッチを押し、頸に埋め込んだGPS
を起動させた。
トントンッ。
襖が小さく叩かれた。
「寝た?」
三郎は廊下から、俺に声を掛けて来た。
「まだ、寝てない。」
「三郎は、私に寝て欲しいの?」
そう言って、モモは襖を開けた。
「べっつにー?子供は寝る時間だろ?」
「三郎には関係ないじゃん。私はまだ、四郎といるもん。」
モモは、ギュッと俺に抱き付いた。
その光景を見た三郎の眉が、ピクッと反応した。
あ、これは…。
「おい、三郎。相手はガキなんだからな…、ムキになんなよ。」
「あははは、子供相手に怒る訳ないでしょ?」
「モモも、三郎への言い方を気を付けろ。」
「三郎が、私に意地悪したんだもん!!」
「お前が生意気なんだろ!?四郎から離れろ!!」
三郎は、俺に抱き付いてるモモを引き剥がそうとした。
だが、モモは剥がされないように力を入れた。
タタタタタタタッ…。
廊下の奥から、2人分の足男が聞こえて来た。
「四郎、久しぶりだな。」
襖から顔を出したのは、全身黒い服を着た一郎だった。
一郎の右耳は無くなっていて、右側半分に大きな火
傷の跡が残っていた。
「お前、戻って来たのか?」
「ボスに呼ばれてな、六郎も居る。」
「久しぶり。」
六郎の左目には黒い眼帯が巻かれ、長い髪はショートに近いウルフカットになっていた。
「久しぶりじゃん、六郎。怪我とか大丈夫なの?」
「アンタに心配されると、気持ち悪いわね。平気よ、薫って子に手当て貰ったから。」
「また、気持ち悪いって言われた。普通に心配してあげてるのにさー。」
「それが気持ち悪いのよ、モモちゃんは?」
バッ!!
六郎の顔を見たモモは、俺から離れ、六郎に抱き付いた。
「六郎っ!!」
「モモちゃん!!」
ガバッ!!
六郎はモモを受け止め、抱き締め返した。
「六郎っ、会いたかった!!無事だったんだね?」
「私も会いたかった。大丈夫よ?この通り、怪我は治ったから。」
「そっか!!お兄ちゃんに会えて良かったね。」
モモは、一郎と六郎を交互に見ながら話した。
「モモちゃん、ありがとう。こうして、妹を迎えに行けたよ。」
「お兄ちゃんね?ずっと側に居たんだ。教えてくれなかったのよ?酷いと思わない?」
「お、おい…っ。それはないだろ?」
「はぁ?お兄ちゃんが悪いに決まってんでしょ!?」
「わ、悪かったよ…。」
一郎のこんな姿を見た事がなかった。
人間らしい部分と言ったら良いのか?
何と言うか…、そんな感じだ。
「おい、お前等。さっさと…って、2人共、来てたのか。」
部屋に顔を出したのは、伊織だった。
どうやら、俺達がいつまでも来ないから、痺れを切らしたらしい。
「モモちゃん、皆んなを借りても良いかな?少し、お話があるんだ。」
「え…。で、でも…。」
伊織の言葉を聞いたモモは、表情を曇らせた。
「あたしが残るから、お兄ちゃん聞い来て。」
「分かった。」
クイクイッ。
モモは六郎の服袖を引っ張り、言葉を放った。
「六郎?一緒に居る?」
「うん、一緒に居るよ。何しよっか。」
クルッとモモを後ろに向かせ、六郎はジェスチャーを送った。
"早く行け"
そう言っているかのように、手を振った。
俺達は部屋を出て、ボスの自室に向かう。
兵頭雪哉 自室
伊織が襖を叩き、俺達を連れて来た事を告げた。
ボスの短い返事を聞いてから、部屋の中に入った。
部屋の中には、二郎と五郎、七海が先に来ていたようだ。
「遅くなりました。」
そう言って、ボスに向かって、頭を下げる。
「それは良い、六郎がモモちゃんの面倒を見てるんだな。」
「はい。」
「なら、座れ。率直に言うが、椿が七海にコンタクトを取って来た。」
ボスの言葉を聞いて、耳を疑った。
椿が直接的に、七海に連絡をしたのか?
「今さっきなんだけどね。このタイミングで、メールを送って来たのは椿だ。僕が、キャンディについて調べていたから。」
七海は送られて来たメールを見せながら、タブレットを操作した。
明らかに妖げな文面は、七海を誘き出す為の罠だ。
「間違いないね、これを送って来たのは椿だ。能力に椿が送った姿が映ったよ。」
三郎はそう言って、ボスに視線を送る。
それと、タブレットの画面に映っているのは、アル
ビノのバラバラにされた体の写真だった。
「この覚醒剤のキャンディは、向精神薬をベースに作られているんだ。後は、アルビノの血とJewelry Pupilの力が入ってる。普通の覚醒剤とは違って、痛みを感じない。どれだけの傷を負っても動けるのは、アルビノの血が怪我を再生しているからだ。」
*向精神薬 向精神薬は、中枢神経に作用して、精神機能に影響を及ぼす物質で、その薬理作用によって鎮静剤系と興奮剤系に大別されます。 向精神剤は医療目的に開発されたもので、医師の指示もなく乱用すると、心身に様々な障害を及ぼすなど大変危険なため、不正取引は「麻薬及び向精神薬取締法」により規制されています。精神薬的なもの。*
「つまり、蘇武が動けたのは、キャンディを服用していたからなんだ。」
「向精神薬って?」
七海の説明を聞いた五郎は、理解出来ていないようだった。
名前を聞いた事がある程度の知識しかない。
「向精神薬って、精神薬的な物だよ。医師が処方しないと貰えない薬だよ。」
「へー、詳しいな七海。」
「調べれば出て来るよ…。」
「七海は、椿と会うと連絡を返した。」
「「「はっ!?」」」
ボスの言葉を聞いた俺達は、思わず声が出た。
「ちょ、ちょっと?!本気で言ってんの!?」
「本気だよ、二郎。」
「七海、何で行くって言ったんだよ。」
五郎はに七海に尋ねた。
「聞いたよ、一郎。六郎が探してた妹だったんだね。僕もさ、大事な人達が居るんだ。椿は、僕の大事な人達の情報を持ってて…。もしかしたら、殺されるかもしれない。」
そう言って、七海はボスに頭を下げた。
「勝手に返事を送って、すみません。だけど、僕は2人の事を守りたいんですっ…。僕の父の所為で、2人に殺しの仕事をやらせてしまった。これからは、
僕が2人の為に動く番です。」
「七海、本気なんだな。」
「はい。それと、椿の拠点と…、この人の居場所も突き止めてきます。」
七海は1枚の写真を取り出した。
その写真に見覚えがあり、兵頭拓也の奥さんの写真だったからだ。
ボスは眉を顰め、隣にいた伊織も驚いていた。
「この人はボスが探している人だよね。名前は白雪さん、兵頭拓也の奥さん。ごめんなさい、勝手に調べて…、でも、ボスが僕達を拾った事にも関係する事…、でしょ?」
「俺達とこの人が関係してるって?何でだよ。」
「それはさ?俺達は椿を殺す為に集められたからでしょ。」
「ちょっと、三郎!!」
三郎の言葉を遮るように、七海は叫んだ。
だが、三郎は話を続ける。
「自分の息子を殺した椿に復讐する為に、俺達のような子供を選んだんでしょ?死んでも、誰も悲しまないしね。」
カチャッ。
伊織は三郎に銃口を向けたが、三郎も銃を取り出していた。
「三郎、生意気な事ばっかり言うんじゃねーぞ。お前の憶測だけで、話を進めんな。」
「本当の事だから、俺に銃を向けたんだろ。俺は少し先の未来が見える。だから、伊織が銃を取り出した事も分かった。ボス、正直に言ってよ。」
三郎の問い掛けに答えるように、ボスはゆっくり話
し出した。
「伊織、銃を下せ。お前の考え通りだ。椿を殺す為にお前達を集め、拓也の子供…、モモちゃんを探させた。全ては、モモちゃんを守り、白雪を見つける為だ。」
「は、は?じゃあ、俺達はモモを守る為に集められた?」
「お前達を伊織に鍛えさせたのも、俺が殺しを教えたのも、全ては椿を殺す為。拓也を騙し、殺したアイツを殺す為に。拓也の残したモモちゃんを守る組織を作るのに、お前達が必要だった。」
ボスは最初から、この計画を実行していたのか。
モモに対して必要以上に過保護な態度を見れば、その考えに至った。
俺達を助けたのは、殺し屋にする子供が欲しかったからか。
「俺と二郎は、その事を知っていた。」
「はぁ!?何で、2人が…?」
「俺と二郎は、この事を知った上で、殺し屋になった。ボスに忠義を誓ったからだ。俺には、妹を探す目的があった。二郎にも二郎の目的がある、利害は一致していたからな。」
一郎の言葉を聞いた五郎は、二郎の方を見た。
「二郎…、俺と同じ目的だったじゃん。何で、俺に黙ってたの。」
「俺、言ったよね。俺の後を追って来るなって。」
「俺は…、お前を放っておけなかったんだよっ、晴(はる)。」
晴って、二郎の本名じゃねーか?
何で、五郎は今のタイミングで、本名で呼んだんだ?
ゴンッ!!
二郎は五郎を殴り付け、胸ぐらを掴んだ。
「その名前で呼ぶなって、言ったろ。」
「っ…、ご、ごめん。」
「お前、抜けろ。」
「え?」
「ちょっと、二郎。それは、やり過ぎでしょ?」
七海は慌てて、二郎の腕を掴む。
だが、二郎は七海の腕を振り解いた。
二郎が、こんなに感情を表に出す所を初めて見た。
「七海は黙ってて。五郎、俺の事に口を出すなら抜けろ。お前は邪魔なんだよ。」
「二郎は…、そうやって俺を突き放すよな。あの時だって、そうだ。俺を突き放して、自分1人で行っちまった。」
五郎は二郎の腕を振り解き、ボスの方を見た。
「ボス。俺、暫く姿を消します。」
「へぇー、本当に抜けるんだ。」
三郎はニヤニヤしながら、五郎に話し掛けた。
「抜けねーよ、馬鹿。二郎よりも先に、俺がアイツを殺す。」
「好きにしろ。」
「ありがとうございます。」
「本当に行くの、五郎。」
「悪いな、七海。お前も俺も目的を果たそうぜ。」
七海の頭を撫でてから、五郎は部屋を出て行った。
二郎と五郎は、ここに来る前からの知り合いなのか?
「頭、五郎の事は本当に良いんですか?」
「あぁ、二郎との約束だったからな。」
「約束…、ですか?」
五郎を居なくならせる事が、二郎とボスの間で約束
した事なのか。
「成る程ねー。二郎、五郎を守りたかったんだ?だ
から、わざと五郎を殴ったんでしょ。五郎が大事なんだね。」
三郎は未来が見えたのか、二郎に語り掛ける。
「当たり前だよ、アイツは僕の大事な後輩だからね。七海、丸腰で椿の所に行く訳じゃないでし
ょ?」
「うん、これを体に埋め込んで行こうと思う。」
七海が取り出したのは、小さなGPSだった。
「これは僕の位置情報と、会話内容を記録出来るようしてある。もし、椿に連れてかれても場所さえ分かれば良いよね。」
「七海、死ぬ気で行くのか。」
一郎は静かに尋ねた。
「ボスが僕達を集めた理由なんて、何だって良い。僕をあそこから、連れ出してくれた事に感謝してるんだ。ボスの役に立つよ、2人の為にも僕の為にも。」
「七海、お前を死なせたりしない。お前達もだ、俺はもう、二度と自分の身内を死なせない。」
ボスは今まで見た事ない表情を、俺達に見せた。
その表情はまるで、自分の子供を見るような…。
優しくて、切ない眼差しだった。
俺達はまだ、ボスの本当の目的を知らずにいた。
ボスは、俺達をどうする気でいたのかを…。
15:00 新宿御苑
昼過ぎの新宿御苑には、人1人いなかった。
ザッ、ザッ、ザッ。
フードを深く被り、黒い服を着た七海と星影は、新宿御苑の中を歩いていた。
大きな池の近くに、似合わない洋風な椅子とテーブル、太陽の光が当たらないように、大きなパラソルが刺されていた。
七海の為に用意されたように見える。
「いらっしゃい、七海君。」
黒いスーツを着た椿と、黒のレースのワンピースを着た佐助が椅子に座っていた。
「星影、久しぶりだね。まさか、君が同行して来るなんてねー。」
「椿さん、お久しぶりです。七海さんを1人で、行かせられませんから。」
「まぁ、そうなるよね。僕も佐助を連れて来てる訳だし、座って。」
椿に促されながら、七海と星影は椅子に腰を下ろす。
「2人の情報をどうやって、調べたの。」
「ん?色々とね。お茶でも飲もうか、お菓子も用意したよ。」
「人の話聞いてんのか。」
スッ。
グサッ!!
テーブルにセットされたナイフを手に取った佐助
は、七海に突き刺そうとしたが、星影がナイフを素手で止めた。
「佐助、座れ。星影も悪いね、うちの佐助の手グセが悪くて。」
「いえ。」
「星影、大丈夫…?」
「大丈夫ですよ、七海さん。」
星影はそう言って、血を止める為にハンカチを巻い
た。
「お茶を飲みながら、ゆっくり話そう。これからの事をね。」
椿は優しい笑みを浮かべながら、七海を見つめた。
カチッ。
七海は小さなスイッチを押し、頸に埋め込んだGPS
を起動させた。
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